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魔王の枷

「戻りました」



 ラミアがサーシャを連れて来た。



「アムルタート様! またサーシャを食べるの?」



 開口一番とんでもない爆弾発言をしてくれた。



「サーシャ、今日はそうじゃない。この人達にちょっと見せたいものがあるんだ。

 だから、サーシャに手伝って欲しい」


「わかった! サーシャ頑張る!」



 この従順さが愛おしい。ミーアに少しでもこんな従順さが備わっていればと切に思う。



「サーシャは何をすれば良いですか?」


「じゃあ左の手の平を広げて前に出してくれ」


「はいっ!」


「よし……では、皆に見てもらいたいものがある。これから、この触手でサーシャの手の平を突き刺す。では……」


「え? ダメですよ! そんな事したら……」


「大丈夫。見ていなさい」


「アムルタート様は優しいから大丈夫だよ!」



 サーシャの合いの手が入る。ナイスだ! こんな幼い子が大丈夫と言えば大人は黙って見ているしかないだろう。


ザシュ!


 触手がサーシャの手の平を貫通する。



「キャ!」



 美女達が可愛い悲鳴を上げた。おどおどしながらも、見ている事しか出来ない。



「アムルタート様! サーシャ痛くないよ!」


「よし、では抜くぞ!」



 サーシャから触手を抜いても手には穴が開いていない。

 ただ、どうしても少し血が滲むようで、そこだけはどうしようもなかった。



「えっ? これって……手品ですか?」



 どうも、この子は手品が好きな様だ。



「いや、これがこの触手の力だ。私はこの触手を使い、今の様に人の体に突き刺さないとエネルギー吸収が出来ないのだ。

 これを一日でも欠かせば激痛が全身を蝕み、一週間後には消滅してしまう」


「……」



 なんとなく察しがついたのだろう。美女達は皆言葉が出ないようだ。

 しかし、これは落胆すべきことではない。

 この突拍子もないおとぎ話のような現実を理解した証拠だ。

 俺はここで更に畳み掛けなければならない。「拒否」をされる前に。



「だから、どうか私を助けて欲しい……。このような一方的なお願いになってしまい心苦しいのだが、私だけでは……この枷を外せない」


「アムルタート様……サーシャ、頑張るよ! 元気出して……」


「サーシャ……すまない。これは一人に頼める限度があるのだ。

 一週間に一度。それ以上はサーシャに負担をかける事になる」


「でも……」


「ありがとう。だが、私はサーシャに負担をかけてまで生きたいとは思わない。だから……」



 俺は思わせぶりに美女達の方へ向く。



「お願いします。 私を……助けてください」


「お願いします!」



 サーシャが涙ぐみながら叫んだ。

 もしかして……サーシャはわかってやっているのではないだろうか? そんな気にさせるぐらい先程からいい仕事をする。

 まだ出会って一日だ。感情移入するには早過ぎるだろう。

 それにしても、なにか引っかかる……なんだか自分のやっている事がなにかどうも……。



「……わかりました。私にできることなら……。

 ただし、さっきサーシャちゃんにやった事を私にもお願い出来ませんか?

 それで、問題ないと確認出来れば……」


「ああ。わかった。では、手の平を前に……」



 おおむね順調だ。これで彼女の不安を取り除けば、他の皆も追随しやすくなる。

 彼女はサーシャと同じ様に手を前に出す。少し震えている様だ。

 前に出す手が弱々しい。



「いくぞ」



ザシュ。


 彼女は触手の感触が伝わると、ビクッと小さく肩をすくめる。

 つぶった目は、痛みに耐えるかのようにギュッと力強い。

 


