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孤独

「……誰もいない?」



 医務室には誰も居なかった。

 まるでVIPフロアに取り残されてしまった様な静けさがずっと付き纏う。


『何だこれ? 自分でなんでもかんでもやらないかんのか?』


 随分と傲慢な考えをするもんだと、思った後に恥ずかしくなる。

 今までなにもかもアンドロイドに世話になりっぱなしで、感覚が麻痺していたようだ。


 気をとりなおして医務室の薬品棚を確認。……

 してみたものの、全然なにがどんな効果があるのかサッパリだった。


『やばくね? これ結構出血してるし、傷口消毒しないと病気になっちゃうよ』


 色々考えてみるも、とりあえず綺麗なタオルを持って水洗い。ガーゼに使えそうな生地の布を傷口に当てて包帯っぽいもので巻いておく。


『取り敢えずこれでいいだろう』


 最低限の治療を済ませる。次は栄養だ。食事処に向かい食料漁りをしに行く。

 ここにも誰もいなかった。


『なんでこんなプチサバイバルみたいな事になってんのさ! はよ誰か居ないか?』


 だんだん一人で居るのが辛くなって、泣き言が漏れ始める。

 厨房に侵入し食料庫を漁る。取り敢えず調理しなくても食べられる果物系を拝借して、その場でかじってゴミ箱へ。

 あとはもう足を引きずって歩くのも疲れてきたので、自室で寝るだけだ。

 自室に戻ってみても案の定誰もいない。一人寂しく不貞寝をする事に決める。


『まだ寝るには早過ぎるけど、もう疲れた。足も限界だし寝る。ってか誰もいないし、する事もないしな』


 思いのほか眠りにはすんなり入れた。実演の時間はそんなでもなかったのだが、予想以上に疲労が溜まっていたらしい。色々不安な要素はあったが、今は休みたかった。




 思いの外眠りが深く長いこと眠ってしまったようだ。

 そして…… 目が覚める。相変わらず足が痛い。


『腹減ったな』


 空腹で目が覚め、ベットから起き上がる。

 やっぱり誰もいない。

 起きたら誰かいるんじゃないかと楽観視していたが、誰もいない現実に、押さえ込んでいた焦りと恐怖が湧き上がる。

 異世界で一人ぼっちになることが、こんなにも恐怖を感じる事だとは思わなかった。

 いや、忘れていた。初めてこっちの世界に来た時に嫌というほど感じていたはずだ。あの時と同じ、「死」の感覚だ。

 焦りはこの状況を打開するために脳をフル回転させる。そして、唐突に忘れていた事を思い出す。


『あ……。レノはいるんじゃね?』


 あまりに残念な自分の脳味噌を恥じる。僕はホッとすると同時に、レノを呼び出す。



「お呼びでしょうか? 涼介様」


「あ。やっぱり」



 レノの顕現に再度胸を撫で下ろす。レノもいなくなってしまったのだとしたら、もう詰みだったろう。



「良かった。レノは居てくれたんだ。


「はい。レノはずっとおりました」


「あのさ。あの訓練の後から誰の事も見てないんだけど、どうしたの?」


「現在緊急メンテナンスにて、アロー法国にある全設備の検査を実施しております」


「あれ? 意外と緊急事態じゃん。どうしたの?」


「未知の植物の花粉を、効率的に検知できる環境が整いましたので、一斉検査となりました」


「なるほど。レノは大丈夫なのか?」


「はい。まだ完了していない個体もありますが、私は検査を終えております。また、VIPフロアの検査も完了しておりますので、問題ありません」


「じゃあ、俺は問題なかったって事?」


「いえ、生体内部への侵入を検知する事はまだできません」


「そうか。それじゃあ、しょうがないな」



 まだまだ安心というわけではないが、ひとまずアンドロイドが急に乗っ取られる可能性は無くなったようだ。



「取り敢えずお腹すいた」


「では、食事処に参りましょう」



 まだ完全ではない足を引きずりついて行く、レノさんがいれば、もう少しマシな食事が出来るだろう。

