はんぶんこ
かろん、と。
叶野の履く下駄が涼し気な音を立てた。
さらりと着こなした和装は濃藍。
特に人と会う予定もない散策のつもりだったので、羽織は置いた着流しスタイルだ。
周囲が白んで見えるほどに強い日差しが降り注ぐ中では、藍は黒々と影のようにも映る。
最近ではすっかり珍しくなった和装だが、叶野の着こなしに浮いた様子はない。
普段から当たり前に着ているのだな、ということが見るものにも伝わる馴染み具合――と言えば良い方で、もう少し飾らずに言葉を選ぶのなら特別感のない草臥れ具合、とでも言ったところだ。
「確かこの辺だと思ったのだけれども」
ごそりと袖を探ってスマホを取り出す。
なんでも、この辺りに秘かなるパワースポットがある、という噂なのだ。
どことなく神々しい空気に満ち溢れ、そこに訪れるだけで心身がリフレッシュし、自然界のエネルギーを取り入れることが出来るのだとか。
そのパワースポットを訪れたところ仕事が上手くいっただの、恋愛が成就しただのという話がとある雑誌で取り上げられて以来、ぽつぽつと口コミで広がっている。
そんな噂を耳にしてしまえば、訪ねずにはいられなくなるのが叶野という男だ。
日常の中に紛れる不可思議を取り扱う幻想小説の書き手だからこそ、なのか。
不可思議を追い求めるからこそ、そんな夢と現の境界を文字に綴ることを生業としたのか。
かこん、かこん、かこん。
人気のない石畳に下駄の足音を響かせて、叶野は長い階段を上っていく。
神社だろうか、と思う。
雰囲気としては神社だ。
小高い丘の上へと続く、古びた石畳。
隅の方がほんのりと苔生し、緑に柔く縁どられているのも雰囲気があって良い。
きっとこの先にはこじんまりとした小さな神社でもあるのだろう。
この国には八百万の神がいると言われているが、どなたを祀った神社だろうか。
そんなことに思いを馳せながら、叶野は息をきらして階段を上りきる。
普段運動とは縁遠い生活をしている身には、延々と続くようにも思えた階段を上るのはなかなかの運動量だった。
は、と息を吐いて弾む呼吸を整えながら、視線を持ち上げる。
そして、拍子抜けした。
そこにあったのは、なんともありふれた小さな公園だった。
場の雰囲気と、パワースポット、なんて響きからして神社に違いないと思っていたのに。
幼い子供に向けた背の低いゾウの形の滑り台に、小さな砂場。
都会の片隅に申し訳程度に作ってみました、というような公園だ。
右手側には住宅街が広がり、左手にはこんもりと生い茂る小さな森が広がっている。
パワースポット、なんて言葉から彷彿とするような神秘的なオーラが何も感じられない、至って普通の公園だ。
落胆に肩を小さく落としつつ、叶野はぐるりと周囲を見渡す。
そして、気付いた。
公園にいるのは叶野だけではなかった。
「……、あ」
思わず小さく声が零れる。
見覚えのある銀髪の男が、小さなブランコにみっちりと詰まるようにして揺れていた。
バスで会った男だ。
悪夢のような光景を、何気ない一言で終わらせた男。
きっと夢なのだろう、とはわかっている。
バスで揺られている間に叶野が見た悪夢。
だがそれが夢だとしたならば、その夢の中にどうしてこの男が現れたのかがわからなくなる。
叶野はこの男を知らない。
夢で見たのが一度。
バスの降り際、声をかけられたのが二度目。
一度も会ったことのない相手を夢に登場させるなんてことがありうるのだろうか。
まだ、叶野がバスに乗った時に男がバスに乗っていたならわかる。
何気なく見渡したバスの中に乗り合わせていた人物を夢の中に登場させてしまった、のならまだ納得もいく。
だが、叶野がバスに乗り込んだ時、この男はバスの中にはいなかった。
銀髪の若い男なんてものがいたら、気付かないはずがないのだ。
手にしたスマホを弄りながら、銀髪の男はゆらゆらと揺れている。
とはいえ、子ども用に作られたブランコは背も低い。
