第十話 二日目
——アマテラス——
——>> ツクヨミ介在による異世界者との接触に成功
——>> 異世界者の保護を最上に更新
——>> 異世界者調査ビットからの情報処理継続
——>> 不明確破損の解析継続
——>> スサノウとの通信回復せず
——>> その他子機との通信正常
——>> シューゼ法国への調査ビットから報告なし
——>> 緊急対策議会発令
——>> 全代表にアロー法国への召集命令発令
——>> 第一次敵対者防御体制維持
——>> 未知解析プログラム維持
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pipipipipipipipipipipipipi……。
「んー、なんだ……? あーー寝みぃ。うるせぇなぁ……」
pipipipipipipipipipipipipi……。
「……」
「涼介。起きない気かな?」
「……」
・
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「……あれ? どこだここ?」
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「ん? あれ? 左腕が動かない……なんだケンか」
ケンが寝ている僕の左腕にしがみつくように寝ていた。
「ケン起きろ……腕を離せ。何気に痛いぞ」
声をかけてもガッシリと掴んだ俺の左腕をまったく離さないケン。
ってかアンドロイドの癖に起きないってどういうことだよ……。
右手でケンの顔を押しやり無理矢理剥がそうと試みる。
……なんだこいつの腕力は! 全然取れねぇ!
「ケン! ケン! 起きろ! おいケン!」
頭やら背中やらをバシバシ叩き、なんとかケンを起こそうとするも微動だにしない! しかも、叩けば叩くほどだんだんと左腕をキツく締め上げていくケン。
「なにこれ? 地味に痛かったのが、かなり痛い感じなんですけど! おいケン! 起きろ! ……駄目だ……起きやしねぇ! このままじゃ血が止まって左腕がやばい……。どうする? どうする?」
いよいよ余裕がなくなり身体の危機を感じて焦り出す。叩けば締め上げがキツくなり、いくら呼んでもまったく起きない。
さらに、肩の方まで抱きついてるから動けもしねぇ!
これ、やばくね?
鬱血しそうな腕の痛みを堪え、必死に打開策を考える……。
そして僕は鼻の頭を二回指で叩いた。
「お呼びでしょうか涼介様」
「ちょ! レノ! 助けて! こいつどうにかして!」
「畏まりました。緊急用ビットを派遣いたします。34秒で到着予定です」
レノが言い終わる前にバサッと勢いよくケンが飛び起きる。
やはりたぬき寝入りだったようだ。
「!!! わー! ごめんごめん!! 冗談だよ! ケンが寝るなんてあるわけないじゃん! レノ! 緊急用ビットは要らないよ!」
ケンは飛び起きると直ぐにレノに懇願を始めた。
「……」
「あー! そうだった! レノは涼介の言葉しか聞かないんだった! 涼介! 早くレノにお願いして!」
「この野郎! やっぱ起きてたんじゃねぇか! もう知らん! レノにお仕置きされろ!」
「ダメダメ! 緊急用ビットはシャレになんないよ! 大惨事になっちゃうから早く!」
あたふたとレノと僕を交互に忙しなく目線を泳がせるケン。
己がしたことを棚に上げ、部が悪いと見るや焦って謝罪を述べるケン。
もう少し前にそういった行動をとっていれば、レノにお願いなんてしなかったのだけど今更遅い。
「ケンがそんなに慌てるなんて珍しいな。そんなにヤバイのか? 緊急用ビットは?」
「もー! そんな悠長に説明なんて出来ないよ! 早く! 涼介!」
ケンが慌てふためく姿が面白い。緊急用ビットってそんなにヤバイのか? なんて考えていたら……
バン!!
と爆発音が聞こえた。慌ててそちらを見ると扉が目の前を通過。
ガシャーン!
通過? 吹っ飛んできたのか? 今なんか当たった音が。
ブワッ!! ガン!
「うっ」
扉の向かった先を見ようとしたら突風のような風が吹いた。思わず手で前を塞ぐ。
音のした方を向き目を開けると、ケンが遠くで倒れていた。
「え? お……なんだコレ……。ケン……おいケン!」
ベッドから飛び起き、ケンの倒れている場所へ向かう。
どうした? どういう事だ?
ケンの頭から顔にかけて斜めに深い溝ができていた。
「対象の排除を確認しました。涼介様の損傷無し。任務完了」
レノはそう言うと姿を消す。
僕は目の前のケンに触れると、その体を揺すっていた。
「おいケン! また冗談なんだろう! おい!」
肩を揺さぶろうが、耳元で大声をかけてもケンは動かない。
「おい! いい加減にしろよ! おい! ……ケン」
タッタッタッターー
こちらに近づいてくる足音が聞こえる。複数だろうか。
「大丈夫かい! 涼介君!」
振り向くと、リースさんがいた。そのリースさんの前方にいる武装した人が、こちらに銃らしき物を向けて立っている。
「リースさん……。俺……」
ドサッ。バフ。
「……あっ? うわーーーっ!」
なにが起きたのか。武装した人が悲鳴を上げている。よく見ると銃がない。銃を持っていたであろう腕の肘から先が無かった。鮮血を撒き散らし、部屋を汚しながらのたうちまわる。
リースさんは!?
