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世界会議2

「有人調査の第一陣は、三機の精鋭部隊を編成。これの役割は、シューゼ大陸のデッドライン、有線通信施設、シューゼの首都、この三点を上空から確認し、迅速に状況報告することです。

 飛行機が完成したと同時に開始され、一機毎の出発となりました。初号機のデッドライン生還報告がされた頃、弐号機が完成。初号機は補給に戻り、弐号機は通信施設に向けて出発。通信施設の安全もすぐに確認され、弎号機も入れ違いで出発。首都の安全も問題無しとの判断で、初号機と弐号機にてシューゼ代表の捜索を開始。第二陣は、五機編成の小隊で、代表救出の哨戒任務及び、救出後の周辺調査。こちらは機体の用意が間に合わず捜索機の後から追う形になってしまいました。しかしながら、この作戦も問題無く完了。シューゼ代表の生存確認、世界会議場への護送は速やかに実行されました」



 ライオネルさんは終始無駄な動きをせず、淡々と語る。綺麗にまとめられた内容と、抑揚の無い語り、動きの無い様は、ニュースキャスターが原稿を読んでいるようだった。


『通信障害以外は確認されていないってことか。未知の敵から破壊の限りを尽くされて……みたいなとんでも事件は起きてないのか』


 自分が安全なところにいるからだろうか。そういったお約束的な状況じゃなくて、ちょっとがっかりしていた。



「その後は、順次必要な部隊を編成し、救援、復旧を急ぎました。そしてシューゼ法国との有線通信を確立しました。以上が前置きとしての経緯となります」



 ライオネルさんはそう言い終わると、顔を上げこちらを伺う。

 ちゃんと聞いているから安心して欲しい。


『今のが前置き? ってことは、これから僕への頼み事の話って感じかな? 大体の安全確認も済んでるし、アンドロイドと通信できないってことは、復興支援に協力してってとこかな! いいじゃない! やっとわかりやすい感じになったな』


 超文明で無力感しか味わえなかった僕が、やっとわかりやすく貢献できそうだ。ずっとケンに頼りきりだったが、これはケンには出来ない。人間が必要な案件だろう。

 そんな些細なプライドを高揚させる、都合の良い考えに至っていた。



「そして、ここからが本題です。現在自律的に動作できるのは各国の量子コンピューターAIと、医療系アンドロイドの一部命令のみとなっています。

 ですが、アマテラスと接続を切られた子機は、六十分以上接続が切れた場合、次のアマテラスへの接続まで制限モードで稼動します。この制限モードは、最低限の生活に必要な行動以外出来なくなります。

 アンドロイドは感情を失い、一切の命令に従わなくなり、ビットも連絡事項を伝えるだけしかしません。調査の結果、シューゼ法国内は電波障害が発生しておらず、制限モードが保たれておりました」



 ライオネルさんは先程とは変わり、少し感情的になっていると感じた。まあ、それでも些細な変化をしただけで、変わらないっちゃ変わらないが。


『んー? じゃあ、僕に何をさせたいのかな? アンドロイドが稼動している以上、人間に出来る事なんて無いだろうに。ってか、有線通信出来るならそこに電波塔でも立てて終わりじゃね? アマテラスと通信出来れば取り敢えず仮復旧出来るし』


 こんな誰でも考えつきそうな疑問は、無用な推考だった。



「そこで、我々は有線通信先に電波管理施設を建設する事にしたのですが、アマテラスに棄却され、さらに緊急用ビットによって有線ケーブルを切断されました」



『あれ? じゃあ、振り出しに戻ってるじゃん。アマテラスさん過激過ぎじゃね?』


 ライオネルさんが浮かない表情をする。

 アマテラスさんの過激な行動に痺れているのは僕だけじゃないみたいだ。



「どうやら、有線ケーブルを伝って、システムに不明な通信が紛れ混んで来たようなのです。

 アマテラスは瞬時に通信施設の電源を切り、有線ケーブルを切断。そして、電波施設運用案の棄却をしました。

 この一件で、一時的な解決に向かう予定だった作戦が頓挫してしまいました。ですが、新たな脅威に臆することはできません。すぐさま作戦の練り直しに取り掛かります。結論から申し上げますと、スサノオの調査が必要との見解で一致いたしました」



