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第十五話 ラクライマ

「涼介。洗脳は言い過ぎだよ!」

「ん? ああ。じゃあ、なんでみんなネガティブな思考しないんだ? ちょっとくらい嫌な部分があってもいいだろ? むしろ、なさすぎて不自然だ」

「そうならないように、ケン達がフォローしてるからね!」


 この世界は、アンドロイドが、お悩み相談をしている。

 そうは言っても人間の本質は、善だけでできているわけではない。


「あー。うん。なんとなくはわかるんだけどね。腕吹っ飛ばされて、嫌味な態度を微塵も見せなかった。擦り傷程度じゃなかったはずなのに……。下手したら命だって危なかったんだぞ?」


 助けに行って、腕を切られて、生死をさまよったおじさん。その理由がケンの悪戯と、僕の浅はかな考えだと知ったら、一言文句があってもおかしくない。むしろない方がおかしい。


「そうだね。涼介が感じる違和感は八百年前にはなかっただろうね。争いがなくなって、道に迷うことも減った。近くの人だけじゃなく、世界の人たちと思いを共有できるようになった今は、他人に恐怖することも、悪い感情を抱くことも、みんな無意味な時間になってしまったのかもね」


 AIの最適解は、人が考えるより最適である。


 提案されたいくつかの道筋を、自分の良いと思うほうへ選ぶことでこの世界が成り立っている。恐らく、教育期間中に、選択肢がどういうものか実践するのだろう。……僕の時みたいに。

 恐怖や悪意などの自分の考えは、ただ障害を築くだけで、無駄な時間と感じてしまうのかもしれない。


「世界の人たちと思いを共有ね。俺の世界も似たようなシステムあるけど、この世界のようなことにはならなかったぞ!」


 ケンに一矢報いるため、がむしゃらに否定してみる。話の内容の大半は、今の説明で納得しているのだが。


「そのシステムは、みんなと思いを共有できるかもしれないけど、その共有した思いや情報は信じられるものなのかい?」

「……なるほどね」


 無駄な時間とは、よく言ったもので、そのままズバリ、面倒くさいから善人になるんだろう。全てが信じられる世界で、悪意を探る行為は無駄以外の何物でもないだろう。


「納得して貰えたかな?」

「ああ。少し理解できた気がするよ。ただ、全部が理解出来たとは思ってないけどな」


 こんなもの、言われてはいそうですかとはなるわけがない。


「そうかい? あと、涼介の世界と違うところは死生観かな。ラクライマ教の教えには死に対する生への関係を説いている部分があるんだ。それは、どんなに教えを守って生きていようとも、死を恐れる者は地獄へ行く。って考え方だね」

「それ、争い煽ってない?」

「そうだね。これだけだと、大義名分さえあればなんでもできるよね。だけど、ラクライマ教は、権力者が配下への殺人や暴力、差別を命じるのも地獄行きなのさ」


 昔話でよくある悪い子は地獄行き理論。駄作にしては伝承し続けられている現状を見るに、ただ、都合が良かっただけなのだろうなと愚考していた。


「そんなんで止まるもん?」

「そう思うよね。だけど、権力者は、ほとんどがラクライマ教の信者だったんだ」

「なんで! 信者じゃないほうが好き勝手できるだろうに!」

「そうだね。でも、ラクライマ教は、今ほどじゃないにしろ、誰もが知っている宗教だった。わかりやすくて、守っていれば、それだけで安心な宗教だったんだ」

「んー分からん!」

「要するに、ラクライマ教以外の権力者に、配下は集められなかった。ってことさ」

「要は信用を勝ち取るステータス。ラクライマ教自体が、大義名分だったってことか」

「そう。大衆の多くが理解していたのは、殺人、暴力、差別をしない。権力によってそういった命令もしてはならないってことと、皆で先人の知恵を教え合いながら生きて行かねばならない。ってことくらいかな! 他の細かいことは、知ってたり知らなかったりだね」

「じゃあ、やられたらどうするんだ?」

「教義を破った者は、そこに悪意があった場合や、自衛のためには、改心させる決まりになっているよ。ただし、やられたら、同じことをする以外で改心させてはならない。命じた者に対しては、その命じた内容を。容赦はないよ」

「同じことをやり返せってことか」


 同じことをされるのであれば、嫌がらせも考えてしなければならなくなる。

 でも、嫌がらせをするような思考の時に、面倒だからと諦めるだろうか?


「そうだね」

「同じことの解釈は、いろいろあるから、所々違うけどね」

「でもなー。なんでそれで善人ができ上がるんだ?」

「そもそも、ラクライマの教えは戦争に適さないし、争いを好まない。そんな土台があって、さらに、死を恐れずに善行を積む気概が根強かったから、システムをもっと良くしようとはしたけど、壊したり、全否定する愚か者はいなかった。

 それに、記憶の改変に対抗する力は無いとわかっていたし、破滅に向かうと理解する教養もあった。

 一番の功労者は、八百年前のアロー国王だけどね。今でも、その時の事実を秘匿しながらも、起こったことは包み隠さず伝え続けたおかげで、楽観的な思想を産みにくくしている。

