第十二話 VIPフロア
僕は驚いていた。
この世界にも珈琲があることに!
何を隠そう僕は無類の珈琲好き。珈琲通ぶるには知識が足りないが、珈琲を楽しむことには、そこらの珈琲通には負けない自信がある。
まず、市販の缶コーヒーの新作は必ず試す。喫茶店も雰囲気に気圧されながらも、入ることに躊躇しない!
チェーン店系は入り易くてとても好きだ。
家では電動ミルで挽きたてをハンドドリップで淹れる。最近ではコーヒープレスも買った。そんな手間暇かけた美味しい珈琲を毎日欠かさず飲んでいた。
よって僕は立派な珈琲愛好家と言えるだろう!
「ケン! 珈琲がある! マジか! メッチャ嬉しい!」
「喜んでもらえて嬉しいよ!」
「じゃあ、とりあえず、ホット珈琲と、アイスカフェオレ! ]それから柔らかい系のパンみたいのない?」
「これかな? 涼介の世界のテーブルロールに近いかな」
「じゃあそれと、サラダみたいなのと、卵系の料理!」
「オーケー! すぐ用意するよ!」
ケンはそう言うと、席を確保する。
といっても誰もいないが。
「なんか食券みたいなの買わなくていいの?」
「え? ケンが券売機みたいな物だから大丈夫! もう伝えてあるよ!」
「あー。そうか、じゃあ問題無いな」
ここもアンドロイドが切り盛りしているのだろうか? 絶品料理が来るはずだとワクワクが止まらない。
「はーやーくーたーべーたーいー!」
「注文したばかりだからちょっと待ってて!」
「腹減ったー!」
「お待たせいたしました」
「うおぁ!」
後ろからウェイトレスに声をかけられビビる。
そういえばここに来てから数える程しか他人を見ていない。機械を除くとリースさんと、腕を切られた人だけだった。
なので、知らない人の声がして思いのほか驚いてしまった。
「ふふ。大丈夫?」
そう言うと、ウェイトレスさんはテーブルにホット珈琲を置く。
黒いエプロンをして、白いポロシャツ。細過ぎず、太いところはない。完璧なプロポーション! アンドロイドだろうか?
「あっ、はい。すいません」
「貴方が国賓の異世界者、涼介さんですか」
「はい! はじめまして! 失礼ですが、貴方は?」
「え? 私ですか? ちょっと待ってね。ケン。これはどう言う事?」
「あー。ごめんよー。涼介にはビットが使えないんだ! そういうことだからよろしく!」
「なるほどね。それじゃあ、アンドロイドか人間か見分けがつかないでしょ? ちょっと不便ね」
「え? みんな見分けつくの?」
「ビットが教えてくれるからね!」
「えー! 何その便利機能。ちなみにお姉さんは人間ですか?」
「私? 私は人間よ。ふふ、なんだか変な挨拶ね」
お姉さんの笑顔が素敵過ぎて、もうここに通うことを決める!
「お姉さんはいつもここで働いているんですか?」
「そうね。でも、働いている感覚はないかな。私がやらなきゃ、アンドロイド達がやっちゃうもん」
言われてみればそうだ。この世界には労働はない。お姉さんの趣味なんだろうか?
「そういえば、働かなくてもいいんでしたよね!」
「そう。でもね。働かなくてもいいんだけど、気分転換に真似事をするのは推奨されてるのよ?」
「推奨ねー。じゃあ、お姉さんは好きでやってる感じであってます?」
「そんな感じかなぁ。こうやって知らない人と話すのが好きだから、やってるってのもあるけどね!」
「今日はいつまでここにいるんですか?」
「今日はどうしよっかなー。まだ決めてないわ」
「あ。時間もフリーなんですね!」
なんとも羨ましい……って働かなくてもいいのだから時間拘束なんてあるわけないか。
「実際居なくても大丈夫だしね! 推奨だから、やらなくてもいいものだからね」
「良いですね! なんか楽しそう!」
「たまーに嫌なこともあるけど、何事も経験って感じで、それも良いかなって」
「酔っ払いとかの相手は大変そうですね!」
「酔うまでお酒は飲めない決まりだから大丈夫よ! 飲み過ぎる前にツクヨミに止めれるもの。止めるのは、アンドロイドが対応する決まりになってるし」
「細かいとこまでツクヨミは律儀ですねぇ」
「ホントね」
「お待たせしました。お料理をお持ちしました」
今度はアンドロイドだろうか? お姉さんに負けず劣らず美人だ。
「この子はアンドロイドよ」
「アレ? 顔に出てましたかね?」
「ふふっ。そうね。教えて欲しそうな顔してたよ」
「ありがとうございます!」
「じゃあ、ごゆっくり。お食事をお楽しみください」
「はい! ありがとうございます」
「涼介……。やっぱり女の子が好きなんだね。この美少女好き!」
大人しく聞いていたケンが恨み節だ。美少女好きっていうか、俺は綺麗なお姉さん派だ!
