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世界の果てで、永遠の友に ~古代ローマ・ティベリウスの物語、第三弾~  作者: 東道安利
第三章 ヒスパニアのティベリウス
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第三章 ヒスパニアのティベリウス -1

第三章 ヒスパニアのティベリウス



 1



《日付はアウグストゥスとタウルスが執政官の年(前二十六年)、二月二十一日》


親愛なるティベリウス・ネロ

 この手紙を読むころには、君はもうヒスパニアにいるんだろうね。戦端が開かれただろうか。

 ぼくは元気にしている。前の手紙に書いたときと変わらず、元王宮殿の牢屋の一角に居候している。せっかくやきもきしてやったのにお前はなにをやっているのかって君は怒るかもしれないけど、大丈夫だよ、もう。色々すまなかったね。

 君ももう聞いたんじゃないかと思うけど、ぼくもコルネリウス・ガルスのことを聞いた。もう一週間も前だ。こんなことを言っても信じてもらえないかもしれないけど、ぼくなりに衝撃を受けた。もっと早く君に手紙を書きたかったんだけど。

 いや、特に知らせたいことがあるわけじゃないよ、今は。ようやく君に長めの手紙を書けるようになってうれしいと思っているよ。

 もうガルスはこの世にいない。この現実を理解できているのか、ぼくはまだ自信がない。ほんの二ヶ月前、ガルスはぼくに言った。「やってみせる。これからがこのコルネリウス・ガルスの大勝負だ」

 首都で死んだということは、結局彼はカエサル・アウグストゥスに会えなかったわけだ。それがなんだかぼくにはいちばん堪えたよ。なんでぼくがって話だけど。

 ぼくが聞いたところだと、ガルスはまず元親友のヴァレリウス・ラルグスとかいう男に告発された。ぼくは会っていないと思うけど、このアレクサンドリアにいた人で、帰国後、ガルスの数多くの不敬な所業を知らせてまわった。だれへの不敬だったんだろう? アウグストゥスか、国家ローマか、それともこの神の国エジプトか。

 カエサルはガルスから総督の地位を剥奪した。そうしたとたんラルグス以外にも元友人が、我も我もと大挙してガルスを告発した。元老院は全会一致でガルスを有罪とした。全会一致だって? 有罪なのはぼくも同意するしかないけど、全会一致? だれもガルスをかばわなかったのか? 六百人もいて一人も? 騎士階級で、元老院議員じゃないから? ほとんど解放奴隷上がりだから?

 元老院はなんと死刑宣告までするところだったって? それをカエサルが介入して、なんとか国外追放処分にしたんだって?

 死刑だって?

 ぼくのあこがれる元老院議員とは、全員コルネリウス・ガルスだったのかな? 彼ですらぼくを剣闘士にする程度で済ませたのに。

 ああ、おかしいよね。ぼくらしくもない。感情的になっている。手紙を書いていてこうなるなんて初めてだ。しかもぼくに無実の罪を着せて投獄した男に関して。君はわけがわからないと思うだろうね。君はぼくのために、ガルスへ助命嘆願までしてくれたっていうのにね。

 実のところぼくもわけがわからないんだけど、直に知っている人間が死ぬと言うのは、きっとこういうことなんだろうね。

 ガルスは判決を待たずに自害した。剣で血管を切り裂いたって聞いている。

 ぼくには彼が自殺するような男にはとても見えなかったよ。でも例の親友ラルグスをはじめ大勢の友人に裏切られたことが、さすがに堪えたんだろうか。元老院の全会一致の有罪、死刑宣告検討も。もうだれも信じられないと思ったんじゃないかな。罪を軽くするよう望むカエサルからの手紙は、ガルスの絶望に間に合わなかったんだろうか? あるいは間に合っていたとしても、今更もう変えられなかっただろうか、ガルスの運命を。

 親友ってなんだろうね、ティベリウス。

 こう思ったのはぼくだけじゃないらしい。聞いたところだと、プロクレイウス殿はラルグスへの軽蔑を隠さなかったって。「ああ、臭う、臭う。友人を裏切る臭いがする。とても近寄れたもんじゃない」と、当人の前であからさまに皮肉ったらしいね。しかし彼であっても、ガルスの最期を止められなかった。彼も騎士階級だから、元老院の裁判には関われなかったにせよ、盟友の自死を思いとどまらせることはできなかったんだ。

 ヴェルギリウス殿でさえ、きっとそうだったんだろう。彼の話は聞かない。不気味なくらいにね。だからちょっと心配になってきたよ。あとを追わなきゃいいんだけど。いやまさか、彼まで告発した友人の群れにはいなかったよね? そうだったらぼくも今後永久に人間不信になるよ。

 さらに聞いたところ、カエサルも涙を流したってね。ただしこれは、「友人へ好きなだけ恨み言を言うことが、私にだけ許されていないんだな」という言葉と一緒に出た涙だとか。どういう意味だかぼくにはよくわからないけど、やっぱりカエサルがガルスと直接会うことにならなかったのが悔やまれるよ。

 でも少なくともカエサルは、ガルスを「友人」と言ってくれたんだね。好きなだけ喧嘩できたらよかったのにね。

 アグリッパ殿とは会えたんだろうか?

