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第十三話 VIPフロア2

「ケン! この庭をお白州のある日本庭園風にしておいて!」


 初老の紳士にやられた腹いせに、ケンに無茶振りをする。


「オーケー! なら、お白州に池も追加して橋もかけよう! お茶を飲むために東屋も立てれば完璧だね!」

「おう……。楽しみにしてるよ」


 思いの外あっけなく快諾されて拍子抜けする。

 でも、日本庭園なんてこの世界で堪能できるならそれも悪くないかと少々楽しみにしていた。


「ケン。東屋を立てるならあんみつと日本茶は絶対だぞ! それと、おしること、わらび餅と、大福だ!」

「オーケー! お安い御用さ! 今まで涼介から大したお願いされてなかったから腕が鳴るね!」


 きっかけはしょうもないものだったが、案外いい感じになりそうだ。この世界なら、とんでも造園技術で非常に美しい庭園を作ってくれるだろう。楽しみだ。

 そんな話をしながら、今度は運動場に到着する。


「ケン、なんで建物内に運動場作ったんだよ。超非効率だろ?」

「この建物は特別さ! アロー法国の技術の粋を集めた場所だからね!」

「例によって柱が無え!」

「大丈夫! 素材は高剛性で非常に軽量な素材で作られているし、ここは屋根のある屋上みたいなものだからね!」

「お! この上外か!」


 未だ見たことのない外の風景。さぞ未来的な構造物が少年の心を揺さぶることだろう。


「そうだよ! そういえば涼介はまだ外に出てないんだっけ。今度案内するよ!」

「ああ。デカ過ぎて未だに外の景色すら拝めない建物なんて初めての経験だよ」

「ここはしょうがないね! 外から簡単に入ってこれないようになってるから」

「そういやここってどういう場所なんだ?」


 なんの疑問もなしにこの建物にいることを受け入れている自分を改めて確認する。

 これも、全てはAIに導かれて感情を誘導された……いや、ツクヨミさんに完全敗北したからだろう。

 飼いならされたペットのような心境に他ならない。主人がいなければ死んでしまうのだ。


「ここはアロー法国のツクヨミがある場所。最重要建造物さ!」

「うぇ! とんでもねぇ場所に放り込まれたもんだ」

「いやー。涼介が現れた時は大混乱だったよ! しかも地下十階なんて不法侵入は完全に無理だからね!」

「つくづく異世界転移の恐ろしさに恐怖するよ」

「そうだねぇ」


 転移なんて、向こうにしてみれば神隠しというやつなのだろうけど、全然神聖な感じはしない。

 僕が信仰している八百万の神はとってもお茶目さんなのかもしれない。


「んで? ここは何ができるんだ? つってもそこまで広い感じじゃないから、できるもん限られてんだろ?」

「ここはプールと、涼介の世界にある体育館みたいな感じだね! トレーニング器具は沢山あるから使ってみてね!」

「まあ、そうだよな。特に運動したいわけじゃないから、他に行くか」

「あ。プールに誰かいる」


一人プールで泳いでいる人を発見。クロールだろうか。メッチャ早い。黙々と泳いでいる。


「あの人誰?」

「あの方はロイス法国代表のレオン様だね!」

「そういえば、さっきからかしこまった表現使ってるな」

「他国間では礼儀を重んじてるよ!」

「あぁ。そういうこと」

「民衆の意見が反映されて、アロー法国は敬語の使用を制限しているけど、他国はそうじゃないからね!」


 AIを基軸とした世界でも、国家間の礼儀とやらは重んじるらしい。


「じゃあ、次行くか」

「次は、遊技場に行こうか!」

「ほーい」


 レオンには声をかけず、庭を抜けて遊技場へ。


「こりゃ場末のゲーセンみたいだな」

「一応取り揃えてあるけど、大きな音とかは控えてるからね」

「じゃあ、適当に」


 そこにあった一番面白そうな体感ゲームの中に入る。外見は球型のポッド見たいな感じで横から中に入る。

 三百六十度全面ディスプレイになっており、中央に座席がポツンと一つあった。取り敢えず着席する。


「なんのゲームだろ?」


 ——>> ようこそ! スカイティブへ!


