中学に告白を断った陰キャ眼鏡が銀髪超絶美少女に成って義妹に成った〜僕を惚れさせる為に色々と色仕掛けして来るが、逆効果だと何時気づくのか?〜
父の再婚が決まった。僕は⋯⋯反対だった。
母さんが他界し、父は塞ぎ込んで居た。
ただ、それでもまともに働く様になって、嬉しかった。
だと言うのに再婚だと? また、昔の父に戻るなんてまっぴらごめんだ。
再婚相手は清楚で性格の良そうな人だった。母さんに雰囲気が近い⋯⋯事も無いな。
娘が居るらしく、その隣には銀髪の美少女が凛々しく座っていた。
父がニヤニヤしながら紹介をしている。頬を互いに染めていた。
「僕は反対だ」
「何故だ! 父の幸せを考えてはくれないのか?」
「絶対に嫌だ!」
「頼む! この通りだ!」
土下座をする父。
だが、僕はそんな父を見下ろしながら言う。
「無理」
「年頃なのも分かる! 気持ちの整理が付かないのも分かる!」
「分かってないよね? 別に再婚に反対はしない。ただ、戻るのが嫌なんだ」
「約束する! もう、あんな事はしない。今の通り真面目に働く! 信じてくれ!」
「人の信頼は一度落ちたら簡単には戻らないんだよ」
父の再婚相手の名前は羽織だったような。
「羽織さん。こんな奴でも良いんですか? 僕が小6まで一切働いた事の無い人ですよ?」
「問題ないよ。それを全て含めて、好きに成ったんですから」
娘の方に向き直り、良いのかと問う。
「問題ありません」
「な? な? 後は天音が認めるだけなんだ! 頼む! 本当に、前のような事には成らないと誓う!」
「私も、この方が道を外れそうになったら、止めます! 娘共々、宜しくお願いします!」
相手方にも頭を下げられた。
それでも折れない僕に娘さんも頭を下げる。
「分かりました!」
「ありがとう! 既に家契約しているから、荷造りして引っ越そう!」
「超展開」
そんな話を挟んで、今に至る。
部屋でゴロゴロしていると、ドアが開けられる。
入って来たのは銀髪の美少女、名前は確か、白奈さんである。
「なんですか? 入るならノックはしてください」
誕生日は僕の方が早く、僕が一応兄となる。
本から目を離して白奈を見る。
銀髪に碧眼、ルックス含め全てが良いと呼べるそんな女性。
街中に出れば注目の的だろうし、美少女と呼ばれる人だろう。
「ねぇ、天音君」
「なんですか?」
「私達、義理の兄妹だけど、私、実は貴方の事が好きなの。付き合ってみない?」
近づいて来て、白奈さんの細長い指で顎を上げて来る。
綺麗な声でそう言われ、まず出るのは心臓の鼓動? そんな訳あるか。
「いや、無い。マジ、無い」
「そこまで否定しなくても」
「そもそも僕達は初対面だ。好きになる要素は無い!」
「それ自分の事を下げてるって分かってる? はぁ。私は本当に天音君の事が好きよ。分からない?」
「⋯⋯それは地毛か?」
「ええ地毛」
「中学の時に髪の毛を黒く染めて眼鏡を掛けてポニーテールにしてボッチだった」
「自分で言うのもなんだけど、中学と比べて見た目凄く変わったのに、よく分かったわね」
「ま、一番印象に残っているからな」
「そう。ねぇ、本当にダメなの? 私、自分で言うのもなんだけど、高スペックだと思うんだけど? 付き合って損は無いと思うんだけど?」
僕達は中学の時、同じクラスで同じ委員会だった。
そして、卒業式の時に告られ、そして断った。
もうすぐ高校への入学だと言うのに、親の再婚、そしてその子が義妹って、どんな確率だよ。
「あの時、会った時はびっくりしたよ。あんな顔、見た事無かったもの。と言うか基本無表情だから感情が表に出る事が珍しいけど」
「よくお分かりで。で、何の用だ?」
「言ったでしょ、私は今でも貴方の事が好きなの。だから、付き合って欲しい!」
「義妹相手に恋愛感情は出てこんよ」
「⋯⋯可愛く成っても、ダメなの?」
「見た目なんて関係ないさ」
「中身が悪い?」
「いや、君の中身は、僕が知っている限りでは良い人だな」
「なのになんで、ダメなのよ」
「簡単だ。僕が、君を、好きじゃないからだ」
「⋯⋯ッ! あっそう! 一つ屋根の下で暮らす以上、覚悟してなさい!」
そう言って出て行く。
なんだったのやら。
僕は今、まだ感情の整理が出来てないと言うのに、ようやく嵐が過ぎ去った。
てか、堂々と人の事を好きって言えるの凄いな。
「今日、行くか」
家を出てとある廃墟に向かう。
そこにはホームレスが住み着いている。
その中で一番の知り合いに金を渡す。
これは報酬と酒を買って来てもらうためだ。成る可く高価の。
「はいよ」
「いつもありがとうございます」
「こんな簡単な仕事だからな」
当然、僕が飲む訳では無い。
墓地へと向かう。
母の墓である。
酒瓶の蓋を開ける。
墓にそれを浴びせる様に零す。
「母さん、僕もう高校生だよ」
ポトポト瓶から出て行き、濡らして行く。
母さんは酒が大好きだった。良く言っていた。
「自分の命は天音と酒の為にある!」って。
ただ、飲み過ぎたせいで早くにこの世を去った。
「父が再婚したよ。飲んだくれのギャンブル中毒者、母さんが結婚したのも不思議な人が今ではまともに働いているよ。勿論、母さんの仕事や遺産の事は黙ってる。また金を使うだけの穀潰しには戻って欲しくないからね」
酒が無くなり、瓶を置いて手を合わせる。
父は母さんの所に何回来たのだろうか? もしかしたら来てないかもしれない。
だけど、関係ない。
僕が母さんを知っている。それだけで十分だ。
「これが天音君のお母さん?」
「なんで居るんだ白奈さん」
「いずれ私の義母に成るお方なんですから。挨拶は必要でしょ?」
「何真顔で言ってんだ。僕が君を好きに成る事は無いよ。残念だったね諦めて」
「諦めない。隠していた事を全部さらけ出して、持っと自分を磨いて、そして絶対に貴方を堕とす。そして貴方から告白して来て、それを断るの! そして貴方が色々と好感度を上げようと努力し、再び告白する。それを断る! その後に私から告白して見事に恋人同士に成る。これが私のプロセスよ!」
「お前、そんな奴だったか?」
「恋は人を変えるのよ」
「⋯⋯」
現在僕が白奈さんに対して思っている好感度はゼロに等しいよ。
そして分かった、この子は自分の世界にのめり込むタイプだ。
「天音君はお義父さんの事が嫌い?」
「ああ」
「じゃあなんで一緒に居るの?」
「それが母さんとの約束だからね」
「約束?」
僕は白奈さんに向かって指を向ける。
「そこまで踏み込む権利は君には無い」
「⋯⋯ッ!」
指を掴む白奈。
「そうね。いつか、心を開いた時に、聞かせてね」
「何処からその自信は来るんだよ」
「私の全てから」
「あそ」
「軽っ!」
風呂場と言うのは危険らしい。
特に今まで過ごしてない相手だと生活習慣が違う。
つまり、風呂に入る時間が同じな事もある。
ただ、少しズレていた。
いやね。まさかね。こうなるとは。
現在僕は体を拭いていた。なので、裸が見られている訳では無い。
しかし、こう言うのはすぐに閉めるのが普通だと、僕は思っていた。
白奈さんの場合は違った。凝視して来た。
「着替えの途中よね? どうぞ続けて。寧ろ続けて!」
「嫌だよ! てかなんでスマホ持ってんだよ!」
「お風呂で動画を見るためよ。最近やっている人多いでしょ」
「知らんがな仕舞え! 扉閉めろ!」
「⋯⋯あーあーなんか突っかかったみたいで閉まんないー」
僕が直々に手を伸ばして扉を閉めようとしたら、力属で防いで来る。
「ほらね?」
「ほらね? じゃないよ。なんつー力してんだよ」
「これでもスト⋯⋯じゃなかった。鍛えてますから」
あんまり力を加えている風でも無いのに、ビクともしない。
「分かった。ならばこうしましょう。私も脱ぐ。裸でツーショット! 良いね。裸の付き合いから起こる恋もあるかもだし!」
「そんなもんねぇ! あってたまるか!」
玄関の方からドアを開ける音がする。
両親が帰って来たようだ。
玄関から直線の廊下に風呂場はある。
「チィ」
流石に不味いと思ったのか、相手から引いてくれた。
教訓、白奈さんはマジでやばい。そして風呂に入る時は色々と考えものである。
いや、僕はそもそも扉を閉めていた。
風呂に誰も居ない場合は常に開けている状態だ。
だから、誰か入っていたら分かる。スライドドアだし、⋯⋯アイツまさか狙って!
朝食の時間、作ったのは僕である。
父が料理なんて出来ないので、ずっと僕が作っていた。
二人分増えても問題ない。
部屋でパソコンを弄っていると、中に白奈さんが入って来る。
「何しに来た部屋は一個向こうだろ」
「良いじゃん別に」
良くないだろ。プライバシーを守れよ。ただイライラするよ。
ベットに座ってスマホを弄っている。
既に夜、パジャマ姿でなかなかの薄着だ。
足を動かして太ももを強調している。
ま、別に関係ないや。
ヘッドホンを嵌めて音楽を流し、パソコンをカチカチと弄る。
途中電話が掛かって来たので、白奈さんを追い出す。
「悪いけど、これは本当に誰にも聞かれてはダメなの!」
「ちょっと待って、せめて少しは反応を示してよ!」
ドアを閉めて、電話をする。
それから数日後、入学式へと出向く。
父が様にならないスーツを着ている。
ただ、不思議な事に同じ高校の制服を白奈さんが着ていた。
「天音、知っていると思うが、二人は同じ高校だよ」
「よろしくね天音君。白奈の事」
「よろしくね。天音君!」
満面の笑顔の中に僕は悪魔の笑みを見て取れた。
背中にぞわりとした、そう、コンニャクが背中を滑って行く様な感覚だ。
身の危険を感じ、本能が危険信号をビンビンに出している。
入学式は眠くなる様に淡々と進められ、教室が発表された。
そして、なんと言う悪魔の力か、それとも神々の遊戯か、同じクラスだ。
僕から見たらただの獣の白奈さんと、一緒の高校で一緒のクラスで一緒の家に住んで、僕の人生、変わったな。
翌日の学校では白奈さんは人気者になっていた。
中学の頃の事を必死に思い出す。
一人で隅っこの席で本と永遠に睨めっこしている人が、今ではこれだ。
あ、僕も同じか。高校になっても変わらんが。
「西園寺さんの髪ちょーサラサラだね〜」
「裸ツルツル〜どの化粧水使ってるの?」
そんな会話が聞こえる。
白奈さんの対応はなんと言うか、棘があるモノだった。
「ありがとうございます」
そして、僕にも話し掛ける人が居た。
「ねね。お前って西園寺さんと同じ苗字だけど、もしかして⋯⋯」
なんて言う古典的かつ使い古された人物像だよ。
「期待に添えず済まないが、別に僕達は⋯⋯」
「一つ屋根の下に暮らす、兄妹ですよ」
静粛に包まれる教室。
僕は古びたロボットかと思う様なゆっくりとした動きで白奈さんに向き直る。
「な、何をご冗談を言っているのかな? 西園寺さんはお茶目だなぁ」
「あらあら。そんな他人行儀な。何時もみたいにシロちゃんって呼んで下さいよ〜」
何時、何処で、僕がそんな⋯⋯言ってたあああ!
けど一回だし!
中学の時のお遊びでニックネームを考えて言う。その一回だけだ。
不味い。兄妹だと言う事がバレたら色々と面倒だ。
「さぁ。何の事やら。僕と西園寺さんは初対面でしょ?」
「酷いなぁ。あそこまでした仲なのに」
色々と誤解を生むな。生まないでください本当に。
何がしたいのか全く分からないが、せめて穏便に行かせてくれよ。
何か、何か手は無いのか?
