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西条玲

誤字報告ありがとうございます。


軽いびえろ注意報が発令されましたので苦手な方はご注意くださいませ。


よろしくお願いします。

 


 夏の暑さがいまだ続く九月半ばのとある週末の夜、私は恋人の部屋にいて彼女に自分を合わせている。

 曲げた指を咥え、切なそうに眉を顰めて寄せる波を耐えようとする彼女のいつ見ても頼りなく美しい姿に庇護欲を唆られるその一方で、彼女がもう達したいと潤んだ瞳で訴えているのがわかっていても、少し意地悪したくなる気持ちも湧いてくる。


「玲っ、もうっ、お願、いっ」


「まだだめ。我慢して」


 もぉ、意地、悪っ。そんなふうに鼻にかかった甘えた吐息を漏らして私を睨み、私の腰を抱えて急かすように動かしてくるけど私はもう少し、恥じらいながらも欲望に忠実な彼女の姿を見ていたかった。それが愛ゆえの、彼女が私に惜しみなく晒け出してくれるもの内の一つ、私を充してくれるものの一つだから。


 そうして暫く時間をかけて存分に彼女を愛し、与えられて、これから来る大きな波で私も彼女ももう十分に満足できると思えた時、私がそれを与えて迎えるために一気にギアを上げるとそれは瞬時にやって来た。その準備はとっくの遠に整っていたのだから。


 体の内から押し寄せる大波を迎える悦びのせいだけでなく、日々感じさせられている抑圧から解放されたかのような大きな声をお互いに上げながら体を震わせたあと、それまでの互いに激しい動きはたった今迎えた大きな波を惜しむようにゆくっりとしたものに変わりやがて止まった。精も根も尽き果てた体を重ねたまま、はぁはぁと荒い息遣いをする私と彼女。その荒い息を吐く彼女の唇に一つキスをして、体の怠さと余韻に浸りながら息を整えるあいだに頭をもたげ、何とは無しに部屋を見回してみる。

 脱ぎ散らかされた服やことの最中に床に落ちてしまった夏用の薄い羽毛布団に汗やら何やらで湿ってしまった乱れに乱れたシーツと脱力感がパナい疲れ切った様子の彼女。また欲望をぶつけるように彼女を愛してしまったことに苦い笑いが出てくるけどこれが私の愛し方だから、嬉々として受け止めてくれる彼女により一層の愛しさを感じても申し訳なさを感じることはない。それが私だ。



「相変わらず激しかった」


「大丈夫か?」


「大丈夫。私は激しいのが好きってわかっているでしょう?」


「まぁ、な」


 貪った快楽の代償、その気怠さから復活しつつある彼女が私を抱く腕に力を込めてさっきのお返しとばかりにキスを返してくれた。


「好きよ、玲」


「私もだよ。真里さん」


「もぉ。真里、でしょ」


 ぷくっと膨れた真里さんの頬。この女性はまじ可愛いなと思いながら膨れた頬を軽く突くと、結ばれた薄い唇からぶーっと空気が抜ける音がして、それを二人でくすくす笑う。


「そうだった」


 真里さんは私がさん付けで呼ぶ度に、さん付けは私との歳の差を実感するから嫌だと言う。私より七歳上の自立した大人の女性でも、真里さんにはこうした可愛らしさがあるから、そんなことを気にすんなって私は思うけど、それを伝えたところで怜だって私の歳になればわかるよって返される。先月十九になった私は七年後の自分がどうだなんてイマイチピンとこないけど、二十五、もうすぐ六になる真里さんが言うんだからそういうものかとも思う。


「真里」


「なぁに怜?」


「好きだよ」


「うふふ」


 愛の言葉に微笑んで、真里かんが唇を僅かに尖らせる。それはキスをしてという合図。私は唇を寄せた。


「「ん」」


 そして私たちはまたキスをする。最初は浅くて徐々に深くなっていく。夢中になって思う存分好きなだけ。


 この部屋にいる限り、私たちがどう過ごしても誰にも何も思われないし言われない。思うがままに出来ない外での不自由さもここにはない。

 とは言え偉そうな世間が私たちにかける、気持ち悪いから消えろという無言の圧力からは屋根があっても壁があっても逃れることはできない。それは私の、そして奴らの心のうちにしっかり巣食っているから。