 それにしてもどうしてこんな話が、これほど早くアレクサンドリアまで届くんだろう? 新しい総督がカエサルと上手くやっている証拠かな。ガルスに悪いところがあったのは確かだと、ぼくも身をもってよくよくわかっているんだけど、こんなことはもう二度と起こってほしくないよ。もう取り返しがつかないんだけど。

 ところで、ぼくが今最も気がかりな話はまったく聞こえてこない。コルネリアだ。彼女はいったいどうなったんだ?

 彼女にはもうガルス以外に身内がいなかった。しかももしかしたら、正式に認知されている子じゃなかったのかもしれない。

 例の告発した友人どもは、ガルスの資産の一部分でも自分のものにできると考えたのかもしれないけど、元老院では、彼の遺産は没収の後、すべてカエサルに与えられるとされた。そうなるとコルネリアの身の振り方も、カエサルに委ねられることになるんだろうか。今ヒスパニアにいるのに?

 コルネリアはもう十五歳になった。たぶんだれかと結婚させられると思う。変なやつが伴侶でないことを願うしかないけど、それはたぶんまだましだ。どこかひどいところへ売られるなんてことにならなきゃいいんだけど。

 わかっているんだ。ぼくにコルネリアを気にかける資格なんてない。

 こんなところで油売ってないで、ぼくがローマに探しに行けって話だ。

 祖父さんと叔父貴は、来月にもインドへの旅を始める。前の手紙で、君にだけ知らせたことだったけど、父さんの件でも、ぼくはもうアレクサンドリアに留まる理由がなくなった。

 一応、調べるための奴隷は送った。ポッツォーリにいる母さんにも、申し訳ないが頼んだ。でもぼく自身はなにもしていない。人生で初めて恋をした人のために、ぼくはなにもできない。

 コルネリアを守れないからって。彼女へどんな責任も果たせそうにないからって。

 そうだよ、ぼくにはガルスの似非友人どもを軽蔑する資格さえない。それよりひどい。無力どころじゃない。親友とは云々を考える以前に。

 牢屋がねぐらではあるけど、今やぼくは自由の身だ。それなのにね、ティベリウス、ぼくはまだここを離れられない。

 こんな様では帰れない。だったらどうすればいいかってのがわからないでいるんだけど、そう思うんだよ。

 ああ、まったくひどい手紙だった。いっそ君がヒスパニアでいつぞやと同じことをしたって話を聞いたら、ぼくはもう一度君を、ぶん殴るどころか刺し殺しに行くかもね。

 なんて、信義に反することも書いた。これはぼくからの史上最悪の手紙になったはずだ。これよりひどいことはもうない。

 ティベリウス、取ってつけたように言うけど、無茶をしないで。無事を祈る。





 三月九日、この手紙をティベリウスは、かろうじてタラゴーナで受け取った。翌日にはこの都市を出発し、いよいよ戦場へ向かうところだったからだ。

 ルキリウスの件を置けば、平穏に過ぎた冬だった。アウグストゥスは各地から訪れる使者と会見して忙しくしていたが、家族がそばにいるということもあり、ティベリウスはじっくり腰を落ち着けていられた。

 もちろんただ無為に過ごしていたわけではない。年が明けてすぐ、軍団副官としての勤務を始めていた。ナルボンヌにいながらではあるが、まずはローマ軍の冬営期の仕事を覚えた。滞りなく配給を行き渡らせる等の、雑務ではあるが日々に欠かせない営みだ。また天候が穏やかであれば、ガリア・アクィターニアへ道路工事の監督に出かけた。実際は監督というより見学と実践であったが、学ぶことが多かった。肉体鍛錬も怠らなかった。全体の戦闘訓練に加え、個としての腕も磨こうと努めた。ローマ軍内では、万一のために自分と階級の違う者との手合わせが禁じられていたが、マルケルスやピソやグネウスと剣を交えた。ドルーススの相手もした。

 アウグストゥスはナルボンヌまで二個軍団を同行させていた。これとは別に一個軍団をアルルに残し、背後のアルプス山岳民族への備えとした。何事もなければ、彼らはガリアで道路や水道工事を進めるのだろう。

 ヒスパニアにはすでに五個軍団がいた。ただしその軍団は、四年前のエジプトとの戦争終結後、大幅な再編がなされている最中である。もうじき退役し、主にヒスパニア南部に入植予定の者たちもいるという。そうなるとそれぞれ定員とされる六千人を割って、一個軍団につきおよそ五千人となる見通しだ。