彼の両足はべたりと地面についたままだし、座った腰よりも若干膝の方が高い位置にありそうなアンバランスさだ。
地面についたままの足で地面を押しやるようにして、男はゆらゆらと揺れている。
傍にはベンチもあるのに、あえて窮屈なブランコを選んだ意図を問うてみたくなってしまった。
「―――……」
声を、かけてみたい。
あの時バスで、どうして自分に声をかけたのか聞いてみたい。
だが、何と言って声をかけたらいいのかがわからなくて、叶野は眉を寄せる。
「バスで会いましたね」なんて突然声をかけても良いものだろうか。
――と。
そんなことを悩んでいる間に、叶野が見つめる先で男の視線が持ち上がった。
叶野の視線に気付いたのか、それとも何か他に理由があったのか。
眠たげな印象の双眸が、じぃ、と叶野を見る。
不思議な眼の色だな、と叶野は思った。
ヘーゼル、とでも言うのか。
どこか緑がかったようにも見える透けた濃茶だ。
硝子で作られた人形の眼玉を彷彿とさせる色合いだ。
「なあ、あんた」
低い声音がなんでもないように叶野へと語りかける。
少しばかり身構えてしまうのは、バスでのことがあったからだ。
また何か、日常を蝕む不穏な、厭わしい何かを指摘されるのではないかと叶野は内心怯む。
男は、ぼんやりと瞬いて言葉を続けた。
「小銭、貸してくれ」
―――まさかのカツアゲだった。
男は、神薙と名乗った。
仕事でこの辺りまでやってきたらしいが、炎天下の直射日光にやられて公園にて涼んでいたところだったらしい。
そして近くの小さな商店で何か冷たいものでも買おうとしたところで初めて、財布を忘れたことに気付いて力尽きかけていた、とのことだ。
おそらく、軽い日射病のようなものなのだろう。
叶野が小銭を渡してやれば、男は意外なほどに素早く立ち上がると小走りに近くの商店まで走っていった。元気だった。
数分後には、片手にビニールをぶら下げた男が戻ってくる。
がさりとビニール袋をまさぐって、神薙は叶野にもペットボトルのお茶を差し出した。
「ありがとう」
「あんたの金だしな」
はは、と小さく笑いながら、神薙は再びブランコへと腰を下ろす。
お気に入りなのかもしれない。
なんとなくつられて、叶野もその隣のブランコへと座る。
わかってはいたことだが、随分と地面が近い。
膝の方が位置が高くなるせいで、バランスがとりにくい。
下手をすると後方にひっくりかえりそうになる。
「ああ、これも。ほれ、はんぶんこ」
ぱき、と隣で軽い音がする。
見やれば、半分に割れるタイプのアイスを神薙が割ったところだった。
半分を無造作に差し出されて、叶野は受け取る。
外気温は湿気を含んでねっとりと熱いままだが、木陰に入って冷たいアイスを食べているとそれだけで随分と涼しいような気になる。
「で、あんたはなんでこんなところに?」
「パワースポットがある、と聞いてね。ちょっと興味がわいたんだ」
「…………」
叶野を見つめる神薙の双眸が訝し気に細くなった。
この神薙という男、年齢は二十代の半ば、といったあたりだろうか。
三十路を突破した叶野よりは年下のように見える。
日に焼けた肌に、派手な髪色と合わせてどうにもスピリチュアルな分野に興味があるようにも、理解があるようにも見えなかった。
パワースポット、なんて言われても戸惑うばかりだろう。
「ええとパワースポットっていうのは」
不可思議な力に満ち溢れているという場所でね、なんて。
説明を続けるより先に、神薙は小さく息を吐いて首を横に振った。
「やめとけやめとけ、そんなの狂気の沙汰だぞ」
「……、」
叶野はぱち、と瞬く。
どうやら神薙の反応は、正しくパワースポットという言葉の意味を理解した上で、彼の中における蛮行に挑もうとしようとしている叶野に対してドン引きの眼差しを向けていた、というのが正しいようだった。
「狂気の沙汰、て」
「パワースポット、て言うぐらいだから何かいるんだろ。でもその何かが何なのかなんてわかりゃあしないんだ。下手に近寄って障りを貰った方が災難だ」
