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第五話 順応

「他に質問はないかな?」


 彼女はバインダーを見つめながら、優しい笑顔で僕に質問の機会を与えてくれた。

 手を振ったらこっちを見てくれるだろうか?

 いたずら心をくすぐられる。


「えーと、差し障りがないところまでで結構ですので、ツクヨミさんについて詳しく教えていただきたいです。どんなことができて、干渉とはどういったことなのか? なんで翻訳ができるのか? なんてことが知りたいです」

「そうだね、このままだと便利な翻訳機って位置付けになっちゃうね」


 リースさんは、少し可笑しそうに笑ってそう答えた。

 いやいや、もうすでになんでもできる青いロボット超えてますから! 弱い僕は心の中でしか叫べなかった。中島に言われたなら速攻でツッコミをいれていただろう。


「じゃあ、まず。ツクヨミの調査から。ツクヨミは記憶を読み取ることができる」


 はい。まずの時点で卒倒しそうな程超技術です。ありがとうございます。


「そして、最適解を探すためのAIがプログラムされている。このAIプログラムは自分で自分をプログラムするようにも構築されているから、あらゆる不足を蓄積されたデータを元に補完している」


 夢の技術第二弾ですね、ご馳走様です。


「それを可能にしているのがビットの存在だね! 君も見ただろうけど、あの蝶型ビットだよ。ビットがツクヨミに必要な情報を収集、送信して成り立っているんだ」


 なるほど、あの無音で消えることができる蝶ですか、恐れ入ります。

 ここまで淡々と説明をしてくれたリースさんは、まるでなんでもないことのようにこの世界の理を話している。とんでもないことばかりなのだが……。


「このビットはツクヨミに指示を出す時にも使うね。例えば……」


 リースさんが、おもむろに指を振り蝶を呼び出す。


「涼介君と通話したい」


 蝶が羽ばたきで応えると、僕の耳元で声がする。


——>> リースから通話依頼が来ました。受諾しますか?


「うわ! なんか聞こえる!」


 耳元で……というよりはもっと中の方で発せられたささやきに驚いて、リースさんをまじまじと見つめる。

驚いた僕を笑っているようだ。

……うん、可愛い。良しとしよう。


「ふふ。とりあえず受諾して欲しい。思うだけでも良いよ」

「わかりました」



——<< 受諾します


 言われた通りに受諾すると念じる……思う?


——>> リースとの通話を開始します。



——>> ヤッホー! 聞こえるかな?


「聞こえます!」


 リースさんの声が聞こえた。リースさんを見ていたが、口は動いていなかったと思う。リースさんは、笑顔で手を振っている。……うん。——以下略


——>> 反応が新鮮で楽しいね。声に出さなくても大丈夫だよ! ちなみに伝えたいと意識したものじゃないと伝わらないから安心して欲しい。


 言われて気付いたが、思ったことが伝わるなら、僕の邪な感情もダダ漏れだったのかもと思うとちょっと気が引き締まった……危なかった……。


——<< わかりました。どうですか? 聞こえますか?



——>> はーい。聞こえてるよー通話は成功だね!


「じゃあ、通話終了」


 リースさんが蝶に向かってそう告げると、蝶は羽ばたき、舞い上がって消えた。

 少し興奮してしまっていたが、ここは異世界でリースさんは友人でもなんでもない。こんな凄い技術を使える世界にたった一人で迷い込んだ身としては浮かれていられる時間は少なかった。この技術に対抗する術なんて、どう考えても一ミリも無い。されるがまま、この世界のモラルを信じるしかない現状に畏怖の念が沸々と再発する。


 ツクヨミさん……もう、僕、どうしたら良いのか……。こんな万能で便利なのに、受け入れることができない迷える子羊をどうかお導きください!!



