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竜姫の番探し10

「なんだ、あれ」


天候に恵まれ穏やかな春先の陽気の中順調に進んでいると、街道にこの辺りでは見慣れない騎士の姿が数人見える。騎士服を着ているとは言え、不穏なのでルクスに荷台に隠れるよう伝える。


「止まって、端に停めてくれ」一際背の高い赤髪の騎士の誘導で馬車を止める。


「一体、どうしたんですか?」

「この先の村で魔物の被害が出た。大型のファイヤーグリズリーが村を襲った後この辺りに逃げ込んだんだ。もし行商の馬車だったら薬を持ってないか?村人と騎士にも怪我人が出ているんだ」顔色を悪くして苦いものでも噛んでいるような表情をしている。かなり事態が悪いようだ。


「薬、か。今は手持ちがないな」申し訳なさでいっぱいになりつつ謝る。

「そうか、残念だ」騎士は憔悴した顔で村に戻ろうとしたその時、

「私、持ってるよ」ルクスがひょっこり顔を出す。

「ルクス?」


慌てて引き返してきた騎士が声をかける。

「薬持ってるのか?」

「うん、たくさんはないけど、水で伸ばせば傷にも効くし、飲めば熱にも効くよ」

「いくらでも払う!どうか譲って欲しい!」

騎士は服に泥がつくのも厭わず膝をついて願った。


「ローガン、寄って行こう!」

「ああ、出来るだけ手助けしよう」


喜色を顕にした騎士の案内で村へと馬車を走らせる。

ローガンはふと気がついた。そういえば、盗賊が馬に矢を射った後、ルクスが薬を塗ってくれたんだった。その後様子を見ていたが膿も出なかったし、たった1日でどこに傷があったかわからないほど快癒した。

『竜の涙、という万病に効く秘薬があるというが...。いやいや、まさかな』

なんだか嫌な予感がして頭から振り払うと馬を急がせた。


村ははっきり言って大被害だった。

それなりに頑丈に作ってあったであろう丸太の小屋も窓から破られたり、壁を焼かれて大穴が開いたりしている。道には鶏舎が襲われたのか逃げ出した鶏があちこち飛び回っていて、回収する手も足りないようだ。その中でも一番ひどいのは村の真ん中に張られたテントの中だった。側に近づくとうめき声が聞こえてくる。


中を覗いてみるとローガンはすぐに顔を引っ込めて

「ルクス、俺が薬を塗ろう。使い方を教えてくれ」

あまりの惨状にルクスには厳しすぎると思い入り口をふさぐ。

「ローガン、無理だよ。これは力を込めながら練らないと威力が出ない」

「力って、魔力か?」

「そう。ゼファだと舌につけて擦りつければ良いんだけど、ローガンには力がないでしょう?」

ローガンはさっき頭から振り払った疑惑が戻ってきていやいやと首を振る。騎士は若い娘に見せるべきでないことは分かっていてもすがる思いでこちらを見ている。


「ルクス、中はひどい状況だ。怖くないか?」

「大丈夫! ルクスは竜王レジナの娘だもん!きっとみんな良くなるよ!」

ローガンはうん、聞かなかったことにしよう、と都合良く最初の部分を聞き流して頷くと、テントの入り口を開けた。


中には血の臭いが充満していて、横になった人達は巻かれた包帯から赤黒い液が滲んでいる。

「ファイヤーグリズリーが出没したと連絡があってすぐに来たのだが、村の狩人から目に矢を射られた奴が怒り狂って...。死にもの狂いに体から炎を出したため火傷をおった者と爪で裂傷をおった者がいる」

案内してくれた赤髪の騎士は悔しそうに顔を歪めた。


「ひどい...」

火傷をおった人の中でも最も重傷の騎士は、かろうじて騎士服であることがわかる程度で黒焦げだ。浅い息を繰り返し、意識もないようだ。


「水をください!あと清潔な器をいくつか」

ルクスは腰の革袋から白い粒を取り出すと、騎士から受け取った椀に水と共に入れると指先で水面に触れながら小さく何かの歌を歌う。それは聞いたことのない言葉だった。歌が終わる前に白い粒が気泡を出して水に溶けてしまうと水は一瞬白く光って白濁した水に変わっていた。


「飲んで」

ルクスは騎士の頭を右腕に抱えると口元に椀を当てて少しずつ飲ませていく。飲み込む力がないのか、口から薬が流れる。それを見てルクスは自分の口に薬を含むと騎士に口移しで与える。


「なんと...」

まるで躊躇わず何度も口に運ぶ姿に、看病を続ける騎士達から感嘆のため息が漏れる。

椀の中すべてを飲ませきるとそっと頭を戻す。


「呼吸が落ち着いてきた。この人は大丈夫。次」

言葉少なにてきぱきと動いていくルクスにローガンはびっくりしていた。

白い粒を今度は水で磨り潰して裂傷の上に薄く塗るとまるで膜が張るように皮膚が蘇っていく。


「おお、まさかこんな薬があるとは」

「魔術師か、ありがたい」

人々はルクスが薬を塗りやすいように包帯を広げたり汚れを落としたりして一緒になって働いた。


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