「お茶目なのは良いけど、やり過ぎると色々と勘違いするよ? 色んな人が」
「へぇ〜例えば?」
「例えば、例えば。何があるんでしょう」
何を言っても地雷にしか成らない気がする。
「別に良いじゃ無いですか。勘違いされようとも、私達の関係は変わらない」
真っ直ぐな視線を向けて、顔を赤らめて来る。
呆然と見ていたせいか、モジモジし始める。
「確かにクラスメイトだね」
「一向に認めないわね。お義兄ちゃん」
「そっちもいい加減お茶目な行動は止めたらどうかね?」
「じゃあこれ」
「へ」
白奈さんが突き出したスマホには、再婚記念に撮った家族写真だった。
はい。言い訳不可能の証拠をどうもありがとう。
親が再び別れた、そんな言い訳も出来ない可能性がある。
だって、入学式に来ているんだもん。
畜生。畜生。さようなら、僕の高校生活。
だけど、諦めないから。
絶対に、諦めない。このドヤ顔寸前の白奈さんの顔をへし折って、普通の生活を取り戻す。
それが僕の生き様だから! だから、そのドヤ顔寸前の顔止めろ!
辛い、そんな事を永遠と頭で呟きながら帰還していると、座り込んでいる同じ制服の人を発見した。
気になり接近し、話しかけると顔を上げる。
丸っこい顔立ちに柔らかい表情の中に涙を浮かべるその少年。
制服が男物なので少年だ。
男の娘じゃないと思う。知らんけど。
「どうかしましたか?」
「初めての、登校で、親が、仕事、終わらなくて、駅まで、分かんなくて、そこからの行き方も、分かんなくて。ひっぐ」
「高校生男子がそんなんで泣くなよ。スマホは?」
「家に。まさか中学と変わってスマホ持って来る事が良いなんて⋯⋯寧ろ推奨されているなんて知らなかった」
世間知らずも良いところだな。
「場所はとこですか? 案内します」
「住所分かんない」
お前⋯⋯僕は溜息を吐く。
こう言う人も居るだろう。
「大まかで構いません」
「〇〇町」
スマホで調べて、最寄り駅を調べる。
「分かりました。駅まで案内します」
「良いの!」
「ええ。家に帰りたくない理由があるので」
駅に案内したが、そこからも分からないと言うので、カードは無いのかと聞くと、自信満々に「無い!」と言われた。
言い方や声的に凄く小学生を相手してる気分になる。
結局、金を使って家まで案内する事に成った。
家の真逆の方向の電車に乗るとか、泣きたくなるぜ。
「ごめんね」
「乗りかかった船だ。最後までやるよ」
そして家に着いた。
「ありがとう! 今日から一人で行けるよ! あ、僕東條優希!」
「どういたしまして、西園寺天音だ」
そして僕は家に帰った。
家に着くと、玄関に白奈さんが仁王立ちしていた。
「何故に真反対の方向に言っていたのか、聞いてもよろしいでしょうか天音君」
「僕が一番聞きたいよ。なんで知ってんだよ」
「私が先に質問してます」
「まさかどっかにGPSとか仕込んでるんじゃないだろうな!」
制服や鞄の中をしっかり探す。
「そんな簡単に見つかる所に着ける訳ないじゃない。それで、どうして!」
「お前の行動が末恐ろしいよ」
再び部屋に侵入して来る白奈さん。
パジャマ姿でベットに転がる。
「臭いが付くから止めて欲しいんだけど」
「良いネタに成るんじゃない?」
「臭いんだよ」
「私そんなに臭う! ねぇ、そんなに臭いかな!」
「それと、登校の時間をずらそう」
「普通にスルーされた。そんな事したら両親が怪しむわよ」
「は?」
「今日の事で、私達は仲の良い義兄妹と成ったもの!」
「ふん〜言いたい事はそれだけか?」
「何ですって?」
「そんなの関係ないね! そもそも父との関係は既にほぼ、割と地の底なんだ! 今更ギクシャクしようが関係ない!」
「な、何て親思いの無い人なの⋯⋯」
「千年の恋も冷めたと言う事か」
「あ、ごめん。私の想いはその程度では変わんないから」
どうしてこんなに僕を好いてくれるのか分からないよ。
あんまり中学の時の事は覚えてないし。
結局時間をずらす事が失敗に終わり、同じ電車で登校する事に。
時間が時間なだけに満員で、椅子に座れずに困っている人が居た。
お腹が部分的に大きく成って、それを手で支えている様に見える。
妊婦のようだ。
周りを見ると、気づいて居らずイヤフォンをして音楽を聞いている人、気づいているが見て見ぬふりをしている人。
優先席はご老人が支配している。
誰も譲る気は無い、そんな感じがする。
「心配ね。誰か変わってくれる人は居ないのかしら」
「⋯⋯近づけたら良いんだけど」
人が多くて、妊婦に近づけない。
声を掛ける人も居なければ、見る人も居なかった。
その時、白奈さんが動いた。僕に荷物を託して、人混みの中を進む。
「あの、すみません」
「はい、何ですか?」
サラリーマンのような格好で、先程までずっと本を読んでいた。
周囲を見てないので、妊婦に気づいて居ない可能性がある。
白奈さんがサラリーマンを説得する。
嫌そうな顔をするサラリーマンだったが、白奈さんが上目遣いを使って、甘い声を使い、サラリーマンが折れた。
「どう?」
戻っ来て、そう聞いて来る。
「怖いと思った」
「何故?!」
学校の放課中に白奈さんの近くには人が一人居た。
友達が出来たようだ。ちなみに僕の方には、白奈さん目的で仲良く成ろうとして来る、典型的な人達が寄って来た。
面倒臭い⋯⋯ラノベに集中したいのに出来ないのが面倒臭い。
無視を貫こうかな?
「こんなキモオタが読むモン止めて喋ろうぜ。お前らってどんな生活なの? 裸って間違って見たりする?」
僕が上目遣いで睨む。
多分、本気で睨んで居たと思う。
そのせいか、少し怯んでいる。
「な、なんだよ」
「ごめんね」
白奈さんが僕の横に立ってそう言っている。
手に持っているのは、カバーを外して表紙が見える様にしたラノベだった。
「私も良く読むんだけど、キモオタの本を読んでごめんね」
「い、いや。そんなんじゃ⋯⋯」
「じゃあなんなの?」
「いや、その。西園寺さんは問題、無いって言うか」
「なんで私は問題無いの? と言うか、なんで問題があるの?」
「えと」
白奈さん、多分これは普通に怒っている。
僕達が図書委員で、暇な時に読んでいるのはラノベだった。
そこから話始めたのだ。
「ねぇ、なんで問題があるの?」
「す、すみません」
「別に謝って欲しいんじゃないの。なんで、問題が、あるのか聞きたいの」
怖気付く男子。
流石にこのままだと白奈さんの印象が悪くなりそうなので、止める事にする。
「白奈さん。落ち着いて」
「⋯⋯」
「悪かった。本当に」
しょんぼりして離れて行く男子。
こりゃあ、白奈さんの平穏な生活が終わったな。
そう思って居たのだが、『お高く止まっている』と言う印象が無くなり、寧ろオタク達からも人気が出て上がった。
そして、『どんな事にも理解がある』と言う噂が広がり、電車の事も広がって、さらに人気者になった。勿論、全員が全員と言う訳では無いが。
なんと言うか、美人って凄いな。
昼の時、弁当箱が一つしか無かったので、白奈さんの分しか作って無い。
なので、食堂を僕は使う。
白奈さんが付いて来そうになるが、食堂は食堂で注文して食べる人が利用して良いので、諦めていた。
ちなみにそこで優希君と出会った。
「同じ学校だったんだ!」
「制服見たらわかるだろ」
「そうなんだね!」
女の子のような笑顔をする。
同じ豚骨ラーメンを頼み、一緒の席で食べる。
「食べながら本を読むのは行儀が悪いよ!」
「あぁ。そうだな」
癖だよ癖。
「ねぇ、何組?」
「2」
「そうなの! 僕は1! 隣なんだね!」
「だな」
「ねぇ、僕の事嫌い? さっきから口数少ないけど⋯⋯もしかして、迷惑、かな?」
いやね。周りの目がやばいんよ。
殆どが疑問の目なのよ。
『なんで女の子が男の制服を着ているのか』って言う目。
そして、そんな相手と昼食を共にしている僕は、好奇の目に晒される。
はよ、食べよ。
今日は弁当箱を買いに行く。何故か白奈さんと一緒に。
ついでに弁当箱を新調しろと言われたのだ。
父の指示に従うのは嫌だが、義母の面目を立てる事にした。
義理とは言えどね。白奈さんの服は白色をベースとしたワンピースを着ていた。
「いってきまーす」
「言って来る」
そして僕達は近くのデパートに向かった。
目的を達成したらさっさと終わらせよう。
そう考えながら進んでいると、白奈さんから話を切り出す。
「ね、私の格好どうかな?」
「どうって、白いな」
「似合ってる?」
「あーうんうん」
「似合ってるか〜ありがと!」
⋯⋯。
「天音君って、人に対して平等だよね。良くも悪くも」
「まぁ。僕は誰にも期待してないからな。だからこそ、君が何をやっても失望はしないんだよ。ただ、変な人だな、とは思うけど」
「そりゃ酷い。つまり無関心なんだ」
「だな」
「じゃ、私に対しては、その思いを真逆にしてあげるよ」
「⋯⋯無理だな」
「そんな事ないもん! 割とラブコメ漫画のテンプレを網羅し始めてるのに恋愛フラグ立たないとか、無いから!」
「あそ」
朝から騒がしい奴だな。
「何でそんな人に無関心なの?」
そう言われ、僕は母さんの姿を思い出す。
酒瓶を右手に、お供のジャーキーを左手に、酒瓶を持つ手の人差し指を僕に向けながら言うのだ。当日は小学生だった。
『人を信用するな。どれだけ友だと親友だの言っても、最後の最後で裏切る。人間口だけだ。信じるな、己だけを信じ磨け』そう言って来たのだ。
ただ、そんな母さんはこんな事も言っていた。
『ただ、わたしはお前の母親だ。だから、わたしはお前を裏切らない。だから、お前も裏切らないで欲しい。本当に信頼出来る人は、この世には居るんだ。わたしの場合は天音、君だよ』
その後、酒に潰れて寝ていたが。
そしてデパートに到着した。
「広い!」
「田舎の子供か!」
「田舎の子供に失礼! ま、結構来た事あるけど」
「何で言ったんだよ」
「何となく?」
そして売っている場所に向かい、それぞれ手に取る。
僕は普通に機能性が高い物にした。
「天音君天音君、これ可愛くない?」
「⋯⋯」
「え〜そんな、私の方が可愛いなんて〜もう!」
「何も言ってないんだが?」
ちなみにその可愛いと言って持って来たものだが、うさぎの模様だったのだが、しゃくれアゴだ。
可愛い、らしい。
「あ、これも良いかも〜」
「⋯⋯」
次に手を伸ばしたのは、なんかスッキリした顔をした花の絵柄だった。
どうしても、それに僕は可愛いとは思えなかった。
僕は一つ、雪が降り注ぐ絵柄の弁当箱──さっきまで取っていた形と同じ物──を手に取り、白奈さんに差し出す。
「こ、こっちの方が白奈さんに似合うと思う」
「⋯⋯ッ! ほんと! じゃあコレにする! 天音君が選んでくれた物だし!」
「あはは」
普通が一番。
白奈さんが頬をピンクに染めながら弁当箱を凝視してる。
そして一言。
「天音君のセンス⋯⋯」
「なんか文句あるか?」
「うんうん。天音君が選んでくれた。それだけでとっても嬉しい」
「あそ。会計するぞ」
父から金を受け取ったが、父が稼いだ金に手を出すつもりは無い。
なので、自分の財布から白奈さんの分も払う。
父から貰っている事を見ているので、特に何かを言う事も無く払わせる。
店員は男で、何か凄く嫉妬の籠った瞳だった気がするが、気の所為だろう。
それから帰ろうとしたが、白奈さんに腕を引っ張られる。
「少し寄ってこ」
「何処に?」
「服屋」
「断る」
「なんで!」
「必要ないから」
「あるよ! 天音君私服夏冬と二種類づつしかないじゃん!」
「十分だろ」
「そんなの絶対に見飽きるしダメだよ!」
「要らん。帰る」
「早く行こー」
なんて言う力なんだよ。
僕の力じゃ勝てずに、引きずられる様に目的地に向かった。
そこで白奈さんが服を選んで、僕が試着する感じだった。
服を着て自分の姿を見るんだけど⋯⋯。
「厨二病。違うな。純粋にダサくね?」
ドクロマークがど真ん中にある白色をベースとしたTシャツ。
この姿、高校生である僕が見せる姿なのだろうか?
