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依代

 その後も、俺の中にいる魔王と適当に駄弁ったが、あいつはあんまり多くを語ってくれなかった。


『とりま人類を支配しなきゃいけないってことかぁ。あーあ、なんだか面倒だな』


 人類支配ための思慮を巡らすも、何にも浮かばない。

 そもそも目覚めたばかりでこの世界のことなんか全くわからないでいた。



「ラミア」


「はっ」


「女を連れて来い」


「かしこまりました」



 ラミアはスーッと上下運動せずに移動する。

 二足歩行じゃ無いのだろうか? なんだか浮いているみたいな移動の仕方だった。

 やがて、女を連れて戻って来る。



「んー!んーんー!」


「口輪を外してやれ」


「はっ」


「変態魔王! 死ね!」


「ラミア……服を着せてやれ」


「はっ」



 ラミアは女に布切れを羽織らせる。



「調子はどうだ?」


「最悪よ……」


「どれ……」



 触手を女に突き刺す。



「いやぁ!! 何するのよ! また体に傷が付いたじゃない!」


「ふむ……問題無いな」



 この女はこんな状況なのに威勢が良いな。

 それにしても心地良い。



「それにしても……お前を食していると、とても心地良いな」


「なっ……何を気持ちの悪い事言ってるのよ! 魔王だかなんだか知らないけど、この気持ち悪い触手を抜いて!」


「良いのか?」


「あ……。でも、大丈夫なんでしょ?」


「それは、私の気分次第だ」


「……」


「強情な奴だな。死ぬのが怖くないのか?」


「ふん! 死を恐れればラクライマの教えに背くことになるわ。私だけじゃなく、この世界の人はみんな死を恐れることはしないの」



 なるほど……。あれだけの苦痛を経験しながらこの威勢の良さは感嘆に値する。



「では、今すぐに殺してやろう」


「嫌よ! 死にたくない!」


「……? 今さっき死ぬ事など怖くないと言ったばかりではないか?」


「恐れないだけで、死にたいわけじゃないわ! なんでこんな事されなきゃいけないの? 私が何をしたって言うのよ……」



 女は泣き出してしまった。

 そういえばなんでこの女はここにいるのだろう?



「ラミア」


「はっ」


「この女はなんでここにいるんだ?」


「転移先周辺で一番美味であろう人間であったからです。王に献上しようと連れて参りました」


「女よ。すまないな。そう言う事らしい」


「私は……あなたの餌だったって事?」


「その様だ」


「……これから私を食べるの?」


「もう食している。この触手を伝ってお前の心地良いエネルギーを貰っている」


「このままあなたに食事を許したらどうなるの?」


「干からびて死にます!」


「いや! 嫌よそんなの!」


「ラミア、どうにかできないのか?」


「幾人かで少しずつ提供させれば、次回のお食事までに回復するでしょう」


「ほう」


「女よ、数名程連れて来ることは出来ないか?」


「こんな事頼める相手なんかいないわよ!」


「そうか、私がこの女を食さなければどうなるのだ?」


「王の依代が消滅いたします。また、長い眠りにつく事となるでしょう」



 『あれあれ? 依代って……もしかして俺の事言ってる?』


——そうだ。


『もしかして、さっきの攻撃とか受けるのってヤバかったの?』


——そうだな。


『そういうのは先に言ってよ!』


——冗談だ。お前は精神体だ。肉体がいくら損傷しようとも問題ない。


『冗談とか勘弁してよ! 洒落になってないから!』


——お前を見ていたらついな。


『えぇ……。まあいいや。んで、依代が消滅したら、依代はどうなんの?』


——知らん。


『ですよねー。って言うか俺はもともとなんだったんだ? なんか前世の記憶的なものがある感じなんだけど』


——転移した時、面白そうな人間から抜き取った。


『じゃあ、もともと人間だったんだ。記憶が曖昧で、思い出そうとすると頭が痛くなるんだよね』


——以前の依代が言うことを聞かなかったのでな、記憶を制限しているだけだ。


『あーそうなんだ。記憶返して貰いたいような気もするけど、今はいいや』


——そうか、こちらも返す気は無い。


『他に食事しなきゃいけない奴は?』


——いない。


『えっ?……え?……国を支配したんだろ? 適当な数人捕まえて回せば神隠し程度にしか思われなかったんじゃないか?』


——だめだ。人間共は我等を排除しようとする。


『じゃあ……なに? 支配って従順になれば生かしてていいのか?』


——食料は多いに越した事はない。盾としても有効だ。


『あー、はいはいはいはい。なんかわかってきたぞ。お前……もしかしてそんなに出来ることないだろ? お前も消滅しないってだけで強くないんじゃないか? 勇者の初級魔法で燃え上がってたし』