「うぉ! なんだ!」


 耳元に響く歓迎の挨拶。

 そのあと一斉にディスプレイが点灯し、座席のシートベルトに体を固定される。

 座席が移動してやや前傾姿勢に傾き、コントローラーらしきものが目の前に現れた。


 ——>> はじめての方は遊覧モードで練習をしていただきます。早速空の旅へ参りましょう!


 なんだ! いきなり! まだ心の準備が!


 急に始まったゲームに戸惑いつつ画面を見ると、これはカタパルトデッキに見える。そしてシグナルが赤から青へ。自分の機体が射出される。


 あーー!!!  なんでGが!!


 急に訪れるGに驚き呆然と耐えていると、今度は急降下し始めた。さらに機体が回転したのか逆さまになったようだ。


 うわ! まじか! どうすんだコレ!


 目の前に操作説明が現れる。どうにかこうにか体勢を立て直し、遊覧に相応しい落ち着いた速度で航行。


 ふう……なんとかなったな


 ようやく操作に慣れ、浮かんでいるバルーンを撃ち抜いたり、岩場の隙間を飛んでみたり、だんだんと楽しめるようになってきた。


 へー。なかなか面白いな!


 ——>> ビー! ビー! ビー! 乱入されました。挑戦者です。


 ほー! 対戦ゲームだったのか! 相手は……マップ左にいるのか。やってやろうじゃない!


 即座に岩場から飛び出し加速する。相手もこちらに気づいたのかこっちに向かってきた。

 俺は相手の少し前でターンする。相手はスピードを緩めターンに追走、後ろを簡単に捕らえられた。

 しかし、ここまでは作戦どおり。ここからが相手の度肝を抜く瞬間だ。

 捕らえられたのを見て急上昇。そして推進力をゼロに!


 ふっふっふ! コレは我が世界に伝わる秘奥義だ! 姿を見せるがいい!


 敵機を待ち構え、タイミングを図るためマークを確認。敵機は、自機を抜き去り前に出る。そこを加速と急降下で撃ち落とす!

 はずが、敵機は後方でホバリングしていた。そしてあっけなく撃ち落とされる。


「んなー! なんでホバリングとかできんだよ!! 卑怯だろ! ちくしょう!」


 撃墜されると、ディスプレイが暗転し、ベルトが外された。座席を降りると球体のドアが開く。


「涼介! どうだった?」

「クソゲーだな」

「お気に召さなかったようだね」


 負けた腹いせにクソゲー認定。器量の狭い人間にできるささやかな抵抗だった。


「ねーねー! どうしてあそこで止まったの?」


 隣のゲーム機から美少女が顔を出す。


「誰だ? この美少女は?」

「この人はシェロン法国の代表、リン様だよ!」


 なんだこの各国代表の見本市は。祭りでもあんのか?


 今までこういった要人との接触はしたことがないのに、この世界では国の代表とか、王家の血筋とか、一般人に出会うことの方が少ない。

 唯一、一般人といえる人に出会えたのは食事処で会ったお姉さんだけだ。


「そうか。リン様、はじめまして。あれは僕の世界の戦技の一つでございます」

「ふーん。負けを認める的な?」


 なんだと……。確かにこのゲームの機体では負けを認める戦法に見えてもおかしくないか。でも、なんだろうこのモヤモヤした感じは! そう、うん、メッチャ悔しい!


 年甲斐もなく、この幼くして代表となった哀れな少女に憤慨していた。

 きっと、相手が綺麗なお姉さんだったら許していただろう。

 しかし、我ながら大人気ない話だが、幼女にかける情けなど持ち合わせてはいない。話のわからない子供と意思の疎通など時間の無駄だと思っている。


「僕の世界では、戦闘機はホバリングできないもので、つい。負けを認めたわけではありませんよ」


 紳士に取り繕っているように見えて、悔しさが滲み出ている。なぜこんなにもゲームに負けたくらいで取り乱してしまうのか? 人の性とは不思議なものである……などと、己の器量の狭さを棚に上げて感じていた。


