水野 馨 あまちゃん
続きです。
長めです。
よろしくお願いします。
「ただいま」
私の声に返事は無いのはいつものこと。言うのは単に幼い頃からの習慣なだけだから、私は特に気にすることもなく閉めた扉に鍵を掛けて二歩進み、バリアフリーになっている框の手前でローファーを揃えるように脱いで、目の前にあるなんの特徴もない私の家中サンダルに片足ずつ順に突っ込んだ。
家族はまだ誰も帰っていない家。その人気の無い静かな空間にサンダルが立てるペタペタという足音がやけに響く。
独りきり、といものはこういう時により強く意識するものだと思う。今しがた私のただいまの声もそう。応えられることもなく消えていく音。その後の静寂が私は独りだと強く意識させる。
私はとっくに慣れたから独りで居ることを特に気にもしないけれど、孤独をひしと感じるかどうかはまた別で、いくら慣れたと思っていても今日は情緒が安定していない自覚がある分余計に独りを感じている。とは言え今まで生きてきてそんな日はいくらでもあったからそれももう慣れたもの。暫く落ちていればやがて消えてくれるから問題は無い。
そんなダウナー感を抱えつつ、ペタペタ歩いて廊下の先の洗面所で手を洗って自分の部屋に入り、この飾り気の無い空間を突っ切るように対角線に歩きながら、持っていた鞄をスルッと床に落として制服のまま部屋の端っこのベッドにダイブ。そのまま弾みが収まるのを待ってから、うつ伏せていた体を仰向けにして目を閉じながら顔を隠すように左腕を置いた。
「ふーっ」
と大きく息を吐いたあと、もう一度、今度は小さなため息をはぁと吐く。そうやって落ちてしまった、精神的に疲れているのか落ち込んでいるのか叫びたいのかそれとも少し泣きたいのか、このなんとも言えない気分と揺らぐ情緒のせいで湧いてくる苦しい胸のモヤモヤを落ち着かせる。
「うう」
少しすると私の目にじわりと涙が浮かんできた。どうやら私は少し泣きたかったらしい。
「疲れた」
私が属する集団の多くが私と違う感覚や感性の持ち主のだった場合、そこで自分を持ち続ける、保ち続ける、居続ける、ということは大きなストレスを感じるもの。たとえ私がそのことをあまり気にもせずその集団の中で過ごしていても、知らずのうちに心は疲労してしまうもの。私の気持ちが落ちてしまった理由はこれ。
私は私を見放さないし私が私を守ってやらないといけない。だから私がこうして人知れず弱さを出したり溜まったストレスを吐き出したりするといった私自身へのケアが私には必要かつ重要なこと。
私に驕っているつもりはないけれど、私の過去の経験が、今の私が属する集団に居る子たちの殆どを、どうせお前らも同じ、幼稚で稚拙、くだらないものだ、と思わせる。
私のストレスの理由の大元はこれ。私は幼稚な存在が心の底から大嫌い。
そんな話をした時、椎名はたまに、貴女はいつ悟りを開いたの? と思わせるくらい精神的に大人だから、私を考えを批判したり否定たりしなかった。私にも嫌いなものはあるよ。けどものってあまちゃん、もはや人ですらないんだねはははと、怒るでもなく呆れるでもなく憐れむでもなく理解するでもなくただ笑ってそう言っていた。私はその対応をとても有り難く思った。
「じゃあ私は人? それとももの?」
「椎名は人」
そして、椎名は普段から察しもいいくせに、こういうことには酷く鈍感なのかもと私が椎名を疑い始めたのはこの時から。
「そっかぁ。よかったぁ」
「私は椎名のこと好きだから」
「私もあまちゃんのこと好きだよ。 あれ? あまちゃんなんで急にそっぽ向くの? おーい。あまちゃーん」
「ううるさい。ほっといて」
