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交渉

「ケンのバカ! もう知らない!」


「涼介のバカ! リースは駄目だってあれほど言ったのに!」


「でも、今日はいい感じだったんだ! 俺のためにゴスロリファッションだって着てくれてたんだ!」


「涼介はリースのことなんにもわかっちゃいないんだ! リースは知識欲のためならいろいろ踏み越えていってしまう悪い癖があるんだ!

 涼介はバッチリとリースにしてやられただけだよ!」


「そんなこと……わからないじゃないか!」


「……」



 ケンがそっと目を落とす。

 何かを決意したような……そんな悲壮感を漂わせ、哀愁を持って再び僕を見下ろす。

 そして……



「では、贄にしてはいかがでしょうか?」



 聞き覚えのある声と、発言内容に思考が止まる。

 さっきまで影も形もなかった本日のメインゲスト。



「ラミア……さん」



 ひっそりと、まるでずっとそこに居たかのようにラミアさんが僕の部屋に現れた。

 ケンの爆弾発言をさえぎり、新たな提案を提示するが、承諾出来ない爆弾発言で返されてしまった。



「それはちょっと……強引というか……」


「冗談です。ご返事を頂きに参りました」



 パンチの効いた冗談で主導権を奪うラミア。

 そんな急いでもしょうがないだろうに。



「涼介様、宜しいでしょうか?」



 負けじとレノが何処からともなく現れる。

 何を張り合っているのかは知らないが、しょうもない意地の張り合いすら次元が違い過ぎて笑えない。

 奴らにとってはどうでも良い事で、張り合っているわけではないのかもしれないが。

 それにしても、どうして俺はこんなどうする事も出来ない者達に絡まれているのだろうか?

 運命の過酷さに倒れてしまいそうだ。



「あ、ああ。あの、ラミアさん。この二人から提案があるみたいなんだ。聞いてくれるかな?」



 そんなに大した事をお願いしているわけでもないのに、高度な張り合いを目の当たりにしてしまった事で萎縮してしまう。

 こんなとんでもない奴らの仲介役は、凡人には荷が重すぎて、心音が心境と共鳴していた。



「……そうですか……聞きましょう」



 ラミアは少し考えたようだったが、すんなりと提案を受け入れてくれた。

 まずは第一段階クリアといった所か……。


 脈略無く始まってしまった交渉。

 心の準備はしていたつもりだったが、こうも突然始まるなんて思いもしなかった。

 だが、俺の役目は終わったも同然。

 あとはレノ……アマテラスにに乗っかるだけだ。



「では、この世界から去っていただくことはできませんか?」



 乗っけから右ストレートとは恐れ入ります。

 役目が終わったと安心していた僕の心臓が、再び耳元で騒ぎ出す。



「それは可能ですが、条件次第ですね」


「どのような条件であれば宜しいのですか?」



 この条件次第って発言は、そういう意味じゃないんじゃないですかね、レノさん?



「……そうですね。では、全ての人間の命と引き換えでしたら構いません」



  ほら……やっぱり。無理難題を吹っかけられるだけだったじゃん。



「なぜ、全ての人間の命が必要なのですか?」



 ……なんでそこ掘り下げちゃうのかな?

 レノさんは意外とKYだよね?



「特に必要はありませんが、あえて表現するならば、面白いからでしょうか」


「何が面白いのですか?」



 KYここに極まれり。

 レノさん……世界の終わりかもしれない交渉だってわかっているんですか?

 なんで挑発する必要があるんですかね? 理解しかねます!



「深く考えた事はありませんが、人間は死の恐怖を感じた時、いい声で鳴きますからね。

 そんなところだろうと思います」



 まるで虫を殺すのが楽しい! みたいな言い方で、人間殺すの楽しい! って言っているように聞こえた。

 どうにも理解出来ないが、釣りみたいなものなんだろうと思う。

 奴らにとって、人殺しはスポーツなのかもしれない。



「そうですか。では、なぜ今すぐにでもそれを実行しないのですか?」



 挑発アンド挑発。

 高鳴る鼓動は、夕暮れの君の姿にリンクはしなかった。

 僕の心臓は、小動物のように早いリズムで鼓動を打ち続ける。

 立ち話を聞いているだけなのに、真夏にマラソンでもしたかのような汗をかいていた。



「人間を殺すよりも、アムルタート様の行いを見ている方が楽しかったからよ」



 突然のデレに鼓動はピークに達する。

 僕の事を過大評価していただきとても嬉しいのですが、今は控えていただきたかった。



「そうですか。では、今後はどうされるおつもりですか?」


「今後なんて、どうするかは決まっていないわ。アムルタート様次第ですから」



 重い重い責務のようにラミアの発言がのしかかる。

 引き出しの少ないピエロにとって、それは死の宣告に他ならない。あ……死ねないんだった。



「そうですか……一つ疑問があるのですが、あなたがアムルタートの本体ですよね?