「そう、なの」
「そうだよ」
呆れたように、神薙は肩を竦めて言葉をつづける。
「昔っから何かがいて、何か悪いことが起こる場所に祠やら社やらを作ってそのものを祀って悪いことが起きないようにしてるんだ。場合によっちゃあ具体的にその社、もしくは祠でそういう悪いモンを足止めしてることもある。それに無造作に近寄って願掛けしようなんて狂気の沙汰としか言いようがないだろ」
「――……」
派手な外見と裏腹につらつらと当たり前のように語られる言葉に、叶野はぱち、ぱちとゆっくりと瞬きを繰り返す。
それは神薙の言葉を噛み砕いて飲み込むまでの時間稼ぎにも似ている。
「……君、そういうの詳しいの?」
「ン」
がり、と神薙の犬歯がほとんど中身のなくなったチューブアイスの口を名残惜し気に咬む。
「寺の息子だからな」
「そうなの!?」
「そうだよ」
寺の、息子。
そんな言葉からイメージする人物像と今目の前にいる男との印象が重ならなくて、叶野はほー、と感嘆めいた息を吐くことしかできない。
アイスのチューブを逆さにして、ぽた、ぽた、と落ちる最後の雫を舌で受ける様子はやはり今時の若者、といった風にしか見えなかった。
「だから、やめとけ。変なもん拾うだけだ」
「……わかったよ」
頷く。
パワースポット、なんていう不可思議な場所に惹かれる気持ちはあるが、好奇心で身を亡ぼすほど叶野は若くはない。
むしろ不可思議に惹かれるからこそ、それによって何か悪いことが起きる可能性も真っ当に信じられるというべきだろうか。
せっかくここまでやってきたのに、噂のパワースポットを見られないのは少しばかり残念な気もするが、ここでこの男と言葉を交わせたのはついていた。
せっかくだからバスでのことも聞いてみようと叶野は口を開きかけて――
「なにあれ男二人でブランコとかマジ気持ち悪いんですけど」
「ほんとだ、マジやばい」
けらけらと明るく笑い飛ばす、悪意をたっぷりと込めた華やかな声音にびくりと小さく肩を揺らした。
その少女たちは、公園の左手に広がるこんもりとした森から出てきたようだった。
短く改造された制服のスカートに、ジャラジャラと身に着けた派手なアクセサリー。
おそらくは女子高生だろうが、すでに小生意気の域を通り越して毒の強い顔立ちをしている。
若さ故の無敵感、とでも言うのだろうか。
自分たちが上位の人間であり、彼女たちの価値観において底辺に位置する者に対してはどんな仕打ちをしても良いのだと信じているかのような立ち振る舞いだ。
「…………」
叶野は、やわりと目を伏せる。
場合によってはただ見ただけであっても、「やらしい眼で見られた」とあることないこと難癖つけて絡まれることがあることを知っているからだ。
少女たちは社会の中において弱者であり、その弱者を保護しようという仕組みの中においてはむしろ強者としてふるまうことが出来るのだということをよく知っている。
「きもちわる。ホモかよ」
「えー、ウチらみたいにパワースポットに願掛けにきた的な?」
「マジやめてほしいんですけど。場がけがれる、みたいな?」
「マジそれー」
けたけたと華やかな笑い声が公園に響きわたる。
ああ、厭な場に居合わせてしまった、と叶野は静かに息を吐く。
何かわかりやすく反応をすれば、ますます彼女たちを面白がらせるだけだ。
酔っ払いに絡まれた時と同じで、ノーリアクションでやり過ごすというのが一番無難な選択肢なのだ。
とはいえ、あからさまに小馬鹿にされ、嘲られて良い気持ちがするわけもない。
陰鬱な気持ちで視線を伏せつつ、叶野は隣の男はどうしているのかと、ちらりと様子を伺う。
「………………」
男は、あの硝子玉のような双眸でじぃと二人の少女を見つめていた。
表情の抜けた、何を考えているのかがわからない顔だ。
無遠慮に囃し立てられることに対する怒りだとか、そういった感情すら見えない。