私は背の高いパパとモデルのような顔と体つきを持つクォーターのママの間に生まれた八分の一。ここまで来るとハーフ、クォーターと言った呼び方はないらしいけれど、呼び名がなくても私はそれ。そのお陰様で私の容姿は人並み以上に綺麗に生まれついたと思う。この亜麻色の髪もそう。これについては感謝こそすれ不満なんてあるわけない。
幼い頃は良かったと思う。毎日を無邪気に笑ってぐずって甘えて食べて眠ってまた起きる。その日々の繰り返しの中で見るもの触れるもの知るもの全てが新鮮で、疑うことをしない新しい発見がたくさんあって楽しいだけの毎日だった。もちろん、成長した今でも日々の新しい発見はそれなりにある。けれど、大抵のことは感動することもなく、へーそうなんだ、で終わってしまう。楽しいことなんかそうそう見つけられない。あったとしても気づけない。
今の私はこんな人間だから、端から見れば私のことはいつもスカして無感動でつまらない人間のように見えていると思う。それは本当のことだから、私が思う大切な人たち以外にどう思われていようとどうなろうと気にもしないけれど。
なんだよお前の髪の色。変なのー。外人だー、ニホンゴ、ワカリマスカ? と言われた小学生時代。そのたった一人の言葉で始まったいじめのような何か。からかわれたり引っ張られたり少しずつエスカレートしていく行為。
大丈夫。そのうち飽きて終わる筈。私はそう思って、早く終わりますようにと神様に願い、それまで大人しくして殻に籠って嵐をやり過ごそうとしたけれど、残念ながらそれはいつまでも終わらなかった。
だから、本当はとても嫌だったけれど、私は鏡の前に立って自分で亜麻色の髪を短く切った。私は幼心に、原因を隠せば大丈夫だろうと考えたってわけ。
最初は恐る恐る、とにかく短くしなくっちゃと途中からジョキジョキと。
そうして不器用にやり遂げて鏡を覗くと、鏡の中の無惨な髪をした私はぼろぼろと涙を溢していた。洗面台や床に散らばる亜麻色の髪たち。私は好きだった髪を失って、心のどこかの一部も一緒に失ったのだと思う。
そして次の日から、私は髪が見えないように帽子をかぶって学校に行った。次の日もまたその次の日もその次の日も。誰にも見せないよう、帽子をかぶって好きだった亜麻色の髪を隠して。
そんな私の変わりようにパパとママは驚いてとても心配していた。
心配かけてごめんなさい。けれどこれでもう大丈夫だから心配しないでね。
そう思ったけれど全然駄目だった。結局何も変わらないから私は帽子をかぶったまま殻に篭った。したことに、願ったことに意味など無かった。神様は居ないと私は知った。
それでも私には一人だけ何も変わらなかった友だちがいて、彼女が私を庇うように傍にいるときは私が何かをされることはなかった。
彼女はとても明るくて優しく可愛くて、私はそんな状況にも関わらず彼女を好きになっていた。当時は訳がわからなかったけれど、寧ろそんな状況だからこそ、彼女の存在を特別なものにと、彼女に恋をするということに無意識にでも救いを求めたのかも知れなかったと今は思う。当然、その気持ちをどうすることも出来なかったけれど私が彼女の存在に救われていたことは確かなことだった。
けれど、彼女はまるで人生の物語りのお約束のように突然に居なくなってしまった。
あの日私は、けいちゃんごめんねもう傍に居られない、わたしお引越しするんだと泣いて謝ってくれた彼女にしがみついて、彼女を迎えに来た親に連れられて私の前から消えてしまうまで、居なくなっちゃいやだよいやだよ行かないでと泣いていた。
それは、彼女が居なくなってしまったらまたいじめられてしまうという恐怖心からではなくて、大好きな彼女とのお別れが本当に悲しかったから。もう会えないだろうと、これが永遠のお別れなんだと、そんな予感がしていたからだ。
