2−2
「あなた……日本から来たんでしょう?」
はいぃ!?
聖女様は警備兵から鍵を受け取り
牢屋の鍵穴に差し込む
なぜ聖女様がこちらに?
「話はアルト様から聞いたわ
私のような洋装をした少女を
森で保護した……って」
保護…………って言うか……幽閉ですけど
アルトことアーノルド第一王子……
森で剣を突きつけてきた物騒な金髪碧眼の………
小説「恋する聖女様」の男主人公
「取り敢えず、ありがとう……ございます」
絶対絶命のピンチを救って
くださった聖女様に心の底から感謝をのべる
「酷い人よね、なんの罪もない女の子を
こんな所に閉じ込めるなんて」
そうだそうだ!と私が共感の声をあげれば
どこぞで王子の耳に入り牢獄へ逆戻りになる
やもしれぬので取り敢えず黙っておくことにした
ぷんぷんっと怒り方まで
愛らしい聖女様…………あぁ、癒やされる
「アルト様には
あなたも私と同じ世界から来た
って説明しておいたから安心してね」
同じ世界……と言っても聖女様は
小説の中のヒロインで私は現実の中の
ゲゲゲの女子なんだけどね
聖女様は私を気遣いながらも
優しく手を引いてそのまま地下牢を出た。
誰かの寝室であろう扉の前まで案内してくれる
心優しい聖女様
聖女様見守り隊ファンクラブがあったら
絶対に入会したいところだ
「えっと………ここは?」
「あなたの部屋よ
私の専属執事、セバスチャンさんに頼んで
用意してもらったの」
セバスチャンさん……とは
先程から貴方様の後ろにいらっしゃる
ちょび髭がダンディな年季の入った
じーや的執事様のことでしょうか?
「ど、どうも」
私はお礼も兼ねて顔を後ろに向け
ペコリと小さく頭を下げると
執事さんも義務的な挨拶を返してくれた……
「今日はもう遅いしゆっくり休んでね
お話は明日にしましょう」
聖女様は優しく私に笑いかけ、くるりと
元来た道を歩き始める
そういえば……原作はどこまで
進んでいるのだろうか?
私の登場はまったくの規格外なはず…………
シナリオが狂ったりしないかが
ちょっと心配でならない
「あ、聖女様は!
…………聖女様は……いつからここに?」
引き止めるのに思わず声が上ずってしまった
「10日前……この世界に呼び出されたの……
聖女様として、でもアルト様も慰めて
くださって……クラウス様やマーク様も
私に期待してくれてるから頑張らなくちゃ……って」
うん、聖女様がおモテになるのは
わかるけど…………もうすでに3人もの
男を虜にしてしまったとは……さすが聖女様
私は遠くから望遠鏡を片手に恋愛イベントを
傍観したい……聖女様ファンクラブ隊員として!!
「おやすみなさい、杏子ちゃん」
「お、おやすみなさい……聖女様」
黒髪黒目の私と同じ特徴を持った聖女様
きらびやかで艶のある髪をなびかせながら
執事様を後ろにはびらせ颯爽と去っていった
なんて神々しい後ろ姿なんだ
思わず見とれて、目を奪われてしまった
「と、取り敢えず部屋に入ろう」
部屋はまるで……ファンタジー小説の
お姫様が眠っているような豪華でふかふかな
ベッド、シャンデリア、一部屋分ほどの
広々としたトイレ
驚くことはいろいろあったけど…………
いろいろありすぎて自分が思っているほどに
疲れてしまっていたのか……
私は気絶するように眠ってしまった。
「うぅ……眩しい」
あさ、カーテンから差し込める陽の光と
鳥の鳴き声が私の耳に届いた
「きゃああーーーっ!!」
「ふがっ!?」
な、何事!?
誰かのつんざく悲鳴と共に飛び起きた私な頭と体
そこにはメイドさんらしき二人と
その後ろにはイケメンの……護衛騎士?
「ど、どうも〜」
メイドさんが驚くのも無理はない
なぜなら私はベッドではなく、
地面に敷かれていたふかふかの絨毯で
気絶するように眠っていたのだから
そして寝相の悪さからか髪も爆発しほうだい
前に母から聞いた話……私はたまに
白目を向いて寝ていることがあるとかないとか……
大方、メイドさんからは
いたいけな少女の遺体に見えたのだろう
私が起き上がって挨拶を返すと心底安堵していた
「お嬢様! 就寝でしたら
どうかベッドでお休みください
我々、心の臓が止まる思いで…………」
今にも泣き出しそうな可愛らしいメイドさんに
すっごく申し訳ない気持ちになってしまった
だってこんな豪華なベッドで
眠ってしまったら罰が当たりそうで……
「す、すみません……でした……
ところで、もう一度お嬢様と呼んでもらっても?」
お嬢様……なんていい響きなんだ
「本日よりお嬢様にお仕えさせていただきます
侍女のティアラと申します
こちらは同じく侍女のメイアです」
赤髪を三つ編みで肩にたらし
キュルンとした目がかわいらしいティアラさん
薄緑色のロングヘアで前髪パッツンが
印象的な目がつり上がった姉御タイプのメイアさん
そして…………
「はじめまして、本日より護衛させて
いただくことになった護衛騎士二番隊隊員
クラウス・ポルトと申します
以後、お見知り置きを」
クラウスさんはお辞儀をして
にっこりと花が咲いたような成人男性
らしからぬ可愛らしい笑顔を見せた
金髪ゆるふわ髪の可愛らしい笑顔
クラウス・ポルト? どっかで
聞いたことがあるような…………?
「はっ!?」
突如として私の頭に雷が降り注いた
ような衝撃が走った
クラウスといえば、恋する聖女様……に登場する
聖女様を溺愛する
悪役令嬢を刺殺したヤンデレ騎士
クラウス・ポルト!!??