第三十二話
続きです。
美月、明日香、美月と視点が変わります。
よろしくお願いします。
「ふぅ」
と、最後のダンボール箱を前にして私は汗を拭うフリをした。
と言うことで、引っ越しまで二週間を切った今日、私はお昼過ぎからせっせと荷造りをしていたところ。
嵩張る服には圧縮袋を使い、割れモノにはついプチプチ潰しちゃうビニールのヤツを巻いて服とタオルの間に紛れ込ませた。その手間は掛かったけど前もってシミュレーションしていたし、足りない物は向こうで揃えればいいし、取り敢えずのところインナーと春物の服があればいいわけだから荷造りは三時間も掛からずに終わってしまった。向こうの部屋を快適に住めるようにする方が時間が掛かりそうだけど、それはそれで割と楽しそうな気がしている。
過去は過去。出来るだけ身軽にしたくて送る荷物を簡素化したけどやっぱり私も女の子。見た目や与える印象はとても大事なことだからそんなものべつに適当でいいや、という訳にもいかない。
ので、流行りの服やら靴やらバッグやら、ちょっと大人っぽいインナーやら化粧品やらその道具やらと、必要最低限以上の替えは常時用意しておくべきだから、結局私が送る荷物はダンボール四箱分くらいにはなりそうな気配、というか概ねそうなった。これは来週の頭、業者さんが取りに来てくれる予定。その後に何か足りない物に気付いたら、また送るか引っ越し当日に自分で持って行くか宇宙に運んでもらうつもり。
「よしっ、と」
まぁこんな物だよねとパンパンと手を叩き、まだ封をしていない四つ並んだダンボール箱をあらためて眺めてみる。そうしてふと頭に過ぎるのはこれからルームメイトになる亜麻色の髪の女の子のこと。あまちゃん。
あまちゃんは、ふぇぇ、持って行く物が多過ぎて荷造りが終わらないよぉと、そんなふうに可愛くは言ってなかったけど、まじ無理椎名手伝ってとそれっぽい文句をぶつぶつ言っていた。
「ぷっ」
だから、さぞかし凄いことになっているんだろうなぁお疲れ様だねとくすくすと笑っちゃう。きっとあまちゃんは今、へくちとくしゃみをしたんじゃないかな?
「ふふふ」
にしても。
比べて私の荷物のなんて少ないことか。どれもまだ空きがあるダンボール箱に随分とあっさりしたものだなぁって思う。
無駄を省いた、ということでもないし、ここに置いておくものが私にとってもう必要のないもの、要らないもの、ということでもない。手放したくないものもあるけど、それでも敢えてここに置いて行くという感じ。さっきも言った通り私は身を軽くしたいから。
それ故に私が持って行く思い出の品は、今は使っていない携帯電話一台とスマホに保存されている写真だけ。私は物に罪は無い派じゃなくて、物にはそれぞれそれに纏わる思い出のエピソードというものがあるでしょう派だから敢えて置いて行くのだ。想いに区切りをつけて先に進むためにも、私は当然そうすべきでそれは必要なことだと思うから。
とは言え私の中に在る想いと記憶は持って行かざるを得ないだけど、それを置いて行くことはどうしても出来ないし、こればかりはどうしようもないことだから、それがいつか私の中で眠ってしまうまでは大事に大切に胸にしまっておいて、切なさや寂しさを感じることがなくなったらたまに取り出して、古いアルバムを見るように頭の中で追体験でもしようと思う。その時はきっと楽しかった良き思い出として自然に笑えると思う。
ただ一つ、持って行く思い出の品が写真だけだと言ったけど、実は去年のクリスマスに明日香から貰ったマフラーだけは服と一緒に詰めておいた。それについては東京はまだ寒いかも知れないからとかそんな言い訳はしない。そこはまぁ、私の未練と言うか甘えと言うか煮え切らないところと言うかなんと言うか、お察しってことで。
「ははは」
「レッハークラーイ」
そしてその日の夜、相変わらず誰も居ないリビングで、スマホから流す音をバックに荷造りが終わりそうもないから手伝ってって甘えたことを言うあまちゃんと二、三のメッセージをやり取りしてたあと、ソファで一人寛ぎなからアイスを食べていたら、今からそっちに行くぞって明日香からメッセージが来た。
