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第十八話

続きです。


なんでだろう? 長くなりました。


よろしくお願いします。

 


 すっかり黒くなった明日香の髪が長く伸びて、あまちゃんのスカートが若干長く、その中の見せパンが裏起毛のやつに変わった寒さもここに極まれりの二月。そのとある日のお昼休み、私は教室でみっちーたちとお弁当を食べる。今日は朝から分厚い雲が垂れ下がっていて日差しもないし早ければ夕方から雪がチラつく予報だから、暖房の効いたこの教室から動きたくなかったの。

 前にも言った通り、私と明日香とあまちゃんは毎日のように一緒にお昼休みを過ごすけど約束をしているわけじゃない。私が一人になりたくて、ぽつんと食べている体育館裏とか今の季節なら家庭科室に二人がふらふらとやって来るだけ。二人が来なくて一人ぼっちのままお昼休みを終えることもある。そんな感じだから今日のお昼休みに二人がこの教室に顔を見せに来てくれるのどうかはまだわからない。



「んん?」


 蓋を開けてびっくりな今日のお弁当。プチトマトとブロッコリーの野菜陣に私が好きな切り干し大根ちょこっとと卵焼きと来て、メインはなんと揚げられてしまった大きめな焼売が四つ。一昨日の夜ご飯のおかずだったやつがやけに幅を効かせていた。そしてそのおかずサイドの隣、少なめに盛られたご飯の上にはでっかくハート型にされたピンクのでんぶが敷き詰められているという、今朝兄が、作っておいたぞ持っていけってニヤニヤしながら渡してくれたもの。


「なんだよこれー」


 思わず文句が出てしまうのは仕方のないこと。それに反応した千佳子が私のお弁当を見て言った。


「お、ハート。愛されてんねー」


「そこはどうでもいいの」


 私が仏頂面で答えてしまうのは当然。だってあり得ないから。

 先ずはでんぶ。ハートはいいの。見慣れたものだし兄はシスコンだから作っているうちにその気持ちが毎回のように溢れ出ちゃうんだと思うからそれに関してはべつにいいの。気持ちを吐き出すことで精神の安寧を保てるのならどうぞ好きなだけやってくださいって思うから。


 けどね、でんぶは駄目。ご飯が甘くなっちゃうから駄目。取り除こうにもキメの細かいでんぶはそれが出来ないし、何より私は白飯が甘いなんて許せないから。そんなものはおはぎ以外は絶対に認められない認めない。ご飯のお供はしょっぱい系、普通に海苔とかふりかけとかおかかとかでいいんじゃないですかねって思うから。


「ったく」


 はい次。焼売。揚げちゃ駄目。食感が悪くなるしなに食べてるのかわからなくなるし油っぽくなるしで良いところが一つもない。なぜにわざわざ揚げてしまうのか私には意味がわからない。蒸しが一番美味しいじゃんて私は思うわけ。


「ん?」


 けど、私はそのこんがり茶色くなった焼売を見ながら感嘆の声をあげてしまう。


「ほー」


 グリンピースが焼売くっ付いたまま見事に揚がっていたから。よく油の中で離れなかったなっ、やるなっ宇宙って思ってしまったから。その時のあの男はさぞかし満足げな顔をしていたに違いない。


「ちっ」


 つい想像してしまったあの男の満ち足りた顔を殴りたくなる。丁度お昼時の今、あの野郎は大学の友人たちと、椎名ー、学食行こうぜー、俺ラーメン食いてぇ、おっ、いいな、寒いから味噌にしよう、なんて話をしながら、こうした私の心の動きを想像して腹を抱えて笑っていやがる筈。まじでぶへらって言わせてやりたい。


「あ。あー」


 そして私は気がついた。これはニヤニヤ薄ら笑うあの男の復讐なんだと。一昨日の夕方、私が兄の部屋に参考書を借りに行った時、何となく何かに見られているという気がして部屋に視線を彷徨わせると、ベッドの下から微妙に顔を覗かせて、なんだか凄く大変なことになっているっぽい表紙の女性と目が合ってしまった三冊目、俺の彼女が俺の親友にどーしたこーした2を見つけてしまったからなんだと。私の兄ながら、なんて心の小さな男なんだろうと思う。


