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冒険者ギルドのお役所仕事

冒険者ギルドのお役所仕事 〜本部長の誘い〜

作者: 衣谷強

お待たせしました。

二か月ぶりの第十一話。

今回は客対応ではなく、ギルド内部の話になります。

お楽しみいただけましたら幸いです。

 ここはとある街の冒険者ギルド。

 多くの冒険者が依頼と報酬を求め、今日も賑わっている。


「プリム先輩! 大変です!」

「コリグ、どんな事態が起きても、慌てる事なく冷静に報告しなさい」

「は、はい……! で、ですが……」

「何がありました?」

「せ、先日本部長に昇進されたばかりのディナミク・イクサートさんがお見えです……!」

「そうですか」


 本部長。

 国内に数多あるギルドの支部を統括する職。

 ギルド内で五本の指に入る幹部であり、実務のトップ。

 強い人事権を持ち、昇進するには本部長の承認が必須。

 また睨まれれば、左遷や解雇もあり得る。

 職員から畏怖の念で見られる存在であった。


(ギルド史上稀に見る早さで昇進したディナミク本部長……。前本部長の不正を盾に追い落としたという噂もある……。そんな人がこんないち支部に一体……?)


 ギルド職員・コリグの慌てた様子にも、プリムは動じた様子もなく、すっと席を立った。

 応接スペースに行くと貫禄のある男性が、ぬうっと立ち上がった。


「久しぶりだなプリム」

「昇進おめでとうございます、ディナミク本部長」

「ふん、随分小さい支部だな。吹けば飛ぶようだ」

「この街の規模には適しています」


 二人のやり取りを、コリグははらはらしながら見つめる。


(本部長、ブリム先輩と知り合い……!? いや、規則は絶対遵守するのに確かな成果を挙げる先輩は有名人だもんな……。なら引き抜き!? そうしたらこのギルドは!?)


 その後ろ頭を、他の支部からプリムを慕って異動してきた女性職員・ノビスが強めに叩いた。


「あだっ! 何すんだノビス!」

「こっちのセリフですよ! プリムさんが抜けて窓口大変なんですから! こっち来て対応してください!」

「で、でもこの支部の存亡の危機……」

「今の終業前の駆け込み報告が詰め掛ける窓口が、その危機ですよ! さ! 仕事仕事!」

「あぁ! 待てノビス……!」


 引きずられるように窓口に戻されるコリグ。

 心をプリムに残しながらも、必死に仕事を捌く。


(早く終わらせて二人の様子を……! あぁでも終わりそうにない……!)


「お待たせしました。こちらでもお伺いいたします」

「!?」


 窓口に戻ってきたプリムを、コリグは信じられないものを見る目で見た。


「あ、あの、本部長は!?」

「窓口が混んで来たので、終業後に話の続きは聞く事にして、酒場に先に行ってもらいました」

「本部長を!? そ、そんな事していいんですか!?」

「コリグ、今はお客様優先です。手を止めないように」

「は、はい!」


 プリムが本部長よりも窓口対応を選んだ事を、嬉しいともプリムらしいとも思いながら、不安が拭えないコリグだった。




「では失礼します」


 仕事が終わり、定時で退勤するプリム。

 それを見送ったコリグは、片付けをしているノビスに声をかける。


「おいノビス、酒場に行くぞ」

「へぁ!? な、何ですか急に! ふ、二人きりで飲みに行くとか、プリムさんに誤解されちゃう……」

「バカ! そんなんじゃねぇよ! プリム先輩と本部長が酒場で何か話をするらしいんだ! 気にならないか!?」

「そうですか? 私はあまり……」

「いいから行くぞ!」

「……はーい……」


 二人は手早く支度をすると、街の酒場へと向かった。

 行きつけの店に行くと、カウンターに見慣れた背中を見つけた。

 コリグは店員に頼んで、その近くのテーブル席に座り、聞き耳を立てた。


「はっはっは! いやー、大変だったぜここまで来るのもさぁ!」

「そうですか」

「前本部長がなかなか降りようとしねぇからよぉ、孫娘がじいじと遊びたがってるって話を奥さんから聞き出して、ようやく席を譲らせたぜ!」

「君は相変わらずですね」

「おう! 絶対ここまで上り詰めると決めてたからな! ここまで来れたのはお前のおかげだ!」

「私は大した事はしていませんよ」


 プリムの淡々とした様子は変わらないものの、打ち解けた様子の二人。


(え? あの二人、仲良いの!? どういう事!?)