 ナルボンヌは冬季の気候が穏やかではあったが、二月下旬、春の訪れを待たずに、アウグストゥスはこの都市を出立した。地中海に沿うローマ街道をひたすら進み、雪に覆われたピレネー山脈の脇をすり抜けた。このときさらに一個軍団をガリア側に残してきたが、これは作戦の一環とのことだ。

 翌月にはタラゴーナに到着した。ローマ人がこのヒスパニアに建設しておよそ二百年になる都市だ。

 ローマ六個軍団三万と、現地の補助軍一万五千、総勢四万五千が進軍を開始する。ヒスパニア北部に集う、ローマに不服従の部族を敵とし、イベリア半島の完全制覇を目指す。

 すでにこの戦争は、アクティウムの海戦が終わった時から始まっていたと言える。ヒスパニアをめぐる争い自体は、もう二百年も前に始まっている。カルタゴ人と覇権を争い、ローマ人同士も血を流し合った。土着の民の激しい抵抗も受けたが、ローマの執政官が変わるたびに戦略が変更されたがために、苦しみは余計に長引いた。地中海世界のほかのどの戦地よりも激闘がくり広げられたとされる。だがそれもあとわずかだ。長い戦いを終わらせる時が来た。

 三月十日、ローマ軍はタラゴーナを出発した。ティベリウスとドルーススは母リヴィアに接吻をし、無事に帰ることを約束した。

 妻に見送られる最高司令官は、馬ではなく輿に乗っていた。傍らでは、初陣を飾る甥マルケルスが騎乗していた。

 タラゴーナの人々は声援で送り出した。

「初々しいことよ、マルケルス!」

「幸いかな、カエサル・アウグストゥス! 自身も初陣を果たした土地で、後継者のそれも飾ろうとは!」

 すでに凱旋したかのように騒ぎ、無責任にはやし立てる者もいた。「猛将マルケルスの再来だ!」

「敵の大将を一騎打ちで仕留めなされい! ご先祖の『ローマの剣』に続け!」

 一方で、ひそひそささやき合う声もあった。

「大丈夫だろうか? アグリッパのいない戦場で、カエサルが勝利したという話を聞いたことがないんだが……」

「すでにここへ来る途中、雷が横に落ちてあわや死にかけたそうだよ」

 それは、まだ冬が居座る夕暮れ、ピレネー山脈に近づいた際の災難だった。これまで温暖だったからと、思い返せば無謀な行軍だった。アウグストゥスは無事だったが、お供の奴隷が一人、一瞬で命を奪われた。

 そのときティベリウスは、アウグストゥスの輿のやや後方にいた。その光景を前にまったく動けなくなったが、恐慌を来したのは近くにいた全員だった。結果的にティベリウスが、輿から地面に投げ出されていたアウグストゥスに最も早く飛びついた男の一人になった。「おおっ、ティベリウス!」継父はティベリウスを抱きしめた。「お前は大丈夫だったか? 怖かったろう!」

 ティベリウスは目を閉じた。思い出しかけていたなにかは、もう一度頭の奥底に封じられた。

 ティベリウスとドルーススは急いで最高司令官の輿に追いついた。

 目指すはヒスパニア北部の、カンタブリ族がはびこる一帯だった。かの部族こそ、此度の遠征でローマが討伐する敵となる。土着の民族であるが、長年ローマへの服従を拒否して反抗し、彼らの自由を固守してきた。それだけならまだしも、周辺部族をも支配せんと試み、たびたび侵入をくり返してきた。これ以上放置してはおけなかった。

 またその西隣に居住するアストゥレス族も、不穏な動きを見せているとの情報が入っていた。今のところカンタブリ族ほど反抗的態度は示していないものの、いよいよとなれば彼らと手を組むか、ローマ軍の背後をついてくる可能性があるという。こちらにも警戒を怠れない。

 カンタブリ族が、ヒスパニアに残された最後にして最も乱暴で傲慢な部族であるとは、ローマがヒスパニア全土を支配下に置くための名目であり、誇張なのかもしれない。しかしローマは友好関係にある地元民を守らなければならない。ローマ人やギリシア人をはじめとする植民者や商人の安全も同様だ。文化、宗教を維持し、ある程度の自治を認めるとの交渉にも相手が応じないならば、ローマは力でもって覇者の責任を果たさなければならない。この世界最西端の地に、末永い平和を確立する時だ。

