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第十八話 平和の真相

「どうかな? 納得できた?」

「ケン。納得はできたけど、腑に落ちない! でも、今いくら聞いてもモヤモヤは取れない! これから会う人次第だな!」

「そうかい? じゃあ、とりあえず良しとしよう」


 リースさん以外にも、リースさんのような考えをする人ばかりとか、信じろって方が難しいはずなんだ。

 これはもう、身をもって体感するしかない。


「お役に立てたかな?」

「はい、ありがとうございます。随分と楽になりました」

「この世界の感覚に慣れるまで、いろいろ苦労すると思うけど、困ったら頼って良いからね!」

「はい! リースさんには頼りっぱなしですね」

「ふふ。涼介くんに頼りにされるのは、さっきの話の後だと誇らしいね!」

「あはは……。アマテラスの手助けが出来るようなものってことですか?」

「そう。労働がなくなって以来の大仕事だね!」

「歴史が深すぎて、共感しきれないっス」

「ふふ。私だってそうだよ? 涼介君と育ってきた環境が違うだけで、生きてる時間はそう変わらないんだから」

「なるほど!」


 リースさんはおいくつなのだろうか? 聞きたくて堪らなかったが、この世界も僕が育った世界も、女性に年齢を聞くと、きっと良くないことが起きるだろう。


「ん? ……あらら。会議が一旦休憩を挟むみたいだ。行かなくちゃ。ごめんね。じゃあ、またね!」

「はい。お忙しい中ありがとうございました」


 リースさんは行ってしまった。暇だから見に来たという方便は、僕を気遣って言ってくれていたようだ。

 本当に、本当に、キモい勘違いで、キモいこと言わなくて良かった。


「危なかったね! 涼介」

「あぁ。ケンに救われたよ。よく考えてみると、リースさんに嫌われたら、まともに話したことある人っていないんだよな。三日目にして詰むところだった」

「まったくそうだよ。涼介は世話がやける」

「返す言葉もありませんな。それにしても、会議はどんな結論出すかねー」

「大丈夫! って言いたい所だったけど、ちょっと雲行きが怪しいね。涼介が心配しているようなことではないことでだけど」

「どんな感じ?」

「どう転ぶかわかんないから、まだなんとも」

「世界中を敵に回すことにならないなら、今は、どう足掻こうとも、どうにもならないからな。決まったら聞くよ」

「そうだね」


 とりあえず最大の懸念は、世界中が僕を排除に踏み切ることだ。それ以外なら、アマテラスに守られているし、問題ないだろう。


「なぁ、ケン。ずっと疑問に思ってたんだけど、この翻訳機能って、記憶の書き換えみたいなもんじゃないの?」

「違うよ。涼介の耳の中にいるビットが、話している言葉の音だけを打ち消して、変換したものを発しているんだよ!」


 思わず耳に手をあててしまう。


「えっ! 俺の耳の中にビット入ってんの?」

「アマテラスの生態用ビットが、転移してきた時すぐに割り当てられたよ!」

「マジかよ……。全然気付かなかった。他には?」

「涼介の五感全てを感知出来るくらい、ビットがいると思う。その時々で変わるから、数はなんとも言えないね」


 超小型ビットが俺の体にまとわりついているらしい。全身に悪寒が走り、非常に気持ちが悪い。


「えー! マジかよ! それってまさか。監視対象だからか? リースさんが言っていた、罪人しか施されない処置ってやつか?」

「そういう所は妙に勘が鋭いよね、涼介って。涼介の言う通りだよ!」

「そういう事か……。罪人と同じって言ってたけど、なんのことかさっぱりだったからな。こりゃ、悪いことなんもできないね」

「涼介は可能だけどね!」

「やめて! そんなことしないから!」

「でも、このビットは常駐しないだけで、罪人じゃなくても、みんな使っているものだから大丈夫だよ!」

「そういや、リースさんと思念通話とかしたしな」

「でしょ? こういう直接的な読み取りはアマテラス管轄になってるんだ」

「アマテラスはほとんど何もしないって言ってたくせに! バリバリ干渉中じゃねぇか!」

「まあまあ。読み取りだけだから大丈夫だよ! それに、涼介や、罪人以外は、子機からの依頼で動いているから直接干渉とは違うよ」

「紛らわしい!」

