表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
N氏の日記  作者: ガイシユウ
3/25

ポポロ

※手書きなので読みづらかったらゴメンなさい。


 あたしが『ポポロ』のことを知ったのは、あたしが高校二年の時だった。


 友達が最近SNSでバズってるっていう、鏡の中の変な生き物っていうのを動画で見せてくれて、どうせ何かの合成だろうってあたしはそん時は思ってたんだ。


 よくある天変地異の前触れだとか、あるいはUFOの動画だとか。

 ちょっと、皆の好奇心をくすぐって終わり、みたいな。ただそれだけのもんだと思ってたんだ。


 でも、ポポロは違った。

 その動画を教えられて家に帰って、寝る前に歯を磨こうとして鏡を見たら、いたんだよ、ポポロが。


 ポポロは、白くて丸っこくて、可愛らしい目が二つだけあって。何か、ウーパールーパーみたいな見た目の生き物だったんだ。

 そいつが鏡の中を泳ぐように移動してて、あたしの前を横切った。


 鏡の中のあたしを、って意味だよ。

 ポポロは鏡の中にしかいないんだ。

(いや、本当はちょっと違うんだけど、とりあえず、ここではそういうことで)

 

 とにかくあたしは驚いた。

 てっきりポポロは合成だと思ってたからさ。

 まさか、本当にいて、こうして自分の前に現れるなんて思わなかったんだ。


 本当はスマホで撮れば良かったんだろうけど、ポポロはすぐに鏡の端っこに行って消えちゃったんだ。

 

 あたしはどうしたもんかと思ったよ。

 あれは見えていいもんだったのか。もしかすると、幽霊とかなんじゃないかって。


 でも、ポポロは本当にいたんだ。

 あたしがポポロを見た翌日から、ポポロの目撃談が加速的に増えていって、最終的にはニュースになって、専門家まで出てきて、それで――ポポロは居るって事になったんだ。


 鏡の中にだけ生息する、まったく新しい生物、ポポロ。

 名前は誰がつけたのか分からないけど、可愛らしい見た目にぴったりだと思ったよ。


 ポポロの研究が進んで、いろんなことが分かっていった。

 ポポロは鏡だけじゃなくて、とにかく反射するものに現れるみたいってこと。要は窓ガラスとか、水面とかにも、ポポロは現れるの。

 で、ポポロは向こうにしかいないけど、こっちにも干渉できるってこと。


 ポポロは基本的に、空気中の霞 (ごめん、何かの番組でここ詳しくやってたけど、思い出せないや)を食べてるみたいで、向こうでポポロが口をパクパクさせて食べる仕草をしたら、こっち側の、その霞の量が減ってるんだって。

