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情報の真偽

「おまえ……馬鹿なのか?」

「おい、馬鹿はないだろ? これでもちゃんと考えたんだぞ?」

「あ……悪い。思っていた事がつい声になってしまった」


 嘘もつけなければ、隠し事も難しい。損な性格に生まれたものだ。


「まあ、聞いてくれ」

「嫌だ!」

「なんでだよ!」

「どうせおまえのことだ。向こうから特別何もしてこないんだから刺激することもないって言いたいんだろ?」

「うっ……まあ、要約するとそんな感じだ。でも……いろいろ根拠が……」


 中島なりにいろいろ考えていたのだろうが……何もしないなんて結論は無い。


「無い! 全部推測だ。なんとなく納得出来るような憶測を立てただけだろ? そんな次元の話じゃ無い! 感情一つで星が破壊されてしまうかもしれないんだ。こっちから何か手を打たなくちゃ意味がない!」

「そう思うだろうけど、おまえも言っていたじゃないか、俺たちは人間に見つかった蟻だって。そんなに執着するようなものじゃない。気が済めば、人間なんてすぐにどこかへ行くだろう? 逆に何らかの行動をしてしまえば、人間の興味を引いてしまって、執着されるんじゃないか?」

「……」


 中島の言っている仮説は、もっともらしい経験則から導き出された、ある意味納得のいく提案だった。しかし……


「仮定が間違っている。俺たちは蟻じゃない」

「そんな事は分かっているよ! でも、そいつにとっては同じようなものなんじゃないか?」


 そう見えてもおかしくないくらいには、力の差が歴然であり、価値観すらもかけ離れてはいた。だが、違うのだ。


「永遠の時を生きている神のような存在なんだ。何も無いつまらない時間を気が狂うほど経験しているはずなんだ。蟻を見る人間とは似ても似つかない。そもそも、生きる目的すら無いはずだ。死ぬことはないんだからな!」

「うっ……」


 中島は言葉に詰まってしまったようだ。無理もない。姐さんにとって全ては遊びであり、遊び道具が無くなってしまえば待っているのは永遠と流れる無の世界しかない。こんな知的生命体の何が分かるって言うんだ! 短絡的な判断で良い結果は絶対に生まれない。


「だから、行動しなければ、待っている未来なんて地獄だ。ヒルデは良く知っているはずだ。魔王がどのような存在だったかを」


 急に話を振られ少し驚いたヒルデだったが、過去の惨状を思い出し反論の言葉を失う。


「……はい」


 複雑そうな表情を見せ、下を向くヒルデ。中島も、そんなヒルデを見て目を閉じた。


「じゃあ、おまえは……このまま何もしなければ、向こうの世界であったような悲劇的状況になるって言いたいんだな?」

「ああ。誰も倒すことのできない魔王が生まれ、じわじわと遊ばれてしまうだろう。実際、今の状況だって、猫との戦争ゲームに過ぎない。危うい状況なんだ」

「……クソ!」


 ようやく中島は理解してくれたようだ。何もしないで、姐さんの気の向くまま行動されてしまえば明るい未来なんて絶対にやってこない。


「じゃあ、どうするんだ?」


 本日二回目の問い。どうすればいいか? 中島から情報を聞き出して、何か無いかを探るしかない。どうすればいいかなんて俺にはわからない。こういう時、レノが居てくれたら…………ああ……いるかもしれない。


「……レノ……もしかして、いるのか?」

「お呼びでしょうか? 涼介様」


 …………いた。

 もう何度も同じような目に会ったせいか、ようやく覚えたようだ。レノは監視役で、消える事が出来る。基本的には、常に俺の側にいるのだ。求めれば、必ず居る。俺が気付いていないだけで。