 そんなものに悩まされるのは癪に障るしムカつくけどそう思う奴にはそう思わせておけばいい。私が抱えるモノに気づいてイラついていた頃よりも、こうして真里さんと過ごすようになった今はそう思えるくらいの余裕ができたような気がする。愛は偉大だ。


 愛しの人とのキスを存分に味わったあと、唇を離し、おでこを付けて微笑みあっていれば、今夜のところは私はそれで満全に充たされる。またすり減ったらまた充してもらえばいい。好きな女性を愛し愛されるということはまじ凄ぇなと私は思う。




 私が初めて女性に恋をしたのは中一の頃。今思えば、小学生の頃にもいたかもしれないけどその子は仲のいい友人の域を超えていなかったように思う。


 中一の頃は私も普通の女の子だった。ケンカもしないし夜遊びもしないし、ましてやレディース、しかもその一番上なんて興味も無いしそもそもあり得ない話で、ただ好きな女の子がいただけの、どこにでも居る普通の可愛い女の子。だからその恋心について私は当然困惑もしたし悩みもした。弁える分別はちゃんと持っていた。


 そんな私が変わった、と言っても私は変わったつもりはないけど、今の道を歩き出したのは中二の夏の前。クラスが変わって何かの切っ掛けでイジメられ始めた好きな子の暗い顔や泣き顔を見るのが我慢できなくなって、イジメていたヤツら全員、男女を問わず一人ずつ念入りにボコってから。それには何が不満でそうなっちゃったのか知らないけど、気に入らなきゃやっちまえばいいんだよはははと笑っていた、その界隈で既に名を馳せていた兄の影響があったかも知れないし、それだけ暴れてもソイツらから全然報復が無かったのも兄の名の影響があったからかも知れない。


 とまぁ、それから私の周りには、私の意思に関係なく家に居場所のない子や親に問題がある子とかクラスで浮いている子なんかが次第に集まってきて、居場所のない子達をウチに呼んだり家に居たくない子の夜遊びに付き合っている内になんだかんだで今に至るって感じ。


 私が好きだった子はそのあと暫く私の側に居たけど、私たちに付いて行けずゆっくりと疎遠になって、私の恋心もゆっくり消えた。元々その子は真面目な子だったからそれがベストだとその時思ったしそれは今もそう思っている。

 ただなんて言うか、私は好きだった子の状況を変えたかっただけなのに私の状況も激変して思ってもいなかった人生を歩むってまじ不思議だよなとは思う。けど暴れたのも、居場所が欲しくて集まって来た子たちと連むのも私がしたくてしたことだから後悔なんてこれっぽっちも無いんだけど。


 それから二度目の恋をして、片思いのまま何もできずに過ごして三年、この恋心もその内に消さなきゃと思っていた私が真里さんと出逢ったのは今から一年くらい前の雨の日の夜遅く。



「んじゃなご、またな」


「またね玲。あちゃー、結構降ってるね。もう今日は泊まっていけば?」


「いや帰る。明日朝早ぇんだよ。まぁ、こんぐらいなら大丈夫だろ」


「気をつけてよ」


「誰に言ってんだよ。じゃあな」


「バイバイ」


 と、なごの家の玄関先でこんな会話をして、夕方から降り出していた強い雨の中を原付で帰る途中、私は間抜けにも曲がり角で濡れたマンホールでタイヤが滑ってコケてしまった。


「いてて」


 幸にして車通りも無く、コケた所に突っ込こまれることはなかった。取り敢えず立ち上がっ原付を起こし、それを押しながら道路の端へとぼとぼと歩く。ずざざと滑ってアスファルトには擦れた方の腕と脚が痛むけど、それよりもバイクの達人たるこの私が原付でコケてしまったことがショックで私はその場に座り込んでしまった。


「なんかすごい音したけど、貴女、大丈夫?」


 と、座り込む私に傘を翳しながら、腰を屈めて私を覗き込むように声をかけてくれたのが偶々その時間に帰宅途中だった真里さん。


「まあ、な」


「バイクで転んだんだ。頭とか打ってない? うわわ、腕、血が出てるよって、えっ、足もじゃないっ」


「いや、こんぐらいどうってことないよ。テキトーに休んだら帰るから。心配してくれてサンキューな」


 私はケガ慣れしているからこの程度なら大したこと無いのはわかっていた。私が茫然と座り込んでいるのはただただコケたショックでまじへこみしているだけ。だから、傷に触れないようペタペタと優しく触る真里さんの指を、傷だらけの私の指と違って綺麗だなんて場違いなことを思いながらそう答える。


