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綾香 逃げる男

頭真っ白の状態から立ち直った綾香は・・。

 私が呆けている間に、「宿題です。かっ、考えといてください。」と言い残して、木下先生は足早に去って行った。

宿題? 何で私がこんな奇怪な宿題をせねばならんのじゃ。


血迷ったな木下智樹。今は秋のはずだが彼の頭にだけ春が来たのだろうか。

大体、結婚だよ。付き合ってもいないのに。いや世間話程度しか話したこともないじゃん。飲み仲間の同僚同士の薄くて軽い話だけだよ。それも私はこの学校に来てからは新谷先生と話すことが多くて、最近木下先生とはほとんど話をしていないよね。


木下智樹とは、初めての学校で新人教師同士として親しくしていた時期があることはある。その学校で、家庭科を担当していた教師が一時期病気で急に入院したため、家庭科の資格をついでに取っていた私にピンチヒッターの白羽の矢が立ったのだ。この時の私の担当学年が木下先生の担当学年とかぶっていたため、学年会に一緒に出席したり、学年主任に新人研修の指導を一緒に受けたりした事もある。でもそれも、当の家庭科教師が復帰して来るまでの三か月余りの話だ。

しかし、私が三年でそこの学校からこの学校に転勤になり、木下先生が後を追いかけて二年前にここに転勤して来るまでの二年間なんか、なーんの連絡も取ったこともない。

そしてこの二年間、私はほぼ保健室にいるので、木下先生との接点は職員会議で顔を合わせた時の目礼と先日のような飲み会で絡まれた時の処理係と言ったところだ。


これでどう宿題をこなせと?

まぁ、答えは直ぐに出るのよ。「あり得ない。」・・・決まっているでしょう。


彼の趣味はボーカロイドやらなにやらの電脳よりのアニメである。本人の担当の社会科とは全く関係がないが、とにかくそういう系が好きらしい。私にはその良さがさっぱりわからない。趣味は個人の自由なので、それはそれでいいと思う。自分に関りがなければ。


私は紙媒体の正統派少女漫画派である。時々少年漫画に浮気をすることはあるけれど、何と言っても昔からの少女漫画雑誌の愛好者である。今は年齢も年齢なので、社会人向けのオフィスラブ系の女性コミックを読むこともあるが、一番好きなのは純粋学園ものだ。

なので、さっきの初恋展開などは大人の道徳心と職業意識が邪魔をしなければ、もう少し聞いていたかったところではある。


話はそれたが。ということで木下先生とは感性が違う。全然全く。

新谷先生はマンガとアニメは同じようなものだという。それはかつてのマンガの神様と呼ばれた作家たちが初期のアニメ制作に深くかかわってきたこともあるのだろう。

ただ表現方法が違うので、どうしてもアニメ制作をしたスタッフの考え方や感性が作品に投影されることになる。例えば某国民的キャラクターを創り出した漫画家の作品が良い例だ。その漫画家は自分でアニメ制作に携わったことがあったので、自分の紙媒体のマンガ作品をアニメ化するにあたり深く監修に携わることが出来た。その時は良かった。表現方法は変わっても作者本人の思いが同じだったため、紙媒体からの読者も違和感なくその作品世界に入り込めた。しかしその作家がいなくなると、同じキャラクターを使ってはいるが全く違った話になってしまう。紙媒体の作品を愛するものとしては許容の範囲を超えた変わり方だ。


そして今は脚本家の人がいないのか、それとも紙媒体である程度の読者層を獲得していると資本家が判断するのかわからないが、マンガ作品をアニメ化したり実写化したりといったことが安易に大量生産されている。しかし一部の優れた製作者の創ったもの以外、大抵の作品がコケる。

紙媒体からの読者の見る目は厳しい。アニメなどの完成度が自分の想像を超えるほどの出来でないと、愛する作品を蹂躙されたみたいで、返って酷い拒否反応を示すことになる。


つまり、それを何も考えずに許容しているように見えるのが木下智樹であり、私とは対極にいる人物に思える。


よしっ。思考ミッションコンプリート。

宿題の返事をしましょうか。




◇◇◇




 探しているのだが、木下先生がいない。

教室にも社会科準備室にもいない。学校のありとあらゆるところを探したが見つけられなかった。

まるで異世界召喚を受けて、この世から消え失せたようだ。


そうだ、職員会議の後に話があると言えばいいんだわ。

職員会議の時はさすがにいたが、話しかけようとした途端他の先生と生徒の受験対策の話を始めたので私は新谷先生と話をしながら手が空くのを待っていた。

もう話が済んだかと木下先生がいた方を見てみれば、いない。

逃げられた。

そう、あの男は私から逃げている。

返事を聞くのが怖いのだろう。・・・ということは、返事をしなくても結果に予想がついているということね。


なぁんだ。それならこっちがシャカリキで捜し歩いて、嫌な思いをしながらわざわざお断りをする必要もないか。

あっちが何か言って来るまで放っておこう。



ここが私の、のんびり屋の所以だと後から友達に言われたが、人間持って生まれた性格はそうそう変わらない。ここで奴を放って置いたことで、私は後々困ることになるのである。








待ちに入った綾香。木下先生はどう出るのか。

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