それに僕はインドア派なので、もう少し落ち着いたデザインと色の方が好きだ。
段々と僕の中で疑問が膨らんで行く。
「白奈さん」
「何ー」
「白奈さんの服って、お義母さんが選んでました?」
「え! なんで分かったの?! はっ! 流石は天音君だね。私の事を一番理解してくれて⋯⋯」
我が義母は大変な思いをして、今に至るのか。
少し同情してしまった。
取り敢えず外に出て、着た姿を白奈さんに見せる。
「かっこいいよ!」
白奈さんは目を星の様に輝かせて言ってくらるが、店員が僕の姿を見て、目を逸らした。
少し体が震えている。
「(あ、天音君が照れてる。これは無関心ではないね!)」
他人の評価何て関係ない、そんな思いもあるが、流石にこの格好を店員に見られ、しかも笑いを我慢されるのは、恥ずかしい。
しかも、なんかやってやった感の顔をする白奈さんに無性に腹立つ。
取り敢えず、自分で選ぼうかな。
今着ている服を脱いで、片付ける。
「買わないなら、私がプレゼントしようか?」
「まじで止めて!」
「食い気味?!」
選ぶまで終わらないなら、自分で選んだ方が全然良い。
真剣に考えていたら、さっき目が合って逸らして来た店員さんが服を持って来た。
ジト目を向けてやると、目を合わせない様にして来た。
ただし、口元が少し緩んでいる事に気づく。
あぁ腹立つ。
「こんなのはどうですか?」
「うん〜少し渋いのでは?」
「いえ、着てみます」
白奈さんが普通に断ろうのしたが、僕は良いと思い試着する事にする。
黒色をベースにした服装で、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
店員さん。腹立ってすみません。
貴女のセンスは認めます。
「あの、これ買います」
ちなみにこのまま帰る事はしない。
きちんと元着ていた服に着替えて、服を購入する。
「天音君にはさっきのが一番似合ってると思うのに」
「もうお前は黙っとれ」
レジをしている時に、小声で店員さんが「仲が良いですね」と、営業スマイルなのか、思い出し笑いなのか、そんな笑顔を向けて言って来る。
これは店員さんが『勘違い』していると思って受け取る事にする。
そして、昼食を食べて帰る事にする。
目指すはフードコートである。
ご飯を食べている時、白奈が反応する。
「あれ? 美咲さん?」
美咲と呼ばれたその女性がこちらを向く。
そして恐る恐ると言った様子で近寄って来る。
ハーフアップに髪を結んだその女性の見た目はギャルだ。
ほんまギャル。
奥の方には中年男性が居る。
「白奈ちゃんはここで何を?」
「弁当箱を⋯⋯」
「デートだよ?」
「弁当箱を買いに来た」
「デートだよ」
白奈さんの目が怖い。
しかし、僕も引く気は無い。
ひたすらの押し問答の末、自分が言い終わった後に話を替える白奈さん。
「美咲さんはお父さんと?」
「え、うん。そうだよ」
「美沙ちゃんどうしたの?」
「あ、うんうん。友達と会ってね。行こー」
美咲さんと呼ばれた人がお父さんと思われる人物と去って行く。
「仲が良いね〜。私達みたい」
「意味が分からん。あの子はこの付近に住んでるの?」
「真反対だよ〜」
「ふーん」
僕はスマホを操作する。
「美人な女性を前にスマホと睨めっこですかー」
「自分で美人とか言う人の顔を見るつもりは無い」
そして学校のある日、今日は係などを決める。
僕は図書委員に成った。ちなみにだが、図書委員はクラスから一人抜擢される。
つまり、図書委員の仕事をしている最中は白奈さんに付きまとわれない⋯⋯と思われる。
あの人がどうして僕を好いてくれるのか全く分からない。或いは覚えてない。
だが、そんなのは関係ない。
僕は彼女を受け入れる事は絶対に無いのだから。
そして放課中、美咲さんがとある男子生徒に呼ばれて何処かに向かう。
僕は教室を出る。
その際に付いて来そうになる白奈さんを横目で睨む。
悪いが今回だけは、こいつの同行を許す訳にはいかない。
それが分かってくれたのか、友達と話始めた。
ただ、あんまり楽しそうではない。
前のフードコートで見た白奈さんの表情を思い出す。
人気の無い場所に移動する。
僕は陰に隠れ、美咲さんと男子生徒の会話を聞く。
「やってる事ストーカーじゃないか」
気にしたら負けだ。よーく聞こう。
「これ、なんだと思う」
「そ、それは」
何を見せつけられたのだろうか?
スマホのカメラを利用して確認する。
あぁ、それか。
男子生徒が美咲さんに見せていたのは、とあるサイトだった。
俗に言うパパ活サイトだ。
僕もそれは見た。
前にあった時、あまりにも似ておらず、それでいて距離感が変だったので、気になり調べたところ、ビンゴだった。
美咲さんと呼ばれた人はパパ活をしている。
「おっさんにケツ振ってんだろ? 俺にもヤラせろ」
「最低! あたしそんな事してないし!」
「じゃあこれはなんだよ! これを見た人はなんて思うんだろうなぁ?」
何と言うか、ベタな脅しだな。
僕は配信サイトでとある音を見つけ、大音量で流す。
それは誰かの男の声。芸人の声だ。
『そこで何してる!』
うるさい。音量調整を少し誤った。
しかし、陰でコソコソ陰湿に脅す奴は大抵チキンだ。
これで、⋯⋯予想通り離れた。
僕はぼっちが好きだ。独りでのんびりと過ごすのが好きだ。
だけど、義理でも、家族が悲しみそうな事は嫌だ。
僕は美咲さんに近づいた。
「苗字分からないから、美咲さんって呼ぶね」
「あんたは」
膝から崩れ落ちていた美咲さんを僕は見下ろす。
さっきの威勢は何処へやら。
さっきまで「してみたら?」「だから何?」「気持ち悪い」などなど言っていたのに。
「すまんな。聞いていて」
「教室と違う方向から来て、それは無理あるって」
「そうだな」
「で、何?」
「辞めないのか?」
「えぇそうね」
「いずれ危険な目に遭遇するぞ」
「漫画の見すぎじゃない? 結構やってるけど、実際そうなった事ないし」
「体も使ってないと」
「あんたも⋯⋯」
睨まれた。
言い方が悪かったか。
「⋯⋯ん? 美咲さんは中学からやってるの? 理由は?」
「あんたに関係ないでしょ」
「少しはあるね」
「なんで?」
「白奈さんが君にはある程度歩み寄っているから」
「意味分かんない」
「分からなくて良いさ。そもそもそんな事する理由なんて一つに決まってるからな」
その後、僕は教室に戻った。
その帰り、僕は美咲さんを追っている。別にストーカーじゃないよ? 誤解しないで欲しい。
全てはあの子の為だ。許して欲しい。
「言い訳もストーカーじゃねぇか」
なんか悲しくなって来る。
場所は優希君が住んでいる場所の近くだった。
ちなみにそれも疑った理由だ。
この付近にも僕達が行った場所並みの大きさのデパートはある。
なのに離れたあそこに行った。
僕達の行った場所は中学方面、高校とはかなり遠い。
当然この場所からも遠い。
ま、そんな訳で色んな理由から疑った訳だ。
「ねぇ。誘ってくれたのは嬉しいけど、僕ストーカーなんて嫌なんだけど」
「安心してくれ。僕も嫌だ。ただ、ちょっとした事情があってね。本命は彼女じゃない」
「なんで僕まで」
「独りで居ると変な目で見られるからな」
「だからって巻き込まないでよ」
「友達居るの?」
「⋯⋯」
優希君は女の子って言えば女の子に見られる程のポテンシャルを持っている。
それに寄ってあまり友達が出来難いと僕は思っていた。
ま、いずれ出来るだろ。
「まだ先は長い。いずれ親友と呼べる輩も現れるだろう。だけど、今だけは案内したお礼として付き合って貰うぞ」
「分かったよ⋯⋯」
美咲さんを追って着いたのはボロいアパートだった。
その後、ひたすら待っていると、美咲さんがおめかしをして出て来た。
僕はそれを無視して、再び待つ。
「あ、もう帰っても良いよ」
「あ、うん。時間も時間だしそろそろ行くけど。本当に何がしたいの?」
「秘密」
そのまま夜遅くまで待ち、帰って来た人物を見る。
痩せ細ったおじさんだった。その人は美咲さんが入っていた部屋に入って行く。
「あの人か」
僕はその部屋のチャイムを鳴らす。
出て来たのは帰って来たばかりのおじさん。
「ど、どちら様で」
「あ、僕は貴方の娘さん。美咲さんのクラスメイトです。折り入ってお話がありまして」
僕はスマホでとあるサイトを示す。
そのサイトを凝視し、大きく目を見開く美咲父。
「この事、知ってましたか?」
「い、いえ」
「そうですよね。そして、こっからは、この話も入ります」
僕は一枚の名刺を取り出す。
その名刺を見た瞬間、目を点にするおじさん。
「それでは、今から面接を始めます」
上げて貰い、それから僕が質問する事に答えて貰う。
そして、今の会社でやっている事を一から説明して貰う。
「⋯⋯十分ですね。どうしますか? ブラック企業から僕の曾祖母が創り上げ、母から受け継いだ大企業への転職は? これ以上娘さんにこの様なマネをさせずにすみますよ?」
そう、僕は学生ながらに裏では経営者だ。
ただ、母の頃の秘書が──僕は協力者と呼んでいる──表立って経営し、僕は裏から指示を出す。
曾祖母が創設し、母から受け継いだ。これが約束の一つだ。
絶対に父親にはこの事はバレてはいけない。絶対にだ。
そして、絶対に僕が受け継ぐ、それが約束の一つ。
「でも、こんなのが許されるんでしょうか?」
「問題ないでしょう。ヘッドハンティングってやつですよ」
「でも、自分はそこまで高い技術を持っている訳では無いですし⋯⋯」
「そこら辺は頑張って下さい」
投げやりだし、本来会社にとっては迷惑な事だろう。
だけど、クラスメイトで義妹の友達がこれ以上続けて問題が起こったらと考えると⋯⋯。
早めにその種は摘んでおく必要がある。
その為には、僕は自分の使えるモノを全て使う。
そして、約束を取り付け、家に帰る事にした。
既に夜二時過ぎである。明日も学校だと考えると、結構ハードである。
「鍵は⋯⋯開いているのかよ」
家の中に入り、電気が付いていない事を確認し、安堵する。
そのまま部屋へと入り、そこでコンビニで買ってきた軽食を食べる。
コンコン
ドアを開けた後にノックする。僕はその方向を見る。
「こんな夜遅くに帰るとはどのような要件かしらお義兄ちゃん」
「目が怖いぞ。声が外に漏れるからドアは閉めてくれ。後は自分の部屋に戻れ」
「いえ。深夜を超えているもの。流石に聞きたいわ。今は真剣よ」
つまり、今まではふざけていると。ほぉーそうかそうか。
ちなみにこんなに遅れたのは、電車の方が既に終電が行っており、歩いて帰って来たからだ。なので、かなりの時間を有した。
深夜徘徊、先生に会わなくて良かったね。
「君には関係ないよ」
「あるよ」
「ない」
「ある! だって、今の私は、貴方に恋する一人の女の前に義妹なんだよ。義兄を心配して何がダメなの?」
「この年頃の義兄妹って普通ギスギスしているのでは?」
「誤魔化さないで!」
顔を無理矢理向き直され、目と目が合う形になる。
その目には少しだけ涙のような物が溜まっていた。
「お義父さんもお母さんも心配してたんだよ。なんで連絡もしないでこんな時間まで⋯⋯」
「連絡? 必要無いと思ったからだよ。それに本当に君には関係の無い事だ。もう寝たい。出て行ってくれ」
「いーやーだー!」
「はぁ、自分はシャワー浴びに行くから、それまでには自分の部屋に戻ってろよ」
「誘われた!」
「何を!」
付いて来そうだったので、本気で抵抗した。
拳では抵抗しなかったが、そこそこの時間を有した。
その後、普通にベットにゴロンしたのだが、部屋から出ては行かなかった。
無視してそのまま寝たけどね。
「すぴー」
僕は目覚まし無しで何時も一定の時間に起きれる体だ。
どんなに遅く寝てもそれは変わらない。
今回も例外に漏れず5時に起きた。
ベットを枕に寝ている白奈さん。病人の起きるのを待っていたら寝落ちした感じだ。
「⋯⋯たく」
こいつは本当に僕の事を心配していたんだな。
重いから、ベットに寝かす事は出来ないが、布団を掛ける事は出来るので、布団を掛けておく。
その後は風呂場で着替える。
朝食の準備をしながら皆が起きるのを待つ。
「⋯⋯天音、帰って来ていたのか!」
父親が寄って来て、肩を掴んで来る。
色々と叫んでいるが、正直うるさいだけだった。
僕が父の目を睨み、「だから?」と冷たく言い放った。
ちなみに内容が入って無いので、だから、と言っても会話が成り立つのかは不明だった。
電車の中で白奈さんが話して来る。
「天音君はお義父さんの事が嫌い」
「嫌いじゃないよ」
「だったらなん⋯⋯」
「超嫌い」
「⋯⋯ッ! そっか。なら、もう聞かない。ちなみに私の事は?」
「面倒臭いので関わって来て欲しくないタイプの人間って思ってる」
「嫌われてないなら良しかな」
強いな。
時間帯が上手く噛み合い、優希君と合流する。
「天音くーん!」
後ろから手を振って走って来る男装女子。
周りから見たらそうだろうな。
「優希君。そんなに走らなくても良いでしょ」
「あはは。見かけたから」
僕を見て、隣りの人物に目を向ける。
一瞬目を白くして、ロボットの様にギギっと顔を動かして僕を見て来る。
「かの⋯⋯」
「断じて違う」「そうです!」
「?」
そんな疑問な顔をしないでくれ。
こう言う質問が来ると、僕と真逆の意見になるな。
だけど、正しいのは僕だ。紛うことなき僕だ。
「行こ。優希君」
「あ、うん」
「待って私は! ねぇ、私は! あーまーねーくーん!」
「あ、天音君。何か凄い言われているけど」
「なんの事か全く分からないな。優希君は幽霊でも見えるのかい?」
「え、僕って霊感あったの!」
ま、マジ?