 大体私はそれを見つけたくて見つけたわけじゃないの。偶々それと目が合ってしまっただけ。しかも私はわざわざそれをベットの下から引っ張り出して机の上に置いてあげて、ちゃんと隠さないとだめだよ、母さんが見たら絶対悲しむよ、偶々見つけたのが私でよかったね感謝してねってメモまで添えてあげたというのに逆恨みにも程があるというもので、私にはお弁当で意地悪される謂れは少しもないから近いうちに一家団欒の時のネタにしてやると心に誓う。ついでになーさんにも教えてしまえばあの男がわたわたと慌てふためくこと間違いなし。


「くくく」


 そのザマを想像すると笑えてくる。復讐からは何も生まれないなんて妄言を私は吐かない。そんなのは酷い目に遭ったことがない人の口からしか出て来ないもの。幸せで何よりなことだ。


「あっはっはっはっ」


「っ、なんだよ椎名。なんで弁当見て笑えんだよ。こえぇよ」




 我に帰るとみっちー、奈美、千佳子の他にも、私たちの近くでお昼を食べようとしていたクラスメイトたちが畏怖の念が篭った目を私に向けていたけど私に思い当たる節はない。


「どしたの?」


「…いや。べつに」


「そう? じゃ、いただきます」


 べつにと言うなら気にしない。何はともあれ飯はご飯。でんぶに塗れた白飯も、揚げられてしまった焼売にも罪は無いしこんな姿にされて寧ろ可哀想。ということで、変に甘い白飯や変に固くて噛みにくくなった焼売の皮に眉間に皺を寄せながらも、有り難く噛みつつみんなでくだらない話に花を咲かせていると、みっちーが言った。


「椎名ってさぁ、最近明るくなったよね」


「え。そう?」


 そう言われて思い当たることは一つ。それは玲さんと真里さんの存在。マイノリティな私が感じていた孤独と不安は私が思う以上に私に影響を及ぼしていたみたい。


「その顔は置いといて、なんていうか、雰囲気?」


「それわたしも思った」


「私も。なんかいいことあったっぽいよね」


「あ、私わかったかも」


 そう言われても私には理由を説明出来ないしする気も無いから気のせいだよと軽くスルーしようとしたけど、話はこのまま面倒くさい方向へと進んで行くことになる。私が一人になりたくなる理由の一つ。


「男だな。うん男だ」


 ほらね。この流れは今までにも何度かあって、ここから更に、どうして、なんでと続いて行くからまぁ見てて。


「まじで?」

「ついにっ?」


「で、椎名。どうなの? 男できた?」


 これはこのお年頃ならではの、みんな大好きほっときゃいいのに他人の恋の話を聞きたがって、なんならその首をねじ込んでまで理解者になろうとするどうにも止まらないやつ。

 そのスイッチが入ってしまった三人が期待とともに手ぐすね引いて待っているところ申し訳ないけど私の答えは決まっている。私に好きな人や恋人が居ようが居まいが私は私と同じ人以外の誰にも私の恋の話はしない。今までもそうだしこれからもそう。

 この三人は友だちだけどうっかり信頼なんて私はしない。それは私の都合であって私がしなくちゃならないことだから、この三人に落ち度は無いけど私は心に自ら壁を造る。そうすることでしか自分を守る術を知らない私にはそれが必要なことでそのために私が出来る唯一のこと。

 それはとても寂しいことだけど、もしも信頼なんかしてして話したりでもしようものなら私たちの仲は今まで通りとはいかなくなると思う。そして人の口に扉を建てられない以上、この三人の誰かの口から私のことがこの小さなコミュニティに拡散して、私はここから弾き出されてしまうだろう。私はそれが恐ろしい。だから私がこの三人に対して壁を壊すことはしない。

