表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/100

レールの上の人類

「「「うぉーーー!!!」」」



 会場が沸いた。

 全員立ち上がり拍手が怒号の様だ。テレビで見るのとは違いめちゃくちゃ五月蝿い。ライオネルさんも満足そうな顔で拍手している。


『クソ! なんか釈然としない。なんでこんな会場が沸いてんだよ。示し合わせたように盛り上がりやがって! この世界の技術力があれば、こんな三文芝居の様な安い演目で不快にさせるんじゃなくて、本気で英雄を目指す気持ちにさせてくれても良いじゃないか……』



 拍手は鳴り止まない。なげぇよ!って突っ込みたくなるぐらい騒音は続く。だんだんと苦笑いも辛くなってきた。

 そんな僕の心情を察したのか、ライオネルさんは僕に微笑むと叫ぶように口を開いた。



「皆さま! これによりシューゼ法国救援に向けて、再び走り出せることとなりました。アマテラスの意思を実現するため、シューゼ法国を救うため、今一度機会が与えられたのです!」



 再び、会場が沸く。


『ライオネルさん。違う、そうじゃない』


 あの微笑みはなんだったのか?もっと沸かせて魅せるぜ! ってことだったのだろうか? やっぱりこの人は根が政治家向きなんだろう。

 苦笑いは消え、もうどうでも良くなってきた。


『まったく、この会場の異様な盛り上がりはなんなんだ? 意識高い系の集まりか? シューゼ法国を救うことがこんなにも燃えるような状況なんだろうか?』


 いまいちピンとこない自分が、盛り上がる周りについていけなくて困惑していた。

 あとでケンに話して憂さ晴らしをすることに決める。



「それではみなさん!涼介さんの出立は今から30日後の12時です! 事態は待ってはくれません。八百年間一度も無かった未曾有の事態です。最善を尽くそうじゃありませんか!」


「「「おおーー!!」」」



 熱気も冷めないまま、皆、足早に会場を出る準備をし始めた。ガヤガヤと随所で真剣な会話をしながら会場を出て行く。

 代表達と僕は、壇上から全員の退場を見届けていた。

 最後の一人が出て行った後、ライオネルさんが僕に話しかける。



「涼介さん。本日は誠にありがとうございます」


「いえ」



 言葉が続かない。もう、なんて返したらいいかわからなかった。



「今しばらくはご静養ください。伝言は全てケンに伝えますので」


「わかりました」


「涼介にいちゃん浮かない顔してるよ? 大丈夫?」



 リンさん……いや、なんかこそばゆい。リンちゃんが心配してくれた。良くできた子だ。



「ああ、大丈夫だよ。会場の熱気が凄くてね」


「そうだねー、凄かったね! 涼介にいちゃんにみんな期待してるんだよ」


「って言っても何がなんだかわからなすぎて、みんなの期待の意味が全然わからないんだけどね」


「あー。そうか、涼介にいちゃん今来たばかりだもんねー。涼介にいちゃんにお願いしようって決まるまでは、ほとんどお通夜みたいな感じだったんだよ?」


「そうなんだ。なんで?」


「ライオネル代表の話聞いてたでしょ? 通信ケーブル切断の一件で、私達が出来ること無くなっちゃったんだよね。

 涼介にいちゃんはこの世界に来て間もないからわかんないだろうけど、こんなに人の力が必要になることって誰も経験したことないんだ。だから、みんなとっても嬉しかったんだと思う。

 でも、みんなで力を合わせて一心不乱に頑張ったんだけど、結局シューゼ法国を救えなかった。」



 僕が今まで感じていた無力間を、この世界の人たちは八百年間感じ続けていたというのだろうか?

 だとしたら、割り切っていただけで、八百年間ずっと溜め込んできてしまっていたのだろう。僕の経験値では計り知れない人々の思いが、あの会場の熱気を生んだってことなんだろうか?



「そんな時、アマテラスから提案があったんだ。涼介にいちゃんを調査員として派遣しようって。

 みんな最初は涼介にいちゃんに頼らないようになんとか出来ないかって躍起になって考えたんだけど、やっぱり他国の人間にAIを調査させるってのは許容出来ないし、スサノオを調査せずになんとかできないか考えても、結局根本的な解決には結びつかない。

 それで、八方塞がりになっちゃって、もうどうしようもなくなって、涼介にいちゃんにお願いする事が決まったって感じだったんだよ」


「でも、とりあえずアマテラスの提案を蹴って、シューゼ法国だけでAIの調査をすれば良いんじゃない?」


「それは、私から説明しましょう」



 リンちゃんとの会話を聞いていた代表達の中で唯一話したことのない、シューゼ法国のダル代表が会話に参加する。



「まずは、はじめまして。涼介様。本日はご英断いただきましたこと、誠に感謝しております」



 ダルさんが手を差し出す。握手は異世界でも通用するみたいだ。

 僕は手のひらを服に擦り付け、慌てて汗を拭い握手した。



「こちらこそ、はじめまして。ダルさん。正直な所、困惑してばかりで何をすれば良いのかわかってませんが、シューゼ法国のため、微力ながら精一杯頑張りたいと思っています。よろしくお願いします」


