勇者パーティ
ガシャ、ガシャ、ガシャ、ガシャ
ギギギギギギ
祭壇の扉が開く。誰かが来たようだ。
「誰だ」
「……」
無断で入って来た奴らは、無礼にも問いかけを無視する。
無害通行するには排他的領域に入りすぎているだろう。
勧告無視に遺憾の意を表明したい。
「我が根城に何用だ。盗みを働くなら主人の留守中の方が良いのではないか?」
「サンダーアロー!」
無礼者は対話を拒否するかのように魔法で攻撃してきた。
閃光は認知できない速度で腹を貫き、空いた穴の周りは黒く焼け焦げていた。
「うぉぉぉぉお!」
マッチョで体の大きいお兄さんが勢いよく襲いかかってくる。
目を細めてよく見ると、お兄さんの体から薄っすらと湯気のような靄が立ち昇っている。
『うわぁ……。あれ、汗だよな……。どうしよう……』
咄嗟に、ついうっかりお兄さんめがけて女を放ってしまった。
体の大きさに似合わず、お兄さんは機敏な動きで女をナイスキャッチ。
「いやぁぁぁぁあ! 離して!」
女もその汗に拒絶反応を起こしているようだった。
あのお兄さんに抱かれるとか……考えただけでもゾッとする……。
小さく女へと感謝の言葉を囁く。聞こえてはいないだろうけど。
「貴様! 無断で侵入するに留まらず、闇討ち、人さらいまでするのか! 私の大切な女を今すぐその薄汚い腕から解放しろ!」
「嫌! 痛い! 離して!」
大きなお兄さんは女をそっと降ろす。
「すまない……」
お兄さんは投げつけられた女を優しく受け止めただけだというのに……哀れだ。
俺は触手を伸ばし女を突き刺すと、自分の下へ引き寄せる。
「なっ……。貴様!」
お兄さんには俺が女を殺したように見えたようだ。
俺は女を少し離した場所に置く。
「ラミア! 女を拭いてやれ! 汚物の体液塗れだ。綺麗な肌を汚されて……さぞかし心を痛めているだろう」
「はっ!」
ラミアは汗塗れの布を剥ぎ、女の全身を素早く拭いた。
その手際は素早く丁寧であったが、体は少し引き気味だった。
「いったい誰のせいだと……」
女は下を向きブツブと恨み節だ。
俺は心の中で小さく謝罪する。
そんなことよりも、先程から、戦闘の最中だというのに余所見をしているお兄さんに注意しなければいけないな。
「汚物よ、その卑しい眼差しで私の女を視姦しないでいただけないだろうか? 今女は一糸纏わぬ姿なのだ。そのくらいわかるだろう?」
「え? あ……すまない……」
お兄さんは恥ずかしそうに下を向いた。なかなか従順で可愛いところがある。
「なに惑わされてるのよ! ラッツ! しっかりしなさい! あいつは私達の故郷をめちゃくちゃにした魔王よ! みんなの敵なんだから! 先に行った勇者もきっとここに向かっているはずよ。時間を稼ぎなさい!」
お兄さん改め、ラッツ君は魔法攻撃をしてきたお姉さんに叱られている。
この人達も勇者と同じ様な恨みがあるらしい。
「ああ、そうだったな。コイツには殺しても殺し足りないくらいの罰を与えないとなぁ!」
流されやすいラッツ君が再び覚醒する。全身から蒸気が立ち昇る。
「女よ「嫌!」」
食い気味に断られてしまう。まだなにも言ってないのに。
「ラミア「嫌です」」
あれ? 主従関係安すぎませんかね?
頼みの二人に断られてしまい途方にくれる。
俺はあの汗塗れのラッツの攻撃を受けなければならないのか……激しくお断りしたい。
「うぉぉぉおお!」
ラッツが突進してくる。
『あー! いやだいやだいやだ! もうあかん。もうそこまで来てるよーやだー!』
ガイン!