 そもそもの話、私は私の信頼たり得る明日香とあまちゃんにさえ私のことを話すことが出来ずにいるんだから。


「教えろよー」


 けど、そんなふうに思っていた前に比べれば心に多少の余裕ができた今の私なら、こんな状況も何食わぬ顔をしてさらっと軽く受け流すなんてもはや楽勝、チョチョイのちょいですよと、私は玲さんと真里さんの顔を思い浮かべて小さく頷いた。


「私の恋愛にそんなに興味あるの?」


「「「あるっ」」」


「あそう。じゃあ教えてあげる。できてないよ」


「やっぱなー」

「なーんだ」

「そっかー。椎名にもようやく春が来たと思ったのになー」


 三人ともやけにがっかりしているけど、所詮は他人の恋の話なんだからそんなにがっかりしなくてもいいんじゃないのと私は思った。


「残念でした」


 で、これで終わればいいんだけど、話はこれで終わらない。前から思ってたんだけどさーって始まったから。これも毎回同じこと。


「なんで彼氏つくらないの?」


「ほんそれ。椎名ってモテるのに」


「結構告られてたじゃん。なんで?」


 ほらね、面倒くさい。けど大丈夫。心に余裕を持てた私はこれも華麗に躱して見せるからまぁ見てて。


「べつに」


 それだけ言って、私はまだ三つも残っている焼売に箸を突き刺した。えいって感じで。

 それを口に運ぶと味はともかくやっぱり絶妙に噛み辛くて自然と眉間に皺が寄ってしまう。よくも揚げやがったなあのボンクラめって思いながらそれを飲み込んで、続けてもう一つ、私は箸でぶっ刺してそれを口にした。やっぱり食感と油っぽさが最悪。


「ちっ」


 私の口から何か音がして、途端に何か周りが静かになったなと思いながらもどうにか噛んでいるものの、私の眉間にますます皺が寄ったように思う。そして私は思い付いてしまった。気づいたり思い付いたりと、今日の私の頭は冴えていると思う。


「ねぇみっちー」


「な、なにかな?」


 みっちーの動揺した感じは気になるけど後回しにして、先ずは私の用件を伝える。


「これとそのミートボールと交換しようよ」


「ど、どうぞ」


「ありがとう」


「ねぇ千佳子」


「ひゃいっ」


「どうしたの? まぁいいけど。その食べかけのおにぎりとこのでんぶご飯と交換しようよ」


「ええと」


「しようよ。ね。これほら、ハート付きだよ? 少し食べたから欠けちゃったけど」


「わかった」


「やったね。ありがとう」


「私もなんか交換するけど?」


「えーと。もう大丈夫だから奈美はいいや」


「なんだとー。この玉子焼きとその玉子焼きと交換しろやー」


「いいけどウチのは出汁だよ?」


「え。甘くないの?」


「ないよ」


「じゃあいいや」



 こうして私はお弁当を片付けた。あとは兄に報いを受けてもらうだけ。ささやかに倍返しだっ。


「はっはっはっはっ」


「こえー。またかよ。ウチらしつこかったら怒ってんのかな?」

「椎名はよくわからんよなー」

「真面目な奴ほど怒らせちゃ駄目なんだよ」


「ん? なに?」


「「「なんも」」」


「ふーん。べつにいいけど」




「椎名さん」


 呼ばれたのは明らかに私の名前。顔を向けると、盛り上がっているところ邪魔してごめんという雰囲気を全面に押し出している立花くんが側に立っていた。


「立花くん。何か用?」


「ちょっとね」


 食べ終わっているならちょっとこっちでと、私を教室の隅に連れて行く立花くんが話しかけるのに一番いいタイミングを見計らっていたことを私は知っている。立花くんは真面目でそれほど目立っていない男の子だけど、周りを気にもしない自己中なイケてるとか言われている男の子連中よりも、そういう意味では断然イケてる人だと私は思う。


「で、どうしたの?」


 ただ、これからしようとする話を立花くんで止めて欲しかったとは思う。そこはマイナス。まぁ、先輩に言われたのなら聞かないわけにもいがなかったのかも知れないけど。


「実はさ、その、先輩に頼まれちゃってさ」


 それをわかっているのか、とても言い難そうに話す立花くんの口から出てくる話を聞いているうちに、私の口からはぁとため息が出て、立花くんの顔が一層バツの悪いものになった。