 であれば、今後もあなた次第ということで宜しいでしょうか?」



 恐れを知らないアマテラスの応酬に、僕は体が硬直していた。

 以前感じていた事だが、聞くことが出来なかった疑問。

 あの親父の正体……アムルタートはラミアだったのではないか?

 そんなありがちなパターンだからこそ、見落としてしまう一つの可能性。

 これは、僕が一番知りたかった事だ。



「……そうね。今更偽ったところで面白く無いわね。私はラミアであり、アムルタートであり、魔王と呼ばれていた。そんなところかしら?

 だから、今後も私次第って言うのは間違いじゃないわ」



 ラミアは深々と被っていたフードを上げた。

 そこには、女神も羨む金髪の美女がいた。

 彼女はまるで、芸術的な絵画から飛び出して来たような美貌を持ち、その美しさは言葉では表現し難かった。



「あっあの!」



 僕は、ラミアの告白を受けて、堪らず会話に飛び込んでしまった。



「親父は……」


「ふふっ。そうね、あなたには親父と言われていたわね」


「やっぱり! すいませんでした! 姐さんだったんですね!」


「別に性別なんて無いわ。ただ……そう呼びたかったらそうすると良いんじゃないかしら?」



 美しい美女が微笑むと、ここまで脳の働きが阻害されてしまうものなのかと驚く。

 不安や焦燥、恐怖といった感情は消えて無くなり、ただただ快楽物質が脳内を飛び交う始末。


 しかし、この反応は大丈夫だろう。姐さんは、気持ちが態度に出やすい。

 呼び捨てにされた時もそうだった。



「ありがとうございます!」


「では、アムルタート様」


「姐様で良いわ」


「では、姐様」



 姐さんが、レノに呼び方を変えるよう促している。随分とその呼び方を気に入ってくれたみたいだ。



「これから、涼介様をどうしようとお考えですか?」


「そうね……特に何も考えてはいないわ。ただ、面白いから連れて行くだけよ?」


「では、私とケン……こちらのアンドロイドもお連れ頂けませんか?」



『これか……レノが任せろと言ったウルトラCの内容は……。

 ただ、これじゃほとんど何も変わらないんじゃないか?』


 任せろと言った割には、なんとも堅実な話だ。これでは俺が売り渡されるのは変わらない。

 だが、今まで苦楽を共にした仲間が居るのは有難い事だ。



「ふむ。まあ、構わないが、お前らは何が出来る?」


「はい。お住まいの地に散布している花粉……電波を阻害している物質を取り除いて頂ければ、即座にこの世界の人間全てを、姐様に隷属させる事が出来ます。

 ただ、これを実行するのは、条件次第なのですが」



 ウルトラCはこっちだった。早合点も良いところだ。

 この世界で散々短慮を嘆いたはずなのに、この性格は治らないらしい。



「面白い事を言う。直ちに全世界の人間を私に隷属させるなど出来るわけが無いだろう?」


「可能です」


「はん! 世迷言を……。私ですら他の世界で全人類を隷属などしたことが無い」


「姐さん……それはただ、やらなかっただけなんじゃ……姐さんの力があれば簡単だろう?」



 食料を牛耳ってしまえば簡単に出来たはずだ。

 姐さんは何が言いたいのだろうか?



「私は木偶の坊と戯れる趣味はないのでな。食料を奪ってしまえば皆廃人と化してしまう。

 だから、一部の人間を隷属させ、他の地の者共と戯れていたのだ」



 何かがおかしい……姐さんが言っている事は正しいのだが、何かが間違っている。

 これでは、魔王ごっこだ。



「姐様。私に任せて頂ければ、皆廃人と化す事なく、姐様に隷属を申し出るでしょう。

 その時、こちらの条件として、人の法を犯さない、皆平等に可愛って頂けるとお約束ください。

 そして、シューゼ法国を覆っている花粉を取り除いていただければ、全世界の人間を隷属させることが可能になります」



 こんな大事な事を、簡単に決めてしまえる程、アマテラスには大きな権限があるのだろう。

 姐さんが条件を飲むかはわからないが、姐さん以上の成果を出すと言っているようなものなのが気になる。

 逆に怒りだしてしまうかもしれない。

 一抹の不安を堪え、姐さんの返事を待つ。


 目を細め、口元に手をかざす姿は、何を思っているのか?

 この時、僕は、美しすぎる姐さんに魅了され、この結末がどうなろうとどうでも良かった。






みなさんご存知でしょうか?

キーワードにギャグが入っている事を。

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