 そして、国民の大半は何も考えを変えることなく、ラクライマ教の教えさえ守っていれば幸せになれるという大義を得たんだ。権力者は、システムになったけどね」


 ケンの話は蛇足が多くていけない。

 要はラクライマ教って良くね? ああ、なんか、良いね! ってみんなが思ったってことなのか? 一気にまくし立てられると結論が見えてこない。


「死を恐れずに善行を積む……か。じゃあ王様は……。ってこういう考えをさせることに意味があるんだな」

「そういうことだね」

「でもなー。アマテラスは人の腕切ったぞ! どうすんだ? やられたら、やり返せだろ?」

「システムに悪意は無いよ。国民の総意さ」

「ああ。そうだった。悪意があった場合、改心のためにやり返すんだったな」


 システムには悪意がない……そりゃそうだ。

 発案者はいるだろうが、改変は国民任せだ。

 誰が悪いかと問われれば、国民としか言いようがない。


「そうだね」

「ただ、システムが無いころは悪意なんて分かりゃしねえな。まだその当時は、争いはないわけじゃないから、他よりは良かったって感じか? まあ、あんましピンとこないけど、大枠はそういうことか」

「説明不足感は否めないけど、それこそ、細かいことを言い始めたら、アンドロイド達がしてることの詳細を話さなきゃいけない。

 そもそも、善行を良しとする風習が根強かったってことと、ラクライマ教と、システムの最適解は相性が良かったってことがわかればいいかな!」

「善行を積もうとする人間にとって、最適解は神の教えに等しいってか」

「ラクライマ教に神はいないけどね!」

「そりゃまた珍しい」

「ラクライマ教は、比較的新しい新興宗教だったからね! そもそもは、権力者が配下を集めるための方便だったんだけど、そわかりやすさと、権力者をある程度縛る安心感が、爆発的な人気を得るきっかけになったみたいだね!」


 配下集めの方便が人気になった……か。神の存在もないのに、どうして人を信じさせることができたんだろう? いまいち決定打に欠けるな。でも、これを聞いたら、また長い説明を聞かされそうだ。辞めとこう。


「ふーん」

「あっ。だいぶ飽きてきたね! 涼介は自分で聞いてきたことなのに、すぐ面倒くさがるんだから!」

「わるいなー。今はこれ以上、理解できそうにないや」

「まあ、そうだね。これ以上は、これから会う人達と直接関係することで理解が深まるんじゃないかな!」

「そうするよ」


 ケンの説明は、途中から非常に眠くなる。アンドロイドだし、細かいことまで全部話せるのだろう。しかし、僕はもともと底辺大学の文系。一度に覚えられることなんて、そう多くはなかった。

それに、考えながら体験してみないと理解もできなさそうだ。


「いやー、なんだか今日は疲れたな!」

「朝からハードだったからね!」


 まだ夕方とは言えないが、おやつ時くらいだろうか。することもないので個室へ戻ることにした。

 ぼーっと歩いていると、自室の前でリースさんに出くわす。


「やあ、涼介君!」

「リースさん! 今朝はありがとうございました。あれから、大丈夫でしたか?」

「ああ、心配要らないよ。涼介君の部屋の修理が終わったみたいだから様子を見にきたんだ」

「あ。そういえば。もう直ったんですね」


 アンドロイドの恩恵は即対応性ってのもあるようだ。

 豊富な労働力を、持て余すほどに保有しているからこその早業なのだろう。


「うん。大きな破損は少なかったからね。ドアの修理と掃除くらいだよ。すぐ終わるさ」

「ありがとうございます」

「それと、ロズのお見舞いに行ってくれたようだね。一緒に行こうと約束したつもりだったけど、忘れちゃったかな?」

「あ。あー。そういえば……。ごめんなさい。ケンから治ったって聞いて、行かなくちゃって。思いが先走りました」


 すっかり忘れていた。あの時は特に詳細な約束をしていなかったから、社交辞令かと思っていた。

 ……これは非常にもったいないことをした。


「ふふ。涼介君は責任感強いんだね。私もさっき見舞いに行って来たんだ。涼介君が見舞いに来たいって言っていたことを話そうとしたら、もう来たって聞いてね」

「ごめんなさい!」

「いやいや、責めてるわけじゃないよ。お見舞いありがとう。ロズも関心してたよ」


 あの人はつくづく良い人なのだろう。

 僕を目の前にしているわけでもないのに、責めもせずに褒めるとは恐れ入る。


「いや、大怪我までして助けに来てくれたのに、お礼もしないのはまずい! と思ったのと、原因が……ほぼ僕らのせいですから。謝罪もしたかったんです」

「そうか。まあなんにせよ、何事もなくて良かった。今後も、アマテラスの動向はわからないから、気をつけてね!」

「はい! 気を付けます!」


 もう、あんなことになるのはごめんだ。でもまだ、アマテラスに詳しいことを聞くには、心の準備ができてない。

 明日になったら、ケンと相談しながらアマテラスに色々聞いてみよう。

 そして、まだ早いが今日はもう休むことにした。

 性懲りもなく、風呂場にケンが登場する事件はあったが、寝室にはベッドが二台置かれていた。

 今日はゆっくり休めそうだ。






連載中の作品を更新していて遅れました。

アルファポリスにも目移りしてちょっと投稿してました……。

モチベーションを維持するために、花と魔王の続編を近々投稿したくなりました。

気分次第で投稿するかもしれません。

その時はシリーズに追加します。


記 2018/10/28

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