「ありがとうございます。涼介様はこの世界に来て間もないと聞いております。そんな最中、このような決断を迫り、誠に申し訳ありません。ですが、我々は涼介様の寛大なお心遣いに大変感謝しております。シューゼ法国をどうぞよろしくお願いいたします」


「はい。それで、シューゼ法国だけで調査が出来ないってのはなんでなのbですか?」


「それはですね。簡潔に言うと、アマテラスの判断に背く行為だからです。では何故、一見良さそうな提案がアマテラスの判断によって覆ってしまうのか? これが涼介様が理解に苦しむ点だと思います」


「そうですね」


「これも、簡単にご説明いたしますと、アマテラスに背く行為は、対外諸国に敵対するのと同義だからです」


「なんでそうなるんですか? ここは世界会議の場だし、みんなで決めたら敵対って事にはならないんじゃないですか?」


「いいえ、全会一致でアマテラスの判断優先となります」


「まあ、なんとなくそうじゃないかな? とは思ってましたけどね。イマイチ実感が湧かないんですよ。その極端な結論を出せることが」


「では、涼介さんは、アマテラスに敵対して勝てるとお思いなのでしょうか?」


「みんなでそう結論付ければ……勝てるのではないでしょうか?」


「確かにそうですね。では、アマテラスに勝った後はどうなると思いますか?」


「みんなで話し合っていろんな事を解決していけばいいと思います」


「……それはもうこの世界ではほぼ不可能なのです。涼介様は、アロー法国で色々とこの世界についてお調べになったと聞いております。何故不可能なのか?なんとなくはご理解なさっているのではないでしょうか」


「まあ、なんとなくは……でも、だからって全部アマテラスに従わなくてもいいんじゃないですか?」


「例えば、アマテラスの意に背いた結論で、そのあと責任問題など起きた場合どうしますか?例え皆で出した結論であろうと、ちょっとした火種が大きな国際問題となりますよね?」


「それは、各国話し合って……」


「話し合いで解決出来ますか?」


「出来ると思います」


「ただ、出来たとしても、そのリスクを負ってまでアマテラスが信用出来ませんか?」


「……」


「そもそも、八百年間誰も背く事をしなかった事実と、幸福と平穏をもたらした実績を超える結論など人類には到底到達不可能なのです。

 皆、アマテラスの意向に背く事を恐れているし、この平和と安定した生活に感謝しているのです。すなわち、アマテラスの意向とは、世界の民意と同意になります」


「……」


「それだけではありません。例えば、アマテラスに背く行為が運良く良い結果をもたらしたとします。その結果、アマテラスを覆せるという事実が、今後この世界を大きく揺るがす事となるのは確実です。

 今では禁忌とされている記憶の書き換えは、アマテラスの抑制無しに管理など不可能。人の欲望は、数日の内に独裁国家を誕生させ、そこから敵対国家が生まれ、戦火が至る所で上がり、人類の半数は無益な戦争の被害者になるでしょう。

 やがて、誰も他人を信じられなくなった頃、同時に自分の事も信じることが出来なくなり、そして、この世界の終焉を迎える事になるはずです。こ

 れは、単なる予想でしかありませんが、すぐに実行可能な範囲でのお話となります。今のご説明を聞いて、どうお考えでしょうか? 涼介様が通したい提案とは、もしかしたら起こってしまうであろう最悪の結果を加味しても通したい提案なのでしょうか?」



 今まで話を聞いてきて、やっとこの世界の感覚を実感出来た気がした。リースさんから聞いただけじゃ感じなかったが、トップクラスの方々、世界会議に出席した人達の反応を見るに、アマテラスが世界の民意ってのは確定的らしい。

 記憶の書き換えの管理が出来るのはアマテラスのみってのがデカイんだろう。タカが外れた人間の欲望は、想像以上に早急な人類滅亡を示唆していた。


『八百年前のアロー王の功績は神に等しいな』


 そんな途方もない絶望を食い止めた王様は本当に人間だったのだろうか?

 そういえばその頃もAIがあったんだっけ……実際は、AIの言うがままに動いたんじゃないだろうか?そうじゃなきゃ無理だ。

 その時の他国の代表の記憶の書き換えは、最小限の被害で最大限の結果をもたらしている。誰も死んでない最高の結果だ。秘匿されているから本当のところはわからないけど。



「……アマテラスに背くって事はここまで大変な行為なんですね。短慮もいいところでした。今までこの世界の事を色々考えながら接して来ましたが、やっとみんなの考えがどんなものなのか実感出来た気がします」


「ご理解いただけて嬉しく思います」



 結果、アマテラスに背いてシューゼ法国だけで調査してもらおうと試みた目論見は、重たいカウンターパンチにて幕を閉じた。

 これから三十日後、シューゼ法国に向かわねばならないらしい。

 不安でいっぱいな救援作戦は、僕の思いと関係なく、何も出来ないまま、刻一刻とその時に向かって進んで行く。






魔女が出会った絵描きの助言通り、創作に詰まったので、なんにもしないを実行しておりました。

新しく買ったスマホに浮かれていたわけではありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