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準備

「お帰り、涼介君」



 リースさんがVIPフロアで出迎えてくれた。明るい笑顔に癒される。僕は何にもできずに帰って来ただけだというのに。

 アロー法国に帰還して、一番心配だったことが杞憂に終わりほっとする。もしかしたら、落胆の目で見られるんじゃないかと思っていたので少々ビビっていた。



「リースさん。お疲れ様です。何にもできずに帰ってきてしまいました。申し訳ありません」


「だいたいの状況は連絡を受けているよ。大変だったね。今日はゆっくり休むといい。明日から早速準備に取り掛かるからね」


「わかりました。よろしくお願いします」



 リースさんと簡単な挨拶を済ませて部屋に入る。ケンもコルチェもアロー法国に着いた途端大幅アップデートの準備に取り掛かってしまった。

 なので、今日は一人で寝られるみたいだ。

 思えば、一人で寝るなんて初めてかもしれない。ケンは初日から僕につきっきりだった。

 そんなはじめての一人っきり。

 今では安らぎを感じる程、この世界に慣れてきたようだ。

 初の遠征が波乱の続きで終わり、ひと時の休息。僕はいつのまにか睡魔に襲われてしまった。




「涼介さん、起きてください」


「……」


「涼介さん! 起きてください!」



 バサッ!



「ん……? あ……え?」


「おはようございます。涼介さん。お久しぶりですね」


「え?……あ。……あ! クロエさん!おはようございます!」



 僕を起こしに来てくれたのか、目の前にクロエさんがいた。

 突然の事に驚き、寝起きのボサボサの頭を押さえて対応する。



「ふふ。おはようございます。まずはシャワーでも浴びてスッキリしてからにしましょうか?」



 クロエさんは僕の行動を見て、優しく提案してくれた。



「あ、はい。そうします。ちょっとまっててください」



 僕は急いでベッドから出て風呂に向かう。

 クロエさんを待たせているのだ、すぐに終わらせなければならない。

 脱衣所で服を脱ぎ捨て、速攻でシャワーを浴びる。髪も体も入念に高速に終わらせる。シャワーで泡を流し、脱衣所に戻る。置いてあるタオルを掴み、わさわさと身体を拭いていると、横目でタオルで身を隠したクロエさんが居ることに気づく。



「うわぁ!」


「あら。間に合いませんでしたね。涼介さん早かったですね」



 僕は持っていたタオルを急いで腰に巻く。



「どど、どうしたんですか?クロエさんそんな格好で!」


「どうって、アンドロイドは身の回りのお世話が基本ですので、お背中を流しに来たんですけど、涼介さんのお風呂が早くて間に合いませんでした」


「え!……あ!」



 そういえば、ケンも同じような事してたっけ。あーそうか。アンドロイド的にはこれが普通なんだ。って事は……クロエさんと一緒にお風呂に入れたのか……ああああああああああ! なんでこうもフラグを折ってばかりなんだ! 嬉し恥ずかしのエロイベントが! 俺のばか! カス! 考え無し!

 いくら後悔しても、もう風呂から出てしまっている。……終了だ。諦めたらそこでホニャラララって言うけど、「あ、じゃあ、せっかくなんでもう一回入ります!」と切り返す勇気は僕にはない。



「クロエさん……。僕、風呂場に戻ってるので、着替えてリビングで待っててください」


「はい。わかりました」



 力無く風呂に戻り、クロエさんの着替えを待つ。そして、クロエさんが出て行く音を聞き、脱衣所に戻る。力無く着替えを終わらせてリビングへ。



「おまたせしました」


「いえいえ、こちらこそ。お手伝い出来ずに申し訳ありません」


「……お気になさらず。お気持ちだけでありがたいです」



 ありがたい気持ちはほんの少し、残念な気持ちがその他すべてを埋め尽くしていた。



「では、今日こちらにお伺いした理由ですが、涼介さんの訓練にお付き合いさせていただきます」


「訓練……ですか」



 先程の失態を引きずり、気落ちを隠せない。その上訓練では、気持ちを上げようにも上がらなかった。



「はい。アマテラスが最適な訓練プログラムを作成いたしました。私と一緒に頑張りましょう!」


「わかりました。頑張ります」



 あたアレをやるのかと思うと不安しかないのだが、たとえ出来なくても僕のためにやってくれていると思うと断るなんてことはできない。

 それに、クロエさんが可愛いかった。


 僕はクロエさんに連れられ、VIPフロアに設置された訓練場に案内された。



「ここは、涼介さんが不在中に新設された訓練場です。壁は誤射しても問題ないよう作成されております。ご安心ください」


「また凄い施設を簡単に作ってしまうんですね」


「アロー法国の技術なら容易いことです」


「ははは……」


「では、早速訓練プログラムを実施いたします」



 来たか……。また動かないアンドロイドを撃たなきゃいけないのかと思うと気が重い。


 パチン!