「はは! ごめんごめん!」


 この後、待てども、待てども会議終わらず、今日はとうとう回答は出なかった。

 そして、次の日の朝を迎える。


 朝食を終えて、庭の東屋で休んでいた。

 特に行きたい所もなく、ふわふわと浮ついた思考の中、ぼーっと庭の景色を眺める。


「なぁ、ケン。暇だ」

「そうだねぇ。特にやりたいことはないのかい?」

「今はそんな気分じゃねぇな」

「そっか。早く結果が出るといいね!」

「ああ」


 会議で決められるであろう、僕の今後だが、どうやら難航してるみたいだ。

 僕の世界でも、国会で何かを通す時は時間かかるし、そう責められるものじゃないのはわかる。

 でも、ここで何か暇つぶしをするにも、アンドロイドのケンしかいない。ケンとなんかして遊べばいいのだろうが、そんな気にはなれなかった。


「なぁ、ケン。この世界の他のみんなは、いつも何してんだ?」

「だいたい、同士を募って、その時々で、いろんなことをしているよ!」

「マジかー。じゃあ、誰か連れてきてよー。暇だよー」

「VIPフロアには、労働体験以外だと関係者は入れないよ」

「マジかー。つっても何すりゃいいんだよ! 早くもホームシックだよ!」

「涼介は常にホームシックだよねー」

「こんなに技術が発展していて、労働も無いし、毎日美味いもの食べてるんだけど、帰りたいんだよねー。なんでだろ?」


 ここで、いつまでも平穏で安泰な暮らしをすることが、人類の夢のような環境のはずなのだが……。

 平和と、安全の檻に入れられたような、身寄りのない老後の余生のような、そんな空虚な心の穴を埋める術がなかった。

 ただひたすら、忠犬のようにお下知を待っている。


「あー、暇だー! でも、なんもやる気起きねぇ!」

「そんなに言うなら、外には出れないけど、同好会でも覗いてみる?」

「同好会?」


 なにやら興味をそそるワードが飛び出した。

 この際、選り好みなんてしている余裕はない。


「そう! いろんな分野に分けられた同好会さ! 集まらなくても良くて、募集している所を探そうか?」

「え。マジ? 俺、人見知りなんだけど大丈夫? どんなのがあんの?」

「涼介にオススメなのは、歴史研究会と、ラクライマ語研究会、汎用AI研究会かな?」

「なんでそんな辛気臭いラインナップなんですかねぇ?」

「涼介は、特に遊びたい気分じゃないみたいだったからね!」

「まあ、そうだな。遊んでても、ニートみたいで落ち着かねぇからなぁ」

「こっちの世界では、子供以外みんなニートみたいなものだよ!」

「子供以外ニートしかいねぇって、改めて聞くと、とんでもねぇな」

「人類の到達点さ!」

「……俺らの世界も、みんなニートになりたいのかな?」

「解釈はだいぶズレてるけど、大筋はそうだね。働かずに、好きなことをして生きていたい。それが一番幸せだろ?

 AIで仕事をまわせば、怠惰も無いし、教育も無い、大規模な協調が可能なため、安全性も段違い。要するに、人が労働しても、AIの仕事量の一割も賄えないよ! 人が労働するのは、誰かの幸せを奪うに等しい行為なのさ!」


 AIと、アンドロイドの進化が進めば、人よりも優れた労働者となるのは、この世界では絵空事じゃないらしい。

 しかも、人が働けば働くほどに、生産性は著しく低下し、他の誰かの幸せを奪う行為だとまで弾劾している。


「そこまで言う? ってか、そこまで違うものなの?」

「八百年前まで、そこそこ人も技術を高めて効率的に労働していたけど、人は生理的にアンドロイドの三分の一の時間しか働けない。AIの計算の兆分の一にも及ばない。怠惰で不真面目。教育が常に必要。グループ以外の協調性の欠落。労働条件、性格、体格、性別、知識でのグループ適正の狭さ。目標の設定間違いによる暴走。権力争いなどの影響力の強さ。その他いろんなことを例に挙げられるけど、キリがないね!」


 ズバズバと、言われてみればそうかもしれないという人間の限界がリストアップされていく。

 たしかに、AIとアンドロイドには無用の心配だ。


「そんな風に言われると、アンドロイドとAIで回している労働環境に、人が手伝いに行っても効率を著しく下げる要因でしかないって嫌でもわかるな。効率が下がったら、誰かの幸せを奪う行為に等しいってのも一理あるか」

「一理どころか、真理だよ!