 アウグストゥス率いるローマ軍は、エブロ川に沿ってヒスパニアの奥地へ進んでいった。ガイウス・アンティスティウスが副将兼第二軍団の軍団長を務めていた。

 ローマ軍の軍団番号は、様々な経緯があったがために重複している。たとえば第六軍団は、このヒスパニアのほかシリアにもいるし、第三軍団に至っては三個もある。

 第二軍団アウグスタがアンティスティウスに、第四軍団マケドニカがガイウス・フルニウスに、第五軍団アラウダエがテレンティウス・ヴァッロに、第六軍団ヴィクトリクスがティトゥス・カリシウスに、第九軍団ヒスパニアがマルクス・ヴィニキウスに、そして第十軍団ゲミナがルキウス・アエミリウスの指揮下に入る。

 軍団の名称は、その創設者や活躍した戦場などにちなむ。また番号の若さが優位を示しているわけではなく、対等である。

 ティベリウスとマルケルスは、ヴィニキウスの軍団で冬営期の軍営を学んだが、ヒスパニアに入った後、改めてアンティスティウスの下に配属された。軍団副官とは、一個軍団につき六人置かれる。

 ピレネー山脈と並行するように、ローマ軍は行軍を続けた。すなわちエブロ川がそのように流れているからで、このまま進めばその水源の山に至るのが先か、それともピレネー山脈が海に沈むのが先か。遠くブリタニアに及ぶというその海を、ティベリウスはこの遠征で初めて目にすることになるのだろう。

 古の都市サラゴサを過ぎた。ローマとは長く友好関係にあり、此度も戦後に退役兵の植民が予定されている。エブロ川は、この辺りでは水量が多くとも平坦に見える。しかしティベリウスは、ほぼ一筋のままでありながらいく度となくうねうねと曲がる姿をずっと傍らに見てきた。どこの川もそうなのだろうが、たとえばローヌ川のまっすぐで影のない流れとは違うように感じる。ナイル川の圧倒的規模とも違うが、見せる景色は多様だ。目まぐるしいほどで、見渡すかぎり幅を広げたかと思えば、たちまち細くなり、森や丘のあいだを縫うように進む。そのたびに視野の及ばない影ができるのだ。

 ローマ人とカルタゴ人は、この川をいく度となく血に染めてきた。この度の戦でも同じようになるのだろうか。

 この川が、ティベリウスがヒスパニアで目にした最初の大河であるが、このイベリア半島全体の複雑な地形をすでに象徴しているのだろう。ピレネー山脈を過ぎただけで、違う世界だ。ガリアにも高地はあったが、概して平野が彼方まで続いていた。一方このヒスパニアは、すでに山がちだ。南部のアフリカに面した地域であれば、古くから外国人の植民により、にぎやかな都市が続いているそうだ。タラゴーナをはじめ、東部沿岸も同様だという。しかし少し内陸へ踏み出しただけで、ヒスパニアはがらりと雰囲気を変える。ピレネー山脈が無数の子を成したかのように、大小の山が次々現れる。それは森の深緑に覆われているかと思えば、とたんに剥き出しの大岩の塊に変わる。後者は完全に人を拒絶しているように見え、神々が創り出した恐るべき軌跡に戦慄を覚えるしかない。いったいどれほどの力を以てして、あの絶壁を切り出すというのだろう。人の道は、それらのあいだをなんとかうねりながら伸びる。押しつぶされないのがやっととばかりで、まっすぐに進み続けるのが困難だ。

 だからといって容認されるわけではないが、ティベリウスはこの土地の人々が「山賊」と呼ばれる生き方をするのがわかる気がした。農耕に適した平地が少ないのだ。試みようにも、すぐに森や岩に遮られてしまう。これに天候条件を加えれば、耕作可能な作物がごく限られてしまうのだろう。牧畜もまた同様で、大型の家畜を放牧する場所が見当たらない。そうなると他の土地と交易をすることになるが、すでに豊かになっている半島南部や外国との差を見せつけられるばかりだ。

 ローマ本土も山が多い。山賊がはびこっていた時代もあったが、古くから農耕こそ市民の生き方の模範である考えるほどには、耕作できる土地に恵まれていた。ヒスパニアの奥地は、ローマよりさらに困難な土地であるのだろう。交易において強みとなる特産物や優れた工芸品があると、また状況は変わるのかもしれない。しかし目下は魚を採って肉体を作りながら、通りがかりの人間や家畜を狩って、残りの欲求を満たすほうが手っ取り早い。

 それでも半島西部には、銀の道と呼ばれる通商路があるそうだ。一方、これから向かうカンタブリアは、ほとんど山と海に隔絶されているという。

 だからこそ最後まで残ることになったのだろう。

 サラゴサを過ぎると、土地はますます山がちになった。それも人が登れそうにない山が多々目についた。行軍はゆっくりとしたものだった。最高司令官もずっと輿の中にいて、馬や馬車に乗り換えることはなかった。