 祈ることしかできない無力さに、どうしようもない感情をぶつけるしかなかった。


「なんだか顔色が良くないようだけど大丈夫かい?」

「ええ。ツクヨミさんの凄さに圧倒されているだけです。大丈夫です。ワクワクが止まりません! 続きをお願いします」


 ツクヨミの説明を続けて貰うために空元気を絞り出す! いつまで続けていられるか自信はないが……。


「ツクヨミの良さが伝わってくれて嬉しいよ。それから、これは制限事項なんだけど、国際協定で脳への干渉は読み取りまでとされている。

 書き込みはできないこともないけど、その機能は物理的に排除されている。これは、技術的にその機能が可能になった段階で纏められた制約事項なんだ」

「少し安心しました」


 脳に書き込み……危なかった。恐らく、じっくりと見られていれば、サーっと血の引く表情を見破られていたことだろう。声が震えなかったのが不思議なくらいだ。


「そうだね、これが可能になった時は大混乱だったみたいだね。もう、それは人としての尊厳やら、生きる意味、人権の殆どをおびやかしかねない技術だったからね。

 今は国ごとの量子コンピューターが相互監視をして、さらにアマテラスからも監視させている最重要防止案件だね」


 いくら最重要防止案件って言ったって、悪意のある第三者によって簡単に実行可能なのではないだろうか? 僕の危機察知能力がフル活動して不安要素を炙り出す。聞いたからって対処できるわけじゃないだろうが、どのように防止活動をしているのか聞いておかなければ安眠は得られないだろう。


「でも、別の回線なり、他のコンピューターを使って秘密裏に行うことはできるんじゃないですか?」

「みんなそう考えたから、ある一定以上の性能を持つコンピューターの所持の禁止と、複数台での相互処理を禁止したんだ。これを悪意を持って破ると即死刑案件だから間違ってもしないように。全世界に無数に配置されたビットによる監視に引っ掛かれば、速やかに刑が執行されるよ」


 この国では死刑制度は無いと言っていたが、国際協定破りは即死刑とは……。たしかに、書き換えを実行しようとする奴らを、悠長に人権問題やら、国外の人間だからと法を気にしながら逮捕するなんて馬鹿げている。一分一秒が、世界の在り方を変えてしまうかもしれない程危険な犯罪だろう。

 そして、リースさんの発言にはまだ気になる事実があった。


「ビットは人を殺すこともできるんですか!?」

「無数に飛んでいる蝶型ビットに殺傷能力は無いから安心して。でも、刑を執行する緊急用ビットは様々なことができる。

 各国のコンピュータとアマテラスの承認が必要だけど、執行されたことも気づかずに結果が突然公表される程度には、迅速かつ秘密裏に行われるから気に留めておいてね」


 国際協定を破った者への罰は無慈悲な暗殺とか笑えない。こんな執行方法じゃ目立ちたがりな愉快犯は現れないだろう。


「肝に命じます」

「よろしい! まあ、ツクヨミの機能は多岐に渡りすぎて説明しきれないけど、その他にもアンドロイドやロボットへの指示、国の方針決定、教育、公共機関、行楽施設の運営なんかが主な役割だね」


 リースさんは満足げに僕の理解を受け入れてくれた。理解というよりは、無気力な奴隷根性的感情なのだけど……。

 まあ、量子コンピューターにAI積んでる時点である程度予想はしてた。この世界はAIに管理された監獄らしい。これで、仕事まで適正やらなんやらで割り振られていたら、SFストーリーのそれだけど、この世界の現実はもっと進んでいるみたいだ。


「えっと、人は何をしているんでしょうか?」


 クロエさんを見てアンドロイドだったとは全く気付かなかったし、人と比べても全く遜色のない滑らかな動きをしていたのだから、全ての職業はアンドロイドが代行できるんじゃないかと感じていた。もし、全ての仕事がアンドロイドによって達成されていれば、この世界では働かなくてもいいのだろうか?


「私たち人は、自由な発想でツクヨミの許す限り奔放に生きているよ」

「じゃあ、仕事とかってどうするんですか?」

「おそらく、涼介君の言う仕事って労働ってことだよね? 今、人がする労働は全てアンドロイドとロボットが代行しているよ。」


 僕の世界の夢が、この世界では現実になっているようだ。仕事が無い……素晴らしい! ……のだろうか?


