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魔王

——つまらんな。


『あら……。そうですよねぇ……』


 魔王様がご立腹だ。こんなグダグダとやっていたら怒るのも当然だ。


——下がれ。


 体の自由が効かない。意識はある。これはあれだ。

 魔王さんの俺のターン! ってやつが発動したのだろう。

 

 俺は体の自由を奪われたようだ。気付くと下を向き動かないでいたグレースは触手の餌食となり、背中を貫かれていた。



「ファイア・バード!」


「プロテクション!」



 グレースが勇者パーティに魔法攻撃を仕掛ける。

 ヒルデは防御魔法で応じる。


『なんだよ、触手って人間操作出来んのかよ』


 伝えられていない事実に不貞腐れる。

 火の鳥を模した魔法はヒルデに防がれてしまったようだ。

 火の鳥発動と同時に駆け出したグレースがラッツに斬りかかる。

 ラッツは防御が遅れ右肩を斬られる。

 グレースの攻撃は止まらない、流れるような連撃でラッツの防御を掻い潜り、右脇腹を切り裂く。

 


「ヒール! レジスト! ビルド!」



 ヒルデがラッツに援護魔法の応酬。傷口は完璧にふさがり、体が一回り大きくなっている。ビルドの効果だろうか?レジストは防御強化なのかな?

 体の自由を奪われて傍観することしかできないので、戦闘の解析ぐらいしかやることないのが切ない。


 援護魔法の掛かったラッツは強かった。グレースの剣が当たる手前で何かに押し返されるかのように減速する。これがレジストの効果だろう。

 その減速の僅かな隙を紙一重でグレースの連撃をかわしている。

 そこでハッと気付く。魔王に体を奪われてから、異世界チート供の動きが見える様になったのだ。


『おー。魔王さんが顕現してる時は魔王さんが感じたままの情報が入ってくるわけか。これならなんとか戦えそうだよなぁ。

 俺の場合、見えねえから戦いようがなかったもんな』


 改めてチートはずるいと感じる。


——目覚めたばかりのお前には荷が重い相手だったな。勇者篭絡には驚いたが、レベルの低いお前では戦闘はまだ無理だ。


『頑張れば魔王さんようになれるの?』


——そうだな。


『これは速いところレベルを上げなくては!』


——すぐに上がる。少し待て。


 魔王さんが頼もしい兄貴のように見えてくる。か弱い舎弟を可愛がる優しい兄貴のようだ。

 いやいや、違う。魔王さんは兄貴じゃない!親分だ!



「ショック!」



 連撃中のグレースに、ヒルデが魔法を浴びせる。

 一瞬、グレースが怯む。その隙にラッツがグレースに付いている触手を千切りグレースを抱え後ろに飛んだ。



「かっ……あっ……うっ」


「ヒルデ!」


「リザレクトヒール!」



 グレースが眩い光に包まれる。触手で開いた穴は瞬く間に塞がり、グレースを苦しみから解放した。



「グレース! 大丈夫か!」


「……」


「大丈夫! 死んでなければリザレクトヒールは怪我も異常も精神汚染だって治るんだから!」



 完全完治の魔法なんてどんなチート魔法だよ。



「それよりも魔王よ! グレースも取り戻したし、一気に行くわよ!」


「おう!」



 二人とも勢い付いてますけど……親父は大丈夫だろうか?

 二人が体制を整え、こちらに身構える。


 ラッツの上半身が崩れ落ち、ヒルデの両腕が床に落ちた。

 親分が見ていたからわかったが、気を失った振りをしていたグレースが仲間を切り飛ばしたようだ。



 「リザレクトヒール!」



 ヒルデがラッツに向けて回復魔法を繰り出す。しかし、両腕が無いせいか狙いがうまくいかない。

 ヒルデはラッツに覆い被さった。



「ウルリザレクトヒール!」



 二人が光に包まれる。

 ラッツもヒルデもみるみるうちに欠損部分が再生する。

 光に包まれて顕現するような表現の規制をして欲しかった。


ガスッ!


 回復を待たずにグレースが重なる二人に聖剣を突き刺す。

 グレース君は、二人の回復を待つことをしないようだ。こういうのはお約束なんじゃないのかな?