 慎重を期してはいたのだが、ローマ軍はたびたび襲撃された。カンタブリ族か山賊か、とにかくこの土地を知り尽くして腕力に物を言わせる男たちが、山の上から岩の陰から攻撃を仕掛けてきた。

 行軍中は隊列を長くせざるを得ない。それでも予測されたことゆえ常にそれに備えた隊形を保ってはいたが、街道の整備も不十分で幅が広くない。そのうえ敵は執拗だった。ローマ軍と補助軍の偵察をいともやすやすとかいくぐった。少し前までだれもいなかったはずの場所に、たちまち大勢が集まった。先を行く一個軍団、次は中央の一個軍団、輜重の狙い撃ち──敵は猛然と攻めて、すぐに退いた。軍団兵が集い来る間を与えなかった。それこそ雷のように突然の打撃を与えたかと思えば、たちまち姿をくらますのだ。前の五個軍団が無事に通った後になって最後尾の軍団が襲撃を受けたこともあった。

 一度の襲撃そのもので、たいした被害は出ていない。敵の群れも少人数だ。しかし待ち伏せに加わった述べ人数となると計り知れない。しかもこの先尽きる気配もない。

 これが昼夜を問わず、何度もくり返されるのだ。軍団兵はほとんど眠る間もなかった。ひとときでも気を抜いたとたん、我が身ばかりか軍団そのものも大きな傷を負いかねなかった。これが堅固な堡塁内でもあれば交代で休息を取ることができるのだが、行軍中ではそれも困難だった。一方カンタブリ族の側は、まだまだ待ち伏せできる人員を控えさせているのだろう。彼らの本拠地はこの先にあるのだ。迎撃するローマ兵は疲労のにじむ顔をしているが、カンタブリ族はいつも元気溌剌として見えた。

 早くもティベリウスは、野蛮な部族を敵とする困難を見せつけられていた。野蛮とはいえ、彼らは彼らなりに賢く考え、勝手知ったる土地を最大限に利用していた。

 蛮族たちは、奇襲戦法こそ彼らの最善と知っているのだ。これならば敵に長いあいだ被害を与え続け、苛立たせ、弱らせていくことができる。それをいい気味だと眺めながら、自分たちは決して深手を負うことがない。最善は勝利であるが、最悪は敗北ではない。せいぜい痛み分けであり、共倒れというわけだ。

 正規軍同士、一度か二度の決戦で勝負がつく会戦のほうが、いっそ楽なのではないか。

 指揮官であるならば、その一度ですべてが決まってしまうという重圧も途方もないものであろうが。

 ティベリウスとマルケルスの所属する軍団も、複数回襲撃を受けた。アンティスティウスの冷静な指揮下、さしたる被害もなく撃退できた。けれども少しずつ軍団兵らは消耗していった。

 マルケルスはそんな彼らをしきりに鼓舞した。馬上から剣を掲げ、「ひるむな! 突き上げろ!」と叫んだ。最初はほとんど声が出なかった。敵と味方の怒声に紛れて消え入ってしまった。けれども小競り合いが重なるうち、声量が増していった。心もまた強くなっていくようだった。次は自ら敵の群れへ斬り込んでいくかもしれない。彼へ飛んでくる矢を何度か剣で打ち払い、ティベリウスはそばを離れなかった。

 そんな日々がひと月半も続いた。

 あたたかい気配がしたので、ティベリウスはふと瞼を開いた。

「起こしたか」見上げればピソが苦笑していた。「でもこんなところで寝るな」

 昼間ではあったが、行軍中の休息時間だった。ティベリウスはほかの軍団兵に混ざって、地面に直に寝そべっていた。春の草は柔らかで、案外快適だ。

「夜明け前に、ちょっとした騒ぎがあった」あくびを噛み殺しながら、ティベリウスは言い訳した。「彼らと一緒に、賊どもを追って山肌を登った。いつの間にか岩登りになっていた」

 左手を振り、そこらじゅうでごろ寝している一個大隊を示した。

「深追いするなって言われなかったのか?」

 傍らに座って足を伸ばし、ピソは怒ったような顔したが、いく分わざとらしかった。

「言われたが、またすぐ戻って来られても困るからな。当面待ち伏せしようなどと考えたくなくなるようにはしておかなければ。将軍と大隊長も同意見だ」

 将軍とはアンティスティウスのことで、大隊長とはこのあたりでいちばん大きないびきを立てて伸びている大男のことだ。この遠征のために百人隊長から抜擢された。

「まったく君というやつは──」ピソは結局破顔したが、心配そうな色がそこに現れていた。「軍団副官っていうのはな、言葉どおり一応、軍団長の次にエラいんだぞ。それなのに地べたに雑魚寝なんて、君の庶民的なお行儀を、ぼくは初めて見たな。プロレウスが見たら卒倒する」

