転移の理
「ただいまー」
「ただいまってお前……。随分話し込んでたみたいじゃないか」
「おう! 中島のこれからの待遇について聞いてきたぞ。国賓扱いだってさ」
「……国賓? なんでいきなりそんなことになるんだよ」
「ってか俺も国賓待遇なんだよね」
「お前、この世界でなんか凄い事でもしたの?」
「いえいえ、正直力不足を感じる毎日ですよ」
「じゃあなんで?」
「わからん!」
「……もしかして、俺のことからかってる?」
「こんな状況でからかえるような度胸は無いよ」
「……はぁ。なら、さっきまでの状況を教えてくれるか?」
「ああ。お前んとこの兵隊さんは全滅。中島はその中から俺の友人って事で保護された。死体はもう別の場所に移動したよ。一応ここVIPフロアだから」
「全滅……。……全滅? 嘘だろ?」
「だいたい一万人くらいだったと思うよ。」
「……全滅。全滅したのか」
「謝罪はしないぞ」
「………………ああ。……いや、そうだよな。それよりも、俺を保護してくれたことを感謝しなきゃいけないんだろうな」
「大丈夫。お前がそんな余裕ある心境だとは思ってないよ。こちらとしてはもう少し時間が必要だと思ってたくらいだ。落ち着いて話はできそうか? これから異世界転移した時のような驚きの連続が待ってるからな」
「……そうか。ここも異世界だったな。もうなんも驚きゃしないよ」
「お? 心の準備は出来たみたいだな。出来てなくてもじわじわいくよりバーっと行っちゃおうと思う」
「任せるよ」
「よし! じゃあまず、中島の事は一から十までお見通しだ。おそらく中島以上にそちらの異世界の情報は掴んでいる。だから、なんかあっても隠すだけ無駄なので、なんでも知られている程で話さないと色々恥ずかしい思いをする事になる。オーケー?」
「いやいや、オーケー? じゃねえよ! もうちょっと納得出来るような説明をしてくれ」
「えー。じゃあ、「爆炎流のナカジマ」。これでいいか?」
「あー。うん。色々聞きたい事が出てきたけど、とりあえずさっきの話は納得したよ。まあ、とりあえずその名前は忘れてくれ」
「んじゃ、まず聞きたいのは中島がどうしたいかなんだけど、奇跡的な出会いは最悪で、中島の仲間である兵士を全滅に追いやってしまったのは変えようのない事実。それを踏まえて聞くけど、仲間を殺したこの世界は憎いか?」
「微妙だ。気を許した仲の友人がいたわけじゃない。仕方なく戦争してただけだからな」
「じゃあ、一緒にこの世界を救う手伝いをしてくれないか?」
「この世界を救う?」
「ああ。転移してすぐで申し訳ないんだけど、ぶっちゃけこの世界で大変な事件が起こってんだよね」
「……」
「えーと。俺も詳しくは知らないんだけど……」
——僕は中島にざっくりと経緯を話した。
「……なんかその話引っかかるな」
「夢見の百合かな?」
「ああそれだ! ってあなたは?」
「僕はケン! 涼介の親友さ!」
僕が中島と話込んでいるとケンが突然割り込んできた。
こいつは誰のでも関係なく脳内会話に割り込む癖があるらしい。
「夢見の百合?」
突然の置いてけぼりに焦り、こちらもすかさず会話に入る。
「中島君の世界では大陸一つ飲み込んだ植物があるみたいだね。あんまり中島君も詳しくないみたいだけど」
「ええ、そうですね。でもなんでそんなに詳しいんですか? 僕のいた異世界のことですよね?」
頃合いと見て衝撃の事実を告げる事を決意する。
「中島。落ち着いて聞いて欲しい。この世界では、脳内で考えた事は全て筒抜けだ。」
「え? いやいや……涼介、冗談でしょ?」
「冗談ではないよ。そもそもそっちの異世界の事なんて、ついさっき転送があったから知ったんだ」
「じゃあ、最初に言ってたお見通しってのはこう言うことか?」