「やだよ。行かない。寒いもん」


「だよね」


 はなから行くつもりなんてないけど、この寒いのに屋上に呼び出すなんて思いやりの欠片も無いなって思う。誰だか知らないその人は今、告白する自分に興奮したり、そのシュチュに酔っていたりするのだろうけど、周りが見えなかったり気が利かない人間は決してモテることはない。イケメンやお金持ちなら話は別かも知れないけどそんなのはそれがあるうちだけで枯れればお終い。でなければ盛者必衰の理が嘘になってしまうもの。そういう人こそより謙虚で在るべきで調子に乗っては駄目だと私は思う。


「あ。廊下とかもやだよ?」


「だよね」


「大体さ、人を使ってる時点でアウトだから。その程度の気持ちなんだろうけどお互いいい迷惑だよね」


「それは、まぁ」


「ということでお断りで」


「わかったよ」


 何れにせよ、そんな気の利かない人間に告白されようとしている私ももしかするとその程度の価値しかないんだろうかとちょっと疑問に思うけど、私の価値は私が一番よくわかっているから気にしない。


「あ、ねぇ。もしかして立花くんがいじめられちゃったりとかする?」


「…あ、いや。もうすぐ卒業して居なくなるからべつに」


「そっか。ならいいけどね。てかなに今の間」


「いや、椎名さんて思ってたよりもっていうか、実は良い人なのかもって思って」


 前にも誰かに言われたような気がする。それは普段一緒にいる人がってことなんだろうけど、接点が無いんだから印象で判断するのは当然と言えば当然。だからそれに文句はないけど一応言っておく。


「はあ? 失礼な。言っとくけど、私はともかくみっちーたちも明日香もあまちゃんもみんないい子だよ」


「ごめんごめん」


 話を終わりにして、ああ、べつに怒ってないからねと伝えてから私は席へ戻る。その途中首が傾げてしまうのは、今更ながら私はみんなにどんなふうに思われているのだろうかと思ったから。

 けどそう思ったのは一瞬で、私はやっぱり気にしない。性格の合う合わないが当然あるし、さして親しくもない人たちにどう思われていたとしてもどうでもいいことで、私は私の親しい人が私のことをある程度でもわかってくれていて、私がどういう人間なのかを私がきちんと理解していればそれでいいと思うから。

 仮に私が誰かに何かの陰口を叩かれていたことを知ったとしても、ぶぶー、わかってないね、馬鹿じゃないのって余裕綽々、鼻で笑ってやればいいんだから。それがまた鼻に付いたりしちゃうかもだけどそんなの私の知ったこっちゃないの。人を嫌うことは結構なエネルギーを使うものだし、そうやって無駄に疲れて無駄に時間を過ごしていればいいよ、はははってまた笑うだけ。私はそういう人間なので。



「はぁ」


 それはさておき私はまたため息を吐く。私の前方に、興味津々、瞳を爛々と輝かせた三人が私を待ち構えている姿が見えて、またかよって思ってうんざりしたから。


 けど。


 四月には選択科目に合わせたクラス替えが控えている。別々のクラスになればこのメンツでお昼を食べることはおそらくもう無いだろうなと、待ち構えている三人を見て私は少し寂しくなった。

 出来ることなら私だって、みんなと一緒に恋バナしたいしみんなにありのままの私を受け入れてもらいたい。そうなればどれだけいいだろうと思う。


 けど私は話さない。世の中は優しい人たちだけじゃないことを私は知っている。どう傾くのかわからない天秤に己を乗せることは出来ない。私の今を壊すなんてこと、とても恐ろしくて出来はしない。


 今や、早く来いよとうずうずしている三人を見ていると、私はそれを残念に思う。



 とは言え多少面倒臭くても、私の胸の内に土足で上がろうとすることがあっても、今のところは間違いなくみんな私の友だちだからこれからされることくらいは甘んじて受け入れようと思う。