予感は当たった。その後、彼女と二、三通の手紙をやり取りしたけれどそれもいつの間にか無くなった。今彼女がどうしているのか私は知らない。知ろうと思えば知ることは出来るかも知れないけれど今の私にそれをする気持ちは無い。彼女は思い出。つまり、その引越しが私と彼女の永遠のお別れになったということ。
そしてまた始まったいじめのような何か。私はまたまた帽子をかぶって殻に閉じ篭り、殻はどんどん分厚く頑丈になっていった。
ちょっと綺麗だからって調子に乗らないでくれる? と言われた中学生時代。何々君はあんたのことなんか好きじゃないんだからねとか、男に色目を使うなとか、私の彼となに仲良くしてんのウザいんだけどなんて言われたり。
私は何もしていない。朝、学校に行って机に座って授業を受けて、時間になったら帰っていただけ。私が自分から話しかけることは一度もなく、話しかけられたから返事をしただけ。
「水野今日も来てるんだ」
「来なくていいのに」
「あいつ、小学生の時いじめられてたんだって」
「ウチらもやる?」
そんな言葉を流して過ごしていたけれど、やはり溜まっていた私のストレス、イライラがついに頂点に達してしまった。もう終わりにする。私は殻に籠ることを止めて思い切り反撃してやることにした。
「水野の奴今日も居る、なっ、ななんだよ、うわっ、ぐっ、ふざけんっ、いたっ、やめっ、あっ、うっ、ぐっ、ふぐっ、もうやっ、めてっ、ごめっ んなっさいっ、あっ、うっ、ごめんっ、なさいっ、もうっ、やめてっ」
その群れのトップただ一人だけを狙い撃つ。やめてと言われようがソイツの仲間に止められようが腕を押さえられようが叩かれようが関係なく何度も何度もひたすらに。
その日、これを繰り返すこと三、四回。狙うべき群れは他にも居たけれど、手っ取り早く同じクラスの一番近い群れのみを狙った。休み時間になる度に群れのトップに突っかかっていった私を見ていた他の群のヤツらも私に何も言わなくなった。
当然そのことは問題になって、その日のうちに職員室に呼ばれて事情を聴かれたり、後日パパとママの呼び出しともかあったけれど、知っていたくせに事情を聴くとかまじ笑える、私が受けたいじめについて出るところに出る、そのための証拠も色々あると言えば学校からの追及は終わり。生徒同士のちょっとした揉め事で処理された。彼らは保身することに懸けては頗る長けているからそうなることはわかっていた。
これで全て終わり。何年も耐えていたことが本当に馬鹿らしくなるくらい簡単に終わった。
まぁそれ以来、私のクラスには、私に対して腫物に触るような空気と変な緊張感が漂っていて雰囲気は最悪だったけれど私は奪い返した心の平和を満喫していた。陰で何を言われていたかも知れないけれど私の耳に届かなければどうでもいいことだった。私は私を守ってあげただけ。それの何が悪いと私は思っていた。それは今もそう。
こうして私はお世話になった帽子を捨ててようやく自分を取り戻した。それと同時に、自分やみんなと違うからという理由で、ただ気に入らないからという理由で、それに同調する者を増やしてたった一人を攻撃するという至極くだらないことに労力を費やす同年代の幼稚なガキ共に完全に興味を無くした。
けれど平和とは儚いもの。やはり維持することは難しいみたい。
高校生になった今、私は取り戻した私らしくただ街を歩いているだけなのに、かわいいねー、俺らとあそぼうぜー、って絡まれる。そういう輩は相手にすると調子に乗ってしつこいし、無視をすればキレられることもある。行くてを遮られたり囲まれたり腕を掴まれたり。私からすればそんなのは犯罪。今すぐ法律を整備して取り締まりやがれと思う。
私が私らしくいることで何故いつもいつもこうしたことが起こるのか全然まったくこれっぽっちも理解出来ない。私は誰かに迷惑をかけていない。私らしくは誰かに迷惑をかけでも許される免罪符ではないことくらい私はちゃんとわかっている。なのになんで。