「駄目でしょ。ウチに行こう」


 けど真里さんはただの強がりだと思ったらしく、ウチはすぐそこだから赤チン塗ってあげるとか言って、返事も聞かずに私の原付のハンドルを持ってスタンドを上げた。


「赤チン?」


 なんだそれ? と、聞いたことのない言葉につい、べつに平気だと言い張ることを脇に置いてしまった。


「知らない? ウチのお婆ちゃんが愛用してたんだけど」


「はあ? そんなん知るかよ」


「だよね。まぁ赤チンはもう買えないんだけどね」


「なんだよそれ」


「まぁまぁ」


 それじゃ行くよ。歩ける? じゃあ、ゆっくり行こうねって言われてまぁいいやってそのまま後をついて行って、赤チンを塗って貰ったのが始まり。





「わたし玲のこと好きよ」


「ぶっ。いいいいいきなりなんだよ」


「ふふふ。慌ててる。ごめんね。いきなりこんなこと言っちゃって。けど心配しないで。玲に好きな人がいるの、私はちゃんとわかっているから」


 あの夜、これは最後の一本なの。貴重なんだからね。そう言って赤い液体をコットンに付けては私の擦りむけた肌にとんとんやって治療、かどうかはともかく、そうしてくれたお礼を兼ねてご飯を食べたり飲み屋に行ったりして真里さんに触れていくうちに、私を馬鹿にしたり意見を押し付けることなく私の馬鹿な話や少し真面目な話を愉しげに、そして真面目に聞いてくれたその人柄に、一緒に居ることになんとも言えない居心地の良さを感じ始めた頃、会いたくなって真里さんの部屋に遊びに行った私に向かって突然そんなことを言い出した真里さんは少し寂しげに笑った。


「なに言って」

(なごみ)さん、でしょう?」


「なっ」


 そう。私はなごが好き、というかだった。

 同い年で、中三で出会ってすぐに一度タイマンしてから仲良くなって連んで馬鹿やって、なごに彼氏ができるまで私はなごが好きだった。今はもうきっぱりと諦めたけど私の中に今も想いが小さく燻っていることは確か。


 って、それよりも今はどうして真里さんが私が誰にも話していない秘密にしていることを知ったのか、そのことの方が大事。それに、私を好きってことは、それってつまり真里さんも…


「そうよ。私は女性が好き。私はそういう人間なの」


「まじかよ」


「まじよ」


「まじかよ。てことは私のことも…」


「まぁ。なんとなくは」


「てかなんでバレた」


「なんだろう。二人を見ていたらなんかピンときたの。玲は和さんを好きなんだって。玲と私は同じだって」


「まじかよ」


「なんて、本当はそうかもな、そうだったらいいなくらいな感じだったんだけどね。けど、やっぱりそうだったのね」


 今更取り繕って誤魔化すことも出来ないし、それなら隠しても意味がないし、何より私には出来なかったこと、勇気を持って私を好きだと伝えてくれた。違っていれば私になにを言われるのかもわからないのに。そこまでされてしまったらこちらも誠実に対応したくなる。

 それにこれはいい機会かもなと、これで私は一人で悩まずに済むなと思って、私は私が女性が好きなことを認めた。


「そうだよ」


「そっか」


 真里さんはほっとした顔をした。その時胸に手を当てて大きく息を吐いたのは相当緊張していたからで、凄く怖かったからなのだろうと思う。

 ああよかったと胸を撫で下ろしている真里さん。私はそんな思いまでして気持ちを伝えてくれた真里さんを愛おしいなと思った。




「だから」


「うん」


「そんでさ」


「うん」


 そしてそのあと、何か言いたいことがあったら話してごらんと言ってくれた真里さんに、私が抱えてきた胸の内をぶちまけるように聞いてもらった。


「で、なごのことは諦めたってかまぁ、それはなごを好きだと自覚した時からだけどな」


「そっか」


 それから大体一時間後の今、なぜか話している途中で涙が出てきて止まらなくなった私は真里さんの胸に抱かれてる。


「そんでさぁ、話変わるんだけど」


「うん」


「真里さん私のこと好きって言ってくれたじゃん」


「好きよ」


「ちょっ、ったく、照れんだろ」


「今は気にせず言えるからね。どんどんアピールしていかないと」


 私を抱く腕に力が篭る。少し苦しいけど真里さんにそうしてもらうと心のどっかが落ち着いて安心する。少しドキドキもする。なごはまだ私の中から完全に消えていないけど、そんなふうに思えるということや、普段一緒に居て感じる居心地の良さといい、私はいつの間にか真里さんを好きになっていることに気がついた。


