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裁きの塔

 ズリ……ズリ……ズリ……

 銃口を向け、ズリ足で間を詰めるアンドロイド達。

 俺は、アンドロイド達に気づかれないよう、ゆるゆると地中に触手を伸ばしていく。ズリズリと間を詰めるアンドロイドと、音もなく地中を進行する触手との距離は縮まり、ようやく真下までたどり着いた。


 ズバ!

 一気に片をつけるべく、細く鋭い触手で真下からアンドロイド達を突き上げる。想定外の触手攻撃に、アンドロイド達は反応出来ず、五体とも頭の上から触手が突き出していた。

 ダメ元でエネルギー吸収を試みたのだが、あれはやっぱり生き物じゃないとダメなようで何も感じない。

 触手で貫いた瞬間からアンドロイド達の体内に根を張り巡らせ、一瞬で制御不能に陥れたため、遠くから見ていた味方には、単にアンドロイド達の動きが止まったようにしか見えないだろう。頭を貫いた触手は細く、目視するには近くまで来ないと無理だろうから。


『とりあえず、死んだ振りを続けるかな』

 一度成功したものだかから、馬鹿の一つ覚えのように死んだ振りを続ける。

 遠くにいるアンドロイド達は、なかなか動こうとしなかったが、こちらも負けじと辛抱強く待っていると、今度は十体のアンドロイド達が迫って来た。


 十体くらいなら、さっきのシチュエーションを再現できればなんとかなるだろう。

 先程の触手を抜き、アンドロイドに開けてしまった穴を塞いでおく。これなら近くで見られても問題無い。十体のアンドロイドは、少し距離を置いた所で半分がその場で待機、もう半分が前進という作戦らしい。


 ピュン!

 鋭い音と共に、一発の弾丸が腕を貫通する。めちゃくちゃ痛かったが、こちらも悟られるわけにはいかない。不意に走った激痛にも耐え、死んだ振りにしか希望の無い未来を呪う。

 五体のアンドロイドは、先程と同じようにズリズリと足を上げずに前進して来た。やがて、停止したまま動かないアンドロイドの近くまで来ると、腰あたりからケーブルを取り出し、接続しようと試みていた。

 だが、もうそこは射程圏内だ。俺の触手はケーブルでの接続を許す事は無かった。ケーブルを接続しようとしたまま停止したアンドロイド達は、まったく同じ方法で無力化できたようだ。

 これで、計十体のアンドロイドを倒した事になる。そろそろ花粉にも認められたんじゃないだろうか? こんな強いアンドロイドを十体も葬ったのだ、レベルは跳ね上がり数十レベルまで到達していてもおかしくないだろう。

 俺はそう期待を込め、アンドロイド集団に向けていた指を意識し、魔法のイメージを膨らませ、心の中で叫んだ。


『拡散レーザー!!』

 一直線に放たれた一条の光は、途中で分裂を繰り返し、扇状に拡散すると、倍々に増えていったレーザー光がアンドロイド集団に襲いかかる! ……はずだ。光はそれほど強いものでは無かったようで、その……見えなかった。

 しかし、遠く離れたアンドロイドの集団で、大きな動きがあった。数十体のアンドロイドが、突然倒れ出し、その近くにいたアンドロイドは逃げる様に散開していた。

 まったく何があったのかわからなかったが、恐らく……魔法が使えたのだろう。そして、ふつふつ湧き上がる高揚。ようやく魔法を使うことが出来たことへの歓喜を必死に抑え、冷静に死んだ振りを続行する。


『ようやく俺の時代が来た……ようやく……異世界ファンタジーの夢である、魔法を使ったのだ!』

 歓喜が心を満たし、自惚れが視野を狭めたのだが、状況的に死んだ振りは崩さない。しかし、その刹那、アンドロイド達の確認を怠ったせいで、目の前から彼らが消えているのに気付くのが遅れてしまった。

 薄目で見える範囲には誰もいない。いったい何処へ行ってしまったのだろうか? 一瞬の歓喜から一変して、焦燥が心を支配する。

 三分くらいだろうか? 静寂な空間は、時間が止まった様に変化が無い。


『この状況……どうなっている? 透過? 逃走? 潜伏? 反撃?』

 この異常事態に、ただ死んだ振りをし続けていたら負ける……と焦燥が行動を駆り立てる。今にも飛び起きてレーザーを乱射したい気分だった。

 しかし、魔法を無駄撃ちしてしまえば、まだまだレベルの低い俺の事だから、魔力の枯渇は早い段階で起こってしまうだろう。奴らは、無駄撃ちによる魔力枯渇を狙っているかもしれない。そうであれば、恐らくこのまましばらく動きは無いだろう。しかし、もし逃走だった場合、死んだ振り作戦をしていればアンドロイド達に時間を与えている様なものだ。


『さて……どうするかな』

 死んだ振りをしつつ考える。そもそも、アンドロイド集団を、ラミアが逃すわけもないし、奴らが逃げて立て直すにしても、シューゼには拠点が無い。ならば、逃走するならアローまで帰る帰還だろう。

 もし逃走ならば、これは勝利となるんじゃないだろうか? 奴らにしてみれば、帰還こそ重要な任務に違いない。俺がグレースに頼んだ様に、きっとそうだろう。

 しかし、ラミアの仕組んだ何かしらの障害で立ち往生しているのであれば、レーザー乱射も愚策ってわけでもなさそうだ。

 この膠着状態を打開するには、レーザー乱射しかないのだろうか? 


