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訪問者

 その日の訪問者は勇者パーティ一行のみだった。

 もし簡単に転移できるのであれば、これからもゾロゾロと来る襲撃者の相手をしなければならないだろう。



 そして次の日、俺は転移門? 扉? の前に立っていた。



「こんな物が出来ているとは……」


「今朝方発見いたしました」



 ラミアから報告を受けて確認しにきてみれば、そこには不自然な扉が出来ていた。



「グレースを呼んできてくれ」


「はっ!」



 これはちょっとヤバいな。扉を開けたら勇者パーティの世界に繋がっていそうだ。



「連れて参りました」


「これはお前が通って来た転移装置か?」


「私が転移して来た時にはありませんでした」


「そうか……」



 グレースが来た時に無かったとしたら、誰かの仕業という事だろうか?


カチャ……


 三人同時に後ろへ飛び退き、物陰に隠れる。


ギギギギギギ……


 ゆっくりと扉が開かれると、半分開いた扉の隙間から何者かが顔出し、キョロキョロと辺りを見回す。


 小声でグレースに問い掛ける。


「知っている者か?」


「……ローブで顔が良く見えません。もう少し出て来てくれれば……」



 用心深い扉の主はなかなか出て来ようとしない。

 いっそ仕掛けるか……。などと考えていたら。



「サーシャ! やっぱりこんなとこまで来ていたのね! 勇者様はきっと魔王を倒して帰って来るって言ってるじゃない。ダメよ! 帰りましょう」


「嫌! サーシャは勇者様について行くって言ったんだもん! 勇者様はここで魔王と戦うって言ってたもん! サーシャは勇者様が心配なんだもん!」



 どうやら子供の様だ。



「サーシャ……思い出しました。エルフの子供です。主人の根城近くの集落で魔物に襲われていた所を助けたのです」


「なるほど。随分と感謝されているんだな」


「気が強く、一緒に行くと聞かなかったので、寝ている時に出発しました」


「心配になって追って来てしまったと」


「そうだと思います」


「なら、お前が対応しろ」


「かしこまりました」



 グレースがサーシャに忍び寄る。……もっと普通に行けば良かったんじゃないか?



「やあ」


「あっ……勇者様! お姉ちゃん、勇者様いたよ!」



 念願の勇者を見つけて、サーシャがこちらの世界に来てしまった。


『あーあ。出てくる前に追い返せばいいものを』


 グレースに頼まずに、俺が威圧して追い返せば良かったかな?


バタン


扉が閉まる。……お姉さんまで出てきた。



「あら。本当ね。勇者様申し訳ありません。妹が行くと聞かずに飛び出してしまったもので……」



『はぁ……。お姉さんの方まで来ちゃったじゃないか……まったく、何をやっているのやら……』



「いや、いいんだ。サーシャ、もう魔王はいないよ。大丈夫だからお家に帰りな」


「勇者様、魔王倒したの?」


「ああ。もう魔王はいない。安心して欲しい。囚われた人々も、高位の回復魔法で治る事がわかったんだ。長老様にリザレクションで治ると伝えて欲しい」


「……わかった。サーシャは勇者様について行くから、お姉ちゃんお願いね!」


「サーシャ! 勇者様困ってるじゃない。一緒に帰りますよ」



 これって振りかなぁ? 実はまだいまーすみたいに出て来いって事かなぁ?

