大人の女性 〜弄ばれる僕の心〜
「あー、頭痛い……」
昨日の晩、中島の部屋でお別れパーティーをしていたのだが、どうやら飲みすぎたようだ。
……ふと周りを見ると中島がベットで寝ている。
『ここは中島の部屋か……』
あの後、自分の部屋にも帰らず寝てしまったらしい。
俺は頭を掻きながら、中島を起こさないように、静かに部屋を出る。
「涼介、おはよう!」
「ああ、コルチェか。おはよう」
ドアを出ると、コルチェが出迎えてくれた。
「涼介、早速で悪いけどリースが呼んでるから行くよ!」
コルチェはリースの手伝いをしている、だから呼びに来たのだろう。
じゃあ、行くかーなんて寝ぼけていたが……。
「……リースさん? コルチェ、ちょっと待て……十五分くれ!」
そう言うと、コルチェを置き去りにして自分の部屋に走る。
俺は寝起きでボサボサの頭を気にしていた。だが、そういえば昨日は風呂にも入ってない!
こんな状態でリースさんに会うなんてのは無しだ。ありえない。俺は急いで自分の部屋に戻り風呂に入る事にした。
部屋に戻るなり、烏の行水の様な速さで風呂を済ませ、最速で支度をする。
取り敢えずの体裁は保てただろう。待たせるわけにもいかないので、すぐに部屋を出る。
「コルチェ、待たせた! 行こう」
「まったく、リースの事になると別人だよねぇ。どうせ大して変わらないんだからいいじゃん」
「いいんだよ。おまえが気にしなくても、俺が気にしてるんだから」
コルチェの悪態は毎度のことなので適当にあしらう。
それよりも、リースさんだ。
俺は今日こそ自分の気持ちに正直になるんだ! ケンに何を言われようが構うことはない!
どうせ今日明日にはいないかもしれないんだ、思いをぶつけて玉砕するのも一興だろう。
コルチェがリースさんの部屋まで案内してくれる。あの時の様な邪魔はもう無いだろう。
あんなウルトラCの様な事が何度も起きてたら、流石に体がもたない。
決してフリではないのでお願いします……。
そんな馬鹿な事を考えていたら、もうリースさんの部屋の前だ。
「なんだかドキドキするね! また、涼介は倒れちゃうのかな?」
「やめろ! ホイホイそんな事が起きてたまるか!」
ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべるコルチェ。
こいつを作った奴には、いつか物申す事を誓った。
ドキドキしながらドアをノックする。
コンコン
「はーい!」
「涼介です!」
「涼介君か、ドアは閉まってないから入ってきてくれないかな?」
「はい!」
ここだ……秘密の花園の扉は、転移のきっかけみたいになってしまったが、もうそんなことは無い。
二度あることは三度ある……いやいや、違う、そうじゃない。
そんな何度も転移してたまるか! そもそも、最初の転移はトイレだ。秘密の花園じゃない。
……見方によっては秘密の花園か?
ダメだ、無意識に不安が押し寄せてくる。
「はぁ……涼介、早く」
痺れを切らせてコルチェに急かされる。
わかっているが、頭と体が無意識に拒否をする。
こんなところでウジウジしていたら、リースさんを待たせるだけなのに……。
俺は、意を決してドアノブに手をかける。
ガチャ
空いた。
秘密の花園の扉を……ようやく開ける事が出来たのだ!