「はいはい、お前がなんでそんなに食ってかかるのか理解不能だけど、男は皆平等に美女に話かけられたら舞い上がる権利を有しているのだよ」
「ケンは舞い上がらないよ!」
「権利だから気にするな」
「涼介はからかい甲斐が無いなー」
「はいはい。そんなことより、このパンもサラダも卵もほぼ前の世界と変わんねーのは驚きだな!」
「なんてったって、調査済みだからね!」
「出た! 俺はこっちの世界の料理が食いたかった!」
「って言っても、そんなに変わらないよ。生態系はそっちとほぼ同じみたいだからね!」
「そうか。珈琲があったから……まあ良いか」
ちょっと残念だったが、生態系が一緒ってのもどうなんだろうか? ビットも蝶に似てたし、人間なんてほぼ変わらない。そういうものと思うしかないな。
強く生きるには、割り切りが一番大事だ。
食後にアイスカフェオレを飲み食事処を後にする。
「ケン。これからどうすればいい?」
「涼介が自由に決めて良いんだよ!」
「自由過ぎて何したらいいかわかんねぇよ」
「そうだなぁ。庭にでも行くかい?」
「庭ねぇ。俺、虫嫌いなんだよねー」
「大丈夫! 虫はいないよ!」
「虫いないの? 全くもってどうやってるのか理解出来ないけど、虫いないなら良いかなー」
この世界はどうなってるんだ。室内に庭を作っても虫がいない空間を作り出すとか。人のエゴも大概にしないと、生態系ぶち壊すことになりかねないのに。
まあ、室内に虫がいないなんてパラダイスはこの世界じゃなきゃ味わえないだろう。
ポツポツ歩くと、すぐに庭についた。
「ああ。まあ。西洋風のお洒落な庭だな」
「お気に召しませんでしたかな?」
声のした方に振り向くと、初老の紳士が立っていた。執事風だが、お洒落な装いは新鮮だ。そしてやっぱり顔は雰囲気に合ったナイスな感じである。
「えーっと。こんにちわ。気に入らないとかそういうんじゃなくて、そういう感性があんまりないというか、なんというか」
「宜しければ、初見のちょっとしたもので結構ですので、ご感想などお聞かせ願えればと」
ヤバイ……怒らせちゃった? この感じだと、この庭の手入れはこの人がしたのかな? どーすっかなー。めんどいなー。でも、ケンはこの世界はいい人ばっかりだって言ってたし大丈夫だろう!
恐る恐る言葉に気をつけて感想を語る。
「そうですね。ぶっちゃけ、わかんないです! 綺麗だなーとは思いますけどね」
こういう場合は、相手の怒りの矛先を変えてしまうのが一番だ。感想を聞く価値もない鈍感野郎だったと思わせれば、双方WinWinに収まって大団円だ。
「なるほど。そうですか。私も分かりませんねぇ。何が良いんでしょうかねぇ?」
「……えっ? この庭の手入れをしたのは貴方ではないんですか?」
「いえ?」
「え? だってさっきそれっぽい感じで話しかけてきたじゃないですか」
「あぁ。その方が面白いと思いまして」
「えぇ! なんすか! その適当な感じ!」
「はっはっは。面白い方ですねぇ。カエラツシュバツマン・ララゴヘップロンソンです」
初老の男性が手を差し出す。
「えっと、カエラ……ツ……シュバツマン……ララゴヘップ……ロンソンさん。はじめまして」
なんて名前だ! でも、言えた! 俺すげぇ! よく頑張った! 流石に名前間違われたら良い気はしないだろう。やり遂げた自分を褒めてやりたい!
そして男性と握手する。
「誰です? それは? 私の名前はルイと申します。はじめまして。涼介さん」
「うぉーい! あんたがルイさんなら、さっきのは誰の名前だよ!」
「いえ……存じ上げませんが……。誰ですか?」
「知らねぇよ!!」
この紳士、見かけによらずクソ野郎だ。
「はっはっは。お噂は聞いておりましたが、面白い方だ。ねぇケンさん?」
「いやいや、ルイ様のお手前は勉強になります! 私ではこうは上手く行きませんので」
「そんなかしこまらなくても。適当が一番ですよ」
「はい。ありがとうございます!」
「では。今後ともよろしくお願いします」
初老の紳士は軽く会釈する。ふわっと現れて、引っ掻き回してさらっと去って行く。なんて爺さんだ。
「……ケン。あの爺さん何者だ?」
「ディエール法国の代表だよ!」
「げ……。あの爺さんそんな重要人物だったのかよ! 随分な性格してんな!」
「ルイさんは、あの格好良さと、話術の巧みさで世のレディ達の注目の的なんだよ? 涼介も女の子にモテたかったら見習うといいよ!」
「なんだと! あんな惚けた爺さんの何処を見習えってんだ! 格好良いとは思うけど……そこはどう頑張ってもこの顔じゃ無理だ!」
「じゃあ、涼介の顔、格好良くする?」
「整形なんて嫌だよ!」
「みんなやってるよ!」
「え?」
なん……だと? そういえば、この世界では美男美女しか会ってねぇ! でも、整形つっても元の顔がダメじゃそもそもそこまでにならないし……。
「大丈夫! 元がどんなでも、お茶の子さいさいさ!」
「お前は、また俺の心と会話しやがって!」
「美少女にモテモテ!」
「!!!」
「お姉さんにもモテモテ!」
「……」
「涼介がそこまで言うならおススメしないけどね!」
ケンの野郎……純粋な少年心をもてあそびやがって……女の子にモテたいなんて当たり前じゃないか!
しかし、整形で俺もかっこよくなれば……リースさんはどう思うだろうか?
「そっそんなこと……ないような……あるような……」
「はは! でも駄目さ! 治療以外で涼介に何かしたら、アマテラスに何されるかわからないからね!」
「アマテラス!! こんちきしょう!!」
アマテラスに大丈夫か聞いてみたいものの、あの惨劇の後、こんなくだらないことでレノを呼び出す勇気は僕にはなかった。
いやいや……やっぱ時間かかる。
こんだけの文章なのに、修正しながらだと軽く二時間はかかってしまう。
記 2018/10/23




