秘密の作戦会議 〜新たな発見は絶望でしたが、強く生きていきます〜
「では、中島君! 腹は決まったかな?」
「……どうすることも出来ないだろう」
「そうなんだよねぇ」
「なあ、この作戦の肝って、魔王と共存出来るかどうかって事か?」
「YES!」
「……本当に出来るのか?」
「一割くらいは可能性があると思います!」
「………………それが一番生き残れる可能性が高いのか?」
「んー。扉に飛び込むってのが一番生き残れる可能性高いかも」
「扉に飛び込むか……」
「まあ、これから情報が集まれば、選択肢も増えるはずだからさ! 様子見だね!」
「おまえのそのテンションに不安しかねぇよ」
「馬鹿、やめろ。俺だって異世界転移して、チート勇者ヒャッホーウ! みたいな展開期待してたんだ。
まさかこんな事になるなんて、思ってもいなかったよ!」
「俺は前の世界で、だいぶ順調だったんだな。この世界は救いが無さすぎる!」
「実力でどうこう出来ないしねー」
「その魔王の強さがチート過ぎて逆パターンとか泣ける」
「だよねー。そうそう、魔王さんの詳細なんだけど、一、死なない。二、消される。三、全ての植物を操ったり、進化させたり出来る。以上!」
「死なない?」
「うん。星が消滅したって、他の世界に行くから大丈夫なんだってさー」
「そっかー。星が消滅しても大丈夫なんだー」
中島が、この作戦会議の中で一番良い顔をしている。
やっと親父の強さを理解してくれたらしい。
「そういう事だから、敵対したって無駄死にするだけだよ」
「なーるほどね! これは打つ手なし! 扉へ飛び込もう!」
「行っちゃう?」
「そんな簡単に出来るわけないだろ!」
「逆ギレは良くないよ!」
「……はぁ。じゃあ、まずどうする?」
中島は俺のベットに寝転ぶ。やる気が失せてしまったようだ。
「えー、中島君には、やってもらいたいことがあります! ヒルデと魔法の訓練をお願いしたいです!」
「ああ、なるほどね。……それしかないか」
「んで、出来るだけヒルデの自信を奪ってください。
勝手に戦いを挑まれると困ります!」
「だな」
「そんでもって、俺も暇なんで手伝います。ってか、俺も魔法使いたい!
三十過ぎる前に魔法使いにならないと負けだと思うので」
「……そうか。おまえは今、二十二歳か」
「そうっす!」
「おれ、まだ十九歳!」
「……なんか切ねえな」
「見た目わかんねぇから大丈夫だ」
時間軸がズレるとこんな事も起きてしまう。
遣る瀬無い気持ちでいっぱいだ。
「まあ、おまえとの出会いが、この程度の不都合で済んで良かったと言うべきだな」
「出会えたのも、奇跡の中の奇跡に近いしな」
男にこんな事を言われると、こんなにもげんなりするものなのかと驚いた。
中島は普通に言っているのだろう。ただ、僕にはその光が強すぎる。しまって欲しい。
「そうなるな」
「他に何かあるか?」
「あるよ。こっから先は、今は必要ないかもだけど……聞きたい?」
「……落ちるやつ?」
「更にね!」
中島は目をつぶり、手を額に付け項垂れる。
彼の心の中では今、聞くという覚悟を決めかねているのだろう。
聞いても落ちるだけなら、まだ聞かなくても良いだろう。
しかし、ここまで聞いておいて、中途半端な情報の中で生活するのは辛いだろう。
中島は選択を迫られている。聞いて絶望の中、活動するか、聞かずに不安の中、活動するか。
どちらの選択肢も辛い、どちらの方が辛いかと言えば……どちらも同じだろう。
「優しい嘘にすれば良かった……」
「そお? じゃあ、今までのは全部嘘でーす! ドッキリだよ!」
「……本当?」
「え? ああ、うん」
「……おまえに嘘なんか無理だ! 俺を騙す事なんて不可能だ! もう戻れないなら……聞く!」
なんか逆ギレされてしまった。そんな事言われても、嘘がバレるんだもの、しょうがないよね!
