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ヒルデ攻略と、魔法使いへの道

「エンドマジック・シルフ・ストーム・サラマンダー・フレア・フレアストーム!」



 中島がかっこつけてアレを放っている。

 グレースの時より幾分大きいサイズの爆炎流だった。


『ってか、熱い! 訓練場で繰り出すような技じゃねぇ! 周囲温度を上げ過ぎだろ』



「ナカジマ様! 凄いです! こんなに激しいのは初めてです!」



 ヒルデが興奮気味だ。勇者パーティの魔法使いに賞賛されるなら、やっぱ凄いのだろう。

 この感じだと、中島は向こうの世界で過ごしていた方が幸せだったかもしれない。



「ちょっとやり過ぎたみたいだ。相殺しよう。

 エンドマジック・シルフ・ストーム・ウンディーネ・スプラッシュ・スプラッシュストーム!」



 中島が繰り出した暴風雨と爆炎流が、お互いに打ち消しあう。

 訓練場が水蒸気塗れだ。着てる服が蒸気でびしょびしょになった。


 俺は、そんな光景を、遠くで体育座りして見ていた。

 奴らは防御魔法を張ったらしく、全然濡れていない。ふざけている。



「じゃあ、ヒルデもやってみて」


「はい!」



 ヒルデはとても嬉しそうだ。そんないい顔を見ていると、あの時のヒルデは嘘だったんじゃないかと思えてくる。



「エンドマジック・シルフ・ストーム・サラマンダー・フレア・フレアストーム!」



 気持ちの入ったいい声でヒルデが魔法を唱える。

 しかし、炎は風に乗らずに消えてしまった。

 そういえば、グレースが高度な技術って言ってたっけ。

 案外難しいのかもしれないな。



「すみません……」


「最初はそんなものさ。グレースだって物にするのに二ヶ月くらいかかったからね!」


「そんなに……でも、今は時間が……」



 グレースを助け出したいヒルデは、焦っているのだろう。



「グレースはちゃんと使えるようになっていたよ! そのグレースが負けたんだ。このまま挑むつもりかい?」


「そう……ですが……」


「勝てない勝負を挑んでも、グレースは返って来ないし、討伐だって果たせない。無駄に死ぬだけだよ」


「そうですね……。わかりました! 頑張ります!」


「そうだね! じゃあ俺は涼介にも魔法を教えないといけないから。頑張ってね!」


「はい!」



 中島はそう言うと、こっちに近づいてくる。

 作戦は上々といったところだろう。



「なんとか引き止めておけそうだぞ!……っておまえ、びしょびしょじゃねぇか」


「……おまえの魔法のせいだろうが」


「あ。わりぃ! ソフトドライウィンドウ!」



 生暖かいカラッとした風が俺を撫でる。

 便利魔法とかいうやつだろうか? びしょびしょだった服は、数秒で気持ちの良い干したての感じになった。



「便利過ぎて堕落しそうだな」


「威力やら、操作が結構難しいんだぞ?」


「みたいだな。んで、俺は魔法使えるようになるのか?」


「たぶん大丈夫じゃないかな? はい、これ飲んで」



 中島は、鞄の中から小瓶を出して俺に手渡す。

 中身は少しキラキラとした緑色の液体だった。



「何これ?」


「マジックポーションってやつだよ」


「魔力が回復するアレか……まだあるのか?」


「それを入れて三本ある。それがどうかしたか?」


「いや、これ飲めば魔法が使えるようになるなら、解析に回さなきゃと思ってさ。まだあるなら、もう一本をレノに渡してくれ。レノ!」



 レノが顕現する。中島はもう一本鞄からマジックポーションを取り出しレノに渡す。



「よろしくな!」


「かしこまりました。すぐに解析に回します」


「他になんか持ってないのか?」


「ああ、あるぞ」



 そう言うと、中島は鞄の中から水差し、スクロール、ポーション、解毒薬、ランタンを取り出しレノに渡した。



「色々あるんだな」


「全部マジックアイテムだ。他は特に効果があるものを持ってないな」


「じゃあ、全部まとめて解析よろしく!」


「かしこまりました。早急に進めます」



 レノは余韻も無く、すぐさま消えてしまった。



「この消えていくのは魔法じゃないんだよな」


「ホログラム的なやつだってさ」


「技術が半端なさ過ぎて魔法と勘違いするよ」


「この世界はやべー技術力持ってるから、生活する分には何にも不自由は無いぞ」


「そうだな。何にも不自由は無かったな」


「ただ、つまんねぇけどな」


「だな……ってか、早く飲めよ」


「……まじか。本当にこれ飲めば、魔法使えるようになるのか?」


「なるよ」


「副作用とか無いのか?」


「魔力制御と、魔力生成が出来るようになるまで、ちょっと気分が悪くなるくらいかな。でも、俺が補助するから全く問題ない」


「……ならいいか。じゃあ……」



 俺は小瓶の蓋を開け、中の液体を飲み干した。

 味はしなかった。軟水を飲んでいるような感じだ。



「……どう?」


「ちょっと待って」



 中島が両手を俺の前に出し、なんだかいかがわしいなんとか療法の様な感じで、気を送っている。

 これは、さっき言っていた魔力調整ってやつだろうか?