ま、それでいいや。
「誰が幽霊ですか! 貴方の方こそ男装した女子みたいな幽霊じゃないですか! 恵まれない女の子にその顔を渡しなさい!」
「なんか凄い酷い事言われた! あ、でも僕の事男子として見てくれてる⋯⋯感動」
「変わった子ですね」
お前だけには言われたくないと思うぞ。
教室にて、僕はラノベを読んでいたら目の前にとある二人の人物が立って来る。
一人は白奈さんだが、何時もとは様子が違う。それもそうだろう。もう一人が美咲さん。
「ね、君何かした?」
「天音君何かしたんですか?」
オドオドする白奈さん。クールな一面だったり、純粋な家族として心配する一面だったり、実はノリが良かったり⋯⋯中学の時と印象が全然違う。
「何もしてないよ」
僕のやった事なんて小さな事だ。
後は時間が流れる様に話が進んで行くんだろうし。
もしもスクショが撮られていたら、他の手を打つ必要もあるが、今は良いだろう。
「で、何時まで僕を見詰めるんだ」
「⋯⋯ありがと」
「天音君何したのか正直に話して?」
「安心しろ。心配される事はまじでしてないから。そんな目で見ないでくれ」
クラスメイトの目が痛い。
そして今日から部活見学が可能になって、自分の部活を選ぶ時期となった。
ちなみに僕は既に決めている。
中学と同じ部活、『弓道』だ。
中学の同級生で、同じ部活で、弓道の時しか関わって来なかった人が居るのだが、その人との約束があったりする。
僕は小学の時からボッチだが、ちまちまとした人脈は持っている。
これは母さんの血があるからかもしれん。
見学、楽しみだな。
部活の体験会的なモノには白奈さんは付いて来なかった。
自分もやりたい部活があるのだろう。中学の時は同じ部活じゃ無かったし。
弓道部の場所に行くと、既に数人集まっており、弓を引いて居る人が六人居る。
二射場あるらしい。
弦を弾く音を響かせ、時にはパンっと的を射る音を響かせる。
それと同時に弓道場には「よし!」と言う掛け声が場を埋め尽くす。
誰かが当たったら「よし」と言う制度があるようだ。
一年生が集まった事を確認した部員が指示を出す。部長かもしれん。
「杉浦、お前一年に部活紹介しろ」
「はい。分かりました」
正座していた一人の生徒が立ち上がり、こちらに寄って来る。
授業後の部活なので、袴は着ていなかった。
「ここでは狭いので、外に移動しましょう。初めての人も居ると思うので、まずは基本の話をしてから、こちらで今やっている事を紹介します」
案内され、外に出る。
「まずは自己紹介から。私は杉浦朱那。二年生です。よろしくね」
金髪を長くし、一本に纏めている。ポニーテールだ。
杉浦先輩が持っているのは弓と矢である。
「弓道経験者は居るかな?」
僕は手を挙げ、周りを見渡す。
僕以外に手を挙げる人が居らず、僕はすぐに手を下げる。
「なんで下げるの! 君面白いね」
くすくす笑いながら僕を見て来る。
「中学の時からやってるのかな?」
「まぁ、はい」
「じゃあちょっと来て」
断りたいが、渋々向かう。
隣に立つと、ゆがけが入った箱を渡して来る。
「サイズが合う物を着けてくれ」
「はい」
下がけを嵌め、ゆがけを嵌める。
「じゃ、素引きしてみてくれ。忘れたならやらなくても良いが」
「大丈夫です」
僕は弓を受け取り、素引きをして行く。
射型を意識して覚えている限り完璧にやる。
僕が動いている時に、数秒止まる場所でその場の説明をしている。
「お、結構綺麗じゃん。うん。左の隙間も空いてるし、奥に押せてるね。引いた時にクルンって回るのを意識する感じだね。右手も肩が真っ直ぐになる様に引けている」
箇所を指刺しながら説明する。
僕は思う。分かっている人には分かると思うが、分からない人にはとことん分からない。
どうしてその方が良いのとか、説明しないのだろうか。
「ありがとうね」
僕は弓を戻す。
素引きなので、弾いたりはしない。
「じゃあ、今度は物の説明をするね」
そして説明が終わると、再び弓道場に戻り、何をやっているかを説明する。
「矢は四本が基本だね。矢を置く位置や番えるやり方等、一つ一つの動作に気を配るんだよ。それが大会の基準だったりする。弓道は確かに的に当てる事が重要だ。だけど、それ以上に重要なのが射型だ。どれだけ綺麗にスマートにやれるかが、とても重要。少しでも興味を持ったら見学を続行してくれ。そして、入部したいと思ってくれると嬉しい。経験者でもそうでない方も大歓迎だ。強豪校じゃないし、楽しくやって行こう」
最後に笑顔を見せる杉浦先輩。
それに殆どの人が目を奪われていた。
僕はそのまま見学を続行する。
一人一人の射型を見ていると、それぞれ違いが分かる。
当然だけどね。
上手い人も居ればそうでない人も居る。
そして、杉浦先輩の番に成った。
「⋯⋯」
僕はここで初めて杉浦先輩の事を綺麗だと思った。
弓の引き方等、その動作が洗礼されていた。
語彙力を失う程には綺麗だと思った。
『よし!』
杉浦先輩が矢を放ち、的を射る。
次の瞬間には掛け声が上がる。
その後も一本、また一本と四本全ての矢を命中させる。
「皆中だ」
僕が呆然と呟く。
四本の矢を全て当てる事を『皆中』と呼ぶ。
次の瞬間には「よし!」と共に拍手が送られる。
僕も合わせて拍手を送る。
まさか皆中をこの体験で見られるとは思っていなかった。
狙って出来るのは最早プロの領域だしね。
だが、僕は勘違いをしていた。それはとても大きな勘違い。
偶然、今日は皆中を見れた⋯⋯訳では無かった。
杉浦先輩はその後も皆中を続けて出していた。
「すげぇ」
誰が零した言葉か、分からないが確かに凄い事だ。
その後、僕はもう決めていたので、入部届けを書いて、時間となったので帰る事にした。
帰り道は白奈さんに付きまとわれる事は無い。
色々と噛み合わないから仕方ないけどね。嬉しい限りだ。
自由って素晴らしい。
「あ、忘れ物した」
忘れ物に気づき、僕は弓道場に戻る。
家に帰ってから気づいたので、学校は既に遅い部活も終わる頃だ。
弓道部の終わりは17時だが、遅い部活は18時だ。
開いているか不安である。
「あれ? 天音君どこか行くの?」
「忘れ物を取りに」
「付いて行く!」
「来んで良い。晩御飯の準備を頼む」
「⋯⋯頼まれた!」
キッチンへと戻る白奈さんを見送り、僕は早足で駅へと向かった。
既に部活の片付けを始めている運動場を見ながら、弓道場へと向かった。
三階なので、階段登るのが辛い。
明かりが見えたので、ありがたい。
「え?」
パン、的を射る音が聞こえる。
僕は早く階段を登り、その光景を見る。
ただ一人で真剣に的を見て弓を引く杉浦先輩の姿を。
他に誰も居ない。ただ一人で弓を引いているのだ。
しかも、皆中である。
「おめでとうございます」
「え! あ、君は経験者君か。どうしたんだ?」
「忘れ物を取りに。杉浦先輩はこの後も続けるんですか?」
「いや。居残りは六時までだって言われてるからね。もう終わりだよ」
「じゃあ、僕が矢を取りに行くんで、片付けしてください」
「そうか? それは助かる」
杉浦先輩は弓道着を着ていた。
矢を取りに行き、土を拭いてから渡す。
「皆が居なくなった後に着替えたんですか?」
「上から着ただけだよ。この方が気が引き締まるからね」
「何時も一人で?」
「ああ。一年の頃、三年が居なくなって、人数の少ないうちの部は一年からも数人大会に出れたんだ。その時、私も選手だった。で、初戦敗退。悔しくてね。その頃から少しでも多く練習しているんだ」
「そうなんですね。凄いと思います」
「ははは。ありがと。あ、鍵返してくるね」
「あ、はい。さようなら」
「さようなら。部活始まったらよろしくね」
「こちらこそ」
僕は家に帰ると、既に晩御飯の準備が出来ていた。
帰りが遅いので、既に父親も義母も揃っていた。
「天音君、食べよ」
「ああ」
だが、僕達の食卓では、基本的に僕は喋らない。
父の前で会話するのが、難しいのだ。
「本当に、君はなんで僕の部屋に居るのかなぁ」
「私の匂いをベットに染み込ませようかと思いまして〜良い匂いでしょ? 風呂上がりの匂いだぞ〜⋯⋯だから消臭剤プッシュしないで!」
「あー臭い臭い」
「酷いっ!」
椅子に座って漫画を読む。新刊の漫画で今日届いた。
僕は本屋で買う時もあるが、ネットで買う時もある。
そんな漫画を後ろから覗き見して来る白奈さん。
「内容分かるのか?」
「ここにある本は大抵読んでますから。知ってるでょ? そもそも読む速さは私の方が上なんです。天音君の読むラノベなんて本気出せば30分あれば読み終わりますよ」
「僕はじっくり読むタイプだから」
「私もそうですー本気出せばって言いましたー」
「ムキになるな」
そして夜十時に成ったので、寝る事にした。
「おいで、私の胸の中に!」
「出てけ!」
「ブー」
翌朝、朝食と弁当を作り、食べる。
そのまま両親が会社に行くのを音で確認しながら、数分後には僕達も出る。
「せめて時間がズラせれば良いのに」
僕が出て行くのに合わせて来るから無理なんだよなぁ。
共に歩いて、同じ電車に乗る。
電車に揺られながら学校へと向かって行く学生は僕達だけでは無い。
「美咲さんとは合わせなくて良いのか?」
「良いの。帰りは一緒なので」
「友達付き合いは良いんだな」
「あの人はなんか、落ち着くんですよね〜。今日は珍しく長々話してくれますね! 嬉しい」
「そうかい」
ちなみに周りの目が結構こちらに向いている。
さっきの「嬉しい」の言葉と共に向けた笑顔が色んな人達の心を撃ち抜いていた。矢ではない、銃弾だ。
ま、僕には何一つ通らないが。
「ん?」
電車の中で、人の隙間を縫って見えた人物に僕は声を上げる。
それに気づいた白奈さんが、名前は見た目から想像も出来ない真っ黒な瞳を向けて来る。
「どうしました?」
「何でもない。だからその顔は二度と止めてくれ。まじで」
一瞬びびったなんて、何たる汚点。母さんには見せれない姿だな。