ちな、メッセージなのは明日香もスマホに変えたから。私より数字が一つ上の、生意気にも指紋認証のやつ。私のは単なるホームボタンだというのに。ははは。
私はそのメッセージに、わかった気をつけてねと返し、のんびり明日香を待つあいだ、こうして思い立つまま会いに行ったり来てくれたり、こんなことももう出来なくなっちゃうんだなぁって思ったらちょっと泣けてきてしまった。泣かせてやれと渋い声で歌うフーティさんが私を煽るし。
「あーあ」
いよいよお別れを控えた私の情緒は今ぐらぐらの不安定なんだよ。
「おつ」
「おつ。なんかバイクの音静かになった? 明日香かどうかよくわからなかったよ」
「まぁな。いい加減うるせぇなぁって思ってだからな」
「いい歳してビビビビうるさいんじゃさすがに恥ずかしいもんね。わかるようん。じゃ、どうぞ」
「あ? あ、おう」
そして待つこと二十分。やって来た明日香はいつもと変わらない明日香だったよ。メットとお菓子とか食料がいっぱい入ったコンビニ袋を手にぶら下げて。向こうでも、来ちまったぜとか言って、この姿をたまには見せてくれるのかもだけどそれはきっと違うもの。今わたしだけを構ってくれる目の前の明日香は今だけしか存在しない。離れて行くのは私の方だからそれに文句を言えはしないけど。
「それにしてもいっぱい買ったね」
「まぁな。てか椎名。泣いてたのかよ」
「ははは。いやぁ。なんか曲がさ、泣け泣けってさ」
「ほーん」
明日香は揶揄うこともなく、これまで何度もしてくれたように私の方に腕を回してくれてにかって笑ったよ。まるで私たちが変わることなんてあり得ないって感じで。それこそあり得ないのにそう思っちゃったよ。
「あんま変わんねぇのな。もっと物が無くてガラーンってなってるかと思ったけどよ」
明日香は私の部屋に入るなりそんなことを言う。私は部屋の隅に置かれたダンボール箱を指した。
「まぁね。持って行くのはそれだけだから」
「こんだけかよ」
「うん。けどあまちゃんは凄いことになってるみたいだよ。大騒ぎ」
「あー。水野は物が色々多そうだもんな」
水野らしいわーって笑いながらさっそく袋を漁る明日香はやっぱり何も変わらない。これうまそーって嬉しげな明日香はいつも明日香らしい。表面上はそう見える。私が居なくなることをなんとも思っていないみたいに。それが私たちに距離なんて関係ないって、私たちは変わることなく続いて行くって思わせてくれる。
そんな明日香を目にしながら、いつからだったろうって私は思う。私がガードを上げる前に私の心に入り込んで来たのは。そしていつになるんだろうって思う。私の心から明日香が居なくなっちゃうのは、って。案外早いうちなのかもってなんとなく思ったよ。
「だってよ。亜衣が言ってたぞ」
「へー」
椎名は笑っている。理香はやっぱり馬鹿なんだねぇと笑っていてもその表情がいくらか寂しげに見えるのは気のせいじゃない。それは椎名がみんなと、そして何より私が間違えていなければ私と離れることが辛いのだろうと思う。
「んでな」
「うん」
私は今日、私なりに考え抜いて出した一つの結論を持って椎名に会いに来た。
そのことを考え始めたのがいつからだったかって言えば樹さんが私にちょっかいをかけ始めた頃。明日香が好きだと言われて悪い気もせず、年相応に恋愛というものを嫌でも意識させられた頃だ。
昔もその頃も今も、いつでも私の一番近いところにいたのは椎名。一緒に居ても居なくても近くに居たのはやっぱり椎名だった。私はそれを友だちとして当然だと思っていた。友だちに一番も何もないと思うけど、椎名は私の一番の友だち。それは今も変わらない。
樹さんが私が好きだとかいきなり変なことを言うもんだからそれからは、私はそれに応えることなく自分のことは棚上げしたまま、お? アイツ、もしかしてアイツのこと好きなんじゃねぇの? なんて妙に意識して周りを見ていた時期があった。
当然、友だちとして椎名のことも気になった。
椎名はどんな男が好みで、誰が好きなのか。そんな話をしたことはない。敢えてその話題を避けていたわけでなく、椎名はただしなかった。