 今は体験枠用意して、そこで経験してもらってるけど、それは人の精神安定上必要な行為としてだから! AIの効率化サイクルの外でやれることを、わざわざ用意しているんだよ! むしろ、労働ごっこって遊びだと考えてもらった方がいいね!」


 まるで子供を隔離するかのような言われように、反論したくてもできなかった。

 今この瞬間も、AIの加護の下、いろいろな処理をされてようやく僕の存在が許されているのだ。


「人が労働するのは、誰かのためだと思って頑張ってやってるはずだけど……ここでは、誰かの幸せを奪う行為なのか」

「涼介の世界では、頑張れば幸せになる人が増えると思うよ! ただし、価格設定や、度を超えた浪費、経済活動の理解が不十分とか、いろいろ気を付けなきゃいけないことが沢山あるけどね。

 ちょっと間違えただけで、いくら涼介が身を削って頑張っても、幸せになる人が逆に減る可能性の方が大きいから、涼介の言っている誰かのためってのは、幸せにしたい誰かのためでしかないのさ!」


 まるで、AIとアンドロイドに優しくディスられているような気になってきた。

 この世界は、本当の意味で働いたら負けのようだ。


「……まったく、ケンはズバズバと重いことを! 俺の能力では、人の幸せなんて考えても間違った目標しか立てられないってか!」

「わかりやすい言い方をすれば、涼介は自国以外の人の幸せまで考えて経済活動できると思うかい?

 もっと狭く言うと、ライバル会社なんて必要かい?

 同僚や先輩をライバル視することはないかい?

 国が貿易黒字を出したら嬉しいと思っちゃうんだろ?

 奴隷制度がなくなって、直接的な人権侵害は無くなったけど、弱い他国に重労働、低賃金を強要し、それを仕事を与えている救世主の如く傲慢な気持ちでいる経営者のことを凄い人だと思っていないかい?

 政治的不幸な人達に、涼介が頑張ってしてあげられることはあるのかい?」

「……」


 どこまでも自分の浅はかさを思い知らされる。

 ケンに言われたとおりだ。

 俺の言う幸せは、幸せにしたい誰かのためでしかない……。

 こんなに大きな話をまとめられるわけもなく、世界の情勢すらわかっていない。

 なにをどうしたらいいのかなんて、これっぽっちも浮かばない。

 ケンたちに代わって労働することが、他の誰かを不幸にする行為であり、それが真理である。

 まったくそのとおりだった。


「ごめん、ごめん! 悪い言い方をしたね。でも、この世界は人が働かないことが正義なんだ。ほんの一部、労働に近いことはあるけど、それは責任を持って適任者を選出してる。もちろん強要はしないよ!

 もし、労働と言い換えられることがあるとすれば、同好会の活動かな!

 それで、さっきの話だけど、涼介の考えはある種正しい。涼介の世界の経済活動は、まずお金を回さないと誰も幸せになれない仕組みだからね。

 正しい目標以前に、とにかく動かなければ生きることもままならない。正しい目標を考えて頑張ることなんて、思いつく間もなく時が過ぎて行ってしまうんだよ」

「人は、アンドロイドとAIの足元にも及ばないってことか……」

「厳密に言えば、AIとアンドロイドの技術は、人を幸せにする非常に優秀な道具ということだね!」

「なんとも言えないな。人を超える道具を人が生み出すんだからな」

「そうだよ。涼介。人は常に、人を超えて何かをするために、道具を作ってきた。ただそれが、人に近いってだけさ!」

「そうだな」


 ケンとこの世界に打ちのめされていた。

 頑張っても、不幸しか生まない労働。誰かのために頑張って働くのが普通だと思っていたが、頑張るだけ不利益となる。幸せを享受しなければ、誰かの不幸を誘発する。

 完璧に支配と協調を強要された世界には、幸せしかないという。

 幸せとはなんだろうか? 僕の世界では、幸福を追求する権利を与えられている。幸福を追求とは個人のことだろうか? それとも、国民のことだろうか? みんなが幸福を追求したら、モラルジレンマなどすぐに起きてしまうことだろう。幸せの形は人それぞれ違う。この世界に来た僕は幸せだろうか? 総合的に見れば幸せだろう。だが、どうだろう。今、僕は個人の幸せを満たせていない。


 帰りたい。

 誰か他の人に会いたい。

 つまらない。

 やることがない。


 この何もかもが満たされた世界で、心の中は満たされていなかった。


 こんな不自由のない世界なのに、幸せに飽きていた。


 ただ単に、人が、幸せな環境を相対でしか感じることができない欠陥動物ってだけなのだろう。


 人の不幸は蜜の味。


 そんな言葉に共感できてしまうあたり、正しい目標なんて一生理解できないだろう。


 ケンに返す言葉は見つからない。








どうやったら人気って出るんでしょうかね?

人気作品を読み漁っているのに、その糸口すら見つかりません。

今までは、自分の悪いところがちらほら見えてきたりしていたのですが……なんか書くのが苦じゃなくなったころから、改善点を見つけ出せなくなっています!

っていうか、人気作品のどこが読者を掴んでいるのか見えなくてなっています!

そろそろ、文章以外の部分を理解しないと解けない謎のような気がしていたりいなかったり……。


記 2018/10/31

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