部屋を覗くと、そこにはリースさ……
「やあ、早く入って! って……おーい!」
ガチャ
「何で閉めるんだよ。涼介、頭大丈夫か?」
コルチェがどストレートな暴言を吐く。
「コルチェさん。リースさんは何であんな薄い短パンにキャミソールなんて着てるんだ? 俺が来るって知ってたんだよな?」
「リースは、部屋ではいつもあんな感じだよ?」
なるほど、部屋着のままってことか。……ケン、おまえは正しかった様だ。
相手が悪い……その通りだった。
童貞拗らせている二十二歳には刺激が強すぎて直視出来ない。
「コルチェさん。お願いです。リースさんに、何か着るように言ってください」
「……何かと思えば。涼介は童貞拗らせていたんだね。
良いよ。僕が先に入ってリースに言っておくよ。その格好だと、涼介のスケベ心が抑えきれないって」
「そうなんだけど、言い方! もうちょっと優しくして!」
「まあ、そこそこ面白かったから、涼介のお願いを聞いてあげるよ」
「サーセン」
ガチャ
コルチェが中に入る。ドアが閉まると中の声は聞こえない。
コルチェが何か変なこと言ってないかドキドキが止まらない! これが吊り橋効果ってやつだろう……恋のドキドキを、恐怖のドキドキと勘違いしてしまうと噂の。
ガチャ
「涼介、もう良いよ。入って」
「ウッス!」
ドアを開けると良い香りがする様な気がした。そのまま中に入り、視界の先にいるリースさんを見る。
リースさんは真っ黒なドレスに、白いレースのフリルが沢山付いた可愛らしい格好をしている。
やや上の方から垂らしたポニーテールは、艶っぽいうなじを引き立て、真っ赤なリボンで結ばれていた。
お化粧は、やや白っぽいファンデに、暗めの赤い口紅が……ってゴスロリだ!
「やあ! よく来てくれたね!」
「何でゴスロリなんですか?」
薄い部屋着の次はゴスロリとか……今日はなんて日だ……福眼過ぎる。
「これかい? ちょっと管理者特権で、涼介君の好みを調べたんだ。似合うかい?」
「とっても……とても良いです! リースさん最高っす!」
「あはは。良かった! 涼介君に喜んでもらえて嬉しいよ」
「いや、なんかすいません……。僕の好みに合わせていただけるなんて……」
「ふふ。ちょっとした実験だよ。いつも涼介君は私から距離をとってるみたいだったからね。
少し、私から近寄ってみようと思ったのさ」
え? いやいや、俺の聞き違いか? 私から近寄ってみようと思った?
これはあれか? チャンスか? たたみ掛けるか? そうだ……ここは男の見せ所だろう!
「そんな事ないっす! リースさんのこと、大好き過ぎて困っているくらいです!」
「本当に?」
「本当です!」
「じゃあ、まずはもっと砕けた感じで、話し方を変えてみようか?」
「……頑張るっす!」
「まだ固いね」
「がんばりまーす」
「うんうん。いい感じ!」
ちょっと砕け過ぎじゃないかな? って思うくらいが、リースさんには好かれるらしい。
敬語一辺倒では、恋は始まらないだろう。
「ところで、リースさんはなんで僕の事呼んだんですか?」
「ああ……これは、コルチェから聞いたんだけど、なぜ昨日の集まりに私を呼んでくれなかったのかって事を聞きたくてね」
普通の会話しようとしたら、斜め上からの返答に思考が固まる。
リースさんを見ると、口元は笑みを浮かべるているのだが、目が笑っていない。……どっちだ! どっちもか!? 僕は試されているのか?
「えーっと……リースさんは、そんな気軽に呼んでいい人ではないと思っていて……」
「やっぱり、涼介君は、私と距離を取って接してくれているみたいだね……」
あまり表情を変えず、淡々と話しをしている感じなのだが、口調が少し寂しそうなトーンだった。
「親友の様な、雑な扱いは出来ないっす!」
「知人って感じかな?」
なぜか、やけに食い下がって聞いてくる。もう勘弁していただきたかった。
「恩人です!」
「……なるほど。そうか、涼介君は本当に私のことを恩人と思ってくれているのか……」
「優しくて、綺麗で、 可愛くて……大好きです!」
リースさんは少し驚いた様な感じで目を開き、やがて、嬉しい時や、僕をからかう時にするニヤニヤとした笑みを浮かべる。
「……ありがとう。こんな格好をした甲斐はあったようだね」
感情がこもっているようで、こもっていないようなその話し方は、本心を悟らせない。
しかし、行動はいつも大胆で、僕の心に深く突き刺さる。
何が本当で、何が建前なのか? 悩み、苦しみ、ハマってゆく……彼女の妖艶な笑顔に絆されて。
「では、遊んでばかりじゃ進まないし、本題に移ろうか。
今日、来てもらったのは、涼介君のことについて、色々見えてきたことがあって、それを報告しようと思ったからなんだ」
……遊ばれているのだろう。きっとそうなのだろう。
だが、これはリースさんの照れ隠しだ! なんて思ってしまうくらい、僕の方はどっぷりと抜け出せない沼にハマっていた。
小説書いてると、好みがバレますね。