 それでもやっぱり今すぐ明日香かあまちゃん来ないかな、そうすれば有耶無耶に出来るのにって思うけど教室の扉に目を向けるけど開く気配はない。そしてあっという間に私の席に着いてしまったと同時に始まる会話という名の質問攻め。


「なんの話だったの?」

「呼び出し? 告白とか? 相手は?」

「まじか。やっぱ椎名ってモテるよなー」

「付き合うの? ねぇねぇ」

「とうとう椎名も彼氏持ちかー」


「うるさいよ」


「「「ひっ」」」


 わいわい騒ぐ三人に明日香直伝、問答無用で相手を黙らせる視線を送りながら、なんでこういう時に限って来ないのかなぁ、役に立たないなぁ、お詫びとしてマクダナルズシェイクを奢ってもらおうと、私は自分勝手なことも思っていた。


「言葉、わかる? ないって言っているでしょう?」


「「「はいっ」」」





「二人とも。私シェイクね」


「何度も勧めんなよ。私も頼むっての」

「椎名。寒い」


「ちょっと。話聞いてよ」


 そして帰り道。もはや習慣と化した放課後マクダナルズ。そこへ向かう途中、私はシェイクを強請っていた。ずっと。何度も何度も。


「シェイク奢れ」


 ところがこの二人は突如難聴になってしまったのか私の言葉が理解できないのか、人の話をまるで聞いていない。明日香は私も飲むからもういいよとか言うし、あまちゃんに至っては寒いしか言っていない。会話のキャッチボールをどこやったって思う。


「シェイク奢ってってば」


「寒い」


「やっぱバニラだよなー。サイズはMは欲しいよなー」


 ほらね。誰もまともに返してくれない。


「うう、寒い」


「当たり前だよ。肝心な時に役に立たないくせにそんな格好してるんだから」


「ううう寒い」


「話を聞けっ、ちょっ、ととと。歩き辛いって」


「おい。お前らどこ行くんだよ」


「ほら。役た…あまちゃん。もう一人の役に立たない人が怒ってるよ。ちゃんと歩けって。役に立たないくせにさ」


「椎名。お前さっきからなんなんだよ」


「ふーん。だって来てくんないんだもん」


「べつにそんな約束してねーだろ」


「そうだけどさぁ」


 右に左にふらふら歩く私とあまちゃん。駅はこっちだろうがと役に立たない明日香が呆れているけどそれは私のせいじゃない。原因は寒い寒いと三分に一度は口にしている役立たずのあまちゃんにあると言うのに私まで呆れられてしまう理不尽。


「おっとっ」


「だからこっちだっての」


「ほら役立たず。あっちだってば」


「寒い」


「あまちゃんは動じないね」


「たいしたもんだよな」



 と、今も私にくっ付くあまちゃんはイブを境に元々多かったボディタッチがより増えたように思う。何があったか私は知らないけど、それは新学期が始まってからも変わらない。

 学校にいる時も帰る時も、寒いと言っては毎回のように私に腕を絡めて体を預けてくるようになった。格好からして寒いのはわかるけど、さすがに今は歩きにくいし重いから、私はあまちゃんに正論を突きつけてあげることにした。


「そんなに寒いならタイツでも履けばいいのに。なんでそんなに生足にこだわるの? 我慢とかいらないでしょ」


「本当だよな。下にジャージでも履きゃあいいのによ」


「は? そんなの履くわけないでしょ」


 明日香に言われてこれだからヤンキーはと大袈裟にため息をひとつ溢して首を横に振りながら、ファッションてものはねと、いつもの台詞を口にするあまちゃん。好きな事をするのために時には我慢も必要なの。まったく、なんでそんな簡単なことが理解できないのか私が理解できないなんて偉そうに言っているけどそんなあまちゃんも実は、極めて暖かいヒートなテックを重ね着して寒さを凌いでいる私と同じ軟弱者だということを私はちゃんとわかっている。私は玲さんに言われた通り、少し周りに目を向けるようにしたんだから。そうすると、以前は気付かなかったものに気付くようになった。