「玲」


「ん?」


「ゆっくりでいいよ。焦らずゆっくり私を好きになってね」


「うぐ」


 いやなにこの包まれる感じ? この女性(ひと)の包容力まじすげーと、感動とか嬉しさとか今まで堪えて来た負の思いとか、そういう思いが色々とごちゃごちゃになってまた私は泣いた。初めて人前で、その人にしがみついて、子供のように声を上げて。

 他のことなら気にもせず堂々と、普段から笑い飛ばしてあっけらかんとしていても、抱えたモノに関しては、私は人並みに弱かったということ。そして、今優しく私を包む存在を離したくないという想いがドバドバと湧き上がる。心からそう思う。


 暫く泣いて、落ち着いたところで一度真里さんの胸から顔を上げて今思うことを伝えてみる。


「私も真里さんのこと、その、す、好きだよ」


「ふふふ。ありがとう。今はそれで十分よ」


「いや違うんだ。その、なぁ真里さん」


「ん?」


「わたし真里さんのこと好き」


 私を胸に抱いている真里さんの体がびっくってなった。緊張しているみたい。


「本当に?」


 小さな声でそう訊いてくる。真里さんの体にはまだ力が入っている。


「ああ。まじだ。私は真里さんが好きだよ」


「嬉しいよ。ありがとう玲」


 私を抱く腕に力が入って苦しいけれど気にしない。離さない。好きな人にそんなふうに抱かれたら誰だって嬉しいに決まっている。


「こっちこそありがとう真里さん」


「うん」


「それで真里さん、えと、その、わたし真里さんとキスしたいなー、なんて」


 普段の私からは想像もつかないような照れた言い方になってしまったのは情けないけど仕方ない。だって私はキスなんか一度もしたことないんだし。私だって乙女だし。


 その言葉に面食らったような顔でまじまじと私を覗き込んだ真里さんの顔がすぐに嬉しそうになったと思ったらすぐに嫌そうな顔になった。


「うーん。そうねぇ。とても嬉しい申し出だけど今は却下かなぁ」


「えー、なんでだよー」


「だって怜の顔、汚いんだもん」


「え?」


 鼻水とか鼻水とか鼻水とか。ぐちゃぐちゃだよ? って私を優しく抱いたままふふふと笑う真里さんの口が大きく開く。


「ぷぷっ。なにその間抜けな顔。怜ったら面白い。あはははは」


「あああ? うがぁー」


「いたっ」


「ふんっ」


 私は大笑いする真里さんを放り出し、今や勝手知ったる真里さんの部屋をどしどし歩いて洗面所に向かって、その扉を乱暴に閉めた。

 どしどし歩いて、乱暴に扉を閉めて怒っているアピールをしたのは綺麗になればキスをしてくれると思ったことの照れ隠し。

 けど、こうして洗面所に来てしまったから、たぶんていうか絶対真里さんにはバレているよなちくしょう恥ずいぜ、ったくとか思いながら。


「ふう」


 顔を洗って鏡に映る私を見る。というか視線は自ずと唇に向かう。私は一度それを指でなぞる。これから起こることを思うと凄くドキドキしてどうにかなりそう。


「ヤべぇな」


 私は一つ大きく息を吐いて、少しでも気持ちを落ち着けようとしたけど無駄だからさっさとそこをを出た。




「なんか緊張する」


「ね」


 抱き締め合って見つめ合って互いの頬に手で触れて唇を寄せ合う。

 キス。唇が触れ合った瞬間に蕩けてしまった。唇を何度か優しく触れ合って、最後に深くて長いキスをした。

 唇を離して見つめ合う。初めてのキスをした。私を優しく見つめるこの女性(ひと)と。そう思ったらまたまた涙が出てきた。


「かわいい」


「うっせ」


「ふふふ」


 真里さんがからかいながら私を優しく抱き締める。そうされて、私の体の内から湧き出る言葉にならない気持ちはなんだろう。凄くムズムズ、ほんわかする。


「ヤバいな。すげー幸せ」


「私もよ」


 そして私たちはまたキスをした。何度も何度も。




「落ち着いた?」


「言うなって」


「ごめんね。玲が可愛くって」