「そお? じゃあ、簡潔に言うと、
魔王より強い猫がいます。
魔王は七人の美女といます。
俺を失ったことで、もしかしたら魔王は動けないでいます。
魔王の最初の目標は、人類家畜化計画で、歯向かう者は殺せが口癖でした。でも、僕が却下したので、今のところ死者ゼロです。ちなみに、僕は共存の方向で動いていました
今の目的は娯楽です。ですが、何をしたら喜んでくれるかは、サッパリです。
猫も、僕を観察するから娯楽を提供しろと言ってました
猫の得意技は「しまっちゃう」です。何かはわかりませんが、魔王が震え上がっていました。以上です」
中島は腕を組み聞い、下を向きながら静かに聞いていた。
そのままの状態から動かない。
「どうした?」
「……猫が強い?」
「みたいだね。どう強いのかはわかんないけど、魔王が怖がってた。なんか猫にいじめられてたような感じで、すげー怒ってたな」
「猫にいじめられてた?」
「うん。またしまっちゃうわよ、とか言われて魔王さんタジタジ」
「しまっちゃう?」
「それはよく知らない!」
「おまえが家畜化計画を却下したって言ってたけど、どうやったんだ?」
「……んー、まあ全部言っちゃうか!」
俺は少し考えたが、全部話す決意をする。
「まだ何かあるのか……」
中島はまた額に手を当てて項垂れる。
中島は会話文ばかりになってしまわないように、不自然な行動を忘れない。
まるで地の文のための行動みたいだな、と僕は思った。
「おまえ、ラノベの主人公みたいだな」
「今はその話に突っ込むテンションじゃない」
「こっちに来るまでは、バッチリそうだったもんな!
んで、俺、記憶を制限されて、生まれたてのベビーのような状態で魔王の体を動かしてたんだ」
「……だから、却下出来たのか」
「……なんか冷静過ぎじゃない? ちょっとは付き合ってくれてもいいじゃない」
中島はつれない態度でツッコミも入れてくれない。
別にエロい話をしているわけではないのに。
「……ってことは、グレースさんを隷属させたのは……おまえか?」
「……そういうところは突っ込みやがって!」
「どうなんだ?」
「そうだよ! でも、俺だって大変だったんだぞ! 生まれたてのレベル一で魔王を討伐にやってきた勇者を相手にするとか、最初の町の外で出会うスライムより過酷な運命だったんだぞ!
そんなの言葉巧みに懐柔する他ないじゃないか!」
「……一体どうやったらそんなことできるんだ?」
「そこは、企業秘密ということで……。
てか、ぶっちゃけ、早すぎて動きは見えないし、魔法で消滅させられそうになるし、普通に話しても俺を魔王と勘違いして……ってか復讐相手として頭いっちゃってて問答無用だったし! 俺もいっぱいいっぱいだったんだ!」
「お……落ち着け。わかった。責めてるわけじゃないから」
剣幕と悲壮感と頑張った感を前面に押し出し、全力で中島に訴えた結果、どうやら中島も憐れに思ってくれたようだ。
「そっ……そお? じゃあ落ち着こうかしら」
「まあ、おまえも大変だったんだな」
「そうなんだよ。ただ、記憶を制限されてたから、それだけが救いだったな」
「なんとも言いづらい救いだな」
「下手に記憶があったら、俺たぶんここにいないよ」
「でもさ、おまえの記憶を操作できたってことは、あっちに情報筒抜けってことじゃね?」
「……」
中島が唐突にやばい事に気づいてしまった。
確かにそうだ。記憶を操作できるのなら、俺の記憶を全部抜き取られたに違いない。
ここのことも、異世界転移のことも、アマテラスのことも。
「気づかなかった……。だとしたらどうなる?」
「ここに来るかもな」
「え? マジ? やばくね?」
「ただ、おまえを失えば動けなくなるんだろう?」
「そう、だと思うけど、存外あのおっさん嘘つきだからわかんねぇ!」
「じゃあ、動けるかもしれないってことか?」
「魔王は動けないかもしれないけど、配下にラミアって名前のくノ一みたいなやつがいる」
「どんな奴だ?」
「俺の前では、ローブ被った姿でしか現れたことないから顔もわかんない」
「やばいのか?」
「何処にでも気付かないうちに現れる」
「んで、強いのか?」
「戦ってるところを見たことがない」
「んじゃ、わかんないな。……まあ、こんな感じでいつまでもやばい、やばいって言ってたところで始まらねぇな。
俺のやる事は変わらないみたいだし、ヒルデの訓練でもするかな」
「中島さん意外と冷静なのね」
「誰かさんが俺の代わりに焦ってるからな」
中島に言われてしまった。中島が最初に焦り出していたはずが、いつのまにか俺が焦りまくっていた。
中島の言葉を受けて、自分を落ち着かせる。
「………………よし。もう大丈夫。じゃあ、やろう! 有益な事なんてそう多くない。やる事は決まってるんだ」
「解析出来るといいな」
「頼むぜ! レノ!」
「かしこまりました。では、訓練場をお使いください。その戦闘訓練を多くの者に見学させます。また、解析のために多少の指示があると思いますので、従ってください。そして、訓練終了後に会議を開きます、ご参加ください」
「おっ……おう」
冷静さにおいてAIの右に出るものはいないだろう。ケンみたいな奴を除いて。
ドキドキの皐月賞!