第十一話 真相と決意
リースさんと別れ、ケンと二人になった騒動の現場。
周辺の状況を確認すると、ドアは爆発物で破壊されたように無残な形になっていた。僕が見たのは飛んでくるドアの破片だったみたいだ。
後は、壊された方のケンだが、もう姿は無かった。いつのまにか搬送されたようだ。
「ケン。一体なにがあったかわかるか?」
「大体の感じは……爆発音がしたから涼介の方に向かったんだけど、その爆風に紛れて緊急用ビットも同時に突入したようだね。気づく間もなく機能停止していたよ」
あの状況ならケンの理解はそんなところだろう。しかし……
「なんでこんな派手なことしたんだ? 見えないんだからそーっと入って来て、静かにことを済ませればよかっただろうに」
「それだとケンが気付くよ!」
「なに!? ケン、なかなか高性能なんだな!」
「蝶型ビットよりはセンサーいっぱい積んでるのさ!」
「そうか。でも、蝶型ビットならいっぱいいるだろ? 来るのわかったんじゃないか?」
「緊急用ビットは、アマテラス管轄なんだ。そして、緊急用ビットは、子機であるツクヨミには感知できないよう情報規制される。だから、誰も防ぐことができない」
ケンもビットも感知できないのであれば、ケンがあやふやな回答をした理由も納得だ。
ケンの記憶は同時にツクヨミが持っている情報とイコールのはずだ。だから、ケンが感知していなくても周囲を漂うビットが感知していればケンも理解していなくてはならない。
ケンがわからないということは、ツクヨミも把握できていないことになる。
「マジかよ。ビット単体では検知出来るけど、それをツクヨミに統合出来ないのか。なんでそんなややこしい事するんだ?」
「もし、ツクヨミに情報が入ってしまうと、防ごうとするプログラムを国民の意思によって構築できてしまうからね!」
「アマテラスは絶対ってことか」
「捉えようによってはそうだね。ただ、アマテラスは緊急時以外は直接干渉しないよ。基本的に緊急用ビットの派遣依頼も、その判断材料の情報収集も子機がやるんだ。だから、突然何かされることはない」
「なるほどな……。ん? ってことは今の俺の状況って……」
「このシステムが完成して以来、八百年間で初めての状況だよ!」
「マジかよ……ツクヨミがしくじったのもそういうことか」
「そうだね」
ここで一つ疑問が浮かび上がる。ビットが検知した情報の規制ってのはどうやるのだろうか?
子機からの依頼でアマテラスが動くのなら、ツクヨミに隠匿することなんてできないのではないだろうか?
「でも、情報規制って言ってもどうやるんだ?」
「ビット、アンドロイド、ロボット、その他あらゆる通信は、ツクヨミみたいな子機と繋がるために、アマテラスを通さなきゃならないんだ」
「ルーターみたいなもんか?」
「そうだね。涼介のイメージよりは、もっといろいろできるけどね!」
「じゃあ、簡単だな」
案外ひねりのないシステムだったようだ。ビットから送られる情報がアマテラス経由なら、そこで規制をかければ知ることはできない。
「そう! 一部の情報を制限するだけだから、急に停止することもないよ! そんなことになったらバレバレだからね!」
「誰もわかんねぇな」
「気づく頃には終わっているさ! リースが来た時みたいにね!」
「アマテラスを唯一のルーターみたいに使っていることに誰も何も言わないのか?」
「数パーセントの人達からはそういう意見もあるけど、八百年前のシュミレーションの限りではそういった意見は世界人口の八割の賛同は得られなかったよ」
「なんで?」
「簡単に言うと、国家間で戦争が起きたんだ。九百年前にね」
今の会話の流れで理解できる人がいるなら連れてきてほしい。戦争が起きたからなんだっていうんだ? これはあれか? 気になるワードで興味を引こうってことか?
すっかりとその術中にはまり、その先を聞かずにはいられない。ケンの長話が始まるのだろうということはわかり切っていたが、あらがえない好奇心を揺さぶられて問いただす未来を選択してしまう。
「端折り過ぎて全然わかんねぇ! んーと、千年前に量子コンピュータができたんだっけ?」
「そう。その当時、量子コンピュータ開発は五大国の一大プロジェクトだったんだ。その性能の優劣に一喜一憂していた時期さ!」
「ほー。まさにこれから俺ら世界が突入するところだ」
「そうだね! それも五十年も経てば技術も頭打ちになって、今度は汎用AIが格差をを出し始めたんだ」
技術革新は、より優秀な概念に淘汰されていく。人間が操作、判断するよりAIの方が圧倒的に早く正確なのは自明の理だ。
「ほうほう」
「この汎用AIの有用性にいち早く目を付け、各国から優秀な人間を集めに集めたのが、このアロー法国さ!」
「ほー」
「汎用AIと量子コンピュータの組み合わせは非常に相性が良く、その他の国を技術で圧倒的に抜き去ることになった。今まで不可能とされていたことがいとも容易く可能になっていったんだ」
「そーかー」
「もうちょっと付き合ってね! そこで、当時の王様が、一つ間違いとも思える重い決断をした」
前提が長くて飽きてきていた。というより、結論はよ! ってのが本心だ。
「なになに?」
「あまりの技術格差に、他国への情報規制。一種の鎖国状態になったんだ」
「ぬぅあーにぃー! やっちまったな!」
「これは、悪意ではなくて、国民を守るために敷いた情報規制だったんだけどね。現に国民は最大限守られたよ!」
「いい王様だったんだな!」
