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クラウス・ポルト
とにかく恐ろしいこの男
ゆるゆるふわふわな金髪の可愛い美少年
この世界では16で成人を迎える
成人と称するにはあまりにも
幼気な見目の青年…………それは仮の姿で
実際は……狙った獲物はかならず
地獄のどん底まで追い詰める
極悪非道な鬼畜ヤンデレ騎士
可愛いからと騙されてはいけない……
聖女様の陰口を叩くメイドさんが
存在しようものなら地獄の果まで
追い詰めた挙げ句、呆気なく殺されてしまう
聖女様に手を出したゴロツキも
クラウスによって見るも無惨な姿で
遺体として見つかったとか…………
「姫君……大丈夫ですか?
どこか顔色が悪いようですが…………」
心配したようにクラウスが
私の頬に触れようとする……が
「ひっ!?」
あからさまなほど咄嗟に身を引いてしまった
これじゃ「あなたを怖がってます」って
言ってるようなものだ……
な、なにか言い訳をしなければ………
「き、き騎士たる者!
女性に無闇に触れるものではないかと……
思いますよ…………ほほっ」
「………………
これは、失礼いたしました」
殺気に近いなにかを向けられたような気がしたが
すぐに先程の変わらぬ笑顔のクラウス
うん、極力関わらないようにしよう
私の命のためにも
「さっそくですがお嬢様、
湯船のご用意をさせていただきましたので
どうぞこちらへ」
そうだ、昨日は薄汚い牢屋にブチ込まれて
精神も見た目もボロボロだ
汗もかいたし……はっきり言って気持ちが悪い
ティアラのお言葉に甘えてしまおう……
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
ティアラになされるがまま……
私は隣の部屋へ招かれ服をぬ…………
「ちょっ、ちょっとまって!!
自分で脱げるから!! メイアさんも体を洗う
準備なんてしなくていいですから!!」
自分が身にまとっている
制服を慣れた手付きで脱がせようとする
ティアラさんと……
ここにお座りください……と言わんばかりに
椅子を置いて石鹸が泡立ったタオルを片手に
待機するメイアさん
いや、うん、ほんとに…………
「洗ってもらうほどの身分でもないですし
一人でできますから!!」
人に体を流してもらうとか恥ずかしすぎて死ねる……
二人にまったく非はなくて
申し訳ないけど私は二人の背中を押して
無理に出ていってもらった
「ふぅ〜」
服を脱ぎ捨て
私はやっとのことで一息をつく
「おでになる際はそこのベルを
鳴らしてお呼びください!!」
「わぁひぃーっ!? わかりましたぁ!!」
はぁ、びっくりした
いきなり入ってくるのもやめてほしい
心臓に悪いから!!
お風呂に入るだけでドッと疲れが……
体を流し終え、湯船にゆっくりと
浸かり……無になった私は考えた…………
私はなぜここにいるのだろうか?
なにか理由があるのだろうか?
そしてなにか帰る方法はあるのだろうか?
バナナが原因ならバナナで………と
思ったがこの世界にもバナナは存在
するのだろうか?
まぁ考えても仕方ない
「はぁ…………出よう」
えぇ〜………っと
ベルを鳴らせばいいんだっけ?
裸を見られるのはちょっと抵抗が
あったのでふかふかでいい匂いのバスタオルを
体に巻き付けベルを鳴らした
すると部屋に入って来るや否や……衣装がズラリと
私の前に並べられる……え? なにこれ?
仮装パーティーでもやるの?
「こちらからお好きなお召し物を
お選びください」
「あ、じゃあ……これで」
どれもコテコテキラキラしてて
眩しかったので取り敢えず動きやすそうで
無難なドレスを選ぶ
ドレスなんて一生着ることなんて
ないと思っていたよ
それからと言うもの…………
メイドさん達に髪を乾かされ
オイルを塗りたくられ……とことんと
お世話をされてしまった
「では朝食の準備をして参りますので
もうしばらくお待ち下さい」
そう言ってメイドさん達は
朝食の準備と……部屋を出ていってしまった
「…………」
「…………」
待ってメイドさん達!!
ヤンデレ騎士を置いて行かないでぇ!!!
警戒しながらもチラッと騎士に視線を
移せば心がこもっていない笑顔が返ってきた
あぁ、怖いなぁ
でも大丈夫……私が聖女様に危害を加えるような
ことさえなければ…………命の危機はないはず
「ねぇ、姫君」
「ひゃい!?」
扉の近くで壁にもたれたまま
私に声を投げかけるクラウス騎士さん
「姫君は…………聖女様の……なに?」
私の心臓を射るような赤い目……
私、試されてる?
聖女様にとって害悪かどうか
「なに……と言われましても…………
昨日あったばかりで、同じ世界から来た
聖女様と同じ異世界人…………としか」
「ふ〜ん、そう」
なんだか先程よりも
私に対しての話し方が砕けているような……なぜ?
別に構わないけど
「…………なにか?」
ぼーっとしてたからか
不信に思ったのか不満げに私に問いかけられた
人の顔をじっと見るのは失礼だった
かもしれない………とちょっと反省
「いや………なんていうかキレイだったから」
「?? 何がです?」
「騎士様の目が………リンゴ飴みたいで……」
「…………!」
赤い目なんて見たことがない……って
当たり前なんだけど
なんだか新鮮すぎて魅入ってしまった
この世界では当たり前かもしれないが
「あ、リンゴ飴っていうのは
私や聖女様の世界で祭り事で食べたりする……
果物を飴でコーティングした
ガラス細工みたいな食べ物なんですけど」
いや、何いってんだ私
いきなりクサイ台詞をペラペラと……
おそらく私の命の危機感が口を
開かせているのだろう
あぁぁぁ~早く戻ってきてよメイドさん
いつか「私に触ると火傷するわよ」なんて
台詞を言ってしまいそうな私を
早く誰か止めてほしい