リースさんは後ろで固まったまま、動けないでいた。
「リースさん! 医務室へ! その人を医務室へ!」
「えっ? あっ。あぁ。そうだな。そうだな!」
リースさんは彼に寄ろうとするがなかなか動けない。ヨロヨロと壁伝いに向かうと、突然現れた誰かに後ろから肩を掴まれ引き離されていた。
「近寄ったら駄目だ! 涼介も動かないで!」
あれは、ケンだ……。いや、ケンはここに倒れて……。でも、見間違えるわけがない。リースさんを掴んでいるのはケンだった。
「涼介! レノに頼んでここを納めてもらえないか?」
「……あ。ああ。わかった」
鼻を叩きレノを呼ぶ。
「お呼びでしょうか? 涼介様」
「レノ、今の状況を教えてくれないか?」
「はい、涼介様の脅威を緊急用ビットにて排除。また、新たに武装した人間による涼介様への威嚇行為を確認。武装を緊急用ビットにて排除。現在警戒態勢中です」
最重要監視というのはこういうことを指すのだろうか。さすがにやり過ぎだとは思うのだが、緊急用ビット……その行動速度もさることながら、隠密性、破壊力、実行力、その全てが想像を遥かに超える代物だった。
「わかった。その警戒態勢を解いて、怪我人を近くの医務室へ搬送してくれないか? 治療をしたい。それから、そこの三人は脅威じゃない。近づいても大丈夫だろうか?」
「かしこまりました。警戒態勢解除。監視体制へ移行します。怪我人の搬送をツクヨミに命じました。三人の認識を警戒から要観察へ移行しました。近づいても大丈夫です」
「ありがとう。あと、緊急用ビットの姿を見せてくれ! それから、緊急用ビットは帰すように頼む」
「かしこまりました」
レノがそう言うと、リースさんの目の前で飛行船の時のように蝶が剥がれる。
そこには、今にも斬りかかりそうな体勢で男が刀を構えていた。
「あっ……」
リースさんがヘタリ込むと、男は刀を背中にしまい立ち去っていく。
男が持っていた刀は異常に厚みのある物に見えた。それに、持ち手も、反りも無かった。楕円の厚い板を、片側だけ削り出したような、細いが重そうな剣だった。
「レノ、あの男はアンドロイドなのか?」
「はい。アンドロイドですが、強化されております」
「ビットの定義が曖昧だな」
「認識の錯誤も視野に入っております。特に隠蔽されているわけではありませんが、秘匿努力案件としております」
「誰にも言わないよ」
「それが宜しいかと存じます」
この光景を見て、秘匿努力を破るような度胸は持ち合わせていない。
そうしてケンとリースさんのいる方に目を向けると、怪我人の搬送は終わっていた。
「ケン。いろいろ言いたいことはあるが、取り敢えず、ありがとう。助かった」
「涼介、僕の悪ふざけが原因さ! こちらこそごめん」
「次から、ケンの忠告はちゃんと聞くよ」
「今回、アマテラスがこんなにも過剰反応するなんて思いもよらなかった。ケンも注意を払って行動するよ」
不思議な光景だ。アンドロイドと傷を舐め合うようにして和解する。
システムにも上下関係があり、情報の伝達がうまくいかないこともあるようだ。そんな失態を謝罪する人間味のあるアンドロイドの対応としてはこんな感じになってしまうのだろう。
欠陥だと騒ぎ立てるにはまだ早い。アンドロイドにも人権が認めれれているのであれば、人種? 差別になってしまうかもしれない……まあ、面倒だから突っ込んだ追及はしないのでどうでもいいが。
「うん。……リースさん。大丈夫ですか?」
「……あぁ。助けてに来たつもりだったけど、役に立たなかったみたいだね。ごめんね」
「いえ、すいません。僕が軽率な行動をしたせいで……もう少し考えた行動をするべきでした。……それから、一緒に居た人は大丈夫でしょうか?」
「あぁ。あの程度なら心配いらないと思うよ。切断された腕もちゃんと治るんじゃないかな?」
この世界では、切断された腕を治すことなんて造作もないことらしい。
これで、この件に関して実質的な被害は部屋が荒れた程度となった。
「それならば、よかったです。後で謝罪しに行かないといけませんね」
「謝罪するのはこちらの方さ。国賓にもしものことがあれば我々の落ち度だ」
「そういうものですか。でも、見舞いには行かせていただきたいです」
「わかった。後で行こう」
「お願いします」
「じゃあ、申し訳ないけど私はこれで失礼するよ。後はまた、ケンと行動して欲しい」
「わかりました。ありがとうございます」
こうして異世界二日目の朝は、ケンが破壊され、人の腕が飛んでいき、何故か破壊されたはずのケンに助けられるという、実にヘビーで奇怪な始まりで幕を開けた。
さあ、ようやくサブタイトルに話数を追加していきますよ!
前の乱れた文章構成を統一させる手間は想像以上に面倒です!
記 2018/10/22