一応、リースさんの家系なのであまり下手なことは言いたくない。調子に乗ってかましたボケの失態を取り返すかのように王様を褒めておいた。
「そうだね! でも、散々優秀な人間を引っ張られて、情報規制されたその他の国は、アロー王国を弾劾し始めた」
「そうなるわな」
「だけど、決してアロー王国は他国に技術を提供しなかった」
「頑固だねぇ」
「涼介。ふざけているようにみえて、頭の中フル回転してるね! ケンは真剣に聞いてくれて嬉しいよ!」
そりゃそうだ。アロー王家の話はリースさんの先祖の話なのだから適当に聞くわけにはいかない。が、そろそろ集中力も情報処理能力も限界にきていた。
「ケン……今は……上手いこと言える程余裕がないだけだ!」
「ハハ! じゃあ、続きは今度にしようか」
「ああ。そうだな。要はAI技術はパネェから、こんなもん他国間で競い合ったらヤベェ! ってんで王様頑張ったんだけど、他の国がちょっかい出してきて、小競り合いを何度かやりあって、最終的に王様がなんとかして他国を纏めあげたんだべ?」
「凄いザックリだけど、大体あってるね!」
「最後はどんなことでまとまったんだ?」
だいぶ脱線してしまったが、肝心要の結論を聞かなければ、ここまで長話をきいた労力が無駄になる。
「真相は機密だけど、当時の状況なら話せる。ある時、同時に四大国の首脳が和睦をと言い始めたんだ。それから五大国の協定と一部の情報提供が再開された。
そして、八百年前に最終的な協定及び、五大国を結ぶアマテラスを筆頭とした全人類管理が始まったのさ!」
「それ……真相機密なんだよな? なんで機密にしたんだ? 俺が今まで集めた情報を総括すると……」
「ダメだよ! 涼介。そこまでさ!」
「いーや、あえて聞こうか。……聞いたら罰則とかある?」
「ないよ!」
ないのかよ! まあ好都合ではあるが、どうも釈然としない。でも、こんなことでツッコミを入れたりはしない。
また話が脱線してこれ以上ケンの長話を聞くことになったらたまらない。
「よし! じゃあズバリ! 四人の記憶書き換えただろ?」
「機密だよ! 真相は人の数だけあるさ!」
「まあ、そーゆーことにしようか。なんでこんな回りくどい言い方してんだ? って思ってたけど……理由はそこか」
「さあね!」
ケンが俺の推論を認めなくても、ザックリとした結論を無意識に考えてしまう。
クソ! ケンもなかなか食えない奴だ。
……もし、アマテラスが管理しなければ……誰かが誰かの記憶改竄してもわかんねぇわけか……。
こりゃヤベェな! 協定なんて破ってなんぼなんて国、俺の世界でもチラホラあるしな。王様が鎖国したのも頷ける……。すげぇ王様だったんだなぁ。俺が当事者だったら自殺してる自信あるわ!
朝っぱらから頭パンクする程考えさせやがってくれたケンに感謝しよう。あれ? なんの話してたんだっけ? ……あぁ状況確認的な事してたら脱線したんだった。
「んで? 壊されたケンはどこ行った?」
「壊されたケンはリサイクルされるよ! そして今のケンは、New BODY ケン になったよ!」
「俺の知っているヒーローとは逆だな! 身体が入れ替わると元気百倍ってか?」
「元気だけなら常に百倍だよ!」
なんともツッコミ辛いボケをかましてくれたもんだ。子供向けの教育番組のように盛大にこけろとでも言いたいのだろうか?
行き過ぎたボケも問題だが、健全過ぎるのもいかがなものか。
「……そうだな」
「んで。あの緊急用ビットとケンとどう違うの?」
「全ての性能が上で、できることも緊急用ビットの方が多いよ!」
「対抗は不可なのね」
「物量戦でも負けるね!」
「緊急用ビットの方が多いのかよ!」
「アマテラスは万が一にも負けられないのさ!」
なんとも徹底した力の差が存在しているようだ。ロボットアニメじゃ性能も物量も負けていれば物語は始まらない。
確率論で語ることすら鼻で笑われそうな愚問だろう。
「全人類管理か……。夢のまた夢のまた夢の夢くらいぶっ飛んでんな」
「奇跡って言っただろう?」
「ああ。良かったな。この世界は破滅しなくてさ」
「そうだね!」
自分達の世界はどうなるんだろうか? 本当にこんな風になってしまうのだろうか?
いや、でも、こんなの天文学的な奇跡に近いだろ! 正しく発展するなんて無理だ……。まぁ、恐らく、その頃に俺は生きていないだろうけどね……ってか、もう戻れないんだっけか……。
日本には戻れない。今後、どうやって自分のいた世界が発展していくのか……それを見ることは、もう叶わない心残りだった。
「ケン! なんだか疲れた! どっか行こ! ここは帰ってきたら、ちゃんとなってるんだろ?」
「大丈夫! 夕方くらいまでにはなんとかするさ! とりあえず食事でもしに行こうか?」
「そうだな! 飯行こ! 飯!」
そうして、ケンと飯に行く。
もうケンは友人以上の思い入れがあるかもしれない。アンドロイドにこんなに感情移入するとは思わなかった。国民的アニメの主人公もこんな気持ちだったのだろうか?
いろいろ考えることは沢山あって、悩むことばかりだけど、この異世界を楽しむんだ! くらいの気持ちじゃなきゃ、僕のこれからの人生は明るく照らされないだろう。
辛いことも沢山あるだろうけど、強く生きよう! 異世界ファンタジーの主人公はみんな強かったはずさ!
僕は、密かにそう決意した。
さあ、書き直しも一割を超えました! まだまだ長いです! 年内……頑張ります!
記 2018/10/22