いや。何時もは凛としてたり、そこそこほのぼのとした雰囲気を纏っている人が、その真逆のオーラを放ったら、誰でもビビるだろ。
学校に向かう途中で優希君と合流する。
「天音君おはよう」
「おはよう」
「相変わらず仲が良いね。ちょっと向けられる目が怖いけど」
「気にするな」
「そうだ。天音君は何部に入るか決めた?」
「ああ。そっちは?」
「僕はね〜空道部!」
「マイナーだな。将来警察にでも成りたいの?」
「違うよ。僕は強く成りたいの。だから、空いている曜日には他の部活で体と技術を鍛えるつもりだよ。僕ってさ、この見た目だから、中学から舐められる⋯⋯ってよりも、街中で一人で居るとナンパされるレベルなんだよね。なかなか信じて貰えないし」
「大変だな。良い奴紹介しようか?」
「ほんと! だから、身を守る術や、僕は男だぞ!って見せてやりたくて」
「そっか、頑張れ」
僕は優希君の肩に手を置いて、そう言った。
「天音君は?」
「僕は⋯⋯」
「あの、私を空気扱いしてません?」
真ん中にズンっと顔を出して入って来る白奈さんに驚く優希君。
飛び退いた優希君の姿はなかなかに滑稽である。
「ちょ、笑わないでよ!」
「すまんすまん」
「未だに笑ってるよ⋯⋯全然反省する気ないじゃん」
「だから私を空気にしないでよ!」
「⋯⋯」
「私が悪い雰囲気」
「当たり前だろ」
昼食の時に僕は約束の場所に向かう。
流石に白奈さんは付いて来なかった。ただ、悔しそうな目で見てきたが。凄く見てきたが。
電車で見せたあの目に成りそうなくらいに見てきたが、無視した。
本来、僕はボッチだが、誘いはあまり断らないタイプだ。
とある男のセリフを思い出す『自称ボッチ志願者』と。
「おまたせ」
「席空いてるよ。座って座って」
ベンチに座っている優希君の隣に座り、弁当を広げる。
「凄い色鮮やか。誰が作ってるの? お母さん? それとも、えと、あの人?」
「僕が作ってるよ」
ま、最近では白奈さんと一緒に作ってるが、言わんでも良いだろ。
元々は僕一人で作ってたし、変わらん変わらん。
と、言っても父親の分だけだが。時々自分のもあるけど。
「凄ーい。今度僕にも教えてよ!」
「⋯⋯」
「え、何その複雑な目は」
「いや。君は男子力を磨きたいのか女子力を磨きたいのか分からなくてね」
「料理を女子力と言うなら、天音君も相当の女子力だって分かってる?」
それから喋りながら食べる。
僕はボッチ⋯⋯なのだろうか?
ま、そんな疑問はどうでも良いか。
「もう入部届け書いたんだっけ?」
「まぁね」
「結局聞けなかったけど、天音君って何部なの?」
「弓道場」
「え、意外! 体験って続けるの?」
「ああ。ある日は行こうかなって」
「そっか〜誰か気になる子でも出来た?」
「ん〜そんなとこ?」
「え」
◆
「ッ!」
「ちょ、白ちゃんどうしたの?」
「いえ。少し変なモノを感じたような。いや、気の所為ですかね。あの、美咲」
「ん?」
「完全犯罪にはやっぱりアスファルト工場の方が良いと思いますか?」
「何を言ってるの!」
本気で心配した美咲は机を叩いて立ち上がった。
周囲を見て、目立っている事に気づいた。
顔を赤面させて、椅子に座り直し、机に向かって引く。
「で、なんで急にそんな事言うのよ」
「いえ、ちょっと気になっただけです」
「普通そんな事、考えないと思うよ?」
何考えてんのこの人? そんな顔で凝視する美咲。
「ま、流石に大丈夫でしょうか」
「本当にどうしたの? 熱ある?」
「平熱ですし、平常運転です」
「サイコパス!」
そして白奈が家に帰ると、天音は家に帰っていなかった。
スマホを開いてGPSを確認する。
「学校。そう言えば天音君は弓道部に入るだろうし⋯⋯曜日的には今日もやってる。体験かな? 今日は天音君が晩御飯担当だし、待つしかない⋯⋯訳無いよねっ!」
天音の部屋に向かって入る。
ベットにダイブして匂いを付ける及び嗅いで行く。
「クンカクンカ」
抑えていた自分を解き放てる瞬間を最高の幸福として感じている白奈。
そのまま部屋の散策は⋯⋯しない。
そこまでの権利は無いからだ。その証明として、棚の所に家族写真が飾ってある。
天音と母親の家族写真。
「部屋綺麗だなぁ。本の為にも毎日掃除しているからなぁ。眠く成って来そう。⋯⋯いやもう寝ますか」
スマホで音楽を流し、天音の枕で天音のベットで眠る。
「天音君が私を抱き締めている⋯⋯むにゃむにゃ」
今日も今日とて白奈は平常運転だ。
◆
私は白奈、現在自分は中学の頃に惚れた人の義妹になっている。
テンプレ的なイベントを事く如く回避されている現状。
意味が分からない。年頃の男子って同い年の裸を見たら数秒硬直するんじゃないの! どことは言わないけど、反応を示すんじゃないの?
ラノベ知識なんも役にも立たないんだけど。
そう、そう言うイベントを試した事がある。
見せた瞬間に布で遮られ、逃げ出した。
本当によく回避する。寧ろ最近では立場が逆に成る様に⋯⋯いや、まだある筈だ。
「やっぱり風呂の中に侵入して待機する方が良いかな〜」
私が今後の計画を練っていると、ドアがノックされる。
天音君は絶対に私の部屋をノックしない。お母さんなら喋りながらノックする。
そう考えると、義父か。
「はい」
ドアを開けながら返事する。
「少し、良いか?」
「ん? はい」
リビングへと行き、お義父さんがウーロン茶を飲みながら話して来る。
「再婚の話の時もそうだが、俺は、天音に嫌われている」
「はい」
「確かに、昔は毒親⋯⋯そんな言葉じゃ収まらないクズだった。だが、それも反省している。それを天音に分かって欲しい。その為に、協力して、くれないか?」
「⋯⋯」
私は即答出来なかった。
確かに、親子仲良くした方が良いのは分かる。
何をされたかは詳しくは知らない。
でも、天音君の墓場のあの顔を思い出すと、どうしても簡単にはイエスとは言えない。
あの憤怒の目を収めるのは簡単では無い。
「やはり、ダメか?」
「ダメ、と言うよりも。私に出来る事が少ないんです」
私の言葉は天音君に今はまだ届かない。悲しい程に。今も昔も。
お義父さんはそんな人じゃないよ。お義父さんは良い人だよ⋯⋯そんな簡素な言葉を並べだところで、なんの説得力も無いし、「君に何が分かる?」で終わる。
私には、私はこの親子の問題に口を出してはいけない気がするんだ。
「お義父さんが何をしたか、詳しくは知りません。ですが、天音君の怒りは、私の物差しでは測れないのです。ですので、その」
「いや、良いんだ。数日間、君達はかなり仲が良いと思ってね。利用しようとしてすまない」
「手伝います!」
私は義妹、そして他から見ても『仲が良い』のだ。そんな義妹ちゃんが義兄の問題解決に参加してはダメな理由があるだろうか?
いや無い! あってはなら無い!
「お義父さんと天音君の問題は妹である私の問題です!」
「そ、そうか?」
「はい! 『仲の良い妹』である私、白奈が頑張ります! 全身全霊を持って、仲直りを完遂させます! 『仲の良い妹』が!」
ここに仲直り同盟が立ち上がった。
「あ、うん。ありがとう」
私は部屋に戻り、ベットに腰を下ろして寝転ぶ。
「仲直りって、何をすれば良いの!」
と、言う訳で翌日の学校で美咲に相談してみました。
「私の知り合いがね、知り合いが、『知り合いが』『知り合いが!』」
「うん。分かった分かった」
「親子喧嘩をしまして、かなり深刻なんです。かなり深い因縁なんです」
「はいはいそれで」
「どうやったら仲直りをさせられるんでしょう」
「へ〜(なんで私に相談するのかなこの人)」
パクパクと弁当を食べながら美咲の話を聞く。
「ん〜まずは無難に家族で出掛ける⋯⋯とか?」
「ダメですよ〜そう言う安直なのは絶対に失敗します」
「何かやった感があるね」
「そうなんですよねぇ。風呂上がりにばったり遭遇⋯⋯湯気が少し出ただけですぐに閉められて、互いの姿が見れる事は無かったんです。その逆は全力で防がれました」
「あ、うん。そっか(そっかー)」
安直なのはダメ⋯⋯一体どうすれば。
「もういっそ『仲直りしてください!』で良いんじゃない? (ま、流石にダメか)」
「良いですねそれ。採用です。今晩試します!」
ガッツポーズを決める私。
「ごめんごめん。適当にあしらった私が悪かったから、それは止めよ? ね? ね?」
「そうですか? 良い案だと思ったんですか」
「正気を疑うよ」
友達の良い案に賛成したら、その友達に正気を疑われました。
なんでぇ?
◆
「天音君! 見てよこのパフェ! 可愛くない!」
「ジャンボ」
大きなパフェだなぁ、としか感想が出ない。
見ているだけで胃がもたれる。
「食べれんの?」
「超余裕」
「⋯⋯正気を疑うよ」
「酷くない! 食べれる人が居るから販売しているんだよ!」
「冗談冗談。感想聞かせてね」
「え?」
「え?」
何言ってんだこの人って目で見られるが、寧ろその顔に何? と問いたい。
僕はそんな優希君の目を見ながら次の会話をどうするか考える。
会話に詰まるなぁ。これがぼっちの性か。
「一緒に行こ!」
「絶対嫌」
「良いじゃん良いじゃん!」
「駄々を捏ねるな子供か!」
「絶対に美味しいよ!」
「要らん」
手を離して教室に戻ろうと思ったが、涙目の優希君。
僕は友達を作る様な性格でも何でも無い。
別に気にする必要は無いのだが⋯⋯。
「前にストーキングを手伝ったよね」
「待てそれには大きな誤解が含まれている。
だからそんな語弊のある言い方はするんじゃない」
「何も違わないじゃん! 女の子の後ろを付け回して、ストーカーじゃん!」
「あーあー黙れぇ! 分かった! 分かったから! 分かりましたから! 行こう! 今度の土曜!」
「ありがとう天音君!」
優希君の笑顔を見ながら、自分は何を頼もうかと考える。
部活は今日もやるので見学しに行く。
数人にまた居るじゃん、そんな目で見られた。
そして、また杉浦先輩が皆の案内をする。
どうして何時も杉浦先輩なのだろうか?
