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第十六話 レノ

「ケン、今からレノさんに話を聞きたいと思うんだけど。宜しいでしょうか?」

「オーケー! ケンはいつでも準備は万端だよ!」

「よし……」


 朝ご飯を済ませ、生まれ変わった庭に来ている。

 何故か楓は紅葉し、山桜が咲き誇り、蓮も満開だ。色とりどりの紫陽花に囲まれた東屋は、優雅な気品を感じさせる。

 あまりの絶景に、季節を感じる情緒など、瑣末ごとのように置き去りにされていた。

 そんな贅の限りを尽くした東屋で、ケンと一緒にレノ対策を練る。いろいろ考えるも、まず、現状を把握しないと先に進まないということになった。意を決して、ケンと一緒にレノとご対面だ。

 僕は鼻を二回指で叩いた。


「お呼びでしょうか? 涼介様」

「レノ。おはよう。……早速で悪いんだけど、アマテラスは俺をどういった理由で監視しているのか教えて欲しい」


 こいつらにご機嫌取りは無用だ。

 やるだけ阿呆らしいし、そんなことに気を使うのであれば、どれだけ簡潔に質問できるかを考えた方がいい。


「はい。異世界転移の解析、転移実現の可能性の模索、未知の脅威に対する重要な事例として、最重要監視対象となっております」

「えーっと、それって、俺、だいぶ自由に動いているけど大丈夫? 軟禁されてもおかしくない理由だよね」


 人間世界であれば、俺のような存在の素性がバレていれば脅威でしかないだろう。

 しかし、俺が何を考えているのか筒抜けであるならば、こういった判断が適切なのかとも思う。

 それに、筒抜けだと本人がわかっていれば、何か事を起こす気にもならない。


「いえ、今の状況が最適と判断されました」

「その判断の理由はとっても気になるけど、後にしよう。んで、これから、俺はどうしたらいいのかな?」


 これだ。今、一番聞きたい情報の一つが、俺の今後。

 いったいこれからどうなってしまうのかがまだ知らされていない。


「先日、各国代表による、緊急会議が催されました。最終決議は今日にも出されると思います」

「あれ? じゃあ、昨日の代表者の方々は、僕の今後を決めるために召集されたってこと?」

「はい」


 あまりに自由な感じで過ごしていたから実感がないのだが、そもそも国賓扱いだし、外では大騒ぎってな具合なのかもしれない。


「うーん。なんかその決議内容聞くの怖いなー」

「大丈夫だよ涼介! みんな、温情ある判断を下すはずさ!」

「お前のその、ポジティブ思考を分けて欲しいよ」


 まあ、ケンが言うのなら間違いは……ない……と信じたい。


「涼介なら、一月もあれば習得可能だよ! じゃあ、早速……」

「結構です! お前が言うと洒落にならん!」


 ケンのすることは、基本的に好意なのだが……ポジティブな思考ができるようになるトレーニングを一月も続けたら、それはもう別人になってしまうだろう。

 そんな無駄話より、今はレノとの話し合いの方が大事だ。


「レノ。レノは、監視命令に対して、どんなことまで許可されてるんだ? 判断はアマテラスがするのか?」

「レノに制限される行動はありません。判断はアマテラスのみでいたします」

「じゃあ、レノはどんなことができる? 俺から何かお願いして、行動できることって何かある?」

「レノは、人が可能にした範囲の応用迄であれば全て実行可能です。涼介様の命令は、アマテラス及び、涼介様への危害以外、全人類の四分の三が生存していれば全てを実施いたします。また、代表決議が固まり次第、涼介様には何かしらご協力願うことになります」


 さらっと、すごく自然に、淡々とした口調で説明されたため、あ、そうなんだ。で、聞き流してしまいそうになったが……なんだか凄いことになっているんじゃないか?

 俺はレノの話をもう一度確認する意味も込めて、ケンにも説明してもらうことにした。


「ケン……。わかりやすく説明してくれ」

「オッケー! じゃあ行くよ!

 レノは、人が可能なこと以上のことができる!

 涼介は、人類の四分の一くらいの人間と、同等の価値!

 アマテラスと涼介に危害を加える命令はできない!

 それ以外はなんでもするよ!

