再びの戦闘
「で? なんでこんな事になっているんだ?」
「申し訳ありません。アローの首都にたどり着く前に、奇襲を許してしまいました」
「……そうか。では、成果無しか」
「申し訳ありません」
俺とグレースは背中合わせで上を見ていた。飛行型アンドロイドがぐるっと周辺を囲んでいる。ザックリと見て、千体はいるだろうか。昨日に引き続き、連日アンドロイド軍との戦闘になるなんて、思いもしなかった。
「まだやれるか?」
調査から帰ってきたばかりのグレースに、今のコンディションを確認する。千対二だとしても、勝利を諦めるわけにはいかない。
「はい! ですが、半分以上魔力は尽きてしまっているかと思います」
「魔力が尽きるとどうなる?」
「発動しません」
「魔力が尽きても動けるか?」
「普通ならば著しく動作が重くなるのですが、私は問題ありません。魔力が尽きても動作に影響はありません」
「頼もしい。勇者は特別なのだな」
アンドロイドを睨みつけながら手早くグレースのコンディションを確認すると、早速指示を出す。まあ、指示と言っても広範囲攻撃で数を減らすくらいしか思いつかないが。
「では、その魔力が尽きるまで、広範囲に攻撃を繰り返す。プロテクションを忘れるな! フライと同時に背中合わせで回転しながら範囲攻撃を放つ。いくぞ!」
「はい!」
「「プロテクション!! フライ!!」」
二人は回転しながら急上昇し、飛行型アンドロイド達の高度まで一気に飛び上がる。
同時に、飛行型アンドロイド達の反撃が始まった。誘導型小型ミサイルが数千とこちらに向かっていた。
「ウルファイヤーアロー!」
「拡散レーザー!」
二人の攻撃がミサイルに命中し周囲を爆炎が取り囲むように広がる。
「グレース上昇だ!」
「はい!」
爆炎によって視界奪われたため、上昇して周囲を確認することにした。しかしアンドロイド達が見逃すはずもなく、爆炎を突き抜けて第二射が襲ってくる。
「ウルファイヤーアロー!」
「拡散レーザー!」
咄嗟にミサイル群をいなすと、爆炎は規模を増し、どす黒い入道雲のように俺たちに向かって立ち昇る。
「このままじゃまずい。何かないか……」
上昇しては見たものの、このままでは状況は好転しない。アンドロイドたちは、俺達の次の一手を待ち構えているだろう。
「アムルタート様、二人で一点突破いたしましょう!」
「そんなことをしたら取り囲まれるぞ?」
俺はグレースの勝ち気な進言に、ダメ出しをする。しかし、特に名案が浮かんでいるわけでもない。ものの数秒で戦況は大きく変わってしまう状況だ。愚かな策でも、瞬時に判断していれば相手の意表をつくことができただろう。しかし、もうすでに相手の準備は終わっているはずだ。刹那的な隙きを突くことは叶わないだろう。
「なにか問題でもありますか?」
「なに? どういうことだ?」
グレースは、自分の進言の正しさを確信しているようだ。思わず聞き返してしまったが、実は当たり前の事過ぎて思いつかない方がおかしいとかだったら恥ずかしい。しかし、もう発言を撤回する事はさらに墓穴を掘る事になるだろう。なにせ、グレースの進言の正しさが分からないのだから。
「いえ……アムルタート様は、私の魔法を持ってしても倒せなかった最強のお方。であれば、奴らの攻撃など問題ありません。むしろ、不利な戦況を作り上げ、おびき寄せてからの方が範囲攻撃の効果も大きくなるかと……」
どうやらグレースは、俺の力を過信して戦術を立てていたようだ。死にはしないが、正直痛いのは嫌だ。痛みも軽減されているとはいえ、痛いものは痛い。前の戦闘で何度も爆散してはいるが、好き好んで散り散りになりたくはない。
さて、このグレースの妄言はどうしたものか…。
「おまえはどうなる?」
「わたしは……防御に専念したとしても、あの攻撃を二十も受ければ対応できなくなるでしょう」
「二十か…」
二十発のミサイルに耐えられるならば、いけるかもしれない。グレースの魔力が尽きる前に全滅はできなくても、数を減らせれば勝機が見えてくるはずだ。それに、このまま無作為に逃げていてもグレースを疲弊させるだけだ。まだ、余裕のあるうちに数を減らすことが最優先であり、リスクは時間とともに大きくなる。グレースの進言は、むちゃくちゃな妄言に聞こえたが、時間とともに迫りくるリスクを鑑みると、悪くない作戦だった。
「なら、急ぐぞ! 着いて来い! おまえは私を盾に防御に専念しろ! 生きていられたら、状況をみて命令する。死ぬなよ」
「はい!」
フラグが立ってしまっただろうか? 記憶が戻っていなければ、グレースを特攻させて、群がってきたアンドロイド達をグレースごと攻撃していたかもしれない。そこでグレースが死ねば、戦闘後にレベルがどの程度アップしたかウキウキで親父に聞いていただろう。今は姉さんだが。しかし、今は記憶が戻り魔王のような振る舞いをすることはできない。痛いのは嫌だが、グレースを死なせないためには仮初の肉体を捧げなければならない状況にも対応するしかないだろう。
俺はプロテクションの範囲を広げ、一直線にアンドロイド目掛けて飛んでいく。後ろから来ているグレースは風の影響が無い分、魔力消費を抑えながら高速に飛べるはずだ。
爆炎の中に突っ込み、ものの数秒で抜けると、開けた視界には数体のアンドロイドが上昇していた。下より上の方が有利なのだろうか?
