第三十一話
熱に浮かされながら書きましたので思うことを好きなように書いた箇所もちらほらと……
あと、私にしては短めです。
では続きです。
よろしくお願いします。
「ええと。制服制服制服、と……え、こんないっぱいあるの?」
「女性ヴォーカルで探しなよ」
「なる。みっちー頭いいね」
「まぁね」
「ほんの冗談だけど、いてっ」
そう。私は今、宴もたけなわようやく私のところに回って来たカラオケの端末を弄って今日歌うべき歌を探しているところだよ。
午後四時、一度家に帰ったクラスメイトが三三五五カラオケ屋さんに集まって、卒業おめでとうの唱和から始まった打ち上げ的なクラス会は実は二部屋に別れている。パーティルームと言っても流石に一部屋に三十一人も入り切らないから別れてしまうのは仕方ない。
「「ねぇねぇ椎名」」
それなのに、私のクラスと関係の無い人物が二人ほど、今この部屋に紛れ込んでいる。しかも私の右隣に仲良く並んで座っている。
この部屋にやって来るなり、佐藤とどうなった? 付き合わないの? としつこい奈美と千佳子がそれ。二人のクラスもこのカラオケ屋さんを利用しているらしく、みっちー経由でこの部屋を知ってやって来ていたってわけ。
「「ねぇ」」
ちなみに明日香は向かいのビルの、あまちゃんは駅の向こう側のカラオケ屋さんに居る。それぞれの会が終わったあと、駅ビルに入るドトルに適当に集合することになっている。それから揃ってどこかに行くかそこで話をしているか、それも適当。
「「椎名ってば」」
あとで会うからべつにいいけど、この二人じゃなくてどうせなら明日香とあまちゃんだったらよかったのにってちょっと思っているところ。奈美と千佳子は佐藤と同じクラスだから、この二人がいるということは佐藤もこのカラオケ屋さんにいるということだから。まぁ、来ていればだけど。
「もぉ。なに?」
そう答えつつしつこい二人に冷めた一瞥をくれた。私の中では佐藤のことは終わっている。色々訊きたいようだけど、告白されそうになったけどスルーした事実しか存在しないのだから。何を訊かれようが終わったことは終わったこと。掘り返すつもりなんて私にはない。
私は再びカラオケの端末に目を落とし、確か制服だった筈と、そんな題名の歌を歌っていた元女性アイドルがいた筈だと、いまはそれを探しているところだから。
「佐藤のことに決まってるじゃん」
「ねー」
「ちっ」
「「舌打ちしたっ?」」
「ったく。あのね、スルーしたから佐藤とはどうもなってないよ。ていうか佐藤と同じクラスなんだから見てたら雰囲気とかでわかるんじゃないの? てか佐藤、来てるの?」
「「来てるよ」」
「ふーん」
佐藤は私が来るまでずっと待っているって言っていた。私は佐藤が本当に私を待っていたのか、そうだとしたらどれくらい待っていたのか知らないけど、結局佐藤は私を諦めてここにいる。それがいいと私は思う。いくら待っても私は来ないから。私と佐藤も同じ月を綺麗だと思えないんだから。まぁ、それは私のせいだし佐藤に限らず私と男性全てに言えることだけど。
「会うかもよ? そしたら告られるかもよ?」
「ねー」
ねー、じゃないでしょと私は思う。人の気も知らないで勝手に盛り上がって好きなように他人を弄るよなぁって思うけど、私のことを知らないんだからしょうがないよなぁとも思う。
「絆される?」
「ころっといっちゃうかも?」
とか言って、奈美と千佳子は愉しげに話をしながら私を見ている。友だちの浮いた話はこの年齢なら蜜の味だから何かが起こることを期待してもいるんだろう。それはわかる。わかるんだけどこのまま更に二人で盛り上がって、万が一にも佐藤をこの部屋に呼んだりとかされたら嫌だから私は思い切り釘を刺す。
「これ以上佐藤のことで何か言ったら二人とは友だちやめるし二度と口聞かない」
「「え」」