 あと、会議の決定に協力してね! ってことだね!」

「やばくね?」

「いやー、これは、やばいねー。涼介はなんでもできるね!」


 文字通り、可能であればなんでもできる。

 金がないからできないとか、人手が足りなくてとか、そういうんじゃなく、人は生身で空を飛ぶことができないからできない……みたいなレベルでの可否判断だ。

 もしかしたら、空を飛ぶための羽を生やしてくれるかもだけど……。


「ケン! なんでこうなった! ってか俺、どうなっちゃう感じ? 聞かない方が良かった?」

「いや、聞かないと決議が出ないからね! 聞くしかなかったかなー」

「ん? ん? あれ? あれあれ? 俺、もしかして……ハメラレタ?」

「そんなつもりはないよ! 協力してもらったのさ!」

「あー。なるほど! 物は言い様だね! ってか、これじゃ、温情ある決定って……大丈夫だよな?」

「んー、そこは大丈夫! 涼介にはみんな逆らえないし、アマテラス保護下で暗殺なんて不可能だよ!」


 俺の言った大丈夫は、そういう意味じゃない!


「うわー。うわー。うわぁ。引くわー」

「これで、立派なチート主人公だね!」


 チート主人公……うん、たしかにチートだ。でも、それは神器を所有した的なチートだ。俺の力ではない。

 これは、空からの絶対的な攻撃を誇る神の雷的なチートだろう。誰かが滅びの呪文を唱えてしまうかもしれない。俺は、風と共に生き、鳥と共に歌いたい。


「ケンさん! ケンさん! この平和な世の中で、チート主人公って一体何をすればいいんですかね!」

「うん。涼介は、レノに、取り返しのつかない命令をしなければ大丈夫さ! レノにできて、ケン達にできないことは犯罪だけだよ!」


 なんですか? 俺は犯罪を犯すことができるチート主人公ですか。

 アマテラスの意思だから、裁かれない的なチートですか?

 なにそれ、笑えない。この世界の人々は、こんなわけわからん異世界転移者に命を弄ばれてもいいってことですかね?


「えぇ……。善人しかいない総監視社会で、一人だけ傍若無人に振る舞える力とか……そんなチート嫌だよ! なんでチート内容が、犯罪可能な力なんだよ!

 もっとこう、普通ならチート能力でみんなを助けて、感謝されるような展開になるだろ! これじゃあ、ただの厄介者なだけじゃねえか!」


 どうやら、アマテラスさんの過保護により、窮地に立たされたようだ。ただ、絶対安全であり、絶対的力の行使が可能になった。

 字面とは裏腹に、あべこべな実状と心情。

 なぜ、絶対安全で絶対的力を与えられて窮地なのだろう……。

 先生の居ない小学校に、一人だけ勇者の鎧と勇者の剣を装備した大人が一緒に生活するようなものだろう。……いや、これじゃ、人気者になってしまう。

 ああ……あれだ。誰からも扱いに困り、嫌われている最強の喧嘩番長になった感じだ。んー……なんか微妙?


「そうでもないかな!」

「どうしてさ!」

「現状、暴走気味のアマテラスを制御できるのって涼介しかいないんだよね!」

「あ……ん? そうなの?」

「それに、涼介は思い違いをしているよ」

「ケン。全然わかんない!」

「これは、涼介の世界とこっちの世界の違いみたいなものだから、涼介がそういう思考になるのも仕方ないんだけどね」


 ケンはレノと違った意味でわかりずらい。蛇足が多すぎて内容が頭に入ってこないのだ。


「ケンさん! 焦れったい! 簡潔に!」

「はは! まったく涼介は……情緒って物がないんだから」

「こんな季節感のない庭を作った奴に言われたくねぇ! 大満足だけどな」


 あんなクソ細かい説明が情緒とか、使い方を間違えている。それに、この庭もそうだ。

 こいつらにとっての情緒の意味合いはぶっ壊れているらしい。


「お! そうかい? ありがとう! 頑張った甲斐があったよ! 季節感を出そうか迷ったんだけど、涼介にはインパクトがあった方がいいんじゃなかと思ってね! それから、この東屋は……」

「ケンさん! 後で聞く! 話戻して! レノを顕現させてると、何気に精神削られるから!」

「え? そんな効果なかったような……」

「マイチキンハートのせいだから! レノの能力じゃないから!」

「はは! ごめん、ごめん! 冗談さ!」


 アマテラスはなにを勘違いしたのだろうか? 本当にこいつが俺にとっての最適解だと思ったのだろうか? 理由を説明してほしい……いや、やっぱやめた。もう説明とかお腹いっぱいだ。


「ケン。お前は時々、本当は人間じゃないのか? って、勘違いさせる時あるよな」

「優秀なアンドロイドだからね! そう言ってもらえると、システムを作った人達も喜ぶよ!」

「俺の世界では人類の夢のまた夢くらいの技術だよ……って、また話が逸れた! ケン、さっきから、話題すり替えようとしてない? いつもなら、ペラペラと質問の意図まで読み取って、聞いてないことまで説明するのに! ……もしかして、時間稼ぎでもしてんの?」