「しない。プロレウスはペルージアでもっとひどい経験をした」

 それはティベリウスがまだ一歳の赤子の頃、ネロ家がカエサル軍に包囲されていた時のことだ。あの時ネロ家を飢え死に寸前に追い込んだ軍団に今は自分が所属しているのだから、内戦とは妙な因縁を作り出すものだ。

「もうだれかを斬ったか?」

「いいや。槍は投げた。当たらなかったと思う」

「マルケルスは?」

「今朝は将軍のところに留まった。今は最高司令官へ顔を見せに行った」

「そうか。ぼくと入れ違いになったな」

 というのもピソとグネウスは、そのままヴィニキウスの軍の配属でいた。最高司令官であるアウグストゥスも、彼の軍に守られて行軍している。今はティベリウスたちより一個軍団をあいだに挟んで後方にいる。

 アウグストゥスとマルケルスを同じ場所に置かない理由は、やはり万一の場合の共倒れを避けるためだ。そしてドルーススもアウグストゥスと一緒にいた。特になにを話し合ったわけでもないが、ネロ家の長男と次男も万一の備えをしていた。

 それでも夜間に行軍が終わると、しばしば兄のテントに現れてはその日に見たことをなんでもまくし立てた。そのまま眠り込み、朝になるとまたアウグストゥスのところへ戻っていった。グネウスの弟ルキウスと、おおむね馬車の中で過ごしているそうだ。兄へは、マルケルスに一騎打ちをさせるな、後れを取るなと偉そうに言うのだが、早く敵の首を取って見せろとは口にしなかった。ドルーススもまた初めて戦場を目にして、思うところがすでにあったのだろう。

 五年前のティベリウスの従軍時より、ドルーススはずっと実戦を身近に感じていることだろう。だから兄のテントを訪れるより、最も厳重に警護されているアウグストゥスのいる軍内に留まっているほうがいいのだが、ティベリウスはいつも弟を迎えに出た。心身の負担が気がかりで、一日の終わりにできるだけそれを軽くしてやりたいと願ったからだ。自分の従軍時を振り返れば、怠ってはならない配慮だった。それになにより最愛の弟だ。傷を負わせて母と再会させはしない。

 しかしティベリウスは、自身の葛藤なく過ごしているわけではなかった。なにもかもできるとまでうぬぼれているつもりはないが、自分があと三人ばかりいればよいのにと思う。

 ピソが苦笑したまま言った。「マルケルスは君と一緒に行きたがったんじゃないか?」

「ああ。でも眠っていたところを無理に起こされたんだ。隊列の外まで引っ張り出したくなかった」

「いつもそばにいるはずなのに」

「マルケルスは立派だ。よく頑張っていると思う。だがこの頃張り切りすぎている。本当は疲れを見せて当たり前であるのに」

「それがこのたび初陣の十五歳の言葉か?」ピソが呆れる。

「軍団兵たちがマルケルスに期待しているんだ」上体を起こし、ティベリウスは説明した。「猛将マルケルスの直接の子孫だから。だれもが事あるごとに、マルケルスにそれを思い出させる。マルケルスもそれに応えんと気負う。そのうち武勇を見せなければならないとか、一騎打ちをしなければならないとかまで自分を追い込むかもしれない。そんな必要はないんだ。彼は最高司令官の甥だぞ。先祖のマルケルスのほうが異常に強いし、言ってはなんだが、おかしいんだ。司令官が一騎打ちだなんてどうかしている。その猛将だって、息子だけは逃がした。自分が死した戦場で」

「君だって、ガイウス・ネロの直接の子孫だぞ」

 ピソが指摘した。名将ハンニバルの弟を破った、クラウディウス・ネロ家の偉大な先祖のことだ。猛将マルケルスの部下だったこともあった。

「君はどうなんだ? 気負いはないのか?」

「それよりも考えることがある」陽光を反射するエブロ川を眺めながら、ティベリウスは言った。「私は軍団副官だ。それもまだ半人前だ。だから今最も従うべきは上官の命令であり、ローマ軍の規律だ。また最高司令官は、彼の甥に私をつけた。この意味も忘れてはならない。一方で、個人としては弟と継父も守りたい。いつ待ち伏せされるかわからない場所を行くのなら、ずっとそばにいられたらいいのにと思う。……たぶん私は傲慢なのだろうな」

「考えるだけならかまわんさ」ピソは泰然と言う。「君の気負いが分散されるってことだから」

「でももしもだ、ピソ。考えるんだが、もしもある時この軍が大打撃を受けたら、私はまずなにを優先するんだろうか? マルケルスか? ドルーススか? 最高司令官カエサルか? それともただ持ち場を離れずに戦い続けることか?」