「いいけどよ。で、今日、泊まってってもいいか?」


「私は嬉しいけど、いいの?」


「…うん。そんで、その…」


「わかった。本当に嬉しいよ。玲」


 そして私はその夜、真里さんに優しくもあんなこととかそんなこともされて、私は晴れて大人の女性になった。なんか凄かった。いやまじで。





「ふっ」


「なに急に」


「いやなんでもない」


「そう」


 そんなこともあったよなぁと、嬉しくも恥ずかしい私と真里さんとの馴れ初めを思い出したのはプールで会った女の子のことがふと気になったから。妹ちゃん。

 あの子が明日香を見る目や態度からして、もしかするとあの子は明日香のことが好きなのかも。なんとなくだけど、あれは、真里さんが私に、私がなごに取っていた態度と同じに思える。


「いてててて。ちょっ、なんだよ」


「玲。貴女、私を抱いているくせに他の女のことを考えてるよね?」


「いや怖いって。なんでわかんだよ。まぁ、そうなんだけどさいてててて」


 そして私はぷんすか怒る真里さんをなんとか宥め、名前を伏せて、私のように悩んでいるかも知れない子がいるということを話した。


「そう。それで玲はどうしたいの?」


「わかんねぇ。殆ど関わり合いがないからなぁ。それに確信がないから軽々しく触れていいのかもわかんねぇし」


「そうね。触れてほしくない子も居るのは確かだわ」


「だよなぁ。だからまぁ、暫くは様子見かな」


「それがいいかもね」


「ああ。けどさ、もしかしたら真里に頼るかもしんねぇ。そん時はよろしく」


「わかった。いつでも言って」


「ああ」


 悩んでいたら辛いだろうけど今はこっちもどうしたらいいかよくわからない。だからこの話はこれで終わり。

 私は声のトーンを明るいものに変えて、楽しいお誘いをする。


「さてと。真里、そろそろシャワー浴びようぜ。今日は私が洗ってやるよ」


「えー。玲は洗うフリしてイタズラするからなぁ」


 それから続けて、嫌じゃないよ、嫌じゃないけどね、お風呂が長くなって指先がシワシワになるのはなぁなんて言いやがった。


「んだよもぉ」


「ふふふ。うそうそ。ほら、お風呂行こ」


 真里が素早くベッドから降りて急かすように私の手を引っ張った。見ればドキッとするような微笑みを浮かべている。


「隅々まで綺麗に洗ってね?」


「ぶふっ」


 繋がれた手をそのままに足取り軽くお風呂へ向かった。こんなことでも私たちは幸せだなと実感できて思わず笑い声が漏れてしまう。


「うへへ」


「なにそのやらしい顔。気持ち悪い」


「真里さぁ、顔が気持ち悪いとか言うんじゃねぇ、よっ」


「きゃ」


 私は少し乱暴に真里を引き寄せて、けれど優しく真里さんを抱いた。きゃ、なんて可愛い声を聞かせてくれて、そうして欲しいと言うまでもなく私の体に腕を回して抱き締めてくれる。そこにあるのは打算でもあざとさでもなく真里が私に抱く愛おしさ。

 それは当然のことのようでも、普通の人も私たちのような人間も関係なく、その存在は誰にとってもとても得難い存在だから、その当たり前を体現する存在がいてくれる私の顔がにやけてくるのは当たり前。


「ぐへへへへ」


「なに? やらし」



お疲れ様でございました。


このお話はもう少し後の予定でしたがいちゃいちゃするお話を入れたくて我慢できずにここで出してしまいました。そのため、タグにびえろを追加します。あと今更ながらシリアスもですね。


読んでくれて超ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 開幕から全開でしたね! いや、いきなりとは思わず! 玲さん、力になってくれるといいですね。 こういうことに限らず今は他人の声が聞こえやすい・見えやすい時代ですからいい意味で周りを気にせず生き…
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