 私はその成果を遺憾なく発揮する。それを伝えていつもクールなあまちゃんに吠え面かかせてあげようと思う。


「とか言ってるけどあまちゃん、そのスカートとか見せパンとか、バレてないって本気で思ってるの? バレてるからね? それなのに澄ました顔してそんなことを言っちゃうなんてさ。あはは。見てるこっちが本気で笑っちゃうってなもんだよまったくあははははって、痛っ、痛いよあまちゃん」


「大丈夫」


「大丈夫くないよ? 痛いよ?」


「なに遊んでんだよ。行くぞおら」


 ますます呆れた明日香が私の肩に腕を回し、力任せに自分の方へ引き寄せた。明日香が近くて明日香を直に感じることができて凄く嬉しいけど、感じる油断したのか私と離れてしまったあまちゃんの氷のように冷たい視線。その口元は少し上がっている。


「明日香。邪魔しないで」


「残念だったな水野。私の方が仲良しだからしゃあねぇんだよ。てか、さみーから早くマクダナルズ行こうぜ。腹も減ったしな」


「大食女」


「まだまだ成長期だからな」


 明日香が進む。と、否応なく私も進む。すぐに空いた側に追いかけてきたあまちゃんがくっ付いて、私を挟んでやいのやいのとやり合っている。何があったか私は知らないけど、明日香はイブの日以来、こんなふうにあまちゃんに絡んでいくことが増えた気がする。

 それに対してあまちゃんの方は、口にする言葉はあまり変わらないけど以前に比べて物腰が柔らかくなったように思う。仲良くなっていく二人を見いてると嬉しくなる。


 そんな思いを抱きつつ、この二人のやり取りは確実に振りだと思ってどこかで聞いたことのある台詞を吐く。


「二人とも。私のために争っちゃだめ」


「ちげーよ」

「はあ?」


「えっ。なにっ? こわっ」


「馬鹿だな」

「馬鹿過ぎ」


「それはちょっと酷くないですかね?」


「ねーよ」

「ない」



 こうして私たちはきゃあきゃあと騒ぎながら、今度は団子のようにひと塊りになってマクダナルズまでの道を進んで行く。


「んだよ。歩きづれーな。しゃんとしろよ」

「シェイクシェイクんんーなんんんんんー」

「寒い寒い」


 もはや明日香が一番まとも。まるでしっかり者のお姉さんみたい。こんなことも今しか出来ない私たちの特権。度が過ぎれば止めるけど、そうでない限り私は今を大切に、この時間を大事に過ごしていく。このまま私の世界が完結すればいいけど決してそうはならないんだから尚更なの。


「いらっしゃいませー」


「シェイクシェイク」







 そうそう。マクダナルズではこんな感じだったよ。



「ほら椎名。シェイク。バニラでいいよな」


「やった。ありがとう明日香。だから好き」


「そうかよ」


「そうだよ」


「ちっ」


「あまちゃんどこ行くの?」





「はいこれシェイク。チョコのやつ。椎名にあげる」


「やった。ありがとうあまちゃん。けど私この一つでいいんだよね。チョコのはあんまり好きじゃないしお腹タプタプになっちゃうしさ。だからそれあまちゃんが自分で飲みなよって、痛っ。痛い痛い。痛いよあまちゃん」


「うるさいっ。このっ、このっ」


「痛いよ。痛いってば。明日香も呆れてないで止めてよっ」


「よくわかんねぇけど今のは椎名が悪いと思う。だから止めねー」


「えー。なんでよーって、痛い、あまちゃん痛いって。飲むよ、飲むからぁぁぁぁ」






 ん? なに? 楽しかったかって? うん、楽しかったよ。すっごくね。


 みんなにもこういう普通ながらも特別な時間があったでしょう?



お疲れ様でした。いつもありがとうございます。


書きたかったお話しまで中々辿り着けず、でも丁寧に書いていきたいというジレンマに陥っているここ最近、皆様におかれましては何か良いことありましたでしょうか? 私は雨のため週末のソロキャンプを断念することにしました。ひたすら焚火をするつもりだったのにっ。くっ。


読んでくれてありがとうございます。

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