 ライオネルさんの話は、明快で、聞いていて心地いい。話終わって煙に巻かれたような感覚になるケンとは大違いだ。


『不正通信を送ったのはスサノオってことかな? だとしたら、最悪乗っ取られてる可能性もあるって事か。あーあ。結構ヤバめな展開になって来たな』



「そこで、調査チームの編成をしようとしたのですが、シューゼ法国代表から、自国のAIの調査は自国民でやるとの提案がありました。

 しかし、アマテラスが不十分と判断し、自国民以外の介入も示唆。ですが、国の根幹とも言えるAIを他国の者に介入させる行為は、全ての国が共通して拒否する事案となります」



『そりゃそうだ。そもそもアマテラス至上主義ならば、国なんて要らないからな』



「そこで、涼介さんにお願いがあります。アマテラスとシューゼ法国の調査に参加していただきたいのです!」


「ん?……え!?」



 僕に与えられたのは、この森羅万象を司るであろう世界ですら解明出来ない事象の調査依頼だった。

 いや、もうちょっとなんかあるだろ? この結論に至るまでにもっとなんかあったろう! 今までセーフティから傍観していたのに、いきなり当事者になって焦る。



「 いやいや! 僕何にもわからないですよ? 行っても何も出来ない邪魔者でしかないのに!」


「アマテラスの意思です。それに、棄却する材料がありませんでした。シューゼ法国も何も知らなければ問題無いとの見解でしたので」


「あー。成る程! 自国民以外の介入が条件でしたよね! 僕はどこの国にも所属していないし、さらに何にも知らなければなお良いってことですか……適任ですね」



 歪な穴にすっぽりとはまってしまったようだ。

 そこには、僕しか通れない穴が空いているようだった。

 無理やりここを通さなくても良いんじゃないだろうか? もっとたくさん考えられることあるんじゃないだろうか?

 助けを求めるように辺りを見回すと、会議に参加している方々の視線が痛かった。いや、熱かった。皆んな揃って満足そうな顔をしている。所々笑顔で僕を見ている人もいる。ここで意を唱える勇気は、僕には無かった。

 ライオネルさんは、僕の後方と左右に煙の壁を作り、前しか見えない様にしていた。前を見ると、世界中の皆んなが笑顔で手を振っていた。



「ぐっ……具体的には何をすれば良いのでしょうか?」



 僕の口から紡ぎ出された言葉は、弱々しく不安でいっぱいだった。

 そんな中、ライオネルさんからトドメの一撃が発せられる。

 ライオネルさんは少し間を空けて、ゆっくりと語り始める。今までとは打って変わり、感情を乗せた口調、全身を大きく動かし心情を表現する。



「その前に……この世界に転移されて間も無く、十分なおもてなしどころか、涼介さんの貴重な時間を奪う結果になってしまった事、深くお詫び申し上げます。

 決して涼介さんをお待たせしている事を忘れていた訳ではありません。五大国総出で力を尽くしましたが、今一歩及びませんでした」



 五大国総出で取り組んでの結果が、全力じゃないなんて事は無いだろう。それほどの事態だった事は、話を聞いて理解している。

 しかし、ライオネルさんは深々と頭を下げていた。

 誰もが全力で取り組んだんだ、誰かに非がある訳じゃ無いのは明白だろうに。

 それから、ライオネルさんはいかにも悔しそうに話を続ける。


「長らくお待たせしてしまった挙句、このようなお願いをされて、都合のいい世界だとお考えになった事と思います。

 これは、涼介さんにとって益ある話ではありません。私達の一方的な懇願でしかない。ですがこれは、涼介さんにしか出来ないのです……」



 ライオネルさんは哀しそうな表情で目を落とす。

 そして、そのまま一つ呼吸を整えると、おもむろに顔を上げ、真剣な眼差しで真っ直ぐ僕を見つめる。



「この世界を、救ってはいただけないでしょうか?」



 会場に静寂が走り、僕に注目が集まる。


『うっ……こんな壮大な話だったっけ? チャラい奴に言わせれば、「涼介ちゃん超適任じゃん! あんま大役じゃないし、わかんなくてもOKだよ! 大丈夫! 大丈夫! よろしくね!」で終わるだろう。こんな事なら最初から日和らずに了承しておけば良かった……。胃が痛い』


 僕はこれ以上持ち上げられたら、雰囲気にやられて吐きそうなので即答する。



「わ……わかりました。僕で務まるか不安ですが、頑張らせていただきます」



 ライオネルさんを言い負かす事は出来ない。きっと関わらない方が正解だろう。

 触らぬ神に祟りなし。

 偉大な政治家の演説に敵う訳がない。半人前の僕にはどうする事も出来なかった。






今まで思い付くまま殴り書くように投稿していましたが、だんだん慣れてきて推考の時間が増えました。

目標として、読みやすく、面白い物語を書きたいという気持ちで頑張りたいと思います。

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