そんなことも相まって、椎名が惚れる男はどんな奴だろうとか、もそもそもそんな男が居るのか居ないのかと、そういう目で椎名を見ていたけど、それらしい男はやっぱり居ないように思えた。
椎名は言い寄って来る男を悉くフっていた。というか無視していたし、面と向かってちゃんとフった奴なんて引っ越しの奴以外居ないんじゃないかって思う。その扱いからして椎名は男が嫌いなんじゃねぇのって思うくらい。
そうして椎名を暫く観察していたら私は変なことを思ってしまった。男が嫌いでいつも私の傍に居るってことは、もしかしたら椎名は私のことが好きなんじゃねぇのかなって。
いやいや私らは女同士だし先ずあり得ねぇだろうって私はその考えをすぐに否定したけど、一度そういうふうに思ってしまうと、いくらそういうことに興味がなかった私でも、たまに見せる椎名の私に対する態度や言動からして辻褄が合うような気がするしどうしてもそう思えてしまうから、それが私の馬鹿げた妄想かどうかは置いておいて、もしもそうだったとしても不思議と嫌じゃなかったから、私は椎名とのことについてその可能性があるのかどうかをちゃんと考えてみることにした。
女同士。先ずあり得ない。普通は嫌だろ? 嫌じゃないのは椎名だから? 私は? 好き? 椎名のことは好きだけど、それは友だちとしての椎名? それとも恋人、彼女としての椎名? キスは? その先は? もしも椎名が望むのなら私はそれに応えることが出来るのか。そうなったとして母親はどう思うのか。
とかまぁそんなふうに色々と、それこそ今までにしたことないくらい真剣に。
けどまぁ、それを考えた時間はそれ程長くなかった。それはそうだ。ちゃんと考えてみるってことを考えた時点で私の出す答えはわかっていたんだから。誰かを好きになるっていうのは考えてどうこうなるもんでもないって思うから。てかおいそこ。これでも私も一応女の子だからな。意外とか思うなよ?
結論を言えば、私は椎名を好きだけどそれは友だちとしてで一人の人間として。つまり椎名はどこまで行っても私の友だち。私にとって一番の友だち。恋だのなんだのは私にはあり得ない。残念ながらそういうこと。
私は椎名の想いに応えることは出来ない。しないんじゃない。出来ないんだ。椎名が男を好きにならないと同じ。私は椎名を好きになれない。椎名にとって女性を愛することが普通の愛であるように、私にはそれが普通。私たちは違う。交わることはない。私はそれを悲しく思う。
「な。アイツらまじ馬鹿だろ」
「だね」
「でよ。椎名に訊いておきたいんだけどよ」
「なにを?」
「椎名って私のこと好きなのか?」
いきなりの問いに椎名は固まった。その椎名らしくない余裕を忘れた態度が私に明確な答えをくれた。椎名は私のことが好きなんだと。
「えっと……」
椎名は悪いことをして見つかってしまった子供のように申し訳なさそうに体を縮めて、これから起こるだろうこと、私に責められたり何か酷いことを言われたりすることを想像して怯えているように見える。
けど私にそのつもりはない。寧ろ、これまでも私に色々してくれて今の私を形作ってくれた椎名にそんな怯えた顔を、思いをさせてしまったことを申し訳なく思う。椎名が隠し続けたかったものを掘り起こして突き付けたのは私の方。隠しているものを曝けてもらってこれからも友だちとして引け目なく、今まで以上に付き合ってほしいと思った私の方こそごめんなだから。
「悪い。そんな顔しないでくれよ。責めようとかそんなつもりじゃねぇんだって。な?」
椎名は無言。そういうつもりじゃねぇんだけど、やっぱこうなっちまうよなぁ思いつつ、私は言葉を紡ぐ。
「私は嫌だなんて思ってねぇし、引いたりもしてねぇぞ」
「……本当に?」
椎名は恐る恐る顔を上げてくれたけどその顔は怯えたままだ。縋るような目を私に向けている。そんな顔をすんなよと、私は笑顔を向けていつもみたいに笑ってくれよと勝手なことを思いながら私はまた言葉を紡いだ。
「椎名だからな。こんな私を好きになってくれてありがとうって思ってるよ」
「本当に?」
「ああ」
「嘘じゃない?」
「ああ。まじだって」
「うっ」
そして椎名は泣き出してしまった。
「ううう」
顔を覆ってしくしくと泣く椎名。そもそも椎名が泣いたのを見たのは初めてのこと。その姿が私の心をぎゅっと締め付ける。