「そうですな」
「ホントかよ……。よく正気でいられるな」
「慣れた!」
「……」
「うそうそ! 実はこいつはアンドロイドなんだ。読み取られた脳内の情報は一旦サーバーに集められて、基本的には秘匿されるから大丈夫だ。脳内会話がダダ漏れってわけじゃないからな」
「マジかよ……。ってことは一万人の情報が入ったってことか? だったら、マーチスが裏でやってた裏取引ってわかるか?」
「マーチス君は敵国に送り込んだスパイに指示を出していた様だね。表向き裏切りを装って、敵国に有利になる情報を売ってたみたいだ」
「スパイ? でも、あいつが流した情報で関所が落とされたんだぞ! 攻めるにしても、守にしても要の関所だったのに」
「でも、有利な迂回ルートを使って敵国に勝ったじゃないか」
「それが発見されたのは関所が落とされた後じゃないか!」
「軍に伝わったのはね」
「…………じゃあ、マーチスは……裏切り者じゃなかったってことか?」
「そういうことになるかな」
「あなたがそこまで知っているということは、さっきの奴らの中にマーチスと一緒になって動いていた奴がいるってことか?」
「いや、いないよ。マーチスは秘密主義者だったようで、情報を細切れにして、できるだけ多くの人に分散して伝えていた。まるで偶然に有利な状況になるように演出していたんだ」
「……でも、それじゃあ……」
「そう。彼の評判は最悪だった。でもそれも、敵国を騙す演出にすぎない。正直、人としては異常だね」
「マーチスはなんでそんな事をしていたんだ? 何かそうさせるものがあったのか?」
「それを知っている人はいなかった」
「……そうか」
「あのー。おいてけぼり過ぎてつまんないんですけどー」
ケンと中島の会話についていけず、一人寂しく文句を垂れる
「ああ、悪い涼介。つい熱くなっちまった。……もう関係ない世界の事だったのに」
「そうでもないよ?」
「え?」
ケンが指差す方を見ると、壁に見慣れないドアがあった。
「あれは、さっき中島君達が出てきた場所に突然現れたんだ。元の世界に戻れるんじゃない?」
「中島、帰っちゃうの?」
「え? えーと。帰れる? いや、嫌だよ!日本に返してくれよ!」
「ケン、あの扉の先はもう確認済みなの?」
「まだだよ。調査に向かったアンドロイドは帰って来てない」
「すぐ戻って来るように指示したの?」
「もちろん! 入ったらすぐには戻れないみたいだね」
「だってさ。どうする?」
「行かない! 誰も帰って来ないんだろ? 怖いよ!」
「向こうの世界に未練とかないん?」
「って言われてもな。一年くらいしか居なかったから未練が残るようなことはないな」
中島から出た衝撃の事実にため息を漏らす。
「ケン。なんで先に説明しなかったんだ? これじゃあ調査に行った奴が帰って来るのは数年後じゃねぇか」
「そうなるね。まだまだ未検証の部分だからね、中島君が帰るって言い出せば伝えようとは考えて居たよ!」
「なんの話してんだ?」
「中島、実は俺はもうこの世界に来て四年は過ぎてるんだよ」
異世界転移の謎が少し解明された。だけど、この事実が意味する未来はあまり明るいものじゃなさそうだ。
もし、元の世界に帰れたとしてもそれは何年も時が進んだ世界に戻る事になるのかもしれない。
あまり期待はしていなかった元の世界への転移は、これでまた更に遠くへ離れていく。
ドラマの脚本かよってくらい会話文しかない。でも、くだらない所作をダラダラと書いても読み手に失礼だよねーって感じでこのままにすると決めました。
そんなことより、今やってるヴァイオレットエバーガーデンが面白すぎてヤヴァイです。歳を取ると涙腺が弱くなるって言いますが、泣くことが出来る余裕が出来たの方が正しいんじゃないかなって思います。