おとうさんの目玉焼き
日曜日のお昼前。
おなかがすいたので台所に行くと、エプロン姿のおとうさんがいた。
「ねえ、おかあさんは?」
「買い物だ」
「お昼ごはん、おとうさんが作るんだね」
「ああ。目玉焼きとサラダ、それとインスタントラーメンでいいだろ」
「うん、いいよ」
「まずは目玉焼きだ」
おとうさんはレンジにフライパンを乗せた。
それからタマゴをまるごとフライパンに入れて、コロコロと転がし始めた。
「おとうさん! タマゴ、わらないと」
「そうか、そうか」
おとうさんはタマゴをわった。
だけど中身は流しに捨てて、カラの方をフライパンにもどした。
「それって反対だよ。タマゴのカラなんて食べられないよ」
「いや、目玉焼きはカラがうまいんだ」
おとうさんはにっこりした。
目玉焼きができあがった。
お皿にあるのはタマゴのカラが焼けたものだ。
ちょこっとかじってみる。
「おいしい!」
「そうだろ、そうだろ。次はサラダだな」
おとうさんは冷蔵庫からキャベツとトマトを取り出した。
おとうさんはキャベツを切った。
ヒヨコが流しから飛び出した。
捨てられたタマゴの中身が、いつのまにかヒヨコになっていたのだ。
きざんだはしから、ヒヨコがキャベツをどんどん食べていく。
「もっとくれ!」
「よし、よし」
おとうさんはキャベツをのこらずきざんだ。
ヒヨコはキャベツをみんな食べた。
ヒヨコがちょっと大きくなっている。
「もっとくれ!」
「よし、よし」
おとうさんはトマトも切った。
切ったはしからヒヨコが食べる。
ヒヨコは食べるほどに大きくなって、ついにニワトリになった。
おかあさんが帰ってきた。
「おかあさん! ニワトリだよ」
おかあさんの手を引いて台所にもどると、なぜかニワトリがいない。
「ねえ、おとうさん。ニワトリは?」
「あれ? さっきまでいたのになあ」
おとうさんがラーメンを作っている間に、どこかに行ってしまったようだ。
「わあー、大きなタマゴがあるわ」
おかあさんが冷蔵庫の前で声をあげた。
いつのまにかニワトリがタマゴにもどっていた。それも、すごくでっかくなって。
ボクはおナベの上でタマゴをわった。
だけど中身はキャベツとトマトのサラダだった。
「目玉焼き、できないね」
「いいんだ、目玉焼きはカラで作るから」
おとうさんはにっこりすると、さっそくタマゴのカラをフライパンにのせた。