ただただ、じぃ、と少女たちを見つめている。
それは、少女たちが彼らから興味を失い、「つまんね、いこ」とスカートを翻して階段を降り始めるまで続いた。
「……、災難だったね」
小さく呟く。
「なあ」
「うん?」
「あんた、あれ見た?」
「あれって?」
「あの子たちのカバンにつけてたキーホルダー」
「ああ、そういえば、ついてたような気がするね」
通学カバンなのだろうか。
お揃いの濃紺の四角いカバンに、じゃらじゃらと重たげなほどにいくつものキーホルダーが重なってぶら下がっていた。
きらきらと光をはじいて。
「あれ、いいな」
「いいかなあ」
「いいって。ああいうの、どこで売ってるんだろ」
どうやらこの男は、叶野が居た堪れない思いをしている間もずっとキーホルダーのことが気になって女子高生たちを凝視していたようだった。
マイペース極まりない言葉に、ふと小さく笑いが零れる。
「さてと、俺もそろそろ帰るか」
ひょいと隣の男がブランコから降りる。
叶野もつられたように立ち上がった。
アイスのごみをまとめてベンチの脇にあったクズ籠に放り込む。
ペットボトル入りのお茶はまだ少し残っているが、帰りながら飲んでしまえばいい。
「ああそうだ、叶野サン、だっけ?」
「うん?」
「連絡先、教えてくんね? 今度お金返すから」
二人分のペットボトル飲料と、アイスが一つ。
そんなわざわざ返してもらうほどの金額ではなかった。
が、この男との縁をここで終わらせるのは惜しい気がして、叶野は頷く。
寺の息子だという彼の話を、もっと聞いてみたい。
叶野が惹かれる不可思議を、この男はもっと知っているような気がした。
スマホを取り出し、互いの連絡先を交換する。
それから、また、なんて挨拶を交わして叶野は階段へと向かう。
その背に、何気なく声がかかった。
「叶野サン」
「なぁに?」
振り返る。
硝子玉のような瞳が、叶野を見ていた。
じい、と。
「そっちから帰らないほうがいいぞ」
「え?」
ぱち、と瞬く。
「何か、あるの?」
「や、何もねーけど」
ばりばりと面倒くさそうに男は銀の色をした髪を指でかき乱す。
それから、ふと悪戯ぽく笑った。
「やっぱなんでもね。気を付けてな」
「あ、うん」
くるりと背を向けて、男は悠々と住宅街に向けて歩み去っていく。
なんとなくその背を見送ってから、叶野は階段へと一歩、踏み出して。
「………ッ、」
息を、呑んだ。
階段の下、無造作に放り出された人形のように少女たちが転がっていた。
おかしな方向に曲がった手足をごろりと大地に投げ出して、少女たちはまるで出来の悪い芸術作品のように地面に横たわっている。
じわりとその頭の下に染み出した黒い影は血だろうか。
長く下る階段の途中に、置き忘れたかのように靴が片方だけ転がっていた。
思わず、振り返る。
だが、そこにはもうあの神薙の姿はない。
「きゅ、救急車呼ばないと」
声に出して呟くと、少しだけパニックが薄れたような気がした。
なんとなく、もう手遅れな予感を抱きつつも、叶野はゆっくりと階段を下りる。
そして少女たちが転がるのより少しだけ上の段で足を止めて、袖口から取り出したスマホで緊急ダイヤルをコールした。
その場に座って、救急車が到着するのを待つ。
声をかけるなり、抱き起すなり、何かした方が良いのかもしれない、とは思った。
だが、生気なく澱み始めた二対の眼差しに、手を触れるのが躊躇われた。
頭を打った時には、下手に動かさない方が良いとも聞く。
だから、叶野はただその場で途方にくれたように石段に腰かけて救急車が到着するのを待った。
次第に遠くからサイレンの音が近づいてくる。
そこでふと、気付いた。
少女たちが階段から落ちた時、叶野は神薙とともに階段のすぐ上にある公園にいた。
辺りは静かで、何も聞こえなかった。
だからこそ、叶野は彼女たちがそんなことになっているとは露知らず、階段を下りかけたのだ。
「――ぁ」
でも。
神薙は?