「拡散レーザー!!」
魔法を詠唱? した直後には、アンドロイドが爆発していた。視界にはまだアンドロイドが周囲を飛んでいる。
「拡散レーザー!!」
目に見えるアンドロイドの姿目掛けて一心不乱に拡散レーザーを撃ち続けた。爆音が鳴り止むことなく響き続ける。時にはスターマインのように無数の爆発音が鳴り響き、時には三尺玉のように胸にズシリと響く。爆音と閃光によって、機能を落とした感覚器官を頼りに、縦横無尽に襲いかかってくるアンドロイドに応戦する。グレースにかける声も、段々と大きくなっていた。
「グレース! 生きているか!?」
「はい! アムルタート様、何かご命令を!」
「なら、残りの魔力で何発のミサイルに耐えられるか言え!」
「はい! 九発ならば耐えきって見せます!」
「よろしい! ならばまだ私について来い! 遅れるなよ!」
「はっ!」
どのくらいのアンドロイドを撃破しただろうか? いちいち数えてはいないが二百は超えているはずだ。あいつらは集まって来ることはなく、遠距離から攻撃してくる。こちらが突っ込んでいっても、散り散りに距離を取られてしまうため、一回の攻撃で十数体同時撃破がいいところだろう。グレースの残り魔力に対して、撃破数が倍近く足りない。半数まで減らしたところでグレースの魔力は切れてしまう計算だ。
機械のように撃破を繰り返しながら、次の作戦を練っていた。しかし、空戦という自由な戦場には、地の利など存在することはなく選択肢は少ない。だから……
「グレース! ひとまず地に降りるぞ! そこで、全力のプロテクションで籠城戦だ!」
「はっ!」
俺は、空戦に勝機は無いと悟り、地に降り立つことを決める。全力で距離を取り、地に降りた瞬間に広範囲に球状のプロテクションを掛ける。もちろん地上方向にもかけてある。ビビリだから。
「これからどうなさるおつもりですか?」
待ち構える準備を終えて、未だ消えることのない煙を見ながら答える。
「やつらをおびき出す」
「誘いに乗って来るでしょうか?」
「賭けだな。しかし、あのまま空戦を続けていても、おまえの魔力切れの方が早かったからな。より安全な戦い方に変えただけだ」
「申し訳ありません……」
「気にするな。だが……これからする事を見た者は、私に逆らう事を許さない。もしそれが嫌ならば、耳を塞ぎ、目を閉じていろ。いいな?」
「私がアムルタート様に逆らう事などありません!」
「宜しい、では見届けるが良い」
グレースに釘を刺し、煙幕から出てくるアンドロイドを見つめる。無数のアンドロイドが見えた所で、奴らはまたミサイルを打ち出して来た。迫り来るミサイルの雨が上空から降り注ぐ。
しかし、二百メートル以上離れた所で無残にも全てが爆発してしまった。
「まさか……プロテクションをあの距離まで広げていたのですか?」
「ああ……造作もない」
やったこともない思いつきの魔法なのにも関わらず、この口からはありもしない強がった言葉が出てくる。グレースがいなければ、広範囲のプロテクションが成功した事に飛び上がって喜んでいたはずだ。
周囲を煙幕が遮った事を確認すると、次の段階へ移行する。
「裁きの塔!」
俺は裁きの塔をプロテクション内のすぐ近くに召喚する。
「こ……これは、何でしょうか?」
突如姿を現した巨大な塔にグレースは驚きを隠せないでいた。まじまじと塔を見上げては、その質素なデザインに疑問を浮かべている。
「裁きの塔だ」
「裁きの塔?」
「そうだ。説明は省く。おまえは火の魔法が得意だったな。この塔を、アンドロイド目掛けて打ち出せるか?」
「可能だと思いますが……まさか、この塔をぶつけるおつもりなのでしょうか?」
「いや違う。だから、飛ばし方には注文をつける。頂点をあいつらに向けて打ち出してくれ」
「かしこまりました」
「では、すぐに取りかかれ!」
「はっ!」
跪いていたグレースは、すぐに立ち上がると早速魔法の詠唱を始めていた。
「エンドマジック・サラマンダー・フレア・フレアエクスプロージョン!!」
ド派手な爆発音と共に、塔が勢い良く飛び出していった。俺は危うくプロテクションを掛け忘れて、爆発に巻き込まれそうになったが、間一髪のところで掛け直す事に成功。
「焼き尽くせ!」
ドキドキの緊急プロテクションに成功したのもつかの間に、塔が煙に吸い込まれたのを確認すると、裁きの塔を起動させた。これで、裁きの塔が通過した周囲のアンドロイドを一網打尽に出来るだろう。遅れて遠くから無数の爆発音が聴こえて来た。かなりの爆発音が重なっている。
「アムルタート様……一体何を?」
「もうじき煙も晴れる。待て」
「はい……」
だんだんと煙は晴れていき、周囲が薄っすらと見え始めた頃、薄ぼんやりとでも分かる程、景色が様変わりしていた。
「アムルタート様! 大地が……燃えています!」
グラグラと煮えたつ様に土が燃えている。そこには生命と言える様なものは無く、アンドロイドの残骸すら残っていなかった。この世の地獄を目の当たりにしているような光景だ。
「おまえは見てしまったのだ。もう、後戻りはできないぞ……」
「……」
赤く燃え盛る大地を見つめ、言葉を失ってしまったグレースは、俺の問いに答えることは無かった。むしろ、俺の言葉は聞こえていなかったのかもしれない。
色々ありまして、更新できないでいました。
皆さま、暑い日が続きお体の方は大丈夫でしょうか?健康にお気をつけて、花と魔王をよろしくお願い申し上げます。




