表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

88/100

希望

 スサノオの前にいないレノ。焦燥はやがて、軽いパニックを起こし始める。今後、レノ無しで何が出来るのだろうか? たった一人で姉さんや、あの猫に立ち向かえるのだろうか? この世界を救う? 無理だ。星を消滅する事すら簡単だと言ってのける無茶苦茶な存在だ。無理、無駄、無謀のトリプル役満だ。


「クソ! クソ! クソ! ……レノ」

「お呼びでしょうか? 涼介様」

「……」


 何度も……何度もこの手に引っかかる。目の前には、レノが当たり前のように顕現していた。きっと、この世界では当たり前過ぎて、俺が困惑するなんて思ってもいないのだろう。別に意地悪をしているわけではない事は分かってるが、どうもすっきりしない。


「……スサノオの掌握は済んだのか?」

「はい」

「そうか……」


 スサノオを掌握済み……だから姿を消して俺を監視していたのだろう。今更消える必要が有るのだろうか? 文句の一つでも言ってやろうかとも思ったが、俺の小さなプライドが、それを拒否していた。


「姿を消せるという事は、ビットも使えるようになったのか」

「はい。ですが、ビットは使えるようになりましたが、私はビットを使わなくても、姿を消す事ができます」

「そうか」


 今更消える方法が変わったとしても驚きはしない。アマテラスは、人間をあざむくために幾重にも誤認させるための予防線を張っていた。どんな状況でも、有利に対応するための最善策なのだろう。しかし、あっさりとバラすあたり誤認させていることを広め、疑心暗鬼を助長させている。これも、防犯のための最善策なのだろう。だいたい、よっぽどの異常者でもない限り、バレなきゃ大丈夫ってのが一番の動機だ。この世界では、百パーセントバレるし、制裁を食らう。バレなきゃは存在しない。殺人でも起こそうものなら、殺した瞬間……もしくは、殺す前に処刑されるだろう。

 だから、そうさせないためにも、力の誇示は大事な要因なのだ。


「レノ、これからどうするんだ?」

「シューゼを拠点として、国外の情報収集を主な目的とした行動を起こすのが良いでしょう」

「そうだな……レノ」

「はい」

「最終的に、どうなりそうなんだ? ある程度着地点を見出しているんだろう?」

「……申し訳ありません。アローを出立した時点での目標は達成しております。今後は、状況を確認しながらの対応しかできません」


 アマテラスの目的は達成され、今後は都度予測。無理もない。今の状況まで予測出来ていたら、それはもう予知のレベルだろう。UFOの飛来時間と場所を当てるようなものだ。


「そうだよな。現時点で、姉さんから被害は被ってないからな。あの猫がイレギュラー過ぎただけだ」

「いえ、あの猫の行動は、ある程度予測しておりました。猫によって、アローが侵略されるであろう未来は想定内です」

「まじかー」


 俺がせっかくお前のせいじゃないよってフォローしているのに、そんなの想定済みだよって……ヒドイ。

 まあ、ちょいちょいアロー国内で出現していたのに、何も備えていないなんてアマテラスの行動としておかしいか。


「あの猫対策って、何をしたの?」

「万全の対策は取れませんでしたが、各子機とアマテラスを切り離しました。アマテラスシステムとはもう、電波での干渉は不可能となります」

「ええ! それって大丈夫なのか!? もし何か暴動が起きたら対応出来ないだろう?」


 アマテラスシステムは、緊急用ビットの権限を独占している。子機たちと切り離されれば、緊急用ビットが作動しなくなってしまう。恐ろしい不法地帯の出来上がりだ。この世界の人々は、俺よりも何倍も頭が良い。だから、記憶の書き換えが出来る装置を個人の力で完成させてしまう恐れがあるのだ。