『ってか、アンドロイド集団の位置がわからないからこんな事になってるんだよなぁ』

 アンドロイド集団の正確な位置がわかれば、この膠着状態を打開できるだろうが、俺は姐さんみたいに花粉を感じ取れないし、位置を探り出すセンサーも持ってない。

 であれば、どうすれば良いのだろうか? ここは漫画みたいに、透明人間に着色してやれば良いんじゃないだろうか? 魔法でペンキを撒き散らして奴らを炙り出す作戦とか出来ないかな?

 なんて、馬鹿な事を考えてはみたが、こんな広大なフィールドに対して、俺ひとりの魔法でペイントするなんて不可能だと悟る。


『異世界ファンタジーのお約束なら、こんな時は過去の経験が自分を救ってくれるはずなのに……俺のこれは、なんなの? 何にも解決策すらないじゃん!

 魔法もそんなに知ってるわけじゃないし、魔力枯渇イコール負けだし、初戦で無慈悲なアンドロイド四百体に対して孤独なレベル一とか笑えない!』

 無力で孤独な負け戦に涙も出ない。

 正直もう、どうでも良かった。ここで人生の幕を下ろす事になろうと、俺が居なくなって悲しむのはアンドロイドのケンくらいだろうか? そのケンにしても、今は何処にいるかも分からない。

 中島だって、ヒルデと仲良くなっちゃってるから、俺の存在価値は著しく低下中だ。

 姐さんだって、きっと、俺が死んだら鼻で笑ってそんなもんかと見下して終わるはずだ。悠久の時間から比べれば、鼻くそ以下だろう。


『もういいか……こうなったら、俺の考えた最強の魔法でも完成させて、自己満足に浸りながら逝くとしよう』

 そうとなったら、まずは、イメージだ。とりあえず、先程成功したレーザーを使って、なるべく広範囲に逃げ場のない感じで放射するとして、拙い想像力で具現化できるのは……巨大な芋虫を焼き払ったあいつの感じで行こう。そのレーザーを五十センチおきに縦方向に配置して、百列並べれば五十メーター位になるから、アンドロイドの跳躍力を全部カバー出来るはずだ。

 レーザーを円を描く様にぐるっと一周させれば、地上から五十メーター上空まで、全方位火の海になる事だろう!

 思いの外危険な感じの兵器になってしまったが、俺の魂への鎮魂歌には相応しい感じになると思う。厨二病的で素晴らしい。


 大体のイメージは固まったので、俺は強くイメージした。五十センチに区切られただるま落としの様な塔と、そこに着いている砲台百機。それを、俺の倒れているところよりも少し上へ配置する。

 まずは、この塔が作れるかだ。


『この塔の名前は……そうだな、安直だけど、裁きの塔と名付けよう! この塔が完成すれば、百機のレーザー砲台が、一瞬で全方位を焼き尽くすだとろう! ふっふっふ……なんか、ようやく魔王っぽい事が出来そうだ。

 今までは、口先三寸で打開してきたが、この分からず屋達には、クソの役にも立たない。であれば、容赦なんて要らないはずだ!』

 もう後がない俺は、この一撃に全てを賭け、塔の出現を願う。強く、深く、鮮明にイメージした塔を出現させるため、俺は心の中で叫ぶ。


『裁きの塔!!』

 その叫びに呼応するかの様に、俺の場所から少し離れた所で、ゆらゆらと蜃気楼が発生した。その蜃気楼は、段々とはっきりしたものになり、細く高い塔……と言うよりは、棒が出現した。

 飾り気のないその棒は、俺の絵心のなさを象徴しているようで、表面はツルツルとした質感で、銀色の金属が重なっていて、その一つ一つに、携帯カメラのようなレーザー発射装置が埋め込まれていた。やがて、素っ気ないその棒が、甲高い音を鳴らし、高速に回転を始めた。


『……なんか、神々しさのカケラもない、素っ気ない棒が回転してるけど……まあ、しょうがない。アンドロイド達は、警戒してるのか攻撃してこない今がチャンスだ。

 サクッと終わらせてしまおう』

 この時の為に、色々考えた中で、もっともしっくりきた呪文を唱える。

 想像力のなさが、ここでも発揮されているようなのだが、気にしない。もともと厨二病を癒すための儀式だ。恥ずかしがっていたら、俺の魂を癒す事は出来ないだろう。

 そして、俺はまた、心の中で叫ぶ。


『焼き尽くせ!!!』

 そう叫ぶと同時に、周囲が夕焼けの様な朱色に染まる。温度が急上昇して、直撃じゃないのに焼き尽くされそうだった。


 ドドドドドン! ドドドドドン!

 幾重にも重なる爆発音が、敵を倒したと歓喜の音を告げる。

 うねりのあった地上は、裁きの炎によって刈り取られ、砲台の水平方向には、何もなくなっている。消え去った地上は、真っ赤になって燃え盛る溶岩となって、辺りを地獄のような景色に変えていた。


 俺は不用意にも立ち上がり、周囲の光景に見とれていた。

『……姐さんなら、思い知ったか、虫けら供め! みたいなセリフを吐くのだろうか?』

 あまりの威力と光景に、俺の感情は動かない。まさに鎮魂歌に相応しい情景と熱によって、魂は浄化されたようだ。


「アムルタート様、お疲れ様でした」


 後ろから声がかかる。ラミアだ。

 戦いの終わりを告げるその声で、ようやく我に帰る。


「ああ……終わり?」

「はい。全滅です。帰りましょう」

「……うん、帰ろう」


 その後、魔法が使えるようになった俺は、ラミアに頼る事なく帰る事が出来た。








Amazonプライム・ビデオで「suit」を一気見してました。

今は、「ビッグバンセオリー」ってやつ見てます。

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