 俺はとてもウズウズしたが、ここ一番の精神力で耐えた。



「待て」



 嘘です。耐えられませんでした。



「魔王!」


「……」



 お姉さんにはすぐバレたが、サーシャにはバレなかった様でキョトンとしている。



「お前達……その扉の向こうはもう同じ世界ではないぞ」



 何故だろう? 何故だかそう感じた。



「……勇者様。魔王を倒したのではないのですか?」


「……ああ。あの方は私達の世界で猛威を振るった魔王とは違うんだ」


「……私は魔王をこの目で見たことがあります。村の仲間達を無差別に拐っていったあの時に。

 ……そこにいるのは間違いなく魔王です」


「違うよ」


「勇者様!」


「……サーシャも違うと思う」



 突然サーシャがお姉さんを否定し、勇者を擁護する。出来た娘だ。



「サーシャまで……。何が違うと言うの? 容姿も声も魔王そのものなのに。あの特徴的な声は一度聞けば忘れないわ」


「でも……でもね。サーシャは勇者様を信じる!」


「……サーシャ。ありがとう」


「んーん。勇者様はサーシャを守ってくれたの。サーシャはとっても嬉しかった! だから、勇者様が違うって言うなら、サーシャも違うって思う」



 出来た娘だと思ったら、ヒーローに憧れる勇者崇拝者だった。

 サーシャの幼く稚拙で純粋な心はむず痒くイライラする。

 元気百倍のヒーローに何度も倒される悪役の様な気持ちだ。



「私は目覚めたばかりで何もわからないのだ。その者の誤解を解くのは苦労したぞ」


「申し訳ありませんでした」



 その場でグレースは項垂れてしまう。



「……信じられない。あなたが魔王ではないと言う証拠でもあるの?」


「証拠と言われても……目覚めたばかりで何もわからないのだ。勇者であるその者を信じられないのであれば、私の発言など信じられまい」


「……」


「お姉ちゃん勇者様を信じられないの!」


「…………全部信じる事は出来ないけど、今は……そうね、争っても仕方なさそうね」



 これが勇者効果、勇者補正なのだろう。魔王と瓜二つの存在……まあ、魔王なのだが、争い事は回避出来そうだ。



「私はそなた達の知っている魔王ではないが、この見た目通りほとんど変わらない。その事は、そこの勇者に聞くが良い」



 自分で説明しようとしたが、また面倒になると思い勇者に投げる。

 なんとかするだろうし、こいつの人となりも垣間見えるだろう。

 どの様に説得するのか楽しみだ。



「わかりました。勇者様、お聞かせください」


「……このお方は、魔王の体に転生した他の誰かなの」



 お姉さんの顔が強張る。解せない風の表情は美人なせいか様になっている。



「そして、私が何故魔王に似たこのお方と一緒にいるかって言うと……私は罪を犯してしまったから」


「罪?」


「私はこのお方を魔王と勘違いして、無実の罪で断罪してしまった……そのせいで私は、更に愚かな罪を犯してしまった」


「それは……」



 お姉さんが何かを言おうとして言い淀む。



「でも、このお方のおかげで、私の犯した罪は救われた。私が犯した蛮行も全て許してくださった。だから私は、私の全てを捧げたんだ。……でもきっと、それでも足りない……」


「……そんな! 勇者様はそれで良いんですか! もしかしたら本当は、あの魔王かもしれないのに!」


「ああ」


「……っ! 信じられない……。私は……私は……たとえこの方がもし、本当に私達の村を襲った魔王でなくても……、この姿……あまりに酷似し過ぎていて……」


「お姉ちゃん! 酷いよ! おにーさんに失礼だよ!」


「サーシャ……」



 随分と出来た娘さんだ。これは家畜ローテーション入りかもしれない。



「はっはっはっは! サーシャよ。お前の勇者様は私を断罪したと言っていたが、そんな事はない。

 私は何もされてはいない。自分に厳しい勇者様が罪の意識を持っているだけなのだ。

 それに、勇者様が犯した罪は断罪される様なものではない。些細な事と言うこともそうだが、そもそも悪気があって犯したものではない。

 私は少し叱っただけに過ぎない。

 わかるかい? サーシャ」



 グレースの顔が歪む。何か気分を害する事でもあったのだろうか? きっと何か思う事があるのだろう。



「うん! 勇者様は悪い事なんかしないよ? ちょっと間違っちゃっただけだよね! でも、勇者様が落ち込ん出るのは嫌。サーシャ、勇者様が元気になる様に頑張る!」


「クックックックック。アーッハッハッハ! よく言ったサーシャ! 実に良い子だ! 良き家族に育てられたのだな!」


「うん! 私、お姉ちゃんの事もだーいすき!」



ザクッ!


 サーシャがそう言い終わると同時に、衝動を抑えきれなかった右手がサーシャを貫いていた。

 小さく軽い幼いエルフの子は、触手に持ち上げられ中に浮く。




 触手をゆっくりと伝う血が、ポタポタと床に滴り落ちる。




 聞こえるはずのない小さな音は、目を背ける事の出来ないその光景によって、否応無しに幻聴となり、脳裏に音を刻む。




「あ……ああ……いや……いやーーーー!」



 妹の惨事を目の当たりにしたエルフは、受け入れられない気持ちを吐き出し静寂を破った。






ヒロインのいない異世界ファンタジーは嫌だ!

意図したわけじゃない!

すっかり抜けていた!

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