——そうだな。全ての植物を動かす事と進化、退化、移植、それと本体のみ様々な形に変化出来る。肉体的には触媒の植物と同等の強度しかない。


『チートかと思ったけど、不滅以外そんなでもないな』


——お前は不滅ではないぞ。


『そこなんだよなぁ。だからみんな躍起になって支配したんだろうな。ちなみに、餓死した依代っていないの?』


——ああ、いた。一週間程で消滅したな。二日目から苦痛が始まり最後の日は動く事すらままならない状態だ。


『三日くらいはなんとかなりそうだな』


——せいぜいその辺りが限度だろう。


『もっと楽にやりたかったのに一日絶食したら苦痛とか……この子は何日分くらいなんだ? 回すにはどの程度置いたらいい?』


——その女ならば一週間程度で枯渇するだろう。一日分の回復には一週間必要だ。ただし、回復しないうちに三日分も連続して吸収し続ければその女の精神は異常をきたすだろうな。


『実質明日抜いたら六日後に一回が限度か……じゃあ、生かして回すには最低でも八人必要ってことか。飼育でもしてなけりゃ無理だなぁ』


——人間共は、すぐに我が根城を潰しに来る。飼育していた人間を助けるためにな。


『特に守る術がないもんなぁ。……あれ? なら、どうやって国を支配したんだ?』


——寄生植物を植え付けて操作したのだ。


『そりゃあ……勇者くん怒るよ』


——この世界にはもう散布済みだ。うまく寄生できたものから二から五年程度で操作出来る。


『なに? もうなんかやってたの? つうか依代なくても動けんなら俺は必要なかったんじゃ……』


——お前が目覚めるまでは、全てラミアが準備していたのだ。私は依代無しでは行動が制限されるからな。


『……ふーん。んで、種の繁栄をしたいと』


——それもあるが、最大の目的は娯楽だ。悠久の時の中のお遊びに過ぎない。


『……。すげぇツッコミたいけど、スケールがでかすぎて、そういうもんかもしれないって気がするよ』


——ほう。この話を肯定したのはお前が始めてだ。


『記憶を制限されてるからじゃないか?』


——それでもだ。


『まあいいや、お前の娯楽と、そのついでに種の繁栄をさせればいいんだな?』


——そうだ。やり方は任せる。


『オッケー! 頑張ってみるよ』


——楽しみにしているぞ。



 魔王などと恐れられていたようだが、それなりに納得出来る行動原理があるみたいだ。

 最初は殺せ殺せの一点張りだったからやべーかと思ったけど、この感じだと八方塞がりでもなさそうなので安心した。



「大丈夫?」


「ん? ああ。問題無い。」



 女に心配される程考え込んでいる様に見えたらしい。



「最低でも八人いないとお前は一週間で干からびて死ぬ事がわかった」


「なにそれ? 意味わかんない」


「このままエネルギーを吸い出し続ければ、三日後に精神に異常をきたし、一週間後に枯渇する」


「マジでなんなの? あなたが消滅すればいいじゃない!」


「私はもともと人間だったらしい。今はこの体の依代だが。私を助けてはくれないだろうか?」


「……嘘。そんなこと言っても信じられないわ!」


「じゃあ、どうすればいい?」


「アマテラスの判断に従いなさい」


「アマテラスは私を殺しに来るのだろう?」


「わからないわ。アマテラスの判断は絶対よ。アマテラスに言われれば、喜んでこの体を提供するわ」



 モヤモヤとした何かが思考を阻害する。

 考えてもよくはわからない。



「では、私がアマテラスを支配すれば問題ないな」


「そんなこと不可能よ。大人しく調査されなさい」


「……。まあ、今アマテラスについて思考しても進展は無さそうだ。もう少し相手を知らないとこれ以上は無理だな」



 今は取り急ぎ食用人の確保が先決だろう。

 アマテラス云々は人数確保が出来てからだ。






きみすみが終わってしまった……。

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