「ふーん、そっか。突然止まって何すんのかなーってワクワクしたんだけど、何もなくて驚いてたんだ。ごめんね! 撃ち落としちゃって!」


 可愛らしく謝るリンちゃんは大人だったが、それを受け止めた人間は大人ではない。

 こんな子供に挑発されたと、内心ふつふつと行き場のない憤りを感じてしまっている。


「いえ、やり甲斐のない対戦になってしまって申し訳ありません。

 僕はこちらに来てから間もなく、友人がおりませんので、誰かと遊ぶのはとても楽しかったです。宜しければ、また、お相手していただけると嬉しいです」

「そうなんだ。うん、良いよ! 涼介にいちゃんが寂しくて泣いちゃうと可愛そうだから! リンが遊んであげる!」


 リンちゃんの純粋な心は、汚れきったどす黒い雑草根性を持った人間には逆効果だ。

 次は幼女だからといって手加減はしない。完膚なきまでに叩きのめすと誓った小物を、一人生み出してしまったようだ。

 しかし、内心を鋭く突かれていたのも事実で、反骨心と同時にリンちゃんの優しさも少しは感じていた。


「……はは。そうですかーとても楽しみですー」


 中学生くらいだろうか? こんな子に遊んであげる! なんて言われても、面倒この上ない。

 自分から言い出してなんだが。それに寂しくて泣いちゃうとか……完全に否定できない自分が悔しい。こんな幼い子に、哀れに思われる日が来るとは。


「あー。なんか嬉しそうじゃない! ってい!」


 リンちゃんがパンチを繰り出す。弱々しいパンチをさっと避けるも、負けじと何度も襲ってくる。

 こんなパンチ受ける僕ではない。戯れて遊んでいると、ふと、重要な事を思い出す。

 瞬間、背筋が一瞬で冷え切り、嫌な汗が噴き出す。


 あ。ヤバイ。レノさん勘違いするかも!


 僕はすかさずリンちゃんのパンチを避け、脇を抱え高い高いをして誤魔化した。


「わ!」

「いやー、リンさんお元気ですねー! 参りました!」

「あ……涼介にいちゃん! 回って!」


 僕は言われたとおり、その場でくるくる回転して、リンちゃんをゆっくりと降ろした。


「涼介にいちゃんもう一回!」

「はは。それ!」


 まったく、まだまだ子供だな。ふう、どうなるかと思ったが、とりあえず何とかなったぜ


 気を良くしたリンちゃんを見て安堵する。今度は余計に回ってあげた。

 先程感じていた憤りは、レノの暴走を危惧した瞬間に静まり返っていた。

 今は親戚の子供をあやすような仏心で接している。


「あははは! 楽しー!」

「はい。おしまい」


 幼い笑顔が可愛い。でも、乳酸が溜まっていく腕の限界を悟り、リンちゃんをゆっくりと降ろす。


「涼介にいちゃん! もう一回!」

「え? もう一回? あはは、僕もう腕パンパンだよ。また今度ね!」

「えーやだー。もう一回!」


 縋るようにケンを見ると。ケンはゲーム機に隠れて顔だけ覗かせている。


 あの野郎! 逃げやがった!


「じゃあ、最後ね!」

「わかった! じゃあ今度は走ってね!」

「はいはい。それ!」


 今度は回ることはせず、リンちゃんを前向きに抱えたまま走る。


「もっと早く!」

「いや! 無理! 息が!」


 運動不足な僕は早くも虫の息だ。

 このまま走っていれば、よろけて転ぶ危険が出てきた。こんなことで国の代表を怪我させるわけにはいかない! ゆっくり止まり、そーっと降ろす。


「ハァ……。もう走れません。ハァ……。ごめんなさい」

「えー。もう終わり? しょうがないなー」

「はい。ええ。じゃあ、また今度」


 息も切れ切れに、この場を立ち去ろうと挨拶する。

 動悸と息切れに苦しむ若年寄の姿がここにあった。


「うん。約束ね! 私もそろそろ行かなくちゃいけないから。バイバーイ!」

「はい、さよなら


 僕は解放感と少し寂しさを感じ、リンちゃんを見送った。

 隣にはいつのまにか出てきたケンが立っている。こいつはいつか痛い目に合わせてやると、心の中で誓う。そんな秘めた想いはツクヨミにダダ漏れだということにも気づかずに。






確かこの頃はイセスマを読んでいた記憶があります。

アニメにもなりましたよね!


記 2018/10/24

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