「ちくしょう」
私がおかしいのかと思うこともあったけれどそれは違う。どうやららしくいるには何かしらの犠牲を払うということらしかった。
私の思う私らしくは私の自然体、歩く姿勢とか立つ姿とか、感じるままに笑ったり泣いたり怒ったりとか、行きたい場所へ行ったり食べたいものを食べたりするといった、誰もがやっているただ普通に過ごすという意味だから、もの凄く納得できないけれど払えと言うなら払うしかない。何れにしても私は取り戻した自分を二度と手離すつもりはない。意地でもだ。
あまちゃんは敵が多そう。我を通すってそういうことだもんね。あんまり気にしてないと思うけど大丈夫? 私はあまちゃん味方だから何かあったら言ってね、明日香に告げ口してわからせてもらうから、と椎名は言っていたっけ。
ま、明日香のところは冗談だろうけど。
「本当に味方でいてくれる?」
「当然。だってあまちゃんにはいいところいっぱいあるってわたし知ってるからね」
「ふーん。例えばどんなところ?」
「えっと、自分を持っているところ。意見を絶対に曲げない、というかそもそも聞く気がないところ。それから周りで何かあっても振り回されないとか動じないとか気にも留めないとか、我が道を行くみたいなところ、かなぁ」
「なに? つまり独善的とでも言いたわけ?」
「少し違うけどまあそんな、いたっ」
「むかつく」
「まぁまぁそう怒らないでよ。他の人がとう思うかなんて知らないけど私はそういうの、かっこいいと思ってるんだから」
「ふんっ」
「いいから聞いてて。私はそんなこと出来ないから凄いなって思うんだよね。だって自分を曲げないって大事なことだけど、そのせいで損することもあるだろうし、とやかく言われることもあると思うから、それをやり続けるのって実際凄く大変でしょう?」
「それはまぁ」
「行動の結果と責任が全部自己完結で、絶対に誰かのせいに出来ないなんて私には無理。実際にするかわからないけど誰かのせいにするのって楽だし私はいざと言う時の逃げ道が欲しいから」
「そうなんだ」
「うん。だから私はあまちゃんのこと凄いと思うし尊敬してるしかっこいいって思う。それにあまちゃん私には優しいし。だから私は好きだよあまちゃんのこと。たはは」
「あ、ありがとう」
「でもねあまちゃん。それが辛くなって耐えられなくなったらさ、あまちゃんの中の何かが壊れちゃう前に違う生き方をしてもいいと私は思うよ。少しづつでも柔らかくなるように。だってあまちゃん、たまに張り詰めているように見える時があるからさ。あ、ごめん。私ちょっと説教臭かったよね。ごめんね」
「それはいいけど、けどそうすると椎名の尊敬してくれる私がいなくなっちゃう」
「どんなあまちゃんでもあまちゃんはあまちゃんでしょう? 別のところがまたすぐに見つかるよ。私たちはそう言えるくらいの付き合いはあると思うけどなぁ」
「そっか」
この私をそんなふうに言ってくれる。私はこの子のことが好き。これは二度目の恋。
きっかけは入学式の日。どうせ遅刻だからもういいやと思って校内をゆっくり歩いてトイレに行って鏡の前で私が私であることを確認した。それからトイレを出たところに椎名が通りかかった。
「教室どこよぉ」
泣きそうな顔をして、どこだかわかんないよぉ、って焦っていた椎名が遠い昔の記憶の彼女に似ていると思った。フラッシュバック。それで声をかけた。それだけのこと。
話してみるとやはり顔も声も姿形も私に残る彼女の面影や、成長したらこうなるだろうなと想像した姿とはまるで違っていた。名前からして違うのだから当たり前。
そんな椎名は私の髪の色を見て、亜麻色って何色だろうって思うよねと、訳のわからないことを言いながら私をあまちゃんと呼び始めた。そんな椎名と話をしながら、どうせこの子も同じくだらないものだと思っていた時期が私にもあった。
