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第六話

続きです。

本日二話投稿の一話目です。


よろしくお願いします。

 


 午後十時少し前。私が黒田を連れて家の扉を開けた瞬間、兄が私たちを出迎えてくれた。と言うかそこに立っていた。心なしか怒っているようにも見えるけど私が一体何をしたと言うのか。

 それでも一応兄の機嫌を取っておくために私は可愛く挨拶をする。兄はシスコンぽいからこれで平気。


「ただいまお兄ちゃんっ」


 大丈夫。斜め後ろに立つ黒田から椎名ってそんなキャラなのかよという呟き聞こえてくるけど気にしない。兄の機嫌を損ねると朝ご飯が出て来なくなるかも知れないから。


「おう。お帰り。言いたいことはあるけど無事なら今はいい。ほらそっちの子。寒かっただろ。早く上がんな」


「あ、はい。おじゃまします」


「お兄ちゃんっ。私にはそういうの無いの?」


「いいから早く上がれ。風邪ひくぞ」


 はーいと返事を返す間も無く、風呂も沸いているから入りたければとっとと入れと私の兄、宇宙はそう言ってさっさとリビングに戻ってしまった。なんだかとても不機嫌そうだけど、私はちょっとコンビニに買い物に行ったら人を拾って帰って来ることになっただけなんだけど?


「そういうことあるよね?」


「ないだろ」


「まぁね」


 なるほど。なら、私を心配して怒ってくれているんだとちょっとだけ反省する。


「仲良いんだな」


 黒田はリビングの扉、兄の消えた方を見ながらぽつりとそんなことを言う。その言い方からして黒田に兄弟姉妹が居るのか知らないけど、もしも居るならきっと仲が悪いのかも。黒田は愛想もないし見た目も怖いし。

 今日起きたことも含めて黒田には色々と悩みが多いいのかも。それではっちゃけてしまったのかも。なら、答えるついでにそこら辺のところもさり気なく聞いてしまおう。


「まぁね。うちは両親共働きで忙しいから。私が中学に上がってからは宇宙が親代わりみたいな感じなの。掃除とか洗濯とか。親が作れない時はご飯作ってくれたりとか」


「そうなんだ」


「うん。黒田は?」


「私は一人っ子だよ」


「そっちかい」


「ん? なんだよ」


「いや、なんでもないよ。うん。なんでもない」


 そんな話をしながスリッパを取って黒田の前に置く。上がって先ずは暖かいリビングに避難しよう。そんな感じに黒田の背を押してリビングに入るとそこは南国パラダイス。凄く暖かく感じた。


「生き返るね」


「うん」


「あ」


 ダイニングテーブルの上に二つのマグカップ。私のやつとお客さん用のやつ。今ソファに転がってテレビを見ているフリをしている兄が入れてくれたんだとわかる。他にできる人が居ないし。


宇宙(ひろし)、ありがとう」


「おう。それ飲んだら風呂入れよ。それともカレー食うか?」


 そっちの子は飯食ったのかと、兄が側にやって来てチラッと黒田を見て私に訊いてくるから、食べるよね、お兄ちゃんのカレー凄く美味しいんだよって兄のご機嫌取りを兼ねた返事をすると同時に黒田がこくこくと頷いた。


「でもちょっと花摘みしたいかも」


「黙って行けよ」


 突っ込む兄を無視して黒田を見ると同じくと言った感じ。私はこっちだよと手を引いてリビングを出る。そのとき兄がキッチンに入って行くのがチラリと目に映った。


「そこ」


「わかった」


 扉に手をかけた黒田を置いて、私はそのまま階段を上がって二階のトイレに駆け込んだ。尊厳は大事。超大事。




 階段を降りてリビングの前、微かに漂うカレーの匂いを嗅いで、さすが宇宙、私にさせずに自らやるスタイル。

 私の兄にしておくのは勿体ないなぁと思いつつリビングに入ると黒田は既に戻っていて、ダイニングテーブルに着いてココアを飲みながら携帯を弄んでいた。それはついついやってしまう黒田の癖なのかも。


 キッチンを見れば、兄が何やら呟きながらカレーを温めていてレンジがご飯を温めている音もする。私の世話を始めて約二年。高二と言えどもすっかり主婦業が板に付いている。


「宇宙。ひとりでなに喋ってるの?」


「歌ってんだよ」


「歌? はっ、冗談。呪文でしょ?」


「まぁな。カレーが美味くなる特別なやつなって、うっせ」


「ははは。ありがとう宇宙」


「おう」


 私は兄をからかいつつも感謝を伝えてから小さく揺れて呪文かよウケると静かに笑う黒田の前に座った。


「ねぇ。親に連絡しておけば? 友だちの家に泊まるってそれだけ言って」


「そうする」


 もともとそうするつもりだったのだろう。黒田は素直に携帯を持ってリビングを出て行った。と、思ったら扉を開けてひょっこり顔を覗かせた。


「椎名。もしかしたら親が椎名と話したがるかも」


「わかった。いいよ」


 私が任せなさいと胸を叩いて頷いて見せると、黒田はありがとうよろしくと言って扉を閉めた。


「お前は父さんと母さんに友だちが泊まるって連絡したのか?」


 ご飯がチンできてカレーも温まって満足したらしい兄が自分の分のココアを持って私の前にやって来た。


「してないよ。どうせ宇宙が連絡してくれたんでしょ」


「まぁな」


「さすが。宇宙は絶対にいい旦那さんになるよ」


「まぁな」


 褒められて満更でも無さそうな兄の鼻の穴が広がっている。今日のこともそうだけど、普段からお世話になっている分、ここは褒め千切っておくべきかも。


「よっ。兄の鏡」


「おう。もっと褒めろ」


「かっこいいー。素敵」


「だよなー」


 ありがたいことに、怒っていたことは既に忘れてくれたのだろう。そのチョロさに感謝しつつも、私はそんな兄が少し心配。そのうち変な女性に捕まっていいように使われたり騙されたりしそう。


