悠久の終わり
ダダダダダダダダ!
ケンの後ろで控えていたアンドロイド達がこちらに一斉射撃で向かって来る。
僕は腕を切られたせいか、驚くほど冷静に回避行動していた。
そもそも両腕を切られずとも、片方の腕さえ切られれば出血死のカウントダウンが始まる。
血を流し過ぎれば行動は鈍化し、意識を保っていられないだろう。
精一杯の気力を出し最適な行動をする。
アンドロイド達が迫る。
バシ!…………シュシュ!……ドァーン!
……無意識だったと思う。何故そんな行動に出たのかわからなかった。
三体のアンドロイドは、小規模だが高熱の爆発に巻き込まれていた。
シュシュシュシュシュシュ…………カス! カス!
爆心地に向かい右腕の弾を撃ち尽くす。
我に帰った時には意識は朦朧とし、立っている事さえおぼろげだった。
はずだった。
「はぁ、はぁ……血が……出てない?」
いつのまにか出血は止まり、切り口に肉が盛り上がっている。
「はは……。いよいよ化け物だな……」
今までしてきたトレーニングと、こちらの世界特製の食事メニューが自己治癒を促進したとでも言うのだろうか?
辺りを見回す。
そこかしこで消えること無くアンドロイドが熱を帯び、焼き尽くさんばかりに赤く燃えていた。
僕はそこに一人立ち尽くす。
この戦いの勝者を、赤い惨状が教えていた。
「ってか暑い! この広さの部屋の温度をここまで上昇させるとかなんちゅう熱量だよ! ってか、ケンがいないから……あれどうすんの? こんな時は……」
困った時のリノ頼みだ。
「お呼びでしょうか。涼介様」
「おお! リノ、これからどうしたらいい? ケンがいないからどうしたらいいか困っててね」
「涼介様はすぐに医務室へ向かってください。あとはこちらで処理します」
「そうか。わかった。よろしくな!」
「承知いたしました」
僕は事後処理をレノに任せ医務室へ向かった。
「涼介!」
庭で聞き覚えのある声が聞こえる。
「……なんだ、ケンか」
「なんだとは随分じゃないか! まあいいや、そんな事よりおめでとう! アンドロイド十体撃破すごいね! 僕も性能を限界まで出したけど負けちゃったよ」
「……ああ。そうだな」
「なんか嬉しくなさそうだね。どうしたの?」
「最後一人になった時にさ、妙に寂しい気持ちになっただけだよ」
「戦いは何も生まないって感じ?」
「そんなカッコいいもんじゃないよ。もっと弱々しい雑な感情じゃないかな」
「なんだかなぁ。もっと勝利を喜んでると思ってたのに」
「たしかに勝って嬉しかったけどね。それ以上になんかもう自分が自分じゃないみたいな感じだよ」
「涼介は見違えるほど強くなったもんね! それは涼介が頑張ったからだよ!」
「頑張っても、自分が異常にしか見えないよ」
「もうすぐ慣れるよ」
「……もう慣れてると思ってたんだけどな。ってか一つ言いたい事があったんだよね」
「何かな?」
「あの籠手、撃ち抜いたら爆発したぞ! 腕誤射したら危ないから改善して!」
「ああ、それは不具合じゃないよ。籠手の裏側は貫通出来る様に弱く作ってあるんだ。さっきみたいに爆発させる様に。説明無しで実戦するもんだからびっくりしたよ!」
「え? じゃあ、たまたま運良く裏側撃ち抜いたってこと?」
「そうだね」
「うわぁ。あぶねー。今回の勝利はたまたまだったって感じか」
「いや、爆発しなくても涼介が勝ったんじゃないかな?」
「……微妙だな」
「運も実力の内さ!」
「そういうことにしておくよ」
ケンと駄弁りながら医務室へ到着し、すぐにオペが始まる。
麻酔で意識を失い、目覚めると元どおりに腕が治っていた。
その後も部位欠損ありの訓練は毎日実施され、十体だったアンドロイドが二十を超えても安定して勝てる様になる。
まるで戦闘マシーンだと我ながら思う。
時折考えるのは、これが魔法とか、剣だったらそうは思わなかったのだろうか? などという愚問だ。
