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一生一緒に


 私達は今、埼玉県にある山口貯水池にいる。

 狭山丘陵にある人口の池でここから東京都の上水道に水を供給しているらしい。

 近くには西武遊園地や西武球場がある。

 この人口の巨大な池には大きなダムがある。


 普通ダムの周りは山で囲まれ、その先には渓谷があり水が揚々と流れているイメージがあるが、ここにはそんな物は無い。

 ダムの下は公園の様になっており、その先には住宅も見えるちょっと不思議な場所。

 万が一ダムが決壊なんてしたらと思うとちょっとゾッとする光景が広がっている。


「兄ちゃんここって小学校の時に遠足で来た所だよね、懐かしい~~」


「そうか、そうだよな、でも俺、遠足熱出して行けなかったんだよね」


「ああ、お兄ちゃん確かそれでずっとゲームやってたよね? 私サボりかよって思っちゃったよ」


「一応ちゃんと熱はあったんだよ」


「ふーーん、まあいいけど、じゃあ兄ちゃんここに来るのは初めてなんだね」


「えっと……いや来たことはある……」


「へーーそうなんだ……」

 なんか変な間があった。

 なんだろうか? 誰かと来たのかな?

 誰とだろう……あの例の人かな……一度家に連れて来た兄ちゃんの元彼女らしき人。

 兄ちゃんは否定してたけど、マジ美人だったし……。


「うん……この1年色々一人で行ったんだ」


「あ、……へーーーそうなんだ」

 ──彼女とじゃないんだ、へーー、そうなんだ。

 べ、別に兄ちゃんが彼女と来てたって……私は関係ないんだからね、全然嬉しいとか思ってないんだからね!ー!


 そんな会話をしながら私と兄ちゃんはダムの上の遊歩道を歩く。

 池の向こうは森が広がり、遠くにはうっすらと富士山が見える。

 

 反対方向は公園と住宅街、ダムを挟んで全く違う景色が広がっていた。


「そ、そう! 結構色々行ったんだよ、この辺じゃここの一番景色が良かった。他にもさ、ちょっと遠くまで行けばこれよりいい景色が一杯あるんだよ?!」

 兄ちゃんは自慢とばかりに楽しそうにそう言った。

 

「へーーいいな~~」

 そう言えば週末結構出掛けてたよね兄ちゃん。

 夏休みなんか泊まりがけで出掛けたりもしてたし……。

 あの時は絶対に彼女が出来たと思ってたんだけど。


 そして私のその言葉に兄ちゃんは必死そうな表情で言った。

「そ、そうか! じゃ、じゃあさ── 一緒に行かない?」


「ん?」

 兄ちゃんの言ってる意味が良くわからかない。


「いやだからさ、俺が去年見た景色をさ、今年一緒に見に行かないかって……」


「え? ええええ?」

  え、何?突然どういう事? 


「嫌か?」


「えっと、嫌……じゃない……ないけど……」


「けど? だ、駄目かな?……バイク怖かったか? やっぱ寒かった? じゃ、じゃあ車なら……でも免許取れるの来年だし……」


「ううん、最初は怖かったけど、どんどん楽しくなったよ」


「そっか、じゃあ……俺と一緒に出かけるのが……嫌って事?」

 まるで迷子の子供のような表情の兄ちゃん。


「ううん、そんな事無い、兄ちゃんと一緒に何処かに行くのって楽しい……し


「じゃあ……いいよな?」

 なんか兄ちゃんの顔が危機迫っていると言うか、何か迫力があるって言うか……少し怖いって感じてしまう。


「えっと……ごめん兄ちゃん……ちょっと考えさせて……」

 兄ちゃんの必死さ、その言葉の意味、兄ちゃんはどういう意図でそんな事を提案して来たのか……それが私にはわからなかった。



 小説の為? それとも本当に私の事が好きだから?


 それが分からないのに、兄ちゃんと毎週の様に出かけるなんて約束出来る訳がない……。

 もうそれって、兄妹を越えてる。


「えっと……そうだよな……はるだってそんなに暇じゃ無いもんな、友達と遊びに行くだろうし……いつかは……彼氏だって……」

 

 兄ちゃんは力なく微笑むとそこで話を打ち切った。

 そして少し早足で私の前を歩いて行く。

 池から冷たい風が私を吹き付ける。

 寒い……オートバイに乗っていた時よりも寒く感じた。


 そう……さっきは温もりがあったから。


 さっきまで抱きしめていた兄ちゃんの背中、その暖かかった背中をじっと見ながら、私は兄ちゃんの後を追った。



###



その後は少し散歩をして家に帰った、到着すると私を降ろし、兄ちゃんはバイクを整備に出すからと再び出掛けて行った。


 私は部屋に戻り今日の事を考えていた……


「兄ちゃんが私と一緒にか……」

 ベットに寝転び遊歩道での兄ちゃんの台詞を思い浮かべながら、何気にスマホを操作しいつもの癖で兄ちゃんの小説を開く……、朝は更新されてなかったし、さっきまで私と一緒に居たんだから当然まだ更新はされて…………いる?…………え?