奈美も千佳子も少しの悪ノリ、単なる揶揄いとしか認識していない。だからそんなこと言われると思っていなかったみたいだけど、私はあまりにもしつこい時は今までだってちゃんと怒っていた筈。
と言うことで、私は刺した釘を遠慮なく、釘抜きでも抜きようがないくらい深く深く打ち込んでいくことにした。先ずは奈美。
「奈美」
「は、はい?」
「奈美は他人のことを気にするよりも自分の心配した方がいいと思う。これから彼氏とは遠距離になるんでしょう?」
「あ。うん」
「なら、こんなところで騒いでないで彼氏のところに行ったほうがいいと思うけどなぁ。出来るだけ一緒にいた方がいいと思う。まぁ、それでも離れちゃったらそのうち別れちゃうだろうなって私は思ってるけど」
「え」
奈美は途端になんでそんなこと言うのみたいな顔になったけど私は本気でそう思う。離れている時間が愛を育てるなんて世迷言を私は信じていないから。離れたらお終い。私はいくら好きでも近くに居ないのならいずれ別れちゃうカップルの方が続くよりも圧倒的に多いと思う派だから。若ければ若いほどその可能性は限りなく高いと思うから。
「え。じゃないでしょう? 奈美だって本当は覚悟しているんでしょう? 遠距離じゃ無理だろうって思っているんでしょう?」
経験値が全く無い私がそんなことを言うのもあれだけど、奈美と彼氏さんなら大丈夫だよなんて甘いことは言わない。距離に負けるな遠距離恋愛なんて掛け声を掛けたりしない。これが取り敢えずの最後の機会だから、私は奈美の友だちとして現実を思い知らせることも必要だし、言い難いこともはっきりと言わないといけない。真の友だちとはそういうもの、な筈。
「「おおお鬼か」」
落ち込み始めた奈美に代りなのか、みっちーと千佳子がツッコミんで来たけど鬼でも邪でも友だちのためだからそれはスルー。そして私は次なるターゲットに冷めた目を向けた。
「千佳子」
「ひっ」
自分は何を言われるのかと思ったらしい千佳子は怯えた表情を見せたけど、千佳子は彼氏がいないから奈美ほど酷いことは言わないつもり。ただ私がずっと思っていたことを伝えるだけ。もしかすると私はしつこい二人に怒っているのかもしれない。
「肉感的って言えばちょっとエロい感じするけどさ、千佳子は頑張ってナニをもう少しナニしないといくら顔が可愛くても彼氏なんてできないって私は思うけど? マクダナルズの一番好きなメニューがビッグマクダナルズとポテトとコーラのラージのセットにナゲットとアップルパイを付けるって、ははは、千佳子は本当に痩せたいの? 本当はもっ……太りたいんじゃないの?」
「え」
確かに私は似たような女の子を知っているけど彼女は例外。ダブルでチーズのヤツ超美味えよなー三個はイケるぜーと、それを取り留めのない、今日は暑いですねーみたいな日常会話のように話す明日香を基準にしては絶対に駄目。
「い、今もっとって言った……うぐ」
私はもっとなんて言っていない。言おうとしたけどやめただけ。けど伝わっていたのならしょうがない。私はやっぱり怒っているから。
その千佳子がなんか泣きそうになっているけどこれもそう。苦言。たまに聞く、耳触りのいい、見た目より性格の方が大事だよなんて台詞は嘘っぱち。第一印象の良し悪しは間違いなく顔とスタイルで判断されるし、いくら性格が良くても一度弾かれたなら、そこから挽回するのは難しい。結局人は見た目と性格の両方を求めるものだと思う。他の人は知らないけど私はそうだ。
それに、ありのままの自分をー、なんてのは自分自身の甘さから逃げているだけ。何がしらのコンプレックスがあるのなら、それを無くすか補う努力をすべきだし、恋愛が成就する可能性が少しでもあるのなら、尚のこと好意を持たれるよう努力をするべき。その努力をしても尚、根本的にどうしようもないことがあることを私は知っているんだから。甘ったれんなって思う。
「「こ、このっ、悪魔っ」」