 あたしたちはポポロに触れないけど、ポポロはあたしたちに触れる、ってこと。


 さらに、もひとつ分かったことが、ポポロの大きさはその反射する物の大きさで変わるってこと。

 どうやら、例えばポポロが鏡に映るとして、ポポロの大きさは、その鏡の大きさの5%に必ずなるんだって。

 だから、大きな鏡を用意すれば、ポポロはそれだけ大きくなる。


 いや、それだけじゃなくて、例えば高層ビルの窓全部を鏡と見立てて、そこにポポロが飛び込んだら、超巨大ポポロの出来上がりって、わけ。


 まぁ、でもポポロはぶっちゃけ、殆ど可愛いだけの生き物で。

 だから一気にブームになった。

 ポポロのぬいぐるみとか、ポポロをイメージした楽曲とか。

 ぬいぐるみは可愛かったから、あたしも買ったよ。


 ポポロが愛される理由は色々あるけど、感情表現が豊かだったってのが、大きかったと思う。

 ポポロは自分の感情を目の色で表すの。黒が普通、青が寂しい、緑が楽しいとか嬉しい、赤が怒ってる。


 ポポロはたくさんいて、全国、全世界各地でポポロの目撃談が相次いだ。

 というか、もう近所の野良猫レベルで見かけるくらいには、ポポロは居た。

 あたしも初めて会った夜から、もう何度もポポロと遭遇してる。

 もうポポロは、会えれば、その日一日はラッキーかな、くらいのものにまでなってた。


 で、運命の日。

 どっかの馬鹿な研究者が、馬鹿なことをしたんだ。


 どうにかしてポポロを外に出せないかって考えた。ポポロは反射物から反射物に移る特性がある。

 なら、ポポロが移れない環境を用意して、彼が入った鏡を壊したらどうなるのか。

 鏡を粉々にすりつぶして、何も反射出来ないようにしてしまったら、ポポロはどうなるのかって。


 馬鹿なことだよ。

 ……でも、その時は皆口を揃えてそう言ったけど、内心じゃ、気になってたんだ。そうしたら、どうなるんだろうって。


 それで、ソイツは実験したんだ。

 何とわざわざ宇宙にポポロを飛ばして、そこで鏡を爆破するって。


 色々非難はあったけど、結局それは実行されて、いくつものテレビ局がその瞬間を伝えようと張り付いてた。

 あたしもその時ニュースを見てた。


 ここが超えちゃいけないラインだってのは、何となく分かってたんだけど、それでも、どうしても、気になっちゃったんだ。

 

 結果は失敗。

 鏡は無事壊れたけど、ポポロは出てこなかった。


 まぁ、そりゃそうだ、って言われたら、それまでの話なんだけどね。ポポロは鏡の中だけの生き物だったんだよ。

 実験を計画した博士がどうなったのか知らない。それを援助した会社も。

『ポポロは出ませんでした』っていう、明らかにトーンダウンしてる、バラエティ番組の司会者の声だけが、あたしの記憶に残ってる。


 そっからはまた、変わらない日々が始まった。

 ポポロが見れたらラッキー。ポポログッズの新商品発売。ポポロの生態に迫る、とか。

 そんな日がずーーっと続いた、ある日。


 あたしたちは、しちゃいけない事をしたんだって、今更ながらに気づかされたんだ。


 渋谷の街のビルの窓一面に、やたらデカいポポロが現われたんだ。

 その時、街に居た人は歓声を上げてたらしい。

 まぁ、デカポポロなんて、その時の皆にとっては、ただのレアイベントみたいなもんだったんだろうね。


 でも、ポポロにとっては違ったんだ。 

 あたしも動画でだけ見たんだけどね、そのポポロ――目が真っ赤だったんだ。


 おもむろに、ビルの中のポポロが口をパクパクさせたの。

 そしたら、渋谷の交差点はすぐに血の海になった。


 そう――ポポロが人を喰ったんだ。


 そっからはもう地獄だった。

 デカポポロは一匹だけなんだけど、普通サイズのチビポポロたちの目も真っ赤になってて、そいつらに見つかると、デカポポロがすぐにやって来て、バクリ、って。デカポポロは、そこから別の反射物に移ってもサイズが変わらなかった。


 だから、あいつはずっと人間を一口で食べ続けていた。


 皆、鏡やら反射するものから途端に逃げ出した。

 何もないコンクリートの部屋の中に逃げ込む人もいたし、山に隠れようとする人もいた。


 人類は凄い勢いで減っていった。

 デカポポロが現われるのは一瞬で、チビポポロは何故かすっかり数が増えて、あらゆる反射物の中にいるようになってしまった。


 見つけられて殺される。

 人類はただそれだけを、され続けて来た。


 あたしは、あのデカポポロは、あの時宇宙で爆破されたポポロだと思ってる。

 あの時のポポロがどうにか帰ってきて(誰かから聞いた話だと、宇宙を見るための巨大な望遠鏡の鏡にワープしてきたんじゃないのかって)それで、あの時された仕返しをしてるんじゃないかって。


 今はもう誰も、誰とも会わない。

 瞳の中にもポポロが居るってことが、どっかで立証されたから。

 だからあたしは、今こうして、コンクリートで覆われた、殆ど何もない部屋の中に居る。何かを映すものはここにはもう無い。

 

 未だにポポロが何だったのかは分からない。

 でも、人類がやっちゃいけない事をしてしまったのだという事だけは、はっきりと分かってる。


 ※もしこれを読む人へ。

  手書きのため、字が汚くて読めなかった、もう一度ごめんなさい。

  この部屋には一応ノートパソコンはあるし、出来るならそれで残した方が良いってことは分かるんだけど――、あたしにはあのディスプレイと向き合う勇気が無いんだ。

 

  本当にごめんなさい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 着眼点がするどいと感じました! ※手書きなので読みづらかったらゴメンなさい。が、最後に、ああなるほど! とスッキリしました。 一話完結なのも、次の話はどんな展開(ハッピーエンド? バッドエ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