 そう心の準備をしていると、クロエさんが指を鳴らした。


 ダダダダダ!


 奥の扉が開きフェンシングの選手みたいな格好のいかにもなアンドロイド達がゾロゾロと集まって来た。

 クロエさんの周りに整列し同じ格好で支持を待つ。ざっと三十体程いるだろうか?



「それでは、涼介さんにアンドロイドの性能を披露いたします。模擬戦を行いますので、そちらの防護室にてご観覧ください」



 クロエさん示した防護室に入る。ガラス張りのような全面透明な球体に、ちょこんと椅子が設置されていた。

 僕が席に座るとクロエさんの声が聞こえる。



「涼介さん。よろしいでしょうか?」


「はい。大丈夫です」


「それでは、模擬戦を開始いたします」



 アンドロイドが二体向かい合わせで立っている。

 この二体の模擬戦のようだ。



「はじめ!」



 クロエさんの掛け声と同時に二体のアンドロイドが臨戦体制に入る。

 両者同時に走り出すが、思った以上に早い。どちらも最初の一歩で飛ぶように加速。片方はパンチ、片方はミドルキックだ。これはリーチの長いミドルキックが優勢かと思いきや、足にめがけて軌道変えたパンチが炸裂する。

 足を地に着き、急停止したかと思うと、軸足からコマのように体を回転させ、相手の伸びた足の膝辺りに攻撃。

 相手は膝から先が千切れ、体制を崩した。

 すかさず軸足を変え、左フックを打ち下ろし頭部を攻撃。

 相手は顔が凹み地面に打ち付けられた。



「そこまで」



 クロエさんが終了を宣言。


 開始してから十秒あっただろうか? いや、むしろ、こんなのに僕は戦場で弾を当てられるのだろうか? 僕の不安は著しく増していった。



「次!」



 間髪開けずに今度は五体づつの模擬戦が開始された。倒れているアンドロイドはそのままだ。


 五体のアンドロイド達はすぐさま陣形を取る。今度は武器も使うようだ。

 二・一・二の陣形と、一・四の陣形の勝負だ。

 二・一・二の先頭が走りながらマシンガンを撃つ。一・四の陣形は先頭が前進しながら飛び上がり、身体を覆う程の盾で身を隠す。

 二・一・二の先頭と後方が釣られて上にマシンガンを向け攻撃。

 僕も釣られて上を見る。

 マシンガンの攻撃が止まる。

 遅れて複数の銃声。

 そして、飛び上がったアンドロイドが、二・一・二の中間のアンドロイドを掴むと、爆発した。



「そこまで」



 一・四陣形の勝利だ。

 一人を捨て駒とした狙撃によるものだった。

 この試合も二十秒あったかどうか……。

 本気であんなアンドロイドに対抗することができるのだろうか? 逃げ惑う市民が虐殺されるような映画のワンシーンで見たような未来しか思い浮かばない。



「涼介さん。アンドロイドの模擬戦はどうでしょうか?」



 クロエさんが僕に感想を求める。もうわかってるのだろうが、あえて言葉にしなければいけないのだろう。



「こんなのに一発当てるなんて出来るのでしょうか?」


「今のアンドロイドの動きでは難しいでしょう。ですが、操られたアンドロイドには可能かもしれません」


「なるほど」


「では最後に、私と一緒に戦いましょう」



 ……一瞬何を言われたのかわからなかった。一発も練習せずに実演? 

 確かにクロエさんと一緒なら心強いが、いきなり実演とか何考えてプログラム組んでるんだアマテラスは?

 不安な気持ちが焦りに変わり、また不安に変わる。こんなぐちゃぐちゃな心境で実演開始らしい。

 僕は逃げ出したい気持ちを抑えるのが精一杯だった。






「平成パンピレン」って短編を書きました。

よろしければ、そちらもご覧ください。



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