「「がふっ!」」



 二人揃って血を吐く。ウルリザレクトヒールの輝きは終わらない。

 

ズバッ!


 グレースが突き刺した聖剣を横にスライドさせる。

 すると、回復の邪魔をしていた聖剣が無くなり、二人の傷口が塞がっていく。


ガスッ!ガスッ!ガスッ!ガスッ!


 二人の回復を待てないグレースは、交互に頭部を突き刺していた。

 刺しても刺しても終わらない回復。


ズバッ!ズバッ!


 とうとう二人の首を刎ねてしまった。

 光り輝く二つの頭。胴体は頭を無くしたせいか輝きを失ってしまった。

 やっぱり人間の本体は頭だったみたいだ。

 二人の首から下が生えてくる。

 しかし、足と手を完全に完治させる前に輝きは消えてしまった。

 ふと気付くと親父の口角が上がっている。親父が魔王と言われるのは必然だったのかもしれない。


 二人は生まれたての姿で、生まれたばかりの子馬のように立とうともがく。

 厳しい戦闘の最中だ、立たなければ死んでしまうだろう。


「さて……図々しく我が根城に侵入し私の討伐を目論んだ汚物供よ。その様な姿にまでなって、まだ挑み続けるか?」


「あっ……あたり……前よ!」


「倒せずとも……屈するわけにはいかない!」



 あれだけ心折れるような致命傷を何度も受けておいてこの言いようは凄いな。



「貴様らがいくら諦めずとも結果は同じだ。大人しく立ち去れば良かったものを。

 醜く醜態を晒し、命を掛けてまで私を楽しませてくれたことには感謝しているぞ」


「お前を楽しませるためになど……ふざけるな!」


「サンダー・アロー!」



 ヒルデの魔法は発動しなかった。俗に言う魔力切れなのだろう。



「くっ」


「クックック、はっ…ははっ。やめてくれ……腹がよじれてしまうではないか! 今までの中で一番痛い……クククッ。なかなか良い一撃であったぞ!」



 親父は上機嫌だ。自分が上手く機嫌を取れなかったことが無性に悔しい。



「馬鹿にして……殺してやる!」


「殺す? お前が私をか? おお怖い怖い、ふっ、クククッ。いや、すまない。

 これは、私からも感謝をこめて贈り物をしなければならないな」



 親父はそう言うと、グレースの持っていた聖剣をそっと奪いとった。



「お前に国を支配された時から、とっくに覚悟は出来てるわ! 殺しなさいよ!」


「そうか、お前がそう言うのならしょうがない」



ザシュ!



「うあぁああああ!」


「なっ!」



ドサッ!


 聖剣はグレースの太腿を貫通していた。



「すまない、一突きで殺してはつまらないと思ってな。そこのヒルデのたっての頼みなのだ。許せよ」


「はい。あなたに殺されるならば本望です。」


「イヤ! やめて! 私を殺せばいいでしょ!」


「お前という奴は……殺しても殺し足りない!」



 二人はご立腹だ。こんな姿になったのはグレースのせいだと言うのに。

 盲目的な魔王への憎悪がそうさせるのだろう。今となっては、何でそこまで憎悪するのかわかる気はするが。


ザシュ!



「あぁぁぁぁああ!」



 今度は聖剣がグレースの左手を貫通する。


ザシュ!ザシュ!



「っ! いあああ!」



 両目を潰されたようだ。

 


「やめて! もうやめて! お願いだから!」


「……」



 ヒルデは叫び、ラッツは歯を食いしばり耐えている。

 少年の優しい父親が、力の無い自分達が人質に取られたせいで、目の前で何も抵抗出来ずに殺される有名なシーンを思い出す。

 当時の表現力では不可能だった生々しい惨殺シーンは、きっとこのようなものだったのだろう。



「グレース。目は見えるか?」


「うぅう。見えません……」


「良かったなヒルデ! グレースは一歩一歩着実にお前の望んだ死に向かっているぞ!」


「イヤ! やめて! 私はそんなこと望んでない!」


「殺す! お前は絶対に許さない! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる!」



 ヒルデの威勢が少しずつ弱く、細くなって行く。

 ラッツの喉は枯れてガサついた叫びとなっていた。





周回して何度も見たシーンですが、その当時は何にも思わなかった記憶があります。

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