しかも、めっちゃ上手いのに。寧ろもっと練習時間あげて、他の人にやらせれば良いのに。
ま、僕が考える事じゃないか。
「君は毎回来るね」
「家に帰りたくない理由があるんです」
「そっか。まぁ、人それぞれだよね理由はさ」
杉浦先輩が練習の順番では無く、僕の横に正座して言葉を漏らす。
真剣に他の人の射を見ている。
そして、少し違う人には指摘しに行き、正している。
「ん?」
だが、そんな杉浦先輩の事を良くない目で見ている人達が居た。
あの目は⋯⋯嫉妬に近い様な、そんな目だ。
何事も無ければ良いな。
僕は経験者だし、体験にも何回も出てるので、矢を取りに行くのを毎回やる事にした。
部員でも無い人に弓は的の前で引いてはいけない。
皆真剣にやっていると思われたが、中にはそうでは無い人も居る。
そう言う人にも杉浦先輩は率先して注意していた。
「⋯⋯」
ああやって目立った行動をすれば、当然敵も出て来る。
男性女性問わず、ね。
白奈が家に帰り、リビングへと入った。
「華ちゃん、何時に成ったらお兄ちゃん来るんだろうね〜⋯⋯どちら様?」
リビングには平然とソファーに座り、クマの人形とおしゃべりをしている小柄な人物が居た。
蒼髪の隙間から覗く同じ様に深い蒼色の瞳が白奈を凝視していた。
「いや、こっちのセリフですよ。侵入者!」
カバンを投げ付けると、女の子は素早く跳躍して避け、そのまま階段を登る。
叫び、それを追い掛ける。
階段を高速にトテトテと駆け上がり、白奈も階段を登る。
もうすぐで二階に行けると言う所で女の子が跳び、一階に着地する。
「へ?」
「べー」
舌を出して安い挑発をする。
「ムカつくわね。女の子だから手加減してたけど、もう怒ったからね」
女の子の様な運動能力は無いので、普通に階段を降りて追い付く。
壁際に追い込んだが、女の子の顔に焦りは無かった。
深く力を溜めて、高く跳び白奈の上空を舞う。
「甘い!」
ポッケからワイヤーを取り出し、女の子の足に引っ掛ける。
「ふぎゃあ!」
女の子は床へと落下し、クマの人形を下敷きに衝撃を和らげ着地する。
ワイヤーを足から外そうとしたが、それよりも早く白奈がマウントポジションを取る。
「もう逃げられないわよ!」
頭を鷲掴みにして、床に押し付ける。
「あんたこそ誰よ! ここはお兄ちゃんとクズの家でしょ! あんたのような若い女なんて知らない! まさか、身なりJKの癖にクズに堕ちたと言うのか。あぁ、お兄ちゃん、またアレに戻るのですね」
「何を言っているんですか。ここはお母さんとお義父さんと天音君と住んでいるんですよ」
「嘘を言え! どこにその証拠がある! この不法侵入者め!」
「あんたが言うな!」
「あぁ、お兄ちゃん、私はどうすれば」
「それはこっちのセリフよ。そもそも天音君は私の義兄で、妹は居ない筈!」
「何だと! お兄ちゃんの妹は私含めあと一人居る。だが、あんたは違う! ⋯⋯義兄? もしかして親の再婚か」
「え、ええ」
「そう言う事か。ふむ。何か誤解があるようだね。取り敢えず重くて上手く息が吸えん。離れて頂きたい。あとワイヤー」
「あーうん。分かった」
白奈がワイヤーを外し、女の子は足の具合を確かめる。
ドアが開き、「ただいま」と言う天音の声が聞こえた。
その瞬間女の子が走る。
◆
「お兄ちゃん〜」
「わ! どうしたんだ空?」
「変な女に追い掛けられて、ワイヤーで捕まって押し倒されてのしかかられて頭を鷲掴みにされて動けなくされた〜」
「おーそれは怖かったな。よしよし」
頭を撫でる。
現在中三だろうか? 空は僕の腹の中で蹲る。
「ちょっと! 私ですらして貰ってない抱き締めとなでなでって意味が分かりませんよ! 何でその女の子と!」
「あー。そのー。複雑だけど、空は僕と血が半分繋がった妹なんだ」
「は、はぁあ!」
それからリビングで、僕の膝の上に座る空の対面に白奈さんが居る。
白奈さんの顔には青筋が浮かんでおり、指で机をコツコツ叩いている。
「別に、空ちゃんの存在は良いんだけど⋯⋯何でそんなに心を許して、しかも膝の上に座っているのよ! 納得出来ません!」
「妹ですから」
「空だし」
「嫌です! そんな心が通じあった兄妹仲なんて嫌です! 天音君は私のモノなんですぅ!」
「何時から君のモノになったんだよ」
空はまだ母さんが生きていた時に、僕を出産してすぐの辺りくらいに不倫し、その中の一人を妊娠させ、産まれたのだ。
空と僕が知り合ったのは、空が天才だからだ。
自ら調べあげ、僕に直接会って、そして母さんとも面識がある。
ま、その時の母さんは病院に居たのだが。
元々僕も空も父に対して復讐を考えていた。
僕と空なら出来ると思った。
だが、母さんが全力で拒否した。僕は復讐を諦め、約束を守る事にした。
空はその後も調べて、そしてもう一人の半分血の繋がった妹と弟を発見した。
皆の養育費も要らないと言った人以外には渡している。
それが約束の一つなのだ。
そんなこんなで、僕と空はとても仲が良い。
多分、今の僕が一番信頼信用しているのは空だろう。
今も膝に座りながら僕にベッタリとくっ付いている。
「てか、そろそろ離れなさい!」
「これは妹特権、そもそもあんたは何様だ。何者だ? いくら義妹だろうと一滴も血の繋がりの無い妹よりも繋がりのある私はこうしても大丈夫。そして戸籍上私達は別の家族であり親族でも何でもないので結婚も可」
「そんなの許しません!」
「机を叩くなよ」
「なんで私にツッコミを入れて空ちゃんにはツッコミを入れないんですか! 理不尽です!」
「仕方ないだろ。印象が違うんだ。そもそも初対面の相手に、しかも中学生相手にワイヤー等鷲掴み等する相手よりも贔屓するのは当たり前じゃないか?」
「だ、だって。不法侵入だと思ったし」
「だからってこんな小さな女の子相手にそりゃ無いぞ」
「うぅ」
「私小さくないし」
そして、晩御飯の準備をする。白奈さんも手伝い二人で行う。
「むー私も手伝う!」
「空は待ってて良いぞ。身長低いし、火や包丁は危ないしな。その気持ちだけでとても嬉しいよ」
頭を撫でると、引っ込みながらも顔を赤らめ、こくりと頷く。
素直でとても良い子だ。
タタタタタタタタタ、高速で玉ねぎを切る白奈さんを二人して目を点にして見る。
涙をダラダラと垂らして、目を赤くしながらもひたすらに切っている。
「玉ねぎ使わない⋯⋯ハンバーグにするか」
「⋯⋯」
「あの子怖い」
「分かる」
無言でただ玉ねぎを粉々に切る白奈さんはとにかく、怖かった。
晩御飯を三人で食べる。
「と言うか、何で家に入れたのよ」
「それは僕が予備の鍵を作って渡していたんだよ。他の人達にも渡している。皆一種の家族みたいなモノだしね」
「うん。と言うか、私達の存在を知らされてない白奈さんは全く信頼されてない」
「待って、それは私の事を教えられてない空ちゃんも同じだよね? 家の事は言ったのに私達の事は言わなかったってそう言う事だよね」
「いや。どうせすぐ離婚するから良いかなって」
「なんで私はフォローされずに空ちゃんはフォーするのよ」
「そこに愛があるからよ」
「何この敗北感」
そして、今日は僕の部屋で過ごしてから明日帰るらしい。
「私の部屋に布団引くから私の部屋ね」
「いや。お兄ちゃんと寝るなんて今までに何回もあるし別にいい」
そっぽを向く空。そして僕に抱き着く。
「いやダメー!」
「引っ張るな痛い」
「お兄ちゃんが痛がってる。止めて」
「だったらさっさと離れなさい!」
空は父の姿を見ない様にして、お義母さんは父と昔の話をしている。
これで仲が悪く成ろうが僕に関係は無い。
「おはようお兄ちゃん」
「ん? おはよう空」
起きてそうそうに空が挨拶して来たので、頭を撫でる。
撫でると子猫のように嬉しそうに微笑む。
「そう言えば、どうしてこっちに来たんだ?」
「今日土曜日だから、遊びたくて。予定、大丈夫だった?」
「うん。まだ部活も正式に始まった訳じゃないし、問題無いよ」
「ほんと! やったあ!」
無邪気に笑う空を見ると、年相応である。
朝食はいつもの様に僕と白奈さんで作る。
「むー」
「ふふん」
ムスッとしている空に比べ、白奈さんはドヤ顔である。
「お兄ちゃんどこ行く?」
「そうだなぁ。行きたい所が無いなら、普通に本屋で良いか?」
「うん!」
「待って、二人でどっかに行くの!」
「え、そうだけど」
「なっ!」
「ふふん」
表情が逆転した。
両親も降りて来て、朝食が始まる。
お義母さんが空をチラチラ見て来る。
「⋯⋯そ、空」
「あんたに名前を呼ばれたくない」
「そう、だよな」
それからも無言の時間が続き、僕と空は本屋に向かって歩みを進める。
「何故お前が居る」
「別に〜私も出かける予定があって、たまたま天音君達と同じ道なだけ」
「⋯⋯お兄ちゃん反対の本屋行こ」
「そうだな」
「あ、目的地が変わった〜」
結局、三人で電車に乗って本屋が近くにある駅で降り、本屋に入る。
特に欲しい本は無いので、ブラブラ色々と見て、最近入荷した本を見る。
「空、欲しいモンあったらなんでも言ってね」
「うん。実は欲しい漫画の新刊が今日なんだよね」
「私は⋯⋯」
「白奈さんは自分で買ってね」
「え! なんでなんで! そこは彼氏が払う場面じゃない?」
「彼氏じゃないし」
「良いじゃないの〜」
「引っ付くな!」
白奈さんを押し退けていると、空が反対の腕に抱き着いて来る。
その手には漫画が握られており、上目遣いで僕を見て来る。
「お兄ちゃんと白奈さん仲が良い」
「そんな事ないよ」
頭をポンポンと撫で、レジに向かう。
「なんで否定したの!」
その後は適当な店でのんびりしながら過ごす。
僕と白奈さんは家から持って来たラノベを開き、空は漫画を開く。表紙でどんな漫画か判断する。
念の為スマホで隠れて調べると、ドロドロとした兄妹ラブコメだった。
飲み物を飲みながら読んでいると、仲のいい家族と思われたり、若い夫婦だと思われたり──その度に白奈さんは顔を緩めたり──した。
だが、それにしては年齢が若いと言う事で訳ありとなり、どんどん話はおかしな方向に進んだ。
「私達夫婦だって。やっぱり他から見たら仲が良いんだよ!」
「喜ぶな近づくな」
「お兄ちゃんは私のお兄ちゃん。白奈さんのようなモブは要らない」
「モブは言い過ぎじゃない? もしもラノベなら私って普通にヒロイン枠だよ」
「負けヒロイン」
「いやいや。もしもこれが物語なら空ちゃんが一番、負けヒロインだよ」
睨み合い、火花を散らす。
「あんたらは落ち着いて本も読めんのか」
空を家まで送る。既に外は夕方、夕日が周囲を紅く照らす。
そんな中をトコトコ歩く。
真ん中に僕が居り、右に空、左に白奈さんである。
二人とも腕に抱き着いて来て、とても歩き難い。
「白奈さん離れてくれませんか?」
「なんで私だけ!」
空を送り、家に帰る。
「じゃあねお兄ちゃん!」
「ああ。またな」
「またね空ちゃん」
「⋯⋯」
「無視!」
寝る時間帯になり、僕は電気を消してベットに横になる。
意識が落ちて行くのを感じながら、ドアの音に目を覚ます。
「あれ? 起こしちゃった?」
「なんで入って来る!」
「そんなの決まってる⋯⋯じゃん!」
飛び付いて来て、ベットに押し倒される。
パジャマ姿の白奈さんがカーテンの隙間から覗く月明かりに照らされる。
顔は艶めかしく笑っており、服が下がって谷間が見える。
