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と…………言うわけで
私は見知らぬ土地で絶賛迷子中なのである
中世のヨーロッパのような
服装の人達と風景
もしやこれは………今流行りの異世界転生
というやつなのではないだろうか?
王道のテンプレによると……死んだ主人公が
悪役令嬢、ヒロイン、脇役のどれかに転生
して複数のイケメンにキュンキュン取り合い溺愛
されてしまう……という
世の女子がなんとも羨む展開に…………
そうと決まれば今すぐに自分の
姿を確認したい!
「鏡……鏡…………」
って運良くこんな所に鏡なんて
置いてるわけないか………この際
窓ガラスでもいい!!
私はすぐさま近くのアンティークな
お店の窓ガラスに張り付く
通りすがる人々の視線が痛いが
気にしてる場合ではない
窓ガラスに両手をついて
ガラス越しに映る自分の姿をまじまじと
隅から隅まで凝視する………
「……………………
何も変わってないじゃんっ!!!!」
思わず手に持っていたスクールカバンを
地面へぶちまけてしまった
って、スクール……カバン…………
「うそぉ!?私のマイバッグ!?」
その存在愛しさ故とっさにカバンを抱きしめた
筆記用具に……ノート……ハンカチ
その他もろもろがカバンに入っていた。
窓ガラスには見慣れた
私自身の姿が映り込んでいた
日本人特有の黒髪黒目
肩まで伸ばした髪とハネ気味な前髪
美しくもなんともない変わり映えしない
平凡な私の顔だ
じゃあ……転生とかじゃない………そう思うと
心にポッカリと穴が空いた気がした
私、私の…………
「私の夢くらい好きに
転生させてくれたっていいじゃんっ!!!
脇役でもいいから美少女がよかった!!」
いい!こんな夢もういいよ!
早く夢よ覚めろ!!
道端で大の字になり目を閉じた
…………が数分たっても覚めることのない私の夢
ヒソヒソと話し声が聞こえるが
今はそんなことに構っている暇はない
急いで目を覚まさないと
夏休みの補習が私を待っている!!
「………………」
なんだかいたたまれなくなり
そそくさと体を起き上がらせそのまま
全力疾走した
取り敢えずここはいったん移動しよう
誰もいないところで考える時間がほしい
数分歩いた先に人目がつきにくいような
草木が生えた森にたどり着いた
「よっこいしょっと」
太い木の根元に腰を下ろして
ノートを広げ、シャーペンを手に持つ
異世界転生系あるあるその1は
今の現状をノートにまとめて頭を整理する
「終業式の朝、遅刻寸前、バナナを食べる、
ポイ捨て…………はぁ、これが原因なのかな?」
ポイ捨ての文字にマジックペンでバッテンを書く
未だに心の底から後悔してるよ
良い子も悪い子もみんなポイ捨てをやめよう!
つまりここは私の夢で………ではなく
おそらくなんらかの原因で異世界転移して
しまったらしい
いや、その原因がわからないから悩んでいる
わけでして……
もんもんと色々考えていると
ぎゅるるっと小さく私のお腹の虫が鳴いた
「あぁ、だめだ……お腹が好きすぎて
まともに頭が働かない」
「………い…」
健康的な女子高生の朝がバナナ1本なんて
校長先生の話どころか戦もできやしない
どうやら異世界でもお腹は空くらしい
まぁ、当たり前だけど
つまりは餓死する危険もあるわけで……
「…………お……い」
貴族令嬢の娘とかなら
こんなお腹が空くこともないし
たんと贅沢もできてのんびりまったり
過ごせるのに今の現状は不便なことこの上ない
「おい!」
ん?なんだろう?なにかが私の
首に突きつけられているような…………
ふと後ろを振り返ると複数名の
鎧を着た衛兵のような方々が長槍を私に向け
馬に乗ったどこぞの貴族のような見目麗しい
金髪碧眼の男が私の首に剣を突きつけている
え、なにこの状況
そちらの皆さんはどちらさんで?
「貴様……ここでなにをしている」
酷く、冷たい目と物言いの男
眼光だけで私を氷漬けにしてしまいそうな
一歩でも動こうものなら
剣先が私の首に食い込んでしまいそうだ
顔は怖いが見た目はかなりの美形………
いや、ほんと現実ではありえない美しさ
も、もしかして…………もしかすると
異世界転移系のお約束………
ヒロインのお相手王子のご登場!!??
さっそく出会えてしまうとは……運がいい
のか悪いのか……
私は無抵抗であることを示すべく
おそるおそる両手を顔の横まで持ってきた
「わ、わた……わたし……は」
どうしよう、唇が震えて上手く話せない
平和な日本で育った女子高生が剣先を
向けられる日が来ようなどと誰が想像
できただろうか?
「返答次第では首がないものと思え……」
ひぃっ……なんでそんな脅してくるの
怖いんですけど、どうせこの冷徹王子も
ヒロインには優しくて甘々メロメロなんだろう
一般市民にもその優しさを少しでも向けて
くれたっていいじゃないか!!
えぇ……っと……貴族に敬礼ってどうするんだっけ?
跪いて話せばいいのかな?
私はゆっくりと王子だと思わしき人物に向き直り
膝を地面に付いた
「わたくしは………………たまたま森に迷い込んでしまい
あや……怪しい者では……ございません……」
よし、うまくできた! と思うけど
沈黙が怖すぎて吐きそう……
「…………」
なぜ何も言わないの?
しかもそろそろ剣をどけてほしいのだけど
「ちょい待ち!アルト」
後ろから慌てて王子の前に姿を現し仲裁に
入る謎の男は野蛮な男をアルト……と呼んだ
その名前は懐かしく……聞き覚えのある……
もしかして私が読んだことのある小説の
…………男主人公??