「何してんだ?」


「おまえの中にある魔力を活性化して、全身に巡らせている。そのうちに、なんとなく感覚をつかめる様になるから待ってろ」


「りょ」


「……」


「…………」



 お互いに無言の時間が続く。感覚と言われても、今のところ何も感じない。

 中島の真剣な面持ちは、黙って見てると面白いので笑いを堪えるのが辛い。



「……」


「…………」



 長い……もうかれこれ十分くらい経っただろうか?

 未だ何も感じない。どうした、中島。俺を魔法使いにしてくれるんじゃなかったのか!



「……」


「……ダメだな」


「え?」


「なんかダメ。全然魔法制御出来ない」


「じゃあ、マジックポーション一本無駄にしちゃったって事?」


「そうだな」


「マジかよ! 一本は検査に出しちゃったから……あと一本しかないじゃん!」


「まあ、魔法が使えなくても問題無いだろ?」


「嫌だ!」


「じゃあ、検査結果が出るまで待ってるしか無いな。」


「闇雲にやっても同じ轍を踏むって訳だな……。仕方ない……検査結果を待とう。レノ!」


「お呼びでしょうか。涼介様」


「マジックポーションの検査結果は出たか?」


「おいおい、さっき渡したばかりだろう? いくらなんでもそりゃ……」


「出ていません」


「ほら」


「いやいや、ほら、じゃねぇよ。ギャグアニメなら、この流れだと「出ました」って感じで中島が「えぇぇ!」って大げさに驚く場面だろ」


「ぽかったけども。まだ渡して十分くらいしか経ってないだろ!」


「この世界の技術力舐めんな!」


「おまえが言うな!」


「なんか無いのかよー。途中でも良いから、検査結果教えてくれよー」


「では、検証の途中ですが……あのマジックポーションの中には、未知の超微生物が大量に混入しておりました。

 涼介様の体内には、異常を除去するナノマシンを常駐させております。

 そのナノマシンが、未知の超微生物を撃退したものと推察いたします。

 よって、この実験を成功させるには、ナノマシンの動作を停止させ、未知の超微生物を涼介様の体内に侵入させることが必要となる可能性が高いです。

 ですが、まだ、安全のための検証が終わっておりません。今しばらく待っていただいた方が賢明かと思います。

 ただし、異世界者の記憶には、特に目立った後遺症などは無いため、生体実験は済んでいるものと考えれば、問題は無いでしょう」


「だってさ」


「…………俺、そういう感じの虫みたいなの無理なんだよね。一気にやる気ガタ落ちだわ」


「腸内細菌みたいなもんだろ? 乳酸菌と思えば良いじゃん」


「そうなんだろうけども……ここは……この世界の安全検証を待とう」



 乳酸菌と思えばなんとか行けそうな気がするが、レノの説明がなんかダメだった。

 未知の超微生物とかマジでやめて、そんなん飲んだら体壊しそうで怖いわ!

 まあ、中島とか、向こうの世界の人はみんな通ってきた道なんだろうけども。



「なんだよ。涼介の意気地なし!」


「うるせぇ! 今だって異世界と違う事が起きたんだ! ここは大人しく結果を待つべきだろう。郷に入れば郷に従えってね!」


「はいはい」



 中島が呆れている。まあ、今はそう見えるだろうが、俺は石橋を叩き壊してしまう程叩いて渡るタイプなんだ。

 さっきはその場の勢いで飲んでしまったが、そこは中島という信頼があったからこそ……。


 ……俺は、ふと、アムルタートだった時の事を思い出す。

 この、信頼ってのも、信じる行為と同じなのだろうか?

 俺は中島を信じて、キモい緑の液体を飲んでしまった。ラクライマの教えでは、これは禁止事項だったはずだ。

 詳しくは、「興が乗らない信じる行為は禁止」だ。

 興が乗っていたと言えなくはないが、そういう都合のいい解釈をしてはいけないだろう。

 きっと、興が乗るって解釈は、負けても楽しくなければならないのだろう。


 じゃあ、生死を分かつような一か八かの時は?


 「死を恐れてはいけない」


 一か八かの賭けをする時点で、死を恐れているってことになるんじゃないだろうか。

 生を渇望し、死を恐れていなければ、考え続けるだろう。

 最後まで、足掻き、考え、死ぬ間際まで、考え続ける人であれと……そういうことなのかもしれない。


 またこれもラクライマ教の一解釈に過ぎない。詳しいことは書いていないと言っていた。

 人それぞれ違う解釈があると。


 気づかなければわからない様な、ほんの小さな綻びが、大きく未来を変えてしまう可能性を秘めている。


 「信じる」なんて、知的生命体である人間を放棄した様な生き方をすれば、そのしわ寄せは、必ず返ってくる。

 今回は、たまたま運良く何も無かっただけだ。


 だから、俺は、検証を待つことにする。






皐月賞……7はいい読みだった……2、5が来ないなんて……一番人気は地雷だって読みも当たっていたのに!

悔しくて、麻雀行ったら一万負けました。

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