 あまりに話を脱線させすぎな気がしてならなかった。


「あ。バレた?」

「うおーい! 何企んでんだよ! もうそろそろケンを信じられなくなっちゃうよ!」

「大丈夫! リースが来るだけだからさ!」

「リースさんに聞かれちゃまずいの?」

「違うよ? 僕が話すより、リースから聞いた方が説得力があるはずだからね! あと数分でここに来るから待ってて!」

「ケンさん。ちょいちょい思ってたけど、ツクヨミさんも、アマテラスさんも、かなり浪漫的な面があるよね。リースさんの登場を演出せんでも言ってくれれば良いのに」

「このシステム自体、浪漫みたいなものだからね!」


 どうやら本気で結論を答えない気らしい。ここまでバレバレなのに、話をすり替えようとしている。


「まあな」

「涼介は不自然に感じちゃうのかな?」

「なんかな。やっても、意味ないことしてるじゃん? 無駄っつーか……」

「くっ、はははは! あーっはっは! あー。そうだね! 無駄かもね!」


 突然ケンが暴走したように高笑いを始めた。


「えぇ……。そんな笑うとこ??」

「ごめん、ごめん! じゃあ、涼介の世界で、意味がなくて、無駄なことって、必要無いのかな?」

「……必要は無いかもな」

「じゃあ、なんで涼介は、そんな難しい顔するんだい?」

「……なんでだろうな? 必要は無いって断言してみると、そうじゃないかも……って気がするけど、無駄は悪い物って気もする」

「涼介は「無駄」って言葉に飲まれているようだね!」


 なんだか抽象的過ぎてなにが言いたいのかが迷子になっている。


「なんだよそれ」

「涼介、「無駄」なんて、比較するときにしか使わないものさ! それも、時と場合による。絶対的な断定なんてできない。それと、思慮を浅くする原因だよ。全てのことには意味がある。「無駄」なんて表現は、思考を停止しているのと同じさ! そう思っても、違う言い方を考えなくちゃいけない。全てのものは「無駄」であり、全てのものは「無駄」ではない。こんな言葉は、「「無駄」という言葉は、無駄である」。ぐらいにしか、使いようがない! 意味合いとしては非常に優秀だね! 作っては見たものの、無駄だったんだからね! でも、作った事は無駄じゃないし、使うのも無駄じゃない。言葉としての意味合いが無駄なのさ!」

「お前、「無駄」って表現に恨みでもあるのか?」


 親の仇のように無駄という言葉を否定する様は、とても滑稽で、無意味なものに見えた。


「このシステムを作った人の思いが影響しているのかもね!」

「あぁ。そうか……。夢のまた夢を追う人にとっては、言われ慣れて嫌気がさすような言葉なのかもな」

「「無駄」なんて言われて、真剣に考えるだけ損さ! 曖昧で、表現の乏しい人の、哀れな罵倒なだけなんだから!」

「うん。ごめん、ケン。ツクヨミの地雷を踏んだようだ。もう、「無駄」なんて言わないから、落ち着いてくれ」

「大丈夫! ケンはいつも通りさ! 決して涼介に、無駄で意味がないって言われたからじゃないよ! それより、涼介のその表現の心情まで読み取って、これからもっと涼介の意向に合った……」

「なーにを楽しそうにしてるのかなぁ?」


 無駄話をしていたら、リースさんが話しかけてくれた。この状況で来てくれたことに安堵する。

 ケンはまだまだ言い足りなさそうで、僕には、止めるに止められない感じだ。


 ……リースさんマジ感謝! ケンの面倒くさい話に嫌々してたところに、渡りに船ですわー! これでケンも落ち着くだろー。って……アレ? なんか……またやられた? アレ? アレ? いやいや、話の流れ的な感じで、そんなことは……あー、でも……リースさん来るのわかってたし……。それに、今にして思えば、リースさんに会う時は、必ず感謝してる気が……いやいや、え? ……いやいや、ないだろ……。


 もう、ツクヨミの演出であれば、感服するしかなかった。

 一体どこまでが演出で、どこからが始まりなのか。僕には考えるだけ無駄に思えた。

 ……それと、システムには、「無駄」って言葉は、決して使わないと固く心に刻んだ。

 もう、この世界のシステムは、浪漫的な粋な奴、と理解しておこう。そういうものだと割り切らないと、有限である人生の大半の時間を奪われることになるだろう。






ガシガシ進めているつもりなのですが、先は長いですねぇ。


記 2018/10/29

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