奈美とみっちーがなんか言っているけど知りません。涙を飲んで心を痛めて苦言を呈す。真の友だちとはそういうものな筈だから。はい次、最後。
「みっちー」
「な、なによぉ」
「みっちーは……」
私は言葉を切ってそれ以上は何も言わず、無言のまま思わせぶりにみっちーのは両肩に手を置いて優しく微笑みながら三度頷いてみせた。
「え。なんで無言になるのさ。なんか言ってよ。逆に怖いよ」
「ふふふ」
「え、なに。なんで笑うの。まじで怖いんだけど?」
「うふふふふ」
私の微笑みに、みっちーは何か勘違いしたようだけど、私は何も思いつかなかっただけで、苦言やアドバイスがなにも無いのもなんだからそうしただけ。
「あっはっはっ。三人とも凄い顔してたね。ウケる」
「「このっ。鬼っ。悪魔っ」」
「椎名。わたしは? ねぇ。わたしは?」
みっちーが私にも何かないのってうるさいけど、みっちーは佐藤のことをしつこく訊いて来なかったから特に思うことはない。つまりみっちーはスルー。
「酷いなぁ。言った私も辛いし悲しいんだよ?」
「「嘘つけっ」」
「ていうか冗談じゃん。冗談に決まってるじゃん。そんなに真に受けないでよ。てかさ、これ以上佐藤のことで何か言うつもりなら二人とも早く戻れっ。二度と来んなっ」
「「酷くない?」」
「ないでしょ」
「わたしは? ねぇ椎名。わたしは?」
「ないでしょ」
「あったよみっちー。聖子ちゃんだった」
「へー」
「連れないなぁ」
有耶無耶にされてそれ以上何も訊けずに諦めたらしい奈美と千佳子と暫く普通の話をしたあと、じゃあバイバイ、向こうで会おうねと部屋を出て行く二人に向かってみっちーと手を振るなか、私のクラスメイトたちは何事もなかったかのようにそれぞれが好きなように話をしたり写真を撮ったり歌ったり、今もそこかしこで思い出話やこれからの話に花が咲き、見れば男子が気持ち良さげに歌っている。
「あれなんの曲」
「三代目」
「ふーん。ええと。卒業卒業卒業」
「ふーんて。訊いたくせに。てか椎名、決まったなら次に回しなよ」
「待って。もう一曲」
すっと伸びて来たみっちーの手から守るように体ごと端末を遠ざけて、卒業と言えば確か由貴さんの歌があった筈。あの歌は語尾をちょっと外して歌うのがポイント。でもみんなには伝わらないだろうなぁ残念、なんてことを考えながら私は再度検索をかける。それはすぐに見つかった。
「あ、あったよみっちー」
「よかったねー」
これでここに来た甲斐があったというもの。見つけたそれをピッと転送して、私は隣の子に端末を渡し、みっちーならわかるかもと、この歌のコツを教えてみる。
「みっちー知ってる? この歌はね、歌詞の語尾の所をね、毎回ちょっと外して歌うのがポイントなんだよ」
「そうなん。てか失礼じゃね?」
「え、なんで? そういう技法でしょ?」
「技法?」
え? ん? って感じで向かい合うみっちーと私。そのあとすぐに二人で爆笑したよ。
「え。じゃあさみっちー。あれが技法じゃないとすると、単に歌が下もがっ?」
「だぁー。それ以上言っちゃダメっ。怒られるかもだからっ」
「もがもがっ」
「みっちーどうだった?」
「技法のせいで下手に聴こえた」
「ははは。じゃあバッチリだ。私ちょっと飲み物取ってくる」
「はい。いってらー」
制服、卒業と、立て続けに二曲歌って中々の点数を叩き出した。聴いてくれていたクラスメイトは懐メロだからみんなポカンとしていたけど歌詞的には今日の私たちに相応しかった筈だしカラオケなんて独り善がりなものだから私は一人ご満悦。こうなったら締めに薔薇も歌いたいなぁなんて思いながら喉を潤すためにドリンクバーを目指して部屋を出た。
先にトイレを済ませたあと。ドリンクバーのコーナーへ行くと、そこには男女五、六人の同級生がいて、私が近づいていくと、クラスメイトの女の子たちが、あーとか言って手を振りながら私を待っていてくれた。