「気をつけてね」


「おう?」


 何の話だと頭に疑問符を浮かべる残念な兄。私はそんな兄に、すっかり忘れて放置していたアイスを食べてもらうことにした。感謝を伝えるには言葉だけじゃダメ。あるとないとじゃ気持ちの重みが段違いだから。


「そうだ。アイスあるよ。食べる?」


「アイスなんてあったか?」


「さっき買ったの」


「そうか。じゃあ食べるぞ」


 私は嬉しそうに冷蔵庫へ向かおうとする兄を止める。


「宇宙。そっちじゃないよ」


「あ?」


「私の自転車のカゴ。そこの袋の中。ゴミと一緒に入ってるからその袋ごと持ってきてくれたら嬉しいなっ」


 兄は凄く嫌そうな顔をしてリビングを出て行った。私の兄は本当にいい兄。




 誰も居ないリビング。一人静かに温くなったココアを飲んでいるとリビングの扉が開いて袋を持った宇宙と、その後ろから携帯のマイク部分を押さえた黒田が立ち止まって後ろでに扉を閉めてから私のところにやって来てそれを私に差し出した。


「椎名。いい?」


「うん」


 私は携帯を受け取って咳払いをひとつする。では。


「もしもしお電話代わりました。わたくし黒田さんの友だちで椎名と申します。え? ええ、いえいえそんな、うちは大丈夫です、はい。うちは親が遅いので寂しくて。え? ええ、もちろんです、ええ、わたくし明日香さんが居てくれて凄く嬉しいんです。え? そんな、おほほほほ。はい、はい、では失礼します、はいおやすみなさい。失礼しまーす」


 ピッ


 つい切っちゃったけど取り敢えずこんなものかと黒田を見ると胡散臭いものを見るような目をしていた。ついでにを見ると同じような顔つき。なぜに。


「なにかな?」


「何いまの。ちょっと引く」

「お前、どこかのおばさんみたいに話すんだな。まじで胡散臭いぞ」


「うるさいなぁ。緊張してたんだからしょうがないでしょ。あれでも一所懸命頑張ったんだよっ」



「「ぷっ」」


 一拍置いて二人が笑った。なんだか笑われているようだけど、またもや屈託なく笑う黒田を見ることが出来て私は凄く満足していた。




 それなりの時間リビングに居たら体は温まっていたので、私たちは兄に先にお風呂に入ってもらった。

 そして黒田は今カレーを食べている。ごくごくと。


「ねぇ黒田」


「ん?」


「噛もう?」


「は?」


「黒田。カレーはね、飲み物じゃないんだよ? 私さっきもそう言ったよね?」


「うるさいよ」


 笑われた仕返しに私は黒田をからかってみた。うるさいと言いつつも黒田はなんだか楽しそう。

 ちなみに、黒田の得意技、超高速噛みのことはこの時の話。




「これ使って」


「悪い」


「悪くないよ」


「あとこれも。ウチで洗濯してもいいけどさすがに嫌だろうからここに入れて」


「いろいろサンキューな。ん? 椎名っていつもこんなの履いてんの?」


 黒田は値札が付いたままの新品のショーツを広げている。裏っ返したりしているけど私の普段使いのショーツだから特別な何があるわけない普通のやつ。


「普通でしょう? 綿パンなんてもう履かないでしょう?」


「私はボクサー。スポブラとか」


「へぇ。爽やかなんだね。意外」


「椎名。エロいな」


 ニヤつく黒田の視線が私のナニの辺りに向いていた。私は咄嗟に両手でそこを隠してしまった。


「エロいとか言うな。視線を向けるな。あと無駄に韻踏んでんじゃないよ」


「あはは。椎名って面白いんだな」


「ふーんだ」



 そしてそのあと私、黒田と順番にお風呂に入って少しまったりしていたら母、少し遅れて父が帰って来た。サクッと挨拶を交わして私の部屋に退散。詳しいことは明日の朝にと言うことになった。


 明かりを消した薄暗い部屋。私はベッド、黒田は敷かれた布団に潜り込んだ。

 明日、なんなら私もついて行こうかと訊いてみたところ、一人で大丈夫だと言われてしまった。

 まぁ、私がついて行ったところで何が出来るわけでもないので、気にはなるけど黒田家の問題だし黒田がそう言うのならと納得した。


「わかった」


 なら、もう眠ろうと目を閉じて微睡んでいた私に黒田が声をかけた。


「椎名」


「ん?」


「ありがとう」


「ん」


「椎名」


「ん?」


「エロいな」


「ん……って、韻踏んでじゃないよ」


「ははは。じゃ、おやすみ」


「もぉ…おやすみ明日香」


「お、おう」




 後日、黒田家のことの顛末は収まるべき所に収まった。

 彼女の母親は、私の男を誘惑しやがってこの小娘がーと、ドラマのような漫画のような台詞を一切吐かず、嫌な思いをさせてごめんねごめんねと明日香に謝ったんだって。


 母さんはそれでいいの? と明日香が訊いたところ、娘に手を出そうとする男なんて頭おかしいもう要らないあの野郎と言っていたとか。

 それは当然と言えば当然のことだけど、明日香の母親がそういう人でよかったなぁと私は心からほっとしていた。


 ちなみに、あんなことがあった次の日の夜、何事もなかったようにのこのこと現れたクソ男は、事情を聞いた黒田の母親にも股間を蹴り上げられたそうな。ざまぁ。



読んでくれてありがとうございます。

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