椎名を愛し、この先も椎名とずっと一緒にいられたなら、それは楽しくもあり私にとってプラスであり良いことでもあるのだろう。けれどそれはやっぱりそこまでのこと。それ以上の想いを私が持つことはない。私が私じゃなかったなら、私が椎名と同じだったならその先へ向かう道もあったと思う。けど私は私。椎名が変わらないように私も変わることはない。
「くそったれだな」
ままならない。私は私に向けられた椎名の想いに応えられないことをより一層悔しく思う。私は腰を上げて椎名の傍に行きその背中を摩った。やがて慟哭のようになった椎名の泣き声を聞きながら私はそんなことを思っていた。
椎名は声を上げて泣いている。それなのに、私に出来ることがただただ背中を摩ることだけだなんてよ。まじ笑えねぇ。
「そのまま聞いてくれ」
私は私がどう思っていたのかを話すことにした。泣かせてしまうのは今の一度で十分だろうと思ったから。
私が椎名の想いに気付いた時、私は私もそうであってもいいかもなと思った。だから私は椎名が感じているもの感じたくなった。それは嘘じゃねぇんだ。私も椎名と同じように、椎名が私に感じていることを私も椎名と同じように椎名に感じることが出来るようになりたかった。そう思った。
けど、やっぱり私は私だから、椎名が私に感じているものを椎名に感じることが出来なかった。それなら私に出来ることは、椎名が東京に行っちまうまで変わらずに仲良くすること、行っちまった後も友だちでいること、私にはそれくらいのことしか出来ねぇなってな。椎名が私にしてくれたことに比べたらそんなもんは微々たるもんかもしんねぇけどな。
そんでもそれは、椎名の想いに応えられない負い目みてえなものとは関係なく普通に自然に出来たことだから、やっぱ私たちは違うって、そういうことなんだなってな。誰かを愛する、好きになるってことについてだけは、私は椎名と同じものは感じられねぇって再確認しちまったよ。悪いな。
「だからよ椎名。私は椎名の想いに応えられねぇ。ごめんな」
「うっ、ぐっ。うっうっ、うううっ」
椎名はうんうんと頷いて、それからまた大きな声で泣き出してしまった。
伝えたいことは伝えたから、私はあとは黙ってその背を摩っている。私の泣き顔は椎名には見えないから、私も泣いていたことを椎名が知ることはたぶんないだろう。
「ごめん。もう大丈夫。落ち着いた」
椎名はすすすとしゃくりあげるように息をしながら鼻声でそう言って私に笑顔を向けてくれた。確かにその笑顔は無理矢理作っているようには見えない。スッキリしたとかそんな感じに見える。
「そうかよ。にしても酷ぇな」
「なにが?」
「顔だよ顔。すげぇ怖えことになってんぞ」
化けもんかよと、私は馬鹿にしたように笑っていると、椎名はなに言ってんのって顔をしたあと何を言われたのか気付いたのだろう、その目を細めた。
「ああん?」
「いや酷ぇぞ。いくらなんでもそりゃまじでヤバいっての」
「なんだとぉ。うらっ」
「いって」
「ふんっ」
私にワンパンくれて、椎名は顔を洗ってくる明日香のばーかとか言って部屋を出て行った。辛いだろうけど思ったよりも元気そうで安心する。
「ははは。さすがだな」
それから私はすっかり慣れたこの部屋を見回してみた。そこに椎名が座ってここに私が座ってお喋りをして。
ここに来ることもあと少し。馬鹿みたいな笑い声ももう響かなくなる。そう思うとなんとなく寂しくなってくる。
「なんだかなぁ」
そして私はこの手で可能性を完全に潰したことにも寂しさも感じている。けど後悔はない。
そんな気持ちに私はなった。
「まさかバレてたなんてさぁ」
「ま、一年は経つな」
「ねぇ明日香」
「ん?」
「本当に嫌じゃないの? 私のこと気持ち悪いとか思わないの?」
不安そうに私を窺う椎名。私は思わず椎名を睨む。声も若干低くなった。
「馬鹿にすんなよ」
「うっ。ごめん」
「よく考えてみろよ。もしもそうだったらよ、その時点で距離を置いてるだろつーの。そりゃあ私みたいな奴ばかりじゃねぇだろうから、そう思う気持ちはわかるけどよ」
「……そうだよね。うん。ありがとう。変わらないでいてくれて」