「国民の義務は教育を受ける以外ないね。数十年単位だけど、完全なリサイクル社会になったことで争いなんかここ八百年起きてないし。ちょっとした小競り合いがあっても最適解がすぐ出るから大きな争いになんかならない」


 ツクヨミの最適解とやらを実践されたからだろう、リースさんの説明する言葉に重さを感じる。



 最適解がすぐ出るから大きな争いになんかならない


 淡々と紡がれたリースさんの言葉が、頭の中で噛みしめるように、粗を探すかのように、何度も、何度も、繰り返し駆け巡る。

 人の支配から解放され、平等に幸福を追求する世界。きっと、僕がこのルート以外でここに来たらリースさんの説明は世迷言のように感じていただろう。



 そうは言っても反発する人だっているだろう!



 プログラムが出した答えなんか受け入れたくない! 



 何で相手のことまで考えなきゃならないんだ!

 

 プログラムに管理された世界なんか嫌だ! 


 ・

 ・

 ・



 ツクヨミに対する反論を思いついては見るものの、どれも実体験の前では非常に弱かった。

 その中でも最良のカウンター……いや、自分の頭では答えの出なかった愚問を投げかける。


「リースさん。この世界で人は幸せなのでしょうか?」


 きっと幸せなのだろう。争いが無い。労働も無い。考える必要も無い。全て与えられている。


「くっ、あっははは! うー。あーごめん、ごめん! 急に真剣な顔してどうしたと思ったら、そんな事を気にしていたんだね」


 真剣な話をしているつもりだったのだが、リースさんには笑われてしまった。

 ちょっと嫌な感じに思えたのだが、大きな声で笑っているリースさんを見ていると、不本意にも笑わせてしまったことに対して僕の自尊心は抗えるはずもなく満たされていく。


「そんな笑わないでくださいよ!」


 一生懸命隠していたけど、ちょっとにやけていたかもしれない。


「わかった、わかった。ごめんよ。じゃあ、何点か質問しようか。まず、涼介君は働かなくてよくなったら嬉しいだろ?」

「嬉しいです!」

「世界から、争いがなくなったら嬉しいだろう?」

「嬉しいと思います」

「欲しい物が欲しい時にあったら嬉しいと思うよね?」

「勿論です」

「遊びたい時に時間が自由に使えたら嬉しいよね?」

「はい」

「落ち込んでる時、友達が親身にしてくれたら嬉しいよね?」

「えっ? あっ、はい」

「間違った考えで無益な行いをしないように、周りとコミュニケーションを取りながら切磋琢磨すれば良い結果が出ると思わないかい?」

「……思います」

「じゃあ、何でこの世界が幸せじゃないと思うんだい?」


 もっともだ。リースさんの言っていることは、幸せになることはあっても、不幸になることはないだろう。しかし……。


「……生かされている感じが嫌だ! とか? この世界のあり方に不満がある! みたいな人はいるんじゃないかな、と思ったり、全体主義的な側面に少し恐怖を感じたり、と、想像の域は出ませんが個人個人の漠然とした無力感みたいな不安があるんじゃないかな……なんて感じですかね……。うまく言えません」

「うん、右往左往した言い方が非常にわかりずらかったけど、なんとなく伝わったよ!」


 自分で言っていて、くわからない感じだったので、リースさんにそう言われても致し方ない。


「すいません……」

「そうだなー、ちょっと私もうまい例えが見つからないなぁ。こんな時は……」


 リースさんが指を八の字に回し蝶を呼ぶ。


「涼介君に上手いこと説明して!」


 丸投げだ! リースさん丸投げしやがった! 困った時のツクヨミ頼みってか! 零点量産する主人公バリの丸投げしやがった! 

 マジか! ご本人登場じゃねぇか! ぼっ、僕は別に、ツクヨミさんを否定したい訳じゃないんだからね! そっ、そこだけは勘違いしないように宜しくお願いそうろう!









ガシガシ書き直し実行中!


ちなみに、「彼女が救った少年は黒い翼を持つ魔物でした」は第九話まで予約してありますので11/1まで余裕があります。


ガッツリ更新していきますのでよろしくお願いいたします。


記 2018/10/20

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