 兄ちゃんの小説が更新されている?! え! 時間は堤防の上にいた頃だ!


「え? 何で? 兄ちゃんスマホなんて触って無かったよね?」


 私は不思議に思いながらも兄ちゃんの小説を開いた。



▽▽▽


告白


 今日遂に妹に告白する……

 まあ告白と言っても付き合ってくれと言う告白ではない……それはまだまだ無理だ。

 

 俺は今日の為に1年を費やした……妹と思い出を作り、妹と距離を縮める為の方法……


 本当は18歳まで、自動車免許が取得出来るまで待ちたかった……でもそれだと手遅れになるかも知れない……

 

 高校入学、環境が大きく変わる……妹も大人になる、妹がまた魅力的になる、そして周りもその魅力に気付くはず。


 だから今しかない……今日はその1年掛けた成果を妹に見せる、そして告白する……俺と一緒に行かないかと……


 オートバイを買って以来毎日練習をした、妹を安全に乗せる、そう今日この日の為に


 近くの講習会には欠かさず参加し、時には重りを乗せて走ったりもした。

 もちろん人を乗せる練習も、公道以外で知り合いに頼んで行った。

 妹を楽しませる為に色々な場所に行った。

 危険はないか道も確認した。

 

 1年掛けて俺は準備をした……まだやり残した事はあるけど、遂にその日が来てしまった。


 俺は妹に今日告白する……そして妹に本当の告白をする為の第一歩を踏み出す。

 

 その告白は……俺と一緒に共に行かないかと言う告白だ、


 勿論今日は一緒に旅をしよう、旅行に行こうと言う意味だ……でも……それは俺と一緒に人生を歩まないか? 一生を歩まないかと言う意味でもある……

 

 その第一歩……それがダメならこの先はあり得ない……たかが旅行で断られるなら、俺のその先はもう……ない



△△△



「兄ちゃん……………………、重い、重いよおおおおおおおお!!」


「えーーーーーーあれってそんな意味があったの、えーーーーーー!」

なん違和感があった、言い方は軽かったけど、顔は妙に真剣だった……だからその迫力に私は素直にはいって言えなかった……兄ちゃんのその真剣さ迫力の意味がわからなかったから……


 

 「え、え、えええええええええええ! 私が行くって言ってたら兄ちゃんと一生を共にしますって言う意味だったの? …………え、あれって……ある意味プロポーズ? …………ないわーー兄ちゃん、あれがプロポーズとか……ないわーーーー」


 さあどうしよう……一体どういう事になるんだ? 私は考えた。


 まずはそう断る! すると……兄ちゃんショックで寝込む……そして小説エタる。


 じゃあOKする、兄ちゃん歓喜で小説続く、でも完全に私兄ちゃんとの結婚コースに乗る……




「えーーーーーーーーーー、なにそれどっちも詰んでない?」




「兄ちゃんと一緒に出かけるって言うのはやぶさかじゃないんだけど、私兄ちゃんと一生を共にする気は今の所ないぞ!」

 

 うーーーーーーーん……悩む……どうしよう…………でも……とりあえず完全に断るのはあまりにも兄ちゃんが可哀想ではある


……1年も私との為に頑張ったんだから…………でもなああああああ


 いくら考えても答えは出ない……でも行くか行かないかの二択なら…………


「そりゃ行くよね……ここで終わりじゃあ小説を読んでる人も私も納得行かない、ここで断っても、兄ちゃんが私に本気で告って来たときに断っても一緒なら……」


 そして兄ちゃんの小説を私も作るって考えたら……そうバイクに二人で乗るのと一緒、兄ちゃんが運転して私がそのナビする……兄ちゃんが書き、私がその協力をする。


 バイクに乗るのは楽しかった、兄ちゃんの小説を読むのも楽しかった。

 共にそこに私が居るって実感出来たから……ならば私が選ぶ答えは一つ


「行こう! 兄ちゃんと一緒に!」


 私は兄ちゃんと一生って迄の覚悟は無いけど、それは本当に全然無いけど……



 当面の間……兄ちゃんのバイクと思惑に乗る決心をした。

 


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