「んなもん普通のことだろ」
「そうでもないよ」
「まぁ、そうかもな」
「明日香にフラれた。あーあ。初恋だったんだけどなぁ」
「ははは。残念だったな。けど初恋は実らないって言うぞ。だからまぁってなんだよその顔」
「明日香がそんなこと言うようになるなんて。成長したねっ」
「うるさいよ」
「いたっ」
これは卒業式の日から三日後の、白金色の月が輝いていた夜のこと。それから私たちはいっぱいいっぱい話をしたよ。
「ねぇほら。月が綺麗だよ」
「ああ。綺麗だな」
「ふふふ。答えてくれてありがとう」
「おう」
そして私たちはそんな会話もしたよ。明日香は綺麗だと返してくれたけど、私たちが見ている月は同じ月でも違う月。私は美しい月だけど明日香はそういう目では私を見ない。今までも今もこれからも。悲しいけどそれが現実。
今夜のことを総じて言えばただ単に、私が叶わぬ恋をしてフラれただけ。そしてこの恋はもう、その残滓が消えるのを待つだけになった。それはきっと、どこにでもある誰もがする青春のたった一ページに収まるだろう出来事。
それでもこの恋は私にとってはとても大事な大事な初恋だった。モノを抱えた私を当然のように受け入れてくれて、私のことを真面目に考えてくれた明日香。その明日香は今も変わらず私の傍で笑っている。私はそんな明日香のはことが好き。
この想いはいずれ静かに消えてしまうだろうけど、明日香に恋をしたことを私は決して忘れはしない。
「色んなことあったよね」
「だな」
「楽しかったね」
「ああ。楽しかったな」
過去形だから戻れない。自分でそんなことを言っておいてまた泣きそうになったけど、楽しかったことは確かなことだから、私はちゃんと微笑んだよ。
「笑って泣くとか器用だな」
「うるさいなぁ」
「ははは」
夜はまだ始まったばかり。今夜は眠らず朝までだって語り合いたい。
そうして明日香と二人、あの時はああだったこうだったと話して笑って過ごしていると、暫くしてスマホが震えた。私はそれを手に取った。
「あ、まあちゃんだ」
「なんだって」
「どっちの服を持って行ったらいと思う、だって」
ほらこれ見てよと、私は明日香にあまちゃんがやけにシックなブラウスと派手なシャツを両手に持っている画像付きのメッセージを見せた。
「面倒臭え奴だなー」
「酷くない?」
「いいだろ。水野はこれからも椎名と一緒に居られるんだからよ。これくらい言わせろっての」
「えー? なになに? もしかして明日香、妬いてるの?」
「うるさいよ」
「ははーん。妬いてるんだー」
口を尖らせてそっぽを向いた明日香。嬉しいような悲しいような。けれどやっぱり嬉しいような。
「ちえ」
私の望む形とは違うけど明日香と私の仲がこの先も切れることはないと、そう思わせてくれる明日香。恋とか愛とか関係なく私たちの間に在るものは信頼。絆。
なら、これが私たちのベストな形なのかもなって私は思ったよ。
「明日香」
「ん? どうしたよ?」
「ありがとう。これからもよろしく」
「おう。こっちこそな」
そう言って微笑んだ明日香の横顔は今夜の月に負けないくらいとても綺麗だったよ。
そう、とても。
お疲れ様でした。ありがとうございます。
さて。超私事ですが、先日ウチのわんこが逝ってしまいました。前々から少しずつ体力が落ちていた様子で、そろそろかなぁと覚悟はしていましたがやはり辛いものは辛いですね。いやぁ、いっぱい泣きました。
黒ラブと柴犬のミックスで、ジャーマンシェパードの血は一滴も入っていないのですが不思議なことに見た目はまさにそれでした。病気がちでそれなりに大変でしたけど十六年も側に居てくれて、散歩が何より大好きであっちに行ったりこっちに行ったり楽しい思い出をたくさんくれたわんこでした。最後、楽しかったよありがとうって声を掛けました。伝わったのかわかりませんが、前作のタロのように、川の向こうで私がそっちに行くのを待ってくれていたらいいなぁって思います。
長々とすみません。
ということで、なかなか今話を書けませんでしたが、またぼちぼちとやっていきます。よろしくお願いします。
読んでくれてありがとうございます。