彼は階段を下りかけた叶野に向けて、階段を使うのはやめといた方が、と彼は口にした。まるで、この惨状を知っていたかのように。
彼は気付いていたのだろうか。
叶野が聞き逃した悲鳴や物音を、彼だけは聞き取っていたのだろうか。
だがそれだと彼は、何かが起きたのを知っていながら立ち去ったことになる。
いや、と首を横にふる。
人の好さそうな銀髪の青年の顔が脳裏を過る。
そんなことをしそうには思えなかった、し。
そんなことをするとは思いたくもなかった。
じいわじいわ、と今更のように煩く鳴く蝉の声が耳を打った。
結局、少女たちは助からなかった。
病院に搬送された先で、死亡が確認された。
叶野は、発見者として警察で事情聴取を受けた。
もしや容疑者として疑われるのでは、と内心怯えていたのだが特にそんなこともなく、第一発見者として質問を受けるだけに終わった。
不思議なことに、誰一人として少女たちが階段から転がり落ちる瞬間を見たものはいなかった。物音を聞いた人物もいなかった。
近所の人たちは皆、救急車の近づくサイレンの音で初めて何かが起きたらしいということを知ったようだった。
そんなことがありうるのだろうか。
女子高生が二人、縺れあうように階段から転がり落ちて、その音を誰も聞いていない、なんてことが。
階段脇の民家の中には、風を取り込むために窓を開け放していた家も多かった。
それなのに、誰も何も聞いていない。
『障りを拾う』なんて言葉が脳裏によみがえる。
彼女たちは、パワースポットに願掛けに訪れたようだった。
神薙が言ったように、そこで彼女たちは何か良くないものに触れてしまったのだろうか。
だが、どうして彼女たちだけが?
あの場所がパワースポットだと持て囃されるようになって、他にもいろんな人間があの場を訪れているはずだ。
ネット上でも、あそこが様々な効能を持つパワースポットだと謳う声こそあれど、呪われるだとか、祟りがある、というような声は叶野が調べた限り一つも上がってはいない。
だからこそ叶野だって、気軽に訪ねてみようという気になったのだ。
一体どうして。
何故、彼女たちだけが。
そんなことを考えているうちに、自宅についていた。
袖を手繰って鍵を探す。
じゃらり、と何かが指先に触れた。
家の鍵とは異なる感触に、叶野はわずかに眉を寄せる。
何か変なものを袖口に入れただろうか、と記憶をたどりながらそれを指先につまんで取り出して――
「ッ」
ひ、と思わず小さな声が零れた。
じゃらじゃらと音をたてて、幾重にも重なったキーホルダーの束が地面に落ちる。
門灯の明かり受けて、きらきらと光るそれには見覚えがあった。
ぞわぞわと背筋を冷たいものが這い上がる。
これは。
あの少女たちがカバンに下げていた。
どうして。
こんなものが。
何故。
彼女たちだけが。
『あれ、いいな』
『そっちから帰らないほうがいいぞ』
『はんぶんこ』
厭な答えにたどり着いてしまいそうになる。
そんなはずはないと頭ではわかっているのに。
地面にのたうつキーホルダーの束を見下ろしたまま、叶野はしばらく立ち尽くしていた。
なまぬるいホラー感。
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