「どうなのそっちは」
「まぁ普通かな」
「そっか。こっちにも顔出しなよ」
「そだね。じゃ、今からそっち行く」
「うん」
さて。私は紅茶に炭酸を混ぜて飲むのが好き。ということで、氷、紅茶、炭酸水の順にドリンクを作り、それにストローを刺して一気に吸い上げた。
うん、しゅわしゅわしてて美味しい。
「んじゃもう一杯」
今度は部屋に戻ってちびちび飲む用にともう一杯作っていると、私の背後で私の頭の中からすっかり抜け落ちていた佐藤が椎名と呼ぶ声がした。
ちっ。やってしまった。にしてもしつこい。居ると知っていたのに。私に脈がないと知っているのに。
と、私の油断と佐藤の諦めの悪さに腹を立てつつ何も言わずに振り返り、そのまま佐藤の横を抜けて部屋に戻るために歩き出した。
「椎名好きだ。付き合ってくれ」
私は立ち止まり、はあと大きくため息を吐いて振り返る。
「やだよ」
「だよな。あー、その、ちゃんと振ってくれてありがとな」
「どういたしまして?」
「おう。そんじゃな」
そして佐藤はやけにいい笑顔を見せてくるりと振り返り、私の挨拶も聞かず足早に通路の向こうに消えて行った。
佐藤が私に告白をして、私が佐藤を振るまで掛かった時間はほんの十秒程度。たったこれだけのことを、佐藤はどうしてもしたかったらしい。
「はぁ」
あの笑顔。佐藤が何に満足したのか私には分からない。嫌だと避けている相手に対して、自分の気持ちにケリをつけるためならこうしてしつこくしてもそれで自分を許せるものなの? 好きになるのは勝手だけど脈がないとわかったのならそのお相手の知らないところで一人で抱えて一人で悩んで一人で泣いて、そのうちに立ち直ればいいんじゃないの? 私はそうしているんだよ?
好きとか恋愛ごとに関してみんな甘い。飲酒と一緒で、酔っているからまぁ大目に見ようみたいに、好きなんだからしょうがないよねである程度のことまでが許されてしまう。しつこくしたりとか周りを使ったりとか、自分のことばかりで肝心の相手のことが二の次になる不思議。
周りもそう。そんなことをされてもこっちとしてはいい迷惑なだけなのに、お勧めされたりどうにかしてくっ付けようとしたり、ちゃんと向き合ってあげなよなんて言ってきたりもする。なんなの? って思う。
もしも私がそんなことをしてくれちゃう貴女のことを好きになったら、貴女は私の気持ちにちゃんと向き合ってくれるの? 気持ち悪いとか無いわーとか言って避けたりしないの? 更に言うなら明日香のことを好きな私を変な目で見たりキモがったりしないでどうにかしようとしてくれるの? そんなことあり得ないでしょ?
「ったく」
佐藤が何に満足したのか、アイツの自己満足に付き合わされた私には本当に謎。最後に見せたあのやり切った感は一体どこから来たのだろう。気持ちにケジメをつけたつもりなのか。
そうやって自分の気持ちにケリをつけるために、己の心の平穏を得るために、好きだと口にした相手に嫌な思いをさせるなんて一体どういうつもりなのか、それで何を満足できるのかやっぱり私には理解できない。誰かを好きになったのなら、その誰かが何を思うか、どう考えるかを一番に考えるべきじゃないの? それで自分が傷つくことになって、それを一人で耐えることなく自分だけが満足して終わりって本当に何なの? 甘ったれてんなぁって思う。
「けっ」
「まぁいいや。終わり終わり」
ともあれ私は解放された。何となく感じていた重い気分はもう無くなって、今はフリーダァァァァムって叫びたい気分。
「あのっ。椎名さん。ちょっと話があるんだけど」
「え」
くそぉ。駄目かぁ。
お疲れ様でした。ここまで来てくれてありがとうございます。
さて。次話を上げるのが少し遅れるかも知れません。と言ってもそれほどではありませんです。よろしくお願いします。
にしても副反応が辛いっ。
読んでくれてありがとうございます。