 酒に手もつけず、混乱するコリグに、向かいに座るノビスが溜息を吐く。


「あまり知られてないですけど、プリムさんとディナミクさんは同期なんですよ」

「え、そうなの!?」

「私のプリムさん情報をなめないでもらいたいですね」

「ぐぬぬ、悔しい……」

「だからきっと本部長昇進祝いを二人でしに来ただけで」

「なぁプリム、お前俺のところに来ないか?」

「「ええーっ!?」」


 ディナミクの言葉に二人は声を揃えて立ち上がった。


「うお!? 何だ!?」

「コリグ、ノビス。君達も飲みに来ていたんですね」

「あぁ、お前の同僚か。そういやさっき会ったな。よし、そっちの卓で四人で飲もうぜ!」

「お二人が嫌でなければ」

「い、嫌なんて事ありませんよ! どうぞプリム先輩! こちらに!」

「あ! ずるい! プリムさんは私の隣に! 女の子の隣の方がいいですよねー!」

「汚ねぇぞノビス! だけどな、プリム先輩はそんな浮ついた事に釣られたりしねぇよ!」

「うぐ、確かに……」

「じゃあおじさんがお嬢さんの隣に行こうかなー」

「コリグ。ノビスの隣に。ディナミクはかつて酔って女性の頭を髪型が崩れるまで撫で回した前科がありますので」

「おいおい、昔の話だろ」

「前科は前科です。さ、コリグ」

「わ、わかりました!」


 こうしてコリグとノビスが並んで座り、その向かいにプリムとディナミクが座った。


「ここの払いは俺が持つからな! 好きなもの頼めよ!」

「私は会計別でお願いします」

「おい、つれねぇな。祝い事なんだから奢られとけよ」

「君の祝い事で私が奢りを受ける合理的な理由がありません」

「相変わらずかってぇなぁ」

「……」

「……」


 そうこう話しているうちに、カウンターから料理と飲み物が運ばれ、


「よし! じゃあ改めて俺の昇進を祝って乾杯!」

「乾杯」

「……乾杯」

「……乾杯」


 ガラスが打ち合わされる。

 しかしコリグとノビスは、先程の本部長の言葉が気になって酒どころではない。


「……あの、ディナミク本部長……」

「おう、コリグって言ったか。何だ?」

「あの、さっきの、プリム先輩に言ってた『俺のところに来い』ってのは……」

「ん? あぁ。こいつには世話になったからな。昇進した暁にはそれに見合う地位に呼ぶつもりだったんだ」

「プリムさんと何があったんですか?」

「おう! 聞きたいか! よし、教えてやろう」


 若い二人が興味を持った事に気を良くしたディナミクが、意気揚々と語ろうとしたところを、


「彼の発案のギルド改革の不備をフォローしただけですよ」

「プリム! お前、一晩かけても語り尽くせない一大感動記を、そんなあっさりと……」

「事実ですから」


 さらりと流すプリムに不満をこぼしながら、ディナミクの目は過去を眺めるように遠くに向けられた。


「でも本当にあの時は助かった。あそこでつまずいていたら本部長どころか支部長すらなれたかどうかわからねぇ。感謝してるんだぜ」

「自分の仕事をしたまでです」

「それが力になってんだよ。だから本部長になった俺の片腕になってほしい」

「先輩……」

「プリムさん……」


 二人が息を呑む中、プリムはさらりと答える。


「お断りします」

「何故だ? お前が目指す、厳格な法の元のギルド運営にぐんと近づくぞ?」

「今の立場でも必要な提案はし、認められていますし、彼らを育て切る前にここを離れるのは、私の信条に反します」


 そう言って杯を傾けるプリム。


「先輩……!」

「プリムさん……!」


 目を潤ませる二人とプリムを見比べて、ディナミクは溜息を吐いた。

 そこには落胆だけでなく、やっぱりといった諦めと安堵に似た色も含まれていた。


「お前ならそう言うような気がしてたぜ」

「そうですか」

「こいつらが育ち切ったら、また声かけるぜ」

「ご自由に。その時の状況に応じてお返事いたします」

「よーし! お前ら! 袖にされた俺を慰めろ! はっはっは!」

「先輩は渡しませんよ! ディナミク本部長!」

「はっはっは! 慰めるどころか宣戦布告とはな! 俺に怯えていたさっきとは大違いだ!」

「プリムさんのパートナーになるのは私ですから!」

「ノビスてめぇどさくさで何言ってんだ! 先輩のパートナーは昔も今もこれからも俺だ!」

「過去はともかく未来は私のものですよ!」

「何を!」

「何ですか!」

「はっはっは! 賑やかで良いところだなプリム!」

「そうですね」


 プリムがかすかに見せた笑顔に、言い合いをしていた二人は気がつかなかった。

読了ありがとうございます。

同期のおっさん同士の仲良しが書きたかっただけです。

流れでコリグとノビスの『仲良く喧嘩しな』も書けて、楽しかったです。


連載ではないと思いつつ、定期的に投稿しないと落ち着かない不思議。

また間が空くとは思いますが、投稿の折にはお読みいただけましたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] プリムさんの同期で仲の良い、気心の知れた友人のディナミクさん。 一緒に勤めていた頃は豪快に動くディナミクさんを、プリムさんが横で的確にフォローして名コンビとして有名になっていそう。 最後…
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