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過去 第一話

続きです。


お知らせし忘れていましたが、本日は三話投稿になります。この話は二話目です。


よろしくお願いします。

 


「で、あるからしてー」


 古い校舎。四階にある教室の窓際、後ろから二番目の席が私の席。教師の大きな声を聴きながら私は外を眺めていた。


「要するにこの人物はー」


 ここは来年度、創立三十五年を迎える公立の高校。長い年月を経てすっかり緩くなって、やる事さえやっていればあまり厳しくしなという生徒の個性と自主性を重んじた校風のためか、この席から黒だけで無く茶色や金色が縦と横、等間隔に並んでいるのが見える。その景色が逆に、個性と言いつつ着崩した制服とか髪型とか、結局みんな同じような感じだなぁと私に思わせる。


 とは言え、強烈な個性、と言っていいのかよくわからないけど人に言えないモノを抱える私も髪は無個性。私の肩甲骨まで届かない真っ直ぐな髪の色は黒。まだ染めたことは無い。制服も普通に着ているし、モノのことを抜かせば私もみんなと同じ、どこにでもいる今時の女の子。


「ヨーロッパのー」


 教室は茶色くて金色で黒い。空は白くて青い。この教室のこの窓側の席から富士山の頭がほんの小さくだけど見える。見えると嬉しくなるのはなんでだろう。


「父と言われている訳だな」


 もうお昼を回って十三分。私は教壇に立つ教師の声をバックにグゥとお腹を鳴らしていた。

 おかしい。だって私は確か前の休み時間に斜め後ろの席に居るみっちーからクッキーを三枚貰って食べた筈。いや、もしかするとあれは夢だったのかも。


「ほい椎名。誰かわかるか」


「カール大帝です」


「正解。お前は聞いていないようでちゃんと聞いているんだな」


 ニヤッと笑う教師。バレているなと私は思った。


 それにしてもお腹減った、早く終わればいいのになぁ、なんてことを思っていたら四時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った。




「起立」


「礼」


 終わりの挨拶を終え俄然騒がしくなる教室。クラスメイトたちが一斉に話し始める声とかお弁当を食べるためにがががごごごと机を動かす子たちとか売店に行くためにダッシュで教室を出て行く子たち。

 その喧騒を耳にしながら私も今朝、通学途中にコンビニで買ったパンの入った袋と鞄から取り出したスマホとイヤホンを持った。


「椎名は? 今日もあっち?」


 私に声をかけたのはみっちー。お昼の時はいつものこと。


「うん」


「オッケー」


 遅れて奈美と千佳子もやって来て、机貸してちょんまげなーと私の後ろの男子に声をかけ、あっという間に日当たりの良い私の席の辺りを占拠した彼女たち三人と私はこのクラスになってすぐに仲よくなった友だち。


「じゃあね」


「おー」

「いってら」

「ばいばい」


 私はこの三人に手を振って無秩序に溜まるクラスメイトたちの間を縫うようにして教室を出た。




 偶にはひとりになりたい。そう思って私は一年生だった時から静かな場所でお昼を食べるようになった。週に二回暗くらいから始まって今ではほぼ毎日。もう習慣みたいなもの。

 これが私が教室を出る理由。そして私がそうなった理由が一応これ。たぶんこれ。


 占い。たまたま見たそれによると私の誕生日の色が何とかグリーンで、この色の人はみんなでわいわいやるのも好きだけど一人で居るのも好きな性格らしい。

 確かに私にはそういうところがある。けどそれは誰しもが当てはまるような気もする。けど深く考えずに置いておく。それについては当たっているんだから特に否定する必要がない。


 ちなみに私のお魚占いはクリオネ。クリオネって魚? って思うけどクリオネになっちゃったんだから仕方ない。さらに言えば、動物占いはペガサス。もはや存在しない架空の代物とか笑えてくる。


「ふふふ」




「お、椎名じゃん。今日さ、俺たちとカラオケ」

「無理」


 廊下を歩いていると顔見知りの男子に声を掛けられるたりする。

 何も感じなければ立ち止まって普通に話をするんだけど、今みたいに私に対して下心満載の興味とか好意を向けてくる人の時は、私は歩みを止めずに微笑みながらお断りしている。


 そうして静々歩いて目的の場所へと向かう。そこは一人になれる場所。けど、一人にはならない場所でもある。





 体育館をぐるりと取り囲むようにコンクリートで造られた通路を回ってやって来ました体育館裏。キョロキョロ辺りを窺って周りに誰もいないことに満足する。


「よかった。今日も平和だ」


 だってね、ここは、呼び出されただろう男子とか女子とかが偶にポツンと立っていたりするの。そうすると何となく気まずいって言うかなんかアレで、しかも私が呼び出したと勘違いされたりもするの。


 俺を呼び出して何の用? 告白? いやぁまいったなぁ、なんて言われたりしたことは一度や二度じゃない。

 最初は焦ったけど今は慣れたから、私は黙ってその人から離れた階段に移動して、とっととお昼を食べる用意をする。私にはお構いなくって感じでお弁当を広げてイヤホンを耳に突っ込んで。大抵はこれでなんとかなる。




「よいしょ」


 私はその通路に造られた三つある階段の内の一つ、高校の敷地で見れば端の端。校舎からは奥の奥に腰を下ろした。ここがいつもの私の場所。


 それから制服のポケットからスマホとイヤホンを取り出して、アプリを開いてお気に入りのプレイリストを選んでタップする。

 これで通りを走る車の音や、そのうち聞こえてくる筈の体育館を走る足音やボールの弾む音なんかもシャットダウンできる。今は完璧にひとりになれるというわけ。


「んーんーんーんん」


 耳から脳に曲が流れる。好きな曲は気分が上がっていい感じ。ひとりきりだからついつい口ずさんでリズムを刻んでしまうと言うもの。


 それからコンビニの袋をガサガサやって、ツナのサンドイッチとミルクフランス、ストレートティのペットポトルを取り出した。


「いただきます」



 足でリズムを取りながら、ツナサンドをもぐもぐしつつ見慣れた景色を意識する。

 目の前にはフェンス。その前には等間隔で木が植えられている。今は新芽が芽吹いてみんな小さな緑だけど、季節が進めばそれぞれの色に変わる。


「ふふ」


 なんとなく教室で見るクラスメイトの髪のことと似ているなぁとひとり笑う。

 その内の一本は枇杷の木。実がなったら今年は食べてみようと思っている。




 ミルクフランスの最後のひと口を口に放り込み、少し咀嚼してからストレイトティーでお腹に送る。

 これだけだと少し物足りないなぁと思ったけど、カロリー的には充分だから我慢をする。この後、ルックなチョコがあるから我慢するのは当然なんだけど。


「バナナはこれ」


 食べる前にシャッフルして何が何かわからなくしたチョコを口にしながらスマホに目をやって時間を確かめる。

 今日はいつもより少しだけひとりの時間が長い。きっと、二人とも誰かに捕まったとか買い物に出たとかそういうことなんだろう。



読んでくれてありがとうございます。

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