「悩ましいな」

「ああ、まるで優先しさえすれば守れると信じているみたいにな。結局だれもかれも守れないで悲惨なことになるのが目に見える」

 自身の右手を川面へかざし、ティベリウスはにらみつけるのだった。

「この手の届く範囲は限られているのに。我々は無力だよ、ピソ。だから徒党を組んで戦争などしてみるのかもな」

「分散したものを拾い集めて、なんでもかんでも背負い込むんじゃないぞ」

「ああ、ああ、わかっている。戦争は個人のものじゃない。だが私はなにも考えない男になりたくない」

 それからほうっと息をつき、腕も足も投げ出した。

「軍団はなんだか心地良いんだよ、ピソ。葛藤はあるが、実のところ考えなくてもいい。考えるべきは、命令を実行すること。あとは戦に勝つこと。それ以外の細々としたことは忘れていられる」

「君」ピソは苦笑したようだ。「本当はマルケルスもドルーススもカエサルも全員、ローマで待っていてくれればいいとか思ってるだろ。ひょっとしたらぼくやグネウスのことも」

「それは……それは違う。それは──」ティベリウスはかぶりを振った。振ったのだが、結局がくりと腹へ下げた。「君とグネウスは違う」

 ピソは声を上げて笑った。

「光栄なことだろうな。君にそう思ってもらえるなんて」

「ピソ」きまり悪さに駆られながら、ティベリウスは年上の旧友へ振り返った。気持ちは切実であるのだが、伝わっているのだろうか。「そばにいないと、だれもがだれにもなにもしてあげられない。少なくとも時間がかかる。そうなるともう手遅れになるかもしれない。それが、このごろもどかしいと思うんだ。わかっている。傲慢だし、ある意味の逃げだ。彼らが安全な場所で達者にしていると、勝手に信じたいんだ。見ないでいたいだけなんだ。実際は、戦場だけが生きるに辛い場所ともかぎらないのにな」

「ああ、そうだ。そのとおりだ」

 ピソはまだ腹が痛そうに笑っていた。努めてのように真面目な顔を作り、なんとか抑え込もうとしていた。けれどもそれは、やがていつもの落ち着いた微笑みになった。

「ティベリウス、ぼくがなぜここに来たか、君はわかっているよな? 同じ人間ではない以上、なにもかもを共にはできない。喜びも悲しみも、その人だけのものだ。見えないところで苦痛を受けるのを避ける術はなく、乗り越えてくれると信じるしかない。でもぼくは、あの日君に約束した。君が初めて戦場に立つときは、ぼくがそばにいるって。君が、かつてぼくにそうしてくれたように」

「私は君のそばには──」

「いたよ。いてくれた。ぼくのことを考えて、ずっと待っていてくれた。帰ってきてよかったって、その時思えたんだ」

 ピソの笑顔は、ティベリウスにはまぶしく見えた。

 君こそ気負っている。君こそあの地で私を救ってくれたじゃないか。そんな言葉を呑み込む。ピソはよくわかっているはずだからだ。

 まったく君にはかなわない。いつになったら私は君に追いつけるのだろう──。

「だからティベリウス、会える時を大事にしようぜ。今と、それから次だ。会えたなら、きっと耐えてよかったと思うのさ。それまで待つしかないよ。一刻か、ひと月か、一年か、十年か──それはどうなるかわからないけど、生きて会えたなら、きっと無力じゃない」

 そう言うと腰を上げ、ピソは傍らに来た。ティベリウスの肩をなだめるように叩いていてから、自分の軍団へ戻っていった。

「君の葛藤はずっとつきまとうんだろう。大事なものが一つだけ。そうだったら人生どんなにか簡単だろうにな」

 数日後、最高司令官を囲む軍団が奇襲を受けた。これは初めてではなかったが、この度はアウグストゥスの輿のすぐ横まで敵が突進してきたという。アンティスティウスの指令を受け、ティベリウスとマルケルスが援軍を連れて駆けつけたころには、敵はすでに山の中へ姿をくらませていた。

「なんともない。臆病者どもが逃げていっただけだ」

 血まみれで伏した賊の亡骸を蹴飛ばしながら、グネウスが苛々と知らせた。

「叔父上は?」マルケルスが汗まみれの顔で尋ねた。

 グネウスは肩越しに指を差した。「あちらにおられる。怪我はない。君と同じくらいひどい顔をしていたがな。ドルーススもルキウスも一緒にいる」

「君がこの男を斬ったのか?」

 マルケルスが急ぎ去ると、ティベリウスはグネウスに尋ねた。グネウスはうなずいた。

「ああ。首を一突きにしてやった。卑劣な山賊めが、当然の最期だな。おい、汚いぞ……」

 返り血と汗にまみれたグネウスを抱きしめてから、ティベリウスは継父と弟のもとへ行った。

 その夜は、ドルーススをテントに呼んで過ごした。ドルーススは昼間の戦闘のなにもかもを伝えんと興奮醒めやらぬ様子だったが、話し疲れて眠るまで、ティベリウスはずっと弟を抱きかかえていた。