「緊急用ビットの権限を委譲しましたので、犯罪に対応するレスポンス、クオリティ、共に、ほぼ低下いたしません」

「そうか……でも、切り離したせいで、何か不都合はないのか?」

「基本的にはありませんが、国民に対する制限が一部解除されます。それは、アマテラスの監視下から外れるという事です」

「うん。で?」

「アマテラスの監視下から外れた場合、各国毎の子機が、その国の最高決定件を有するという事です」

「うん。ん? なんかまずいのか?」

「一番大きな違いとしては、今まで変更出来なかった基本法が変更出来ます」

「基本法?」

「はい。アマテラスシステムが出来上がった時に制定された超国家的な法律の事です」

「はい??」

「超国家的法律とは……」


 俺はこの後細かい事をレノから教わったのだが、まあ要約すると、アマテラスによって半ば強制的に団結していた国の結束が解かれて、後はお互いに頑張れ! って事らしい。

 それってヤバくね? ってレノに聞いたけど、ほぼ法律や体制は整っているから、特に問題無いらしい。


「でもさ、考えようによっては、アマテラスに見捨てられたって事じゃね?」


 この世界の人たちの心の拠り所と言っても差し支えないアマテラスと切り離されてしまえば、不安や心労は計り知れないものになるだろうという事は、容易に想像できる。


「緊急時に対するマニュアル通りです。アマテラスに危険が及ぶような事態になるならば、切り離した方が良いと結論がなされました」

「なんで? アマテラスが最強なんだから、一緒に立ち向かった方が良くね?」

「未知の部分が多いと、解析や対処が遅れる場合があります。情報が無ければ対処する前に最悪の事態を招く恐れがあるのです」

「……って事は、情報収集のための時間稼ぎが主な目的って事?」

「はい」

「そうか……じゃあ、アマテラスへはどうやって情報を届けるんだ?」


 切り離してしまった状態で、情報を精査するのは難しいだろう。そもそも、電波を受け付けないのであれば情報収集も出来ないはずだ。


「アマテラスの情報収集の方法に関しては、機密事項となります。AIによって秘密裏に構築されたシステムが情報を収集いたします。アマテラス以外、誰も知りません」

「レノもか?」

「はい」

「まじかよ……その情報収集システムって大丈夫なのか?」

「はい。策定された情報収集の要件は満たしております」

「じゃあ、能力の指定はしたけど、その方法はAIに任せているって事か?」

「その通りです」


 AIのブラックボックス化の正しい使い方ではあるのだろうが、アマテラスへの絶対的な信用が無ければ実現しないだろう。このような世界になるまでには、元の世界ではどのくらいの時が必要なのだろうか? こんなシステムを本当に構築できるかも怪しいものだ。


「じゃあ、切り離しの意味合い的には、アマテラスをみんなで守って、時間を稼いで対策を練るって話だ」

「はい」

「結局はアマテラス頼みって感じなのか」

「いえ、対策のための情報収集は各人で行い、その情報を元にアマテラスが精査し、対策を立てます」

「秘密裏に情報収集と、対策を立てて、対応させるって事か……まるで秘密結社だな」


 この場合、悪事を働くのではなく、正義を執行する方のだが。


「まあ、なんにせよ、頼みの綱のアマテラスは、最後まで戦えるし、敵に回る事はないって事でいいかな?」

「はい」


 アマテラスを切り離すって行為は、とても合理的で、希望を長続きさせるために必要な事なのかもしれない。

 非常事態になった時ほど、何かに縋りたくなるものだけど、その拠り所が倒れてしまった場合の心労は計り知れない。

 絶望から命を投げ出すかもしれないし、無気力で使い物にならない人も出てくるだろう。権力者の衰退を狙っての暴動もあり得る。

 ならば、いっそのこと縋るのをやめて、みんなで守ってしまおうという結論だ。

 権力者を守る行為は、人間でも同じこと。それが、たとえAIだとしても、同じ結論になったのは面白い偶然なのだろうか?


「面白いもんだな」

「人間の理性とは、環境や、培ってきた歴史に依存し、利用して、ようやく保たれるものなのです。法律が理性を言葉にしたものと考えれば分かりやすいかもしれません。環境が変われば法も変わり、歴史に解を見出します。

 涼介様が面白いと感じるのは、人が辿ってきた歴史や環境によって導き出された答えと似ていたからでしょう」

「そうだな」


 ちょっと前までの心的不安は、どこかへ行ってしまったようだった。今は、これからどうするか? 何をすればいいのか? が、ぼんやりとではあるが見えてきて、前向きな考えが生まれ始めている。

 さっきまでは、超えられない壁に四面楚歌状態で消耗戦を強いられているような絶望を噛み締めていたが、アマテラスが対策を練っているという希望が、俺の心を満たしてくれたようだ。

 この消耗戦も、長くは続かない。アマテラスがなんとかしてくれる。そんな淡い希望を頼りに……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