祭壇に鳴り響く金属音。
俺の目の前でラッツの突進を食い止めたのは、先程立ち去らせた所有物だった。
「ほう……」
「……なんでだ! グレース! なんで魔王を庇う!」
所有物の名前はグレースだった。まあ、だからどうということはないが。
「今は俺の主人だ」
「なんだと! あんなに憎んでいた相手に仕えるなんて気でも狂ったか!」
「狂ってなんかいない。俺はこの方に全てを捧げたのだ」
「っ!」
動揺したラッツがお姉さんの近くまで下がる。仕切り直しの様だ。
「ヒルデ……どうする? グレースの奴どうして……」
「操られているに決まってるでしょ! あいつは肉親だろうが、恋人だろうが関係なく争わせる悪魔じゃない!」
「……でも、俺たちは神の祝福で耐性があるはず……」
「相手は最悪の魔王よ! なにがあっても不思議じゃないわ。グレースが不意を突かれるような汚い手を使って操っているのよ!」
ヒルデはなかなかに鋭い考察でグレースの状況を当てていた。
間違っているのは、操ってはいない事だけ。これはグレースの意思だ。
「なにをグダグダとやっているのだ? 用が無いなら立ち去れ」
「うるさい! よくもグレースを……! グレースはお前なんかに好きにさせない! 絶対に正気に戻してみせるから!」
「そんなに返して欲しければ今すぐ立ち去り、二度と顔を見せないことを約束しろ。そうすれば、すぐにでもグレースの所有権を譲ろう」
「なにをバカな事言っているの? グレースはそもそもお前なんかの所有物なんかじゃないわ!」
「だそうだぞ?」
「私は主人の所有物です」
「やめて! グレースにそんなこと言わせて汚すことは許さないわ! そんな事されても騙されない。グレース……私達は心の底からお前を憎み、許すことなんかあり得ないんだから! サンダー・アロー!」
芯の強いお姉さんは、どうしても自分の考えを曲げない。
セリフを聞く限りでは、お前らの方が悪役なんじゃね? って感じだ。
お姉さんから放たれた閃光は、前に出たグレースが聖剣で切り裂いた? ようで無効化する。
『やべー見えなかった……』
異世界チート供の戦いは庶民には見ることさえ許されない。
そもそも不滅以外取り柄の少ないカス魔王のせいでやられたい放題だ。
「グレース。何故戻ってきた? 私はお前を解放したつもりだったのだぞ?」
「全てを捧げると誓いました」
「誓いなど……約束などあってないようものだ。どうでもいい。お前が誓おうが誓うまいが、お前を立ち去らせていた。結果は変わらん」
「結果は変わりました。今、私はここに居ます」
「小賢しい。 何を考えているのかは知らんが余計な事。この者達が何をしようと結果はかわらん。むしろ悪化したぞ?」
「申し訳ありません。では、私に死をお与えください」
「やめて! グレース目を覚まして! そいつが私達の国に何をしたか覚えているでしょう!」
「女よ心配するな。こいつに死の安らぎなど与えるわけがなかろう」
「なにを……なんなの! そんなに必要無いなら元に戻してよ!」
「よかろう。グレース。私を殺せ」
「出来ません」
「……私の所有物であるお前が何故命令を聞かない」
「主人を殺すことは出来ません」
「なんなの? 何がしたいのよ! そんな茶番で騙されるわけがないでしょ!」
「ガヤガヤうるさい奴だ。お前に見せるためにやっているわけがないだろう? 自意識過剰も良いが程々をわきまえろ」
「なっ……」
「グレース。約束などそんな物だ。お前の意思に反した命令すら聞けないならば全てを捧げるなど夢のまた夢。下等な人間供にとってそれが限界なのだ。いい加減意地を張るのをやめるが良い。何者にもなりきれず、無様に生き続けよ」
「……私は、貴方に償いを……」
「要らん!! 貴様のような下等生物が何を償えると言うのだ? そもそも女は死んでない。そこにいるではないか。首の傷も焼けただれた痕も無い。お前は戯れに踊らされただけだ。お前は何もしていない。何も出来はしない。
私がお前に刺された事も、焼かれた事もどうということは無い何もされてないのと同じ。
お前は、ただ私の娯楽に振り回されただけの傀儡でしかない」
「……」
「去れ。そこの屑供引き連れてな」
意固地になったグレースが割とウザい。俺の計画を邪魔するトラブルメーカーになりそうで早いとこどっか行って欲しかった。
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そのうちプロフに乗せます。