ラクライマと魔王
「殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる!……」
下を向きブツブツと狂った様に呟くヒルデ。
その目線はグレースを直視出来ずにずっと俯いたままだ。
祭壇にヒルデの雑音が響き続ける。
そんなヒルデの雑音に耐えられなかった親父は触手を伸ばしてヒルデとラッツを貫いてしまった。
やっぱ五月蝿かったんだろうなぁと思う。
そして、何もせずすぐに親父はヒルデとラッツから触手を抜き去った。二人とも息が出来ずに悶えて苦しみ始める。
俺はこの光景を見ていて、唐突にある可能性に気付いてしまった。あまり良い光景ではないが。
『もしかして……家畜って……』
この異世界人達がここまで憎悪しているのだ……きっとそうなのだろう。
「グレースよ。二人を焼け」
「……二人は何処ですか?……申し訳ありません」
両目を潰されたグレースは二人を探す事が出来ない。
親父はグレースを触手で貫き両目の傷を癒した。
異世界チート供を一突きで無効化するとか、潰れた目を再生するとか触手が万能すぎてビビる。
「ファイア」
グレースは最も初級であろう火属性魔法で二人の体をじっくりと焼く。
二人共声を殺し耐えている。火あぶりにされながら親父を睨む目がとても印象的だった。
『親父、食うのか?』
——お前の考えている様な食事は不要だ。そもそも、私は食事を必要としない。食事が必要なのはお前だけだ。
『えぇ……。んじゃ殆ど共喰いじゃん』
——面白い事を言う奴だ。その通りだ。
『これからどうすんの?』
——今日はお前の望んだ通り殺さずにおいてやろう。
そう言うと、親父は大きな綿毛を生み出し二人を括り付ける。
「フライ」
グレースの浮遊魔法で綿毛が浮く。
「飛ばして来い。遠くへな」
「はい」
グレースは永遠の苦痛を与えられた二人を連れて祭壇を後にした。
戦いの終わった祭壇が静寂に包まれる。
そういえば親父は俺のレベルをすぐに上げてくれるって言ってたっけ。実感とかないけど、どうなったんだろう?
『ねぇねぇ。親父、俺のレベルっていくつになったの?』
——
『ドキドキ!』
——
『楽しみやわぁ』
——
『はやく、はやくー!』
——
『もー! はい、ドラムロールゥー……スタート! ドゥルルルルルルルルルル、ジャン!』
——一だ……。
『……』
一……聞き間違いだったのかな? 「いち」と「しち」を聞き間違えたかな?
『レベル七かぁ! もうちょっと上がると思ってたけど、そうか、最初はそんなもんだよね!』
——……そうだな。
『レベル上がったからあいつらの戦闘とか目で追えるよね! やっとこれでまともな戦いが出来るってね! いや、七じゃまだ無理か……よーし、頑張ろー!』
——表に出過ぎたようだ……後はお前に任せ私は休む。ではな。
『おつかれっした!』
親父が休憩に入り、体の自由が戻った。
先程の親父の様子は明らかにおかしかったと思う。多分、きっと、恐らく、俺のレベルは一だろう。
かのゲームだって、敵を彼方へ飛ばす魔法では経験値は入らなかった。
でも俺は舎弟の身、親父に恥をかかすなんて盆暗なヘマはしないぜ!
ふと冷静になって周りを見回すと、生贄の女がいた。
俺は戦闘にばかり気を取られていて、すっかりその存在を忘れていた。
女はちゃっかりラミアから新しい服をもらって着替えていた。
「気分はどうだ?」
「あなたやっぱり最低ね」
「まだそんな威勢を保っていられるのか? お前には感心を通り越して呆れてしまうな」
「これはラクライマの教えの本分よ。死の恐怖に負け、人の尊厳や意思を曲げるなんて出来ないわ」
「ふむ。宗教観で死の恐怖に打ち勝つ様な奴ほぼ間違いなく狂人だと思ったが。お前は違うのか」
「誰かに強要や洗脳されたわけじゃない。ラクライマ教は他人に押し付ける様な事をすれば異教徒よ。私は自分の意識で死ぬ事より人として生きる方を大切にしたいだけ」
「死んでしまえば終わりなのにか?」
「この教えを守る方がずっと安全よ」
「何故だ?」
「ラクライマの教えを守っていれば、アマテラスが守ってくれるもの。死の恐怖に負けて、間違った事をしたらアマテラスは許してくれないわ」
「またアマテラスか……」
「あなたも諦めてアマテラスの調査を受けなさい。最善の未来を提示してくれるはずよ」
「少し興味が湧いた。そのアマテラスとやらに会うにはどうしたらいい?」
「今は……このシューゼ法国全土がシステムダウンしたみたいで、アマテラスから切り離されてしまったの。私はあなたがアマテラスを妨害していると思っていたけど……違うの?」
「私は今目覚めたばかりで何もわからない」
「そう……」
女の言っている事はよく分からない点が多いが、今はアマテラスには会えないということはわかった。
この世界を支配している宗教の教祖がアマテラスならば、会わない訳にはいかないだろう。
「失礼します。二人を飛ばして参りました」
侵入者を飛ばしに行ったグレースが帰ってきた。
あれだけ逃げようが咎めないと言う趣旨の話をしてやったにもかかわらずに。
「……お前はどうしたいのだ? そのまま二人を連れてどこかへ行けば良かったではないか」
「……私は主人の所有物です。あなたの指示に従います」
「……まあ良い。ちょうど贄が足りなかったのだ。家畜として生きよ」
「はい」
「ラミア! この者を女と同じ待遇で扱え」
「はっ!」
ラミアは素早くグレースの装備を外していく。
「……お前、女だったのか」
「はい」
グレースは女だった。一人称が俺だったので勘違いしていたようだ。
「どれ」
ラミアが体を拭き終わったのを確認すると、俺は触手をグレースに突き刺す。
女とは違う心地よさと、ピリピリとした刺激があった。これはこれで癖になりそうだ。
「なかなか美味だ。吸い尽くす事はしないで家畜として生かしていく事にしよう」
「はっ!」
グレースが家畜ローテーション入りした事で、残りの必要人数は六人だ。
「ラミア、残りの六人を見繕ってくる事は出来るか?」
「可能です。明日までに調達いたします」
「よろしく頼む」
「……また私みたいに拐ってくるのね」
女にはもっと抵抗されると思っていたが、そうでもないみたいだ。
「お前は何か抵抗するかと思っていたが、しないのか?」
「……殺さないなら……良い事はないけど……あなたが死んでしまうのでしょう?」
「この状況で私の心配か? ラクライマ教とやらは驚愕に値するな」
「ラクライマ教には詳しく種族を限定する記述は無いわ。人間の尊厳や意思なんて記述もない。導き出された本分をちゃんと理解すれば、そう解釈できるだけよ」
「生物の本能が軽んじられているな」
「本能のままに生きるなら、宗教なんて必要なのかしら?」
「クックック……。その通りだ。許せ」
本当にこんな教徒が大勢いるのなら、ラクライマ教とはどんな物なのか大いに興味が湧く。
己の死に恐怖し行動するよりも、尊厳や意思を大事にする。一見無謀な命を軽視した教えの様に見えるが、多くの人がその教えを守れば大局的に人の命は数多く救われるだろう。
かといって、個人を軽視してもいない。この女は、種族の違う知的生命体? である私の生死を案じている。
これはラクライマ経典を読まなければならないな。
「女よ。お前の名前は?」
「ミーアよ」
宗教観は物語の構成上かなり気を使って書いています。