思いの強さでパワーアップする感情的なスーパーパワーではない、日々のトレーニングと実戦とこの世界のビルドアップ食による現実的で異常なスーパーパワーだ。
いつ来るかわからないシューゼ法国への遠征に向けて毎日同じ作業を繰り返す。
そしてまた、退屈で優雅で何不自由のない時が過ぎていく。
これを至福と感じるかどうかは人それぞれだろう。
天国の様な、時間の檻の中の様な、代わり映えの無い日常は、ゆっくりと、確実に、精神を蝕んでいく。
まるで自覚なく、順応するかの様に。
だが、そんな日常も永遠には続かない。
悠久の終わりは、僕のすぐ近くで音を立てて始まった……。
「「「「うおーーー!」」」」
VIPフロアに大勢の雄叫びが上がる。
「うわぁ! なんだ!」
「涼介! 侵入者だ!」
「ええ⁉︎ どこ!」
「庭の方。 ここで待ってて!」
「俺も行くよ!」
「ダメ! ちょっとまずい状況みたいだ。あとはレノに従って動いて! じゃ!」
そう言うとケンは庭に駆けていく。
僕はケンに言われた通りレノに顕現してもらい、支持を仰ぐことにする。
「レノ! いったい何が起きてる? 俺はどうしたらいい?」
「現在侵入者が庭に押し寄せております。戦力は未知数で増え続けている様です。」
「なんじゃそりゃ! ここってそんな簡単に侵入出来んの?」
「いえ、これは……涼介様の様に転移してきている様です」
「マジか! なんだよ! 俺も行く!」
「駄目です。敵は現存しない技術で攻撃してきております。解析が完了するまでお待ちください」
「具体的にはどんな攻撃なんだ?」
「涼介様が魔法と位置づけている様な攻撃です」
「え……やばくない?」
「はい。ですが、相手は普通の人間の様です。殲滅は可能です」
「今何人くらいいんの?」
「流入が毎秒十人から十三人。殲滅行動に移る前に百人程侵入を許しました。殲滅速度が八人ですが、三十秒後追加のアンドロイドが到着します。三十人まで速度が上がります」
「庭が血の海になってるじゃんか」
「お見せ出来るような状況ではありませんね。状況は改善されますのでしばらくお待ちください」
異世界転移と聞いてすぐにでも向かいたい気持ちでいっぱいなのだが、レノの説明では死屍累々の地獄絵図の様だ。
僕にその光景が耐えられるとは思えない。帰れるかもしれない絶好のチャンスだが、ここはじっと耐える方が良さそうだ。
対処可能な危険に余計な首を突っ込んで死んだらそこでお終いだ。
ソワソワしていると、だんだん歓声が悲鳴へと変わって行くのを耳にする。
「……レノ。状況は?」
「ほぼ殲滅しましたが、転移門を抜けて来る人に減少は見受けられません。持久戦です」
「そうか……」
転移門を抜けたら死ぬトラップ化した様だ。
惨状を見に行く勇気が出ない。もう十五分程経っただろうか。
計算したくもない人間の死体の山が出来上がってる筈だ。
だが、突然悲鳴も歓声も止み静かになる。
「終わったか?」
「はい。転移者の流入が止まりました」
「そうか……まだ行かない方がいい?」
「はい。庭の掃除が終わるまでお待ちください」
「はい……」
庭の掃除って……。言葉を選んでくれたつもりなんだろうけど、なんだか逆に恐怖を感じるよ。
五分程すると、レノが掃除の完了を教えてくれた。
アンドロイドの作業スピードは異常だと思う。
「じゃあ、行きますか」
「はい」
素っ気ないレノを引き連れ、戦闘があった庭に行く。
僕はそこで信じられない光景を見ることとなった。
「あれ? あそこに捕まっているのは……。あれ?」
一人だけ、アンドロイドに監視されて捕獲された人がいた。
紋章の入った豪華な甲冑を身に纏い兜を取った状態で縛られていた。
僕は捕獲された兵士に駆け寄る……目の前に立ち、声を掛ける。
「おい、大丈夫か?」
兵士が声に気づきこちらを見上げる。
目が合うと、兵士は瞳孔が開くのがわかるくらい驚いていた。
「涼介……か?」
「ああ。やっぱり。お前、中島だな!」
はい。一ヶ月悩みましたが、こんな感じで進めます。
よろしくお願いします。