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つじつまが合わないことがたくさんあります。コメディなので、気にしないで楽しんで頂けたらと思います。

それは突然だった。


その日、夜空にお祝いの花火が打ち上げられていた。

上空が急に暗く陰り強い突風が吹いたと思った時、その風は黒々とした形をつくった。人々がまだそれが何か気がつかないとき、宮廷女官のジョアンナは部屋の入口で凍りついていた。


なぜなら先日生まれたばかりの王女殿下のかわいらしいベッドに竜が覆い被さっていたからだ。

竜は広々としたバルコニーから首を伸ばしてベッドを覗き混むと、大きな口を開け王女を丸飲みしようとしたところでジョアンナが切り裂くような悲鳴を上げて走りよった。


ジョアンナに気もとめていなかった竜は急な動きに驚いて下顎の尖った歯に王女のおくるみを引っ掻けると、まるで叱られることから逃げるようにバルコニーから飛び立った。


そうこの日、レーベンダルク王国の第一王女サフィルーナは竜に連れ去られたのだった。


◆◆◆


「母さま、見てください。ゼファがこんなに大きな赤い実をとってきてくれたの」

幼子が手の上に載せている赤い実を嬉しそうに差し出してくる。


「ああルクス、それはりんごと呼ばれる物だよ」

「母さまは物知りね。私今まで赤い実は割った瓜しか見たことがなかった。これは食べられるの?」

「ああ、もちろん。ゼファは北の国の山脈に行っていただろう、りんごは寒いところで生るんだよ」

ふうん、と耳から入る言葉よりも先に幼子は手に持った果実にかぶりつく。


「すっぱい!でもほんのちょっと甘くて良い香り。こんなに素敵なものを持ってきてくれたゼファにお礼をしなくちゃ」


幼子は顔中を嬉しさでいっぱいにして笑った。

母さまと呼ばれた者は嬉しそうに笑うと舌で果実の汁がついた頬を舐めてやった。その姿は幼子より何倍も大きく、硬い鱗で覆われた赤い竜だった。


◆◆◆


18年前、サフィルーナを拐ってきたのはまだ若い雄の竜だった。竜はほとんどの種類が南の果てにある大きな島に住んでいた。そこには金を生み出す火山があるので火竜にとっては心地よく、エメラルドを抱いた深い海があるのでも水竜も過ごしやすく、深い木々が覆う森があるので土竜とっても素晴らしい環境だった。


しかし若い竜は穏やかな生活が退屈で、時には島から飛び出して海を挟んだ大陸まで行き、緑でいっぱいの草原をぎりぎりまで低く飛んでみたり、高い山の頂きに上ってみたりして遊んでいた。そんなことをしていると、たまに竜の好物であるキラキラした石を見つけたりするのだ。


「この間見つけた赤い石は旨かった。リールは黄色い石も旨いと言っていたから、どこかにないものか」

キョロキョロと首を動かしながら飛んでいくと、遥か下の方で何かが弾ける音がした。


小さな赤い光だったので、こんなところに小さな火山でもあるのかと降りていくと、なにやら不揃いな大地が広がっていた。良く見るとそれは石で出来た巣のようで、小さな生き物が集まって暮らしているようだった。


「ははあ、島の近くにも小さな生き物の巣があったが、あれは木を使って住んでいたな。あれと同じ生き物だろうか」

もっと良く見ようと降りていくとひときわ尖った建物があり、その中になにやら金色に光るものが見えた。


「あ!黄色い石だ、リールはこんなところからとってきたのか」

珍しく思いながらも着地に程よい場所を見つけ、中を覗き混む。

なにやら白いふんわりした布の奥にキラキラしたものが置いてある。これが石かと思いきや、それはどうも生き物のようだった。しかし、竜である自分を見ても驚いたり逃げ出したりしないので、きっと強い種類の生き物なのだろう。これは珍しい、もっと良く見ようと口を近づけると、それよりは大きな生き物が急に現れたのでびっくりしてぐいっと首を引き上げると逃げ出した。


まずい、まずい、竜もそうだが生き物は大抵小さき者が大切だ。

これに害を成すとどんなに小さな生き物でも驚くくらい抵抗する。無論、竜が負けることはないのだが、母竜は決して小さき者を傷つけることは許さなかった。


「我々だって子竜がかわいくて大切なのと同じように、他の生き物も子供たちが大切なのだ」

きっとあれはこの生き物の親だろう。慌てて逃げ出したために、まさか自分の牙に小さき者を引っ掻けていると気がついたときはもう遥か遠くに飛んできてしまっていた。

読んで頂きありがとうございます!

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