1−1夢か現実か
これは夢だ……夢に違いない
拝啓、お母さん……お元気ですか?
私は今現在……馬に跨った
王子様に剣を突きつけられています
私はついにVRゴーグル無しに幻覚を見る能力を
身につけてしまったらしい
「お前、何者だ……どこから来た」
冷徹な氷の王子……なんて二つ名がお似合いな男
金髪碧眼で整った顔立ちに見慣れぬ服装
「ゆ……め……」
ふと尻もちをついた私は剣先を見据えながら
ボソリとそんなことをつぶやいた
そうだ、これは夢だ!
私は絶賛道端でお昼寝中に違いない!!
そう、私は日本生まれの日本育ち
現役女子高生………のはず
それは遡ること数分前………
微かに開いたカーテンの隙間から
朝の日差しが強くふりそそぐ
部屋でピピピピっとスマホのアラームが
静かに私の耳に鳴り響いた
「うぅ……あと5分45……びょ…ぐぅ」
あ……そう言えば今日は夏休み前の終業式
担任の先生に遅刻したら夏休みに補習……
と脅されていた気がしなくもない……
チラリとスマホに視線を移せば
薄暗い部屋と寝起きの私の目には
スマホの明かりは十分に眩しすぎた
細めた目の隙間から微かに見える
8時15分の時間帯
終業式開始が8時30分だから………………
「あぁ!!? 遅刻じゃん!!」
目をかっぴらいて布団を放り投げ勢いよく
ベッドから体を起こす
夏休みを補習で潰されてなるものか!!
無雑作にノートや筆記用具、ハンカチを
スクールカバンに詰め込み
ハンガーにかけられシワひとつない制服に
手を伸ばした……
ノートや筆記用具はいらないんだっけ?ま、いっか
ワイシャツの袖に腕を通して
手っ取り早くりぼんを結ぶ、多少歪んで
いるのはよしとしよう!
2階から1階への階段を駆け下り
玄関へと向かう。
「いってきまぁ…ぁ………の…まえに…」
1歩、2歩と下がって
台所へとひょっこり顔を出した
腹が減っては校長先生の話は
聞けぬって言うしね、
「まったく、忙しない子だね
髪がハネてるよ」
エプロンで手を拭き私の髪を整え
呆れた声を漏らすお母さん
「ははっ車には気をつけろよ」
コーヒーを飲みながら新聞を開き
私の安全を心配してくれるお父さん
「大丈夫だよ!そんじゃ……
いってきまぁ〜す」
テーブルに置いていたカゴの中のバナナを片手に
私は家を飛び出した。
「もぐもぐ………もぐ…………ごっくん…」
家を飛び出し走りながら
数秒でバナナを平らげてしまった私の
手にはバナナの皮がぶら下がっている
ゴミ箱……ゴミ箱………
辺りを見回してもゴミ箱が
そう簡単に見つかるはずもなく、
急いでいたから……と言えば言い訳かもしれないが……
よし!ポイ捨てしよう!!
直後、私はこの行動を心底後悔することになる
バナナの皮を空高く放り投げ
ぺちゃりと音を立てて地面に伏せる
バナナを無視して走り出すと、あることに気づいた
「あれ、」
ふと、スカートやカバンのポケットを
ポンポンと叩いて確認する
どうやらスマホは私のベッドの中のようだ
い、今ならまだ間に合う!!
スマホを取りに行くんだ!回れ、回れ
私の右足!!
「うぁ!?」
回れ右をした直後、私の視界がブレた……
いや、バナナの皮で足を滑らせたのだ
あぁ、死因が自分の捨てたバナナの皮
だなんて……恥ずかしすぎる
この時私は心の底からポイ捨てを
やめようと誓ったのであった……
ときは既に遅し………
どぷん……と海に投げ出されたような
衝撃を最後に私は意識を手放した
海なんてあった……け……