「……」



 彼女はだんだんと強張った目を開き、自分の手に貫通している触手を見る。



「……痛く無いです」


「そうだろうな」


「……抜いていただけますか?」


「ああ」



 俺は彼女の手に傷がつかないよう、ゆっくりと触手を抜いた。最後に傷が出来ていないか確認して終了だ。


 彼女は触手が貫いていた手をまじまじと確認すると、少し滲んだ血を拭う。



「どうして……血が出ているのに……」


「それは私にも分からないな」


「……なら。これなら、私でも出来そうです。」


「そうか、では助けてくれるのか?」


「はい。もともとそのつもりで来ました。シューゼ法国がこのような危機に陥っている現状では、みんな助け合わないといけないと思っていましたので」


「私は人間では無いぞ?」


「……それは……そうですが……。今は助け合いの方が大事だと思います」


「それは見返りを求めているのか?」


「そういうわけではありませんが……いえ、視野を広げてみればそうですね。

 アムルさんには、私が困っている時に助けていただければ嬉しいです」


「ふふふ。クックック……。ミーアよ。この国の人間は皆こんな感じなのか?」


「……そうね」


「女よ。そなたもラクライマ教の信者なのか?」


「信者……のつもりはないんですが、私は教えを守って……いえ、経典と照らし合わせ、自分で考えて行動しています」



 ラクライマの教えは大局的に見れば、多くの人類を助けるものである……というのは本当のようだ。

 普通ならば、エルフの姉ような反応が正しいのだろう。

 この状況で、このような判断をする方がおかしいと言わざるを得ない。



「他の者達はどうだろうか?」



 ひとり前に出て来た女以外は未だに声を聞いていない。



「……私も、お手伝いします」



 彼女が体験した事による効果だろう。畏怖の念は少なからず晴れ、人助けの方へ心の天秤が振れたようだ。



「おお。すまない。名は何と言う?」


「エリと言います」



 エリは、長いブロンドの髪が特徴的な女性だ。

 大人しそうな性格で、服もブラウスにロングスカートと控えめだ。アクセサリーも小さな物で揃えられており、対外的に受けの良い格好をしている。



「エリ……か。よし、エリ! 今後ともよろしく頼む」


「はい」


「私も頑張ります。アルマです。」



 アルマは黒髪のショートボブで、少しウェーブがかかっている。服装はゆったり系の服だが、シックな色合いでまとめられており、タイトパンツが良く似合う細身だ。



「アルマ。よろしく頼む」


「よろしくお願いします」


「私も……リリーです」



 リリーはこの中で一番身長が低く、髪は茶髪のセミロング。アルマと同じくゆるいウェーブがかかっている。服はVネックの白いトップスにストライプ柄のハイウエストなストレートスカート。折り目が少ないのでひらひらと可憐に舞うような事はない。


「リリー。よろしく」


「はい……」


「アムルさんのために私もやります! アミです。よろしくね!」


 一番元気の良い反応をしてくれたアミは、強めのウェーブがかった茶髪のポニーテール。ボーダーのシャツに黒のワンピース。ワンピースは肩が紐になっており、胸元と背中が大きく空いているタイプだ。


「ああ。アミ。よろしくな」


「任せて!」


「最後に、女よ。そなたの名前を聞かせてくれないか?」


「私はマリアです。よろしくお願いします」



 最後にマリアだが、マリアは黒髪のストレートで、服装は長めのカーディガンに白いロングキュロットだ。



「マリアか。マリアの勇気ある行動のおかげで、他の皆の疑心を晴らす事が出来た。

 感謝する。マリア、ありがとう」


「いえ……」


「では、マリアは残り、あとの者はラミアについて行ってくれ。ラミア」


「はっ!」


 マリアを残し、ラミアが皆をドナドナする。


「マリア、今日はありがとう。君のおかげで、私は消滅せずに済みそうだ」


「いえ……」



 マリアは完全に俺を信じているわけではなさそうだった。

 普通はこういった反応になるはずだ。

 自分だけ残されたのは、ただ感謝を告げられるだけでは無いとわかっているのだろう。

 マリアは少し俯きながらポツポツと話しを続ける。



「……アムルさん……私をここに残したということは……今日は、私を食べるのですか?」


「食べる……まあ、そうだな。マリアから、一日分のエネルギーを吸収する。

 先ほどと同じで、痛くは無いから心配するな」


「……はい。わかりました」


「いくぞ……」



ザシュ!



「あっ……」



 マリアは驚きの表情で固まっている。

 それもそうだろう。マリアが出してきた手ではなく、心臓を貫いたのだから。







耐性のない僕には、これでもエロ表現になってしまっているんじゃないかと不安になりました。


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