 レノは僕にテーブルで待つよう指示する。そしてそのまま厨房に向かうと、空いている時間帯の牛丼チェーンの如き速さで戻ってきた。



「お待たせいたしました」



 洋風な朝食が出される。パンに、目玉焼きに、ウインナーに、コーヒーに、サラダまで付いている。


『一体どんな手品を使ったらこんなに早く作れるんだろう……』


 あまりの速さに驚き、出された朝食に不信感すら抱いてしまう程だった。



「レノさん。早すぎない? これ、大丈夫?」


「問題ありません。見た目と味は再現されたものですが、栄養素は必要十分に配合されております」


「ああ。そっちは心配してないんだけど……まあいいか。せっかくレノさんが作ってくれたんだから、有り難く頂きます!」



 僕の心が分かっていてはぐらかすと言うことは、黙って食えって事だろう。

 僕に残された選択肢は、心から有り難く頂くことしかない。



「頂きます!」



 元気良く出された食事に敬意を払い、勢い良く平らげる。

 やっぱり美味い。この世界では、不味い料理を食べる事の方が貴重なのかもしれない。

 満腹になった僕は、余裕が出てきたのか、今まで気にはなっていても聞けなかった事をレノに聞きたくなった。



「ねえ、ちょっと気になったんだけど、レノって何体もいるの?」


「はい。少なくとも、常に二体以上で涼介様を監視しております。レノのスペアの総数は正確な数字は申し上げられませんが、相当数おります」


「まじか! じゃあ、今ももう一体いるんだ」


「はい。顕現するのは一体と決まっております」


「じゃあ、無人島に漂流した時って、もしかしてずっといたの?」


「はい。あの時は緊急事態のため、顕現せずに監視しておりました」


「あー。なるほどねぇ。緊急事態じゃ何があるかわかんないもんね」


「はい」


「って事は、これって隠した方が良い事実ってやつだったんだよね? 大丈夫なの?」


「問題ありません」


「……まあ、レノがそう言うならいいか。またこれも、具体的にどうするか聞いたら新たな対策を講じなきゃいけないんだよね?」


「はい。常に何かしら涼介様がご理解されていない対策が必要になります。敵に悟られない有利な状況は必須条件になっております」


「了解! レノ……いや、この世界の意思を信じるよ」


「ご理解いただきありがとうございます」


「いえいえ。あと、もう一つ。あの訓練の演出ってどうしてああなったの? ちょっとやり過ぎ感が凄かった気がするんだけど」


「今の状況下で、涼介様の自衛手段の確立は最重要案件になっております。多少のリスクはありましたが、より迅速に涼介様に自衛手段を身につけて頂くための最善の行動となります」


「そんなに重要度が高かったんだ」


「はい。現在涼介様は世界の全人口の四分の一に相当する程の価値が算出されております」


「ああ……そうだったね。数字にされるとげんなりしちゃうけど、良く分かったよ」


「ご理解いただきまして、ありがとうございます」


「でも、自分でもなんで撃てたのかいまいち良く分かってないのだけれど、あの演出の意味を教えてもらっても良いかな?」



 僕には答えを出せなかった疑問をぶつけてみたくなった。レノさんは、今までいくら難しい質問をしても納得できる答えを提供し続けてくれた賢人だ。

 いくらなんでも答えてくれるからって、自分でたどり着けなかった答えをレノに聞いてたんじゃ、これから思考停止に陥ること請け合いだろう。

 それでも、これは悩みに悩んでいた案件だ。おそらく自分の残念な脳味噌じゃ一生使っても答えに辿りつけないだろう。

 レノのに聞けば、何でもある程度理解できるだろうという浅はかな考えが、そうせざる終えなかった。






書き方を変えました。

だいたいみんなこんな感じで書いてるなーってのを真似して書いてみました。

感想などいただければありがたいです……。

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