けれど違った。椎名は全方位に構うなオーラを出していた筈の私の気持ちに構うことなくあまちゃん今日さー、あまちゃん一緒にやるよー、パン買って来たお昼食べよーなんて言って、私が断りを入れる隙を与えず街に出たり作業をしたり向かいに座って食べ始めたりぐいぐい来て、気付いたら毎日ある程度の時間一緒にいる椎名。そこに明日香が加わるともう大変。カオスな時間の始まり。けれど不思議と居心地は全然悪くなかった。
最初は鬱陶しいと思っていたけれど来てくれたと今なら言える。それがなかったら、椎名が私を構うことを諦めていたら私は今の私ではなかった筈だから。
「毎日まとわりついて鬱陶しかった」
「ぶー。酷いなぁ。あまちゃんそんなふうに思ってだんだ」
「今は椎名のことが好き」
「そっか。けど私は最初の頃から好きだけどねー」
椎名の存在を許してしまえばあとは、ゆっくりじわじわと椎名に染められていくだけだった。
あまちゃんと呼ばれる声に自然と口角が上がり、何かする仕草に目を奪われて姿を追って、優しい微笑を向けられでもしたら心臓がうるさくなってもう無理だった。
惚れてしまえば私は椎名の全てに抵抗出来なかった。片思いは辛く苦しいけれど今はそれでいい。
私は同性愛者。レズビアン。女性を愛する女性。女性を愛し愛されたい女性。
一度ならまだしももう二度目。自分自身を疑うことはもうやめている。
私は知っている。椎名が明日香を好きなことを。私は椎名を、その言動と仕草を、目線や表情を、恋をしてからずっとその目を通して見てきたからわかる。あれは恋をしている女性の顔。私が意図せず椎名に向けている筈の顔。
椎名は私と同じ。同性愛者。ビアン。たぶんそう。
けれど、椎名にとっては残酷な、私にとっては幸運にも、明日香はヘテロ、異性愛者だから、どれだけ明日香を好きだったとしても椎名にはいずれ必ず辛い結果が訪れてしまう。ビアンとヘテロの違いがそうさせる。それを思い知らされる。その時が来れば、椎名は深い悲しみに呑まれて溺れてしまうかも。
でもそれは私たちが恋をすれば誰もが一度は通る道だと私は思うから、それについて私がどうこうすることはない。そもそもできることがない。打ちひしがれて泣いてしまうかも知れない椎名がとても心配だけれど、椎名と明日香の違いも含めて椎名自身が立ち直って前に進むしかないのだから。
まぁ、椎名は弁えていると言うか達観していると言うか私から見ても妙に大人びている時があるしとても賢いから、好きになったときからから叶わない恋だと理解していそうな気がする。
私は椎名の恋にケリが着くまで椎名を待つことに決めている。椎名の恋を応援はしない。気分的には全く面白くないしそもそも意味が無いことだから。私はただ静かに密やかに、その恋の終わりまでを見届けるつもり。
けれどそれはあくまでつもりだから、その間も多少のアピールはするつもり。
ただね、私は今までもそうしてきたけれど、椎名は鈍感なのか私がタイプじゃないのか自分の恋で精一杯なのかなんなのか全然気付いてくれなくて、イライラするしむかつくし悔しいしなんだか凄くモヤモヤする。
「鈍感。気づけ。ばか椎名」
「ん…」
どれ程の時間が過ぎたのだろう、窓の外はもう暗い。扉の向こうでママが私を呼ぶ声がする。ママ以外にもパパと姉の声、テレビの音もほんの微かに漏れ聴こえてくるすっかり騒がしくなった水野家。独りはどこかに消え去って私の傍にはもう居ない。私の気分はフラットになっている。
なら、私はもう大丈夫。今日のところは。
「んーっ」
私は伸びをひとつして、少し気怠い体を起こしてベッドを降りた。
「いま行くー」
読んでくれて超ありがとうございます。