「……はは。やっぱりいたか」

「はい。私は、涼介様の監視役ですので」

「……これ、おまえのビットだったよな」

「ビットって言うな! レノだ!」

「おっ……おう。レノだな。わかった」


 レノへの異常な愛着に中島は若干引いていた。でも、そんな事は関係ない。俺にとって、レノはビットなんて呼んで良い存在ではとうになくなっていた。


「レノ……どうしたらいいかな?」

「先程、偵察に向かわせたナノマシンが帰って来ました。ツクヨミは正常に動作しているようなので、繋いでみます」

「大丈夫か?」

「はい。問題ありません」

「わかった」


 レノはそう言って、ツクヨミに繋いでいるようなのだが、見た感じは何も変わらない。話しかければ返答してくれるのだろうが、レノが発言するのを待った。


「涼介様。現在、連合が所有する、ほぼ全てのアンドロイドが破壊されてしまったようです」

「……ケンもか?」

「いえ、ケンは地下のドックに予備があります」

「予備って……まあ良いや。あとでケンを迎えに行こう」

「かしこまりました」


 複雑な気持ちだが、ケンが居るのがわかってホッとした。久しぶりに本物のケンと会えるのかと思うと、実際はかなり嬉しかった。


「じゃあ……」

「こんにちは」


 俺の発言を遮り、穏やかな声で挨拶をする誰かの声がした。その声は、俺の瞳孔を開き、脳内麻薬を分泌させ、全身を緊張させる。


「あっ……」


 声のする方見ると……猫がいた。オッドアイが特徴的な、綺麗な猫だ。忘れようとも忘れられない。決して見つかってはいけない猫がいた。


「随分と久し振りね? 今までどこに居たのかしら?」

「おい、猫が喋ってるぞ!? どう言う事だ? 涼介……」


 俺とレノ以外の全員は、喋る猫に驚きを隠せないでいた。悠長に説明している暇なんか無い。逃げなければ……


「説明は後だ……おまえら、全員部屋を出ろ! このフロアから出て行くんだ! 今すぐに!」


 俺は猫から目を逸らさず、中島達が逃げるまでの時間を稼がなければならない。時間稼ぎをして、逃したところでどうなるかはわからないが、今すぐ逃げなければ、先はない。


「涼介。言っただろ? 俺はおまえの力になりたいんだ。お荷物なんてごめんだ」

「馬鹿野郎! 早くみんなを連れて逃げろ! ユキ……ユキはどうした!?」

「……猫がいる扉の先だ」

「クソ!!」


 カッコつけた割には、ユキちゃんの事があって逃げられなかっただけのようだ。子供を置いて逃げるなんて出来ないだろう。どうすれば……。


「ふふふ。どうしたの? そんな怖い顔しないで。お話がしたかっただけなの。私、随分長いこと貴方を待っていたのよ? そんな態度を取られたら悲しくなっちゃうじゃない? だから、ね! そんな顔しないで、楽しくおしゃべりしましょう?」


 俺を待っていた……何故? なんの目的があって? いや、そんな事より、まずはユキちゃんだ! このままじゃまずい……どうすれば……。


 ガチャ……


 不意に扉が開いた。ユキちゃんがいる部屋の扉だ。


「やあ、涼介。久し振りだね!」

「……コルチェ」


 扉から出てきたのは、ユキちゃんを抱いたコルチェだった。同程度な大きさにも関わらず、コルチェはユキちゃんをしっかりと抱きとめていた。


「ユキ! 起きろ! ユキ!」

「ユキ! 起きて!」


 中島が寝ているユキちゃんに向かって叫ぶ。ヒルデも必死に声をかけていた。


「あれ? 生きてると思った? ざーんねん。もう死んでるよ?」


 ……一瞬、理解が出来なかった。あまりにも軽く明かされた事実にしては重い内容だったからだ。


「は? なんだと! 何言ってるんだコルチェ! 冗談はよせ!」

「全く……一体君は誰なんだい? 僕は初めて君と会ったんだよ? 随分と馴れ馴れしくない?」


 ……この姿で会ったのは、初めてだったか? だが、今はそんな事を思い出す余裕は無い。


「俺だ! 涼介だ!」

「ぷぷぷ。知ってるよ。からかっただけだよ! でも、この子が死んでいるのは本当だよ。だってほら! 息してないし、心臓も止まってるんだよ?」

「ふざけるなぁぁぁ!!!」


 中島が叫ぶ。どんな時にも冷静だった奴が、自分の子供の死を前に怒りを露わにしていた。


「中島ぁぁ! 待て!」


 俺は中島が飛び出す前に触手で取り押さえた。


「グレース! ヒルデを頼む!」

「もう、取り押さえています!」


 グレースはすでに、ヒルデを後ろから抱えた格好で取り押さえていた。


「あらあら。怖いわね。一人死んだくらいで大騒ぎし過ぎよ?」

「ふざけるな!! 俺の子だ!! 当たり前だろう!!」

「中島黙れ!!」


 俺は、中島の口を触手で塞いだ。口を塞がれた中島が、俺を狂ったように睨みつけている。しかし、今は中島に構っている暇は無い。奴と話しをしなければならない。


「……なんて呼んだらいい?」

「お好きにどうぞ?」

「……じゃあ、おまえの事は、タマとでも呼ばせてもらうが……いいか?」

「あらあ、とっても素敵ね! 私、名前なんてつけてもらった事ないから嬉しいわ」


 馬鹿にされたとは思わないのだろうか? 少し思惑とズレてしまったが、悪い方には変化してない。このまま続行だ。


「そうか。じゃあ、タマ。その子は本物なのか? おまえが創り出した偽物なんじゃないか?」


 この猫……タマは、本物そっくりな偽物を作ることが出来る。俺は以前、偽物に全く気づかなかった。タマの事だ、嬉々としてこんな茶番を仕組んでもおかしくはない。タマが種明かしをしなければ意味のない問いなのだが、狙いはそこじゃない。中島の暴走を止めたかった。


「あら? もうバレちゃったの? あんまりにも早くてちょっと残念だわ。もう少し遊びたかったのに。でも、気づいてくれたのは嬉しいわ」

「そうかい?」

「ええ!」


 猫の発言は、どうにも俺の事を気遣いながら話しているんじゃないかというモヤモヤとした感じだ。相手に合わせて、自分の感情を悟らせないミステリアスな感じとでも言うべきか? 一番しっくり来る表現としては……そう、詐欺師のような話し方なのだ。真実なのか、嘘なのか、全くわからない。嘘を付いているんだろうと感じるが、実は真実なのかもしれない。

 これが猫じゃなくて、美人な女性だったら俺なんかはイチコロだっただろう。


「涼介様……」

「ん?」


 レノが不意に耳打ちをしてきた。


「ユキという人間は、ツクヨミに登録されておりません」

「なに?」


 レノからもたらされた情報は、この状況を一から否定するような衝撃的なものだった。






当初思い描いていた、こんな感じの小説を書きたいという舞台設定が、ようやく出揃った気がします。

プロットらしいプロットも無く、この状況を作るまで、矛盾しないよう気をつけて書いていました。


※以下の文は今後の内容を含みます。
















これから、ガラッと雰囲気が変わってしまうと思います。今までお読み頂いた方の意にそぐわない物語となるかもしれません。

読まなければ良かったといった内容になるかもしれませんので、注意書きとしてここに書かせていただきました。

それでも構わないという方は……感謝しかありません。

今後も、よろしくお願いいたします。


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