 軍団副官の仕事には、総司令部と軍団兵とのあいだの仲立ちもある。軍団兵の要望を聞き、それを上官に報告し、上官の返答を持って戻る。両者の見解が相容れない場合は骨の折れる仕事になる。年初からおよそ四ヶ月、ティベリウスは実に様々な軍団兵の要望を耳にした。ただの愚痴である場合もあったが、近ごろ彼らの口にする内容はだいたい同じだった。

「いつまでこの状態が続くのか?」

「じれったい行軍だぞ!」

「さっさとあのしつこい蠅どもを一網打尽にする作戦はないのか?」

 それに対し、アンティスティウスはただこう返答するのだった。

「忍耐だ。忍耐」

「諸君らは真夏のアクティウムで、もっと長いあいだ耐えて機を待ったではないか」

 ティベリウスはこうひと言を添えて、軍団兵たちの前へ戻った。

 ところが、真っ先に音を上げる形になったのが、ほかならぬ最高司令官だった。

 ローマ軍はエブロ川を西へ離れ、ササモンという高台の町へ近づいたところだ。協力的な土着の民が暮らすその家々ごと、堅固な堡塁で囲った。少し腰を落ち着け、兵たちに英気を養わせるようだ。カンタブリア地方はこの北で、もう目と鼻の先だ。

 いよいよローマ軍の反撃開始。そんなときに最高司令官アウグストゥスの体調が悪化したのだ。

 知らせを聞いて、ティベリウスは心配するよりあっけに取られたというのが正直なところだった。昨日顔を出した時は、いつもどおりだった。アウグストゥスの場合、いつもどおりとは必ずしもすこぶる健勝であることを意味しないが。ほとんど一年じゅう、なにがしかの不調に悩まされている人だ。目のかゆみに喉の痛み、熱を出し腹を下しという具合で、これらに一斉に襲われることもある。この時期は特に鼻炎がひどかった。慣れない土地を行軍しているという理由もあるだろうが、ローマいてさえ季節の変わり目にはよく寝込む。暑さにも寒さにも真っ先に打ちのめされる。まして寒暖差が大きい場合など耐えられない。

 そのような継父のことは、ティベリウスはよくわかっているはずだったのだが、いつものことゆえ特段の心配をしていなかった。やはりどこかで鈍感になっていたのだろう。母リヴィア譲りで、ティベリウスは生来頑丈だった。何年も風邪知らずでいられた。まして今は、軍団副官の仕事に夢中だった。継父がそこまで苦しめられているとは思いもよらなかったのだ。

 だから「最高司令官は明日タラゴーナにお戻りになる」と聞いた時は、我が耳を疑うどころではなかった。

「そこまで具合が悪いのですか?」

 ティベリウスが思わず大声で尋ねたのは、アウグストゥスへ向かってではなかった。最高司令官のいない総司令部で、定例軍議中にヴィニキウスから聞いたのだ。

 アウグストゥスは自身の寝台に伏せって起き上がれないとのことだった。ティベリウスとマルケルスは、泡を食って最高司令官の寝所に押しかけるところだった。

「いや、そこまでの大事ではない。大事ではないが──」

 二人とその他幕僚の動揺をなだめるヴィニキウスは、苦笑しているのだった。安心せいとばかりに、両手のひらを見せて振った。

「悪化したというよりは、いつまでも良くならんので少々お疲れであるという様子に近い」

 だったら最初からそう言ってほしいとティベリウスは思ったが、アウグストゥスが軍営にいられないほどの状態であることに変わりはない。遅まきながら、非常に心配になる。

 ヴィニキウスは顔に苦笑を張りつけたままでいるが、それは本心なのか、それともあえてのごまかしか。

「こんな山奥では不便だし、気も休まらんからな。タラゴーナに戻って、奥方のそばでゆっくり静養されるのがよかろうという話になった。というわけでアンティスティウス将軍、あなたをカエサルの代理総司令官にするとのご決断です。あとで寝所に顔を出して、正式に任命されるように、と」

「承知した」

 アンティスティウスの言葉はそれだけだった。まるで予定どおりとでもいうようで、ティベリウスはまじまじと上官を見つめた。

「それからルキウス・カルプルニウス・ピソ!」

 ヴィニキウスが間を置かずに呼んだのは、彼直属の副官だった。とはいえ思いがけなかったピソは、少しばかりきょとんとして見えた。

「はい」

「私もこれからタラゴーナに行く」ヴィニキウスは元気溌剌と告げた。「最高司令官を無事お送りせねばならぬからな。というわけでその間、君が軍団長代理だ。万事任せたぞ!」

 このときほどあ然呆然としたピソの顔を、ティベリウスは見たことがなかった。






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