恋と魔法と高嶺の花
俺は魔法使いになりたかった。
異世界転移の醍醐味、魔法。
中島が持ってきてくれたマジックポーションは、そんな俺の夢を叶えてくれるはずだった。
しかし……
中島のいた異世界の魔法は……未知の超微生物による作用だったようだ。
超微生物を体内にばら撒き、共生相手として、末永く歩んでいかなければならないらしい。
中島の話では、偉大な魔法使いは人間の寿命を軽く超えてしまう事さえあると言っていた。
超微生物に脳でも支配されているんじゃないかと疑わしくなってくる。
そして、レノの検証結果だが、取り敢えず問題無いとお墨付きをもらった。
超微生物の研究も進み、培養も可能になったことで、マジックポーションの量産も開始された。
しかし、なぜ魔法が使えるのかは、まだ解明出来ていない。
麻酔のようなものだろう。結果はわかるけど、仕組みがわからない薬物のような扱いだ。
マジックポーションの量産化により、この世界の人を数人募って実験も開始された。
中島が魔力調整を行い、この世界の人も魔法が使えるようになるとわかった。
しかし、俺は使えなかった。
ナノマシンを停止させ、超微生物を体内にばら撒き、魔力調整をしてもらっても、超微生物は定着してくれなかった。
これについては、レノが答えてくれたのだが、ナノマシンがワクチンのような役割を担ってしまい、超微生物に対して、耐性が出来てしまったらしい。
そこらへんの事を中島に聞いたが、魔法を使えない人はいるとの事だ。
まことしやかに噂されていた話だが、マジックポーションを少量摂取したことがあると、そうなる確率が高いらしい。
これも、耐性が出来てしまったための話であれば辻褄があう。
俺はラクライマの教えを破り、安易に中島を信じてしまった。考える事をやめてしまったために回避できなかった小さな綻び。
それは、異世界で魔法使いになれないという涙が止まらないような仕打ちだった。
ただ、そう反省したところで、俺はラクライマ教の信者では無い。
でも、美女達も信者ではないような事を言ってたっけ……ラクライマ教は、あくまで教えであり、信者とかは関係ないのかもしれない。
信者でもないのに、教えを守らなかったことを悔やんでいる自分のような存在こそが、この宗教の真髄なのだろう。
それから、ヒルデは着々と魔法を上達させていった。
中島の教えをぐんぐん吸収してる。今では小さなプチ炎流を出している。
悔しさから、ヒルデを見る目に偏見が入り混じる。
ここ最近ずっと中島に付きっ切り指導をされていて羨ましいのもあるが、なんだかあいつらがイチャイチャしてるように見えてならない。
「レノ……もう俺は、魔法を使うことが出来ないのかな」
「いえ、可能です」
「だよな」
「はい」
「……あれ? 使えんの?」
「はい。遺伝子操作をすれば、耐性を排除できます」
「……やめておきます」
「遺伝子操作は事例も多く、安全なものとなっております。涼介様が思うような事にはなりません」
「いえいえ、そんなお墨付きをいただいても怖すぎます」
「では、スクロールを改良したもので代用はいかがでしょうか?」
「そういえば、そっちも検証してるんだっけ」
「はい、人の力で魔法を放つよりも、効率的で、威力、効果も大きいものとなります」
「でも、精霊魔法って言うからには、なんかと契約しなきゃなんないんじゃないの?」
「これはまだ推察の域を出ていませんが、この超微生物は、人のイメージをなんらかの方法で具現化しているものと思われます。
そのイメージは、多くの人が信じれば信じる程、連鎖的に増大し、周りを巻き込みます。
しかし、大量の微生物を保有していれば、一人のイメージでもなんら問題ありません」
「じゃあ、契約とかそういった儀式ってのは、魔法の効果を高める為のイメージ作りってことか」
「そう考えるのが、現状有益かと思います」
「じゃあ、保有してなくても思えばいいんじゃない?」
「いえ、微生物と共生していなければ、イメージは伝わりません」
「あー、なるほどね」
って事は……中島は大量に微生物と暮らしている大魔法使い。
中島がイメージしなければ、ヒルデは魔法を成功に導けないのかもしれない。
俺は早速実験に取り掛かる。
「……なんだよ。いきなり話って」
ヒルデとのイチャイチャタイムを邪魔されてむくれる中島。
「なんだか最近イチャイチャし過ぎじゃないか? 中島君」
「いやいや、そんなんじゃねぇよ」
「出ました! そんなんじゃねぇよ! うるせぇ! そんな話がしたいんじゃねぇ! もっと大事な話だ」
「……盛り上がってるのおまえだけだからな」
「……うん。では、魔法について、色々わかったことがあるので、中島君と作戦会議をしたいと思います」
「もうなんかわかったの? まだ一か月も経ってないぞ?」
「この世界の超技術を舐めないでほしい」
「だから、おまえが言うな」
「それはさておき、魔法はイメージを超微生物に伝えると具現化するものらしい」
「ほー」
「んで、そのイメージは体内以外の微生物にも伝搬するらしい」
「へー」
「だから、微生物を大量に保有するおまえが、成功しないイメージをすれば、ヒルデは一生使えない……かもしれない」
「……まさか」
「はい! その通り!」
「えー、なんかやだよそれ。ヒルデが可愛そうじゃねぇか」
「はい、呼び捨ていただきましたー」
「茶化すな!」
「でもでも、それがこの世界を救うかもしれないんだぞ?」
「……それを言われるとな」
「頼んだぞ! 中島!」
「うわー、嫌な役回りを押し付けやがって」
「……中島、ヒルデを違う面で攻略してしまえ! 魔法なんかどうでも良くなるくらいに。おまえが慰めてやればいいじゃない!」
「おまえ……その考えゲス過ぎない?」
「やるのは中島だ! もしやらないって言うなら俺が変わって……」
「やるよ! わかった。慰められるかはわからないけど、俺が成功をイメージしなければいいんだろう?」
「そゆこと。ちょっと実験なんだけど、今ヒルデはプチ炎流を出せるじゃない? 一回だけ、おまえが強くイメージして、ヒルデがそこそこの爆炎流を出せないかやってみて。そのあとはプチで止めておけば良いから」
「わかった」
中島には損な役回りを押し付けて、申し訳ない気持ちでいっぱいになるはずだったが、ヒルデと中島の仲がまんざらでもない雰囲気なのでひがみしかない。
『俺だって……こんな事が無ければ、この世界でリースさんと……』
「それはどうかな?」
……出た。
この登場の仕方は奴だ。俺の色欲を敏感に察知し、萎えさせる天才アンドロイド。
「ケン……おまえは絶対許さない!」
「涼介を思ってのことさ!」
「俺の事をどう思ったらそうなるんだ!」
「涼介が悲しまないように?」
「疑問形で悲しいこと言うな!」
「成功すると思うの?」
「……そういう問題じゃない!」
「でも、僕はオススメしなよ。特にリースはね」
「……なんかあるのか?」
「……それは言えないね」
「クッソ! 気になるような事言っておきながら、理由は言えないだと! レノに聞いちゃうぞ! 俺が頼めば、そのくらいなら教えてくれるんだぞ!」
「良いのかい? やめておいたほうがいいと思うよ。悲しむことになる」
「っかー! この野郎! 俺で遊んでるな! ケン、テメェ、ルイの爺さんに似てきたな」
「僕も遊んでいたわけじゃないからね! ルイ様の話術を習得していたのさ!」
「遊んでるじゃねぇか!」
「そうだね!」
どうやら、ケンはルイの爺さんに習って、話術スキルを上げたらしい。
実際は、ツクヨミによって磨き上げられたのだろうが、一体何がしたいのか。
「この野郎……」
「やあ! どうかしたのかい?」
「ケンが俺をからかうんですよ! リースさんは絶対俺なんかじゃ無理だって!」
「……なんとも、本人にいう事じゃないね」
「……あれ。リースさんじゃないですか」
俺はこんなハプニングでは動じない。
秘技、無かったことにするを発動した。
「やあ、調子はどうだい?」
「体の調子は全然問題ないです」
「ふふ。そうじゃなくて……まあいいか。それより、ケンと何を話していたんだい?」
「え? いやー、特に何も実のある話はしてないですよ?」
とんだすっとぼけだ。嘘はつけないが、こういったことは得意らしい。
「そう? 私の名前が聞こえてたきがするんだけどな」
「えーっと、リースさんは凄いって話を……」
「何がすごいんだい?」
リースさんが、ニヤニヤしながら僕の顔を除きこむ。
いたずらな笑顔が、僕の心に突き刺さって何も考えが浮かばなくなる。
「えーっと、えーっと、ケン、なんだっけ?」
「涼介がリースを好きって話だよね!」
「そうそう……いやいや、ケン! 違うだろ!」
「違うのかい?」
「いや、えーっと、違うってそういう意味じゃなくて……」
「じゃあ、好きなんだね?」
「えっ? あの、あー、えー。はい……」
「ふふ。ありがと! ケン、あんまり涼介君をいじめちゃダメだよ!」
「オーケー! わかってるさ!」
「じゃあ、元気な涼介君も見れた事だし、私は行くね! あっそうそう、近いうちにまた呼ぶから、今度こそ来てね!」
「あ……はい。リースさん、気にかけていただいてありがとうございます」
「かたいなぁ……まあいいか。じゃあね!」
そう言うと、リースさんは去って行く。俺の気持ちを伝えたと言うのに、この喪失感は一体なんなのだろう。
届いたはずなのに叶わない想いのせいなのだろうか?
「だから言っただろ?」
「なんでだ……ケン」
「リースは無理だよ。相手が悪い」
「そうか……」
恋愛慣れしていない俺では到底手の届かない高嶺の花。
俺はアイドルの追っかけ程度にしか思われていないのだろう。
実際、そんなに深い話をしたわけじゃない。プライベートな話なんかしたこともない。
俺の方も、実はアイドルの追っかけ程度の感情しかないのかもしれない……ただの勘違い。
初恋がアイドルだったというオチなのだろうか?
経験の少ない俺には、到底理解出来るものではなかった。
「ケン……中島とヒルデはどう見える」
「順調だね! もう少しだと思うよ」
「俺と何が違うんだ」
「それは、追い追い気付くはずだよ」
「……」
ケンが止めた理由は、俺が悲しむだけではなく、リースさんとの仲を気不味い雰囲気にしないようにするための配慮だったのだろう。
最初はイラつくケンの優しさは、すぐに俺を包み込む。
それが、計算された優しさであったとしても、今はそんなこと忘れて縋りたい気持ちだった。