「もう、なかなか意識してくれないから⋯⋯この手しか無いよね。天音君が悪いんだよ〜私が二回も告白したのに、他の女と寝るから」
僕の服の中に手を入れて、そのまま上げて来る。
「なんで私じゃダメなのよ。周りに女の子が居るから? 天音君の前から全員消せば私だけを見てくれる? 私だけが居れば天音君は幸せに成れるのに⋯⋯空とか言う変な女さえ⋯⋯えへへ、天音君の筋に⋯⋯」
そのままばたりと倒れる。
全身に乗られてとても重い。胸の感触とかの感想がラノベとかでは出そうだが、正直重くてそれどころでは無い。
手も冷たくて目が覚めたし。
「スヤー」
「寝ぼけてやる行動とはとても思えんな」
横に動かして寝かせる。
僕の力では寝ている人を起こさずに運ぶ事は不可能なので、そのままベットに寝かせる事にする。
パジャマが崩れていたので、しっかりと着させる。
「良く寝てるな」
机のライトを使ってラノベを読む。
目が覚めてから少しの間寝られないからだ。
一時間ほど読んでいると、白奈さんが寝返る。
「あま──君、きょ⋯⋯本、お揃い、だね」
「どんな夢を見てんだよ」
カーテンを開けて星を見る。
「床で寝るか」
「嫌だ。行かないで。お父さん」
「⋯⋯」
そう言えば、僕は白奈さんの父親の事を知らないな。
どんな人なんだろう。
「行かないでお父さん。ずっと一緒に居てよ! 嫌だよ! おいてかないで!」
「大丈夫か!」
発狂し、手を伸ばして涙を流す白奈さん。
誰が見ても尋常ではないその光景に僕は何も出来ず、ただ抱き締めて落ち着かせる事しか出来なかった。
「すぴー」
「全く人騒がせな」
床で寝ようとしたら、手が捕まえられていた。
離そうとしても、しっかり握られて離してはくれなさそうだ。
「あまきゅん」
「おまっ」
そのまま引き寄せられ、抱き枕にされる。
胸を体に押し付けられる。
「全く」
僕は目を瞑り、久しぶりの人の暖かさを感じて闇に落ちる。
ここは何処だろうか。
とても暗く、とても静かだ。
寂しいと思うよりも、虚しいと思えるこの空間。
『天音君』『あーまね!』『天音〜』
「え」
声を掛けられ、振り向くと沢山の白奈さんが居た。
それら全員が追いかけて来る。
「い、嫌ああああ! 来るなぁああああ!」
そして、光が刺して来る。
「だはあ!」
目を見開き、激しく呼吸をする。
とてもおぞましい夢を見ていた気がする。
「天音君。寝込みを襲うくらないら、声を掛けてくれたら良いのに。私は拒んだりしないよ?」
顔を赤らめ、柔らかい笑みを浮かべる白奈さん。
どうしてだろうか。何時もなら少しイライラするのだが、今はとても怖い。
心臓がバクバクとする。緊張よりも恐怖。
「周りを見ろ」
「え? ⋯⋯ここ、私の部屋じゃない! あ、天音君。わざわざ自分の部屋に⋯⋯」
「君を運べる程僕は力が無い」
「それは私が重いと?」
「それはもうとっても」
「酷い!」
約束通り優希君と一緒にカフェテリアに来ている。
顔くらいの大きさがあるパフェを注文する男の子を見ながら自分はコーヒーを頼む。
「何も食べなくて良いの?」
「見ているだけで腹いっぱい」
事実である。
生クリームがタップリに盛り付けられ、フルーツの数々、見ているだけで胃もたれしそうだ。
コレを平然と平らげる女子に僕は拍手を送ろう。なので目の前の男の子にも送ろう。
ぱちぱち。はいおしまい。
「なんで拍手?」
「気にするな」
パクパクと止まらないスプーンの動き。それどころか「美味しい美味しい」と加速している。
もうすぐゴールデンウィークな訳だが、その後に待ち受けるのは当然テスト。
なのでテストの話でもしようかと考える。だが、今は休日、学校の話をしたくないかもしれない。
難しい瀬戸際である。
「そう言えばもうすぐゴールデンウィークだね。天音君は何か予定ある?」
「今のところは無い」
「そうなの? 家はね、毎年海外に旅行に行くんだ! 天音君の家は家族旅行とかしないの?」
「しないな。考えるだけでも嫌気が刺す」
「え〜凄い反抗期だね」
「反抗じゃない事実だ」
あの父親と旅行だと? 考えるだけでも吐き気がする。
母さんや空達ならともかく、あの父親とだけは嫌だ。何があっても。
だからと言って、今の家族で家族旅行に行こうと言われたら断れるか分からない。
でも、父親と行きたくないのは確かだし、今年からは危険人物も居るので、余計に行きたくない。
「本当に嫌そうな顔するね」
「想像を絶する気持ち悪さを感じたよ」
そんな他愛のない会話していると、遠くから声が掛る。
「経験者君じゃないか」
「天音です。杉浦先輩はどうしてここに?」
「勿論、そちらのお嬢さんが食べている物を食べにね」
「お嬢さん⋯⋯」
「天音君よ、君も隅に置けないね。こんな可愛い彼女さんが居るって」
「彼女⋯⋯」
僕には見える。
超高速で減っていく緑色のHPバーが。既に黄色のラインを突破して赤である。
あと一手でゼロになり瀕死に成りそうだ。
「いえ、彼は男の子です。東條優希君です」
「⋯⋯へ? 男の子?」
杉浦先輩がそろーり、と優希君の方を見る。
顔などは丸々女の子、少し涙目で俯いて顔が暗い。
服装はどっちかと言うと分かりずらい服装であり、一目だけでは女の子って思うのが自然だ。
ま、それを自然に思わせるだけの才能が優希君にはあるのだろう。本人は望んでないだろうけど。
「す、すまない! 失礼な事を言ってしまった! えと、悪気があった訳じゃなく、ただ君があまりにも可愛くて⋯⋯あぁ、別に女の子って意味じゃあああ!」
会話が進む度に優希君の表情が無に成って行く。
先程までパクパクと高速でデカ盛りのパフェを食べていた男の子には見えない。
さっきの笑顔は何処へやら、たったの二言くらいで意気消沈。
さて、この空気をどうするか。周りの目も段々と集めているし。
「えっと、えっと」
「優希君、隣に杉浦先輩を座らせても大丈夫?」
こくりと頷く。既に返事する体力すら残っていないようだ。
これは元気の欠片ではなく、元気の塊が必要かもしれない。そんな物無いので代用策を模索する。
「取り敢えず、目立ちますので、お座りください」
「あ、うん。お邪魔するよ」
「杉浦先輩は部活はどうしたんですか?」
「顧問が色々と整理が必要らしくてね、今日は休みだ」
「そうですか⋯⋯優希君、それ食べないなら僕が食べるよ?」
「それはダメ!」
少し元気になり、パフェをもりもりと食べる。この光景を見て女の子と言える人は居るだろうか?
僕には分かる。通行人百人に聞いて、百人中百人が女の子と答えるだろう。
まず、男だと見せるつもりないよね、この人。
「お邪魔してすまないな」
「席が空いてませんし、他人と相席するなら知り合いが良いですよ。優希君とは初対面だと思いますが」
「東條君、ほんとに無神経な事を言った。すまない」
「大丈夫です。あんまり気にしてません。タイプ一致の四倍弱点攻撃を受けた程度のダメージしかありません」
「ついでに急所だな。良く耐えたな。君は頑丈の特性持ちだよ」
「え、何その会話。全然分からないんだけど」
それから優希君が食べ終わったので、杉浦先輩とは別れてゲーセンに行く事にした。
僕はゲームにいちいち百円使うと言うシステムが嫌いなので、一度も来た事が無かった。
あちこちからサウンドが流れ、耳を突き抜ける。
簡潔にまとめるなら、超うるさい。
よくここで平然とゲームが出来るな、そう思うくらいにはうるさい。
子供達が無邪気に某人気格闘漫画のゲームに並んでいる。他にも並んでいる。
家族でクレーンゲームで遊んでいる人も入れば、恋人同士で太鼓を叩く人も居る。メダルゲームに居座る大人、さらには千円ガチャに挑む挑戦者も居た。
そんな中、優希君が向かったのはクレーンゲーム。
そこには可愛らしいクマさん人形が置かれていた。
かなりの大きさである。
「今日入荷だったんだよねぇ。見てて、僕の腕前を!」
「お、自信満々だな」
これは一発で凄技を披露してくれるのだろう。
配信サイトで載っている様なテクニックを見せてくれる事を期待して見ていると、普通に掴みに行った。
確かに、綺麗に収まってはいる。いるのだが⋯⋯当然最初の方のクレーンなんて、アームの力が弱いから掴んでも上に少し上げるだけで終わる。
「もう一回!」
チャリンと百円を無謀にも投下して、同じ様に掴みに行く。
場所は完璧なのだが、馬鹿正直過ぎる。
「ちょっと貸してみ」
僕が代わり、百円を入れる。
そのままクマの横辺りで止める。
アームを広げ下がる。
「天音君は分かってないな〜こんな真横にしたら取れないよ?」
「⋯⋯」
僕は思う。多分、彼もゲーセンは初めてなのだろうと。
ちなみにゲームの方では、クマに付いているネームプレートの輪っかに入り、絡めて取る事に成功した。
「なんでぇ!」
「クレーンゲームって、馬鹿正直に捕まえても取れる事の方が稀なんだよ。第一、こう言う一つしか置いてない系は馬鹿正直に取れない」
「だからって一回で? もしかして経験者?」
「昔にホテルにあったクレーンゲームで母から教わった。『百円あれば金は稼げる』って」
「転売ヤー! 良くないでしょ」
「安心してくれ。純粋に売るだけだ」
「えー」
今考えたら、母さんは色々と出来る気がする。
ま、あんな父親を養って、僕まできちんと育ててくれた母親だ。
色々出来ても不思議では無い。
今、母さんが生きていたら、僕はどうな風に成長していただろうか。
ゴールデンウィークへと突入し、白奈さんは当然の様に部活の予定も把握しているらしく、部活の無い日にキャンプに行こうと誘って来る。
当然、家族全員でのキャンプだ。
僕の答えは決まっている。
「楽しんでこい」
「天音君が居ないと楽しくないよ〜一緒に行こうよ〜」
「駄々っ子か。断る」
「えーなんでー」
「興味無いし嫌だからだ」
「そっか」
白奈さんにしては素直に引き下がった事に少し驚くが、深堀する気は無い。
そのままドアを閉めて追い出そうと思った所で、白奈さんは指を下に刺す。
「なんだ?」
「強制参加」
「知らんな」
「へ〜良いのかなぁ。天音君が義妹の下着姿の写真を掻き集めて保存しているって噂を流しちゃおっかなぁ」
「そんな証拠が何処にあると?」
先程指を刺していたマットを剥がして中から複数枚の写真を取り出す。
それは着替え中の白奈さんの姿。白い肌が大幅に露出している。
当然、僕は撮った覚えがない。カメラを用意した覚えもない。
何も覚えが無いのに、その写真は盗撮したかのように撮られている。
「⋯⋯僕、そんな写真知らない」
「言い訳なんて見苦しいぞ〜」
「言い訳じゃない! おまっ、まじで何やってるか分かってるか? てか、どうしてそんなに枚数があるんだよ! なんで気づかなかったんだよ僕!」
「風呂に入る度に用意してたんだぁ。それに、バレるように仕組まないって〜」
なんだろう、この笑顔。思いっきり殴りたい。
きっとスッキリするんだろうなぁ。はは。
「なんでそこまで連れ出したいんだ」
「引きこもりを解消させようかと」
「部活もやってるし、問題ないだろ。引きこもって無い。外に出る必要が無いだけだ」
「それを世の中引きこもりって言うんですよ〜」
だが、僕はどうしても行きたくない。
遠出だけでも最悪と言って差し支えないと言うのに、さらにキャンブだと?
虫が居るだろ! 僕は虫がそこそこ苦手なんだ!
どうしても行きたくない。どうしても行きたくない理由が三つもあるよ。
「それを言って、誰が信用してくれる?」
「私って、可愛いからクラスでは人気だし〜SNSではフォロワー10万越えだし〜声を拾わない映像だけの防犯カメラを設置してあるよ〜」
「な、なんて抜け目のない奴。何気にフォロワー10万って凄いな」
「コスプレ写真投稿してたら自然と増えたのよ」
中学の時は素の見た目を隠していたし、余計に他人にリアルがバレなかったのかね。
しかし、ここまでされると普通に脅しな気がするのは気のせいじゃないだろう。
ネットにその事を書いても僕だとバレる可能性は低いと思うが、⋯⋯そうだな、白奈さんがここまで必死なんだ、行ってやるか。
「あー行きたくねぇー」
「珍しく素を出しましたね」
そしてキャンプに行く日となり、大きな車に乗って四人でキャンプ場へと向かって行く。
だが、その中で僕は一言も言葉を発し無かった。
ラノベを読んで、酔っている。
大体は義母と父親の会話である。
「天音君の寝顔(?)だぁ」
高速のシャッター音が聞こえるが、体が動かない。
これは深刻な酔いだ。
普段から電車は使ってあるが、車は基本的に使わない。
馴れない車で、しかもラノベも読んで、完全に車酔いをして体が動かない。
頭がクラクラする。
「ぁ」
絞り出せた言葉がコレだ。最初で最後の言葉だ。
酔い止めが欲しい⋯⋯誰も酔ってない。つまり必要ない。
これからは酔い止めを常備していよう。あと、念の為に袋も。
ま、途中から気を失って普通に寝ていたのだが。
目的地に到着した。
他の客人も居る、整備された場所である。
テントを設置して行く。僕はやり方が分からないので、白奈さん達に任せ切りだ。
「慣れてますね」
「はい。前に家族でした事がありまして」
義母と父親の会話。
白奈さんが僕のベットで寝ていた時の事が過ぎる。
何があったのか、何をしたのか、僕は絶対に聞かない。
聞いてはダメだ。
僕はバーベキューの準備をする。
ちなみに焼かない。そう言うやり方を知らない。
知らない事はやりたくない。火を使うし危険だからね。だから立てて炭を入れる程度だ。
白奈さん母娘に頼る事にする。
「ほれほれ〜暇なら釣りにでも行ってまいれ〜」
「ちょ、こんな所で魚なんて釣れるのか?」
「人も多いし、問題ないんじゃない? ゴーゴー! 魚釣っても捌けないから逃がしてね」
「まじで釣る意味は! しかもなんで釣竿があるんだよ!」
本当に戦力外なので、行く事に。
適当に椅子を設置して座り、ラノベを読みながら⋯⋯無い。
「テントか車に置いて来たか。スマホは⋯⋯あるな。電子書籍にするか」
目が痛むから長時間の読書は控えるがな。
暇だなぁ〜と思っていたら、隣りに最悪の存在が立つ。
同じように釣りを開始する。
体力があるから手伝う傀儡と成れば良いモノを。
「な、なぁ天音」
「⋯⋯」
「その、本当に悪かったな。悪いと思っている。反省している。許してくれとは⋯⋯思ってない。だけど、二人の前だけでも、普通の親子として振舞ってはくれないか?」
「⋯⋯普通って何?」
「そ、そりゃあ」
「普通ってなんだよ! あんたの普通は仲良く会話する親子かもしれない! でも、僕の中では親を嫌う子の親子が普通なんだ! そうしたのはあんただろ! それをどんな詭弁を並べようと覆らないんだよ!」
「⋯⋯本当に」
「すまない? ごめんなさい? はぁ? 謝って何に成る! 反省して何に成る! 何も成らないだろ? 母さんが帰って来るのか! 過去の記憶が消えるのか! 帰って来ないし消えない! はぁはぁ。もう良いか? 満足か?」
「⋯⋯」
「大体、さ」
引っ張られ、竿を引く。
「反省しているなら、母さんが苦しみ辛い時に不倫した相手に誠意を見せるべきなんじゃないか?」
「ぅ」
糸が切れた。石にでも引っ掛かったのだろうか。
「もう話す事は無い。⋯⋯じゃ」
「⋯⋯本当に、すまない。俺は、父親として、最低な⋯⋯」
「勘違いするなよ。『父親』じゃなく『男』として『人間』としてダメだ。それが分かって無い時点で、あんたは『言葉』だけの人間だ。『言葉』だけの人間は信用にも信頼にも値しない」
それだけ言い残し、僕は二人の元に帰る。
その道中で白奈さんとすれ違い、どこか悲しげな目を向けて来た。
あの光景を見ていたのだろう。
「君の差し金か?」
「⋯⋯」
「成程ね。あそこまでした理由が分かったよ。君は、『父親の味方』なんだね」
一泊する予定らしいので、晩御飯の準備を義母が始める。
それを父親が手伝う。その光景を無表情に眺める。
「こらこら、表情が硬いぞ〜」
ほっぺを抓られ、伸ばされる。その後、顔をモミモミされそうに成ったので、払い除ける。
僕はテントに戻り、自分のカバンからラノベを取り⋯⋯なかった。
「車の中か? いや、それはありえない」
僕がここに来る前にきちんとカバンの中身を確認した。
その時には確実にあったので、無い訳が無い。
思い違いした訳でもない。テントを立てる前にもう一度確認したからだ。
だから、おかしい。唐突に無くなる可能性は一つしかない、誰かが盗んだ。
まぁ、大体の予想はつく。
「仕方ない、スマホで⋯⋯無い!」
ポッケを探しても無く、川の方で落としたかと考える。
確かに、あの時は頭に血が上っていた。これは可能性がある。
晩御飯までの時間はある。川まで探しに行く事にする。
立ち上がりながらテントの入口を見ると、そこにニヤニヤとした顔を浮かべる白奈さんが居た。
その手にはラノベ、そしてスマホを持っていた。
「求めているのはこれかい、お兄さん」
「おま、ラノベはともかく、スマホなんていつの間に⋯⋯はっ!」
僕は思い出す。
先程、頬を抓られて無理矢理笑顔を作らされたあの時を。
その時、白奈さんは僕の背後に居た。
そして、彼女の隠された様々な技能があれば、ポッケから速やかにスマホを盗む事は可能だろう。
「な、何が望みだ」
「そりゃあ天音君だよ。⋯⋯少し、良いかな? 場所を変えたいの」
「⋯⋯」
睨むと、悲しげな顔をする。しかし、その手はヒラヒラと動いている。
スマホとラノベを脅しの材料として見せびらかして来る。
こいつ、僕の弱点を正確に見抜いてやがる。
晩御飯が出来るまで、両親を置いて暗い川まで来た。
既に月が登り、星々が輝いている。
「いやー綺麗だねー」
「心にも思ってない事言わなくても良いよ」
「そりゃあどうも。星に興味が無い物で」
「理科の内容は覚えてるでしょ」
「まぁね」
そして、人気のない上流まで移動したところで、平たい石に腰を下ろした。
僕も石に腰を下ろす。
「つっ」
暗い中きちんと石の形が見えておらず、少し凸のある所に座ったらしい。
尻が痛いので立つ事にする。
「ふふ」
「笑うなら帰るぞ、ラノベとスマホは返せ」
「それより、お話しよ。その為に連れて来たから、ね」
「お断りだ。もう、君と話す事は無い」
「⋯⋯それは、私がお義父さんの味方だから?」
僕は何も反応を示さない。示す必要が無いと感じたからだ。
無駄な動きはしたくない。
「それは勘違いだよ」
「勘違い? 僕をここに連れて来る為に色々してたよね。僕は純粋に君が行きたいと思ってた。でもさ、違ったんだな。釣りに行かせたのも、全部、父親と話させる為に仕組んだんだろ? それで味方が勘違い、だ? そんなのどうやって信じたら良いんだよ」
「⋯⋯確かに、私は天音君とお義父さんが仲良くしてくれたら嬉しいと思っている」
どんな詭弁を並べるか期待しないで待っておく。
暗いせいか、月がこの場を照らしているが、とても暗い。
きっとこの暗さは僕の気持ちの問題だろう。いや、前髪が長いせいか。
「天音君は、お義父さんの事が嫌い?」
「言う必要があるのか?」
「あはは。だね。⋯⋯確かに、私は天音君とお義父さんが仲良く成れる様に手伝って欲しいって言われた。そして、私はそれに賛成した」
「⋯⋯」
「私はあくまで、仲良くする為のきっかけを作るつもりだった。味方に成ったつもりは無い」
「どこにそんな証拠があるの?」
白奈さんは立ち上がり、僕の前まで来た。前髪のせいで、上手く表情が見えない。
少し前髪を切ろうか? それとも本当は見えているのに、白奈さんの前髪で見えないのか。
だけど、白奈さんが今、どんな顔をしていようが僕には関係ないだろう。
「証拠? そんなの簡単に示せるよ」
「⋯⋯ッ!」
抱き着いて来た。その衝撃に尻もちを着いた。
場所が場所なだけにとても痛い。ヒリヒリと痛みを感じる。
だけど、声を出せなかった。
僕よりも早く白奈さんが言葉を漏らし、喋る機会を失った。
「私が天音君を好きだからだよ。告白したあの時から、いや、それよりも前から、この気持ちは変わらないよ。何があっても、それは変わらない。⋯⋯きっと、貴方が全てを憎しみ、全てを嫌いに成っても、私は貴方の隣りに居る。貴方が何を成そうとも、私は貴方を愛している。それが証拠」
抱き締め方が寄り一層強くなる。
痛みは自然と感じないが、他にも何も感じない。
白奈さんの温もりも、体の感触も、感情も、何も感じない。
言葉で『愛している』と言われても、僕の心は動かない。
「きっと、私が何を言っても貴方の心は動かないでしょう。私はまだ、信頼も信用もされてない。だけどね、私はいつか、心から信頼も信用もして貰える人に成るよ。貴方が心から信頼しているのは母親でしょ? そんな存在に⋯⋯私は成れないか」
少し湧いた怒りが収まった。
「ね、聞こえる? 私の心臓の音が。速いでしょ? ドクドクって、きっと知らないイケメン男に抱かれても、こんなに心臓は動かない。天音君だから、私はこんなに緊張しているんだよ」
「⋯⋯」
「今までの行動を考えると不思議かな? 私はね、昔のお義父さんを知らない。でも、今のお義父さんなら知ってる。きっと、君の言うお義父さんとはもう、違うよ」
「人は簡単には変わらない」
「そうだね。でもさ」
少し離れ、顔と顔が見える様にする。
とても近く、言葉を放つ程に息が顔に掛かる。
「簡単って言葉じゃ収まらない、事が起こったら、変わるんじゃないかな?」
愛する人の死⋯⋯それが父親を変えたと言うのか?
バカバカしい。
「過去に縋るは愚か者」
「⋯⋯ッ!」
「君が私に言ってくれた言葉だよ。貴方はお母さんに縋り過ぎている。記憶の母親と言う絶対的な味方に依存している。そのせいで、貴方は昔の父親しか見ていない。見れていない。もっと、今の父親を見てあげて、今の父親を真正面から見てあげて」
僕は何も答えない。
答えるのが面倒だ。
「私の言葉は貴方の心を動かせない。とっても悲しい。でもさ、私は絶対に諦め無い!」
川の方に向かって歩いて行き、振り返る。
月が、靡いた髪諸共照らし、顔を見えるようにした。
どこか儚げな笑顔を作っていた。
「私は貴方を愛している! だから、私は貴方の味方、何があろうとも、それは変わらないし変えられない。だから、いずれ貴方に愛して貰えるように、貴方に信頼して貰えるように、貴方に信用して貰えるように、頑張る! だからさ、少しは私の言葉を、その身に刻んで欲しい!」
「⋯⋯断る」
「うん。ありがと。やっぱり、天音君はそっちの方が良い。無駄に憂鬱な雰囲気なんて出さなくて良いんだよ」
「なんだよ、それ」
「今は分からなくても、いずれ分かるよ。さ、もう出来てるだろうし、戻ろっか」
「そうだな。戻るか」
1話1話の繋ぎ